日本財団 図書館


―ルポルタージュ(34)―
広島県教育委員会の幼児教育調査
 子どもの健全な成長に十分な睡眠や栄養、運動が必要であることは、誰もが当たり前に思う常識だろう。十分な睡眠や栄養、運動とは、基本的な生活習慣と言い換えることもできる。
 ところが、実際の子どもたちの生活の乱れぶりには想像を絶するものがある。通り一遍の説明を保護者にしたところで、なかなか生活は変わらない。そこでということなのだろう、最近、「朝食をきちんと食べる子どもは成績がよい」といった形で、基本的な生活習慣が学力にも影響していることをデータで示そうとする教育委員会が増えている。
 その一つである広島県教育委員会は、小中学生の学力(基礎・基本)の定着状況を実態調査する際、基本的生活習慣などの生活実態も調査・分析。毎日朝食を取ることが、基礎・基本の定着にも影響しているという結果を導き出している。その上で、「早寝、早起き、朝食を食べる」といった生活リズムの大切さを、県民に意識啓発する、キャンペーンを行う予定にしている。
 同県教委は、保育所や幼稚園に通っている五歳児についても同じような実態調査を実施。衣服を自分で着脱したり、毎日自分から朝食を食べるなど、基本的な生活習慣が身についている五歳児ほど、育ちに対する評価が高い傾向が見られたという結果を明らかにしている。調査結果をさらに詳しく紹介したい。
 この調査は、保育所・幼稚園一〇二園(有効回収一〇一一園)と保護者二三二四人(同二五〇五人)に実施したもの。昨年度、広島県版の幼児教育振興プログラム「広島県幼児教育ビジョン」を策定した同県は、幼児の実態をさらに丁寧に把握する必要性を感じ、調査した。
 調査の内容は、保育所・幼稚園に対しては、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の五領域に対応したチェックポイント、「積極的に戸外に出て遊ぶ」「親しみを持って日常のあいさつをする」など十五項目について、五歳児の育ちの状況を保育者が観察調査。さらに、ボールを投げたり、はさみと紙を使わせるといった、五領域に応じた実技によっても発育状況を把握した。
 保護者に対しても、保育者が実施した観察調査とほぼ同じ内容、五領域十五項目に対応したアンケート調査を実施。同時に、起床や歯磨きなどの生活習慣について、朝自分から起きることができるか、歯磨きを自分からするかといった自立性にポイントを置いて、定着状況を評価してもらった。
 それによると、まず、保育者の観察調査では、子どもたちの育ちの状況は高い評価を得ていた。観察調査は、五領域十五項目の行動内容について、「よくあてはまる」〜「まったくあてはまらない」の四段階で評定した。
 具体的には、「よくあてはまる」という高い評価を下した保育者が最も多かった育ちの状況は、「基本的生活習慣(身の回りの清潔、衣服の着脱、食事、排泄など生活に必要な活動を自分でする)」で、七六・九%に上った。次いで「読書(絵本や物語などに親しみ、興味を持って聞き、様々に想像して楽しむ)」七〇・七%、「数(簡単な数を数えたり、数で比べたり、順番を言ったりする)」七〇・六%、「安全(危険なものに近寄ったり、危険な場所で遊ばないなど、安全に気をつけて遊ぶ)」六九・九%、「戸外遊び(積極的に戸外に出て遊ぶ)」六八・五%などとなっていた。
 一方、評価が低かったのは、「聞く・話す(人の話を注意して聞き、相手に分かるように話そうとする)」の項目。「あまりあてはまらない」と評価した保育者は一一・九%で最も多かった。次いで、「整理整頓(身近なものを大切に扱い、自分の持ち物を整理整頓する)一一・八%、「コミュニケーション(自分の意見を主張するが、相手の意見も受入れる)」一一・一%となっていた。コミュニケーションについては、「よくあてはまる」とプラス評価した保育者も四六・七%で最も少なかった。
 次に実技調査についてみてみる。「ボールを投げる」「合図で行動する」「数を数える」「自分の名前が分かる(名前カードから選ぶ)」「はさみと紙でつくる」といった動きについて四段階で評定した。
 最も高いレベルだと評価された子どもの割合を挙げると、「ボールを五メートル以上投げる(「健康」領域での育ちをみる)」子どもが六四・〇%、「一回の合図で遊びをやめて速やかに入れる(「人間関係」領域)」子どもが五八・四%、「六個以上数えられる(「環境」領域)」子どもが九三・六%、「自分の名前がわかり友達の名前カードも分かる(「言葉」領域)」子どもが八〇・七%、「はさみと紙でつくる一連の作業を手際よくできる(「表現」領域)」子どもが七四・二%となっていた。
 保育者の観察調査結果と実技調査を比べると、五メートル以上ボールを投げられる子どもの七五・一%は、積極的に戸外で遊ぶと評価されていた。実技調査の評定が高いほど、観察調査の評定も高い傾向が明らかにされている。
 保護者も、保育者調査と対応した五領域十五項目について、「よくあてはまる」〜「まったくあてはまらない」の四段階で評定。「よくあてはまる」とする保護者六割以上など評価が高かった育ちの状況を挙げると、「創作的表現(絵をかいたり、はさみやのりなどを使ってものを作ったりして遊ぶ)」が七二・八%で最も多かった。次いで「音楽的表現(歌を口ずさんだり、リズムにのって踊ったりする)」六八・九%、「聞く・話す(幼稚園・保育所でのことを聞いたら、自分なりの言葉で話す)」六六・六%、「読書(絵本喜んで見たり聞いたりする)」六六・三%、「戸外遊び(戸外での遊びを好んでする)」六〇・七%などとなっていた。
 一方、「まったくあてはまらない」「あまりあてはまらない」の割合が高かったのは、「コミュニケーション(自分の思いどおりにならなくてもがまんする)」が三七・三%、「整理整頓(自分の使ったおもちゃなどを片づける)」二九・七%、「自然とのかかわり(身近な動物や植物などの世話をする)」二九・六%などであった。保護者調査でも、コミュニケーションの評価が低い。
 保護者に対しては、子どもの生活習慣の定着度についても調査。睡眠(朝自分から起きるかどうか)、歯磨き、着脱衣、食事、排泄といった行動の自立度を、四段階で評定した。それによると、自分でするという割合が高かったのは、「着脱衣(パンツやシャツの脱ぎ着を全部自分でする)」で、七五・二%に上っていた。
 一方、「人から言われてする」「自分からしようとしない」といった割合が高かったのは、睡眠、清潔、食事、排泄。「起きるように言えば起きるが、自分からは起きない」が四〇・四%、「歯磨きをしようとしない」「一人ではできない」が二三・三%、「食べるように言えば食べるが、自分からは朝食を食べない」が二二・八%、「大便をしようとしない・するように言えばする」は二〇・〇%となっていた。
 生活習慣が定着している度合いと、十五項目の育ちの状況の評価とを比べてみると、生活習慣の定着度が高いグループと育ちの状況の高さに相関が見られた。例えば、生活習慣定着度の高いグループには、「整理整頓(自分の作ったおもちゃなどを片づける)」の評価が高い子どもが八〇・九%に上るのに対し、低いグループでは五七・〇%となっていた。また、高グループでは、「コミュニケーション(自分の思い通りにならなくても我慢する)」の評価が高い子どもは七七・六%であるのに対し、低いグループでは五〇・五%となっていた。生活習慣定着度の高いグループで育ちの評価も高かった。
 さらに、保育者の観察評価と五歳児の生活習慣の定着度合いを比べてみると、生活習慣定着度が高いグループのほうが、低いグループより育ちに対する評価は高かった。しかし、その差は小さい。例えば、生活習慣定着度の高いグループには、「コミュニケーション(自分の思いどおりにならなくてもがまんする)」の評価の高い子どもが八九・九%いるのに対し、低いグループでは八六・二%だった。高いグループでは、「整理整頓(自分の使ったおもちゃなどを片づける)の評価が高い子どもは八九・三%であったが、低いグループでは八四・三%。高いグループでは、「話す・聞く(人の話を注意して聞き、相手に分かるように話そうとする)」の評価が高い子どもは九〇・六%になるのに対し、低いグループは八四・〇%などとなっていた。
 このほか同調査では、各園で特に重点的に取り組んでいる指導内容についても選択肢方式で尋ねている。それによると、例えば「人間関係」領域では、保育所は、「保育士や友達などとの安定した関係の中で、意欲的に遊ぶ」を重点に掲げる所が六九・六%で最も多く、次いで「異年齢の子どもとの関わりを深め、思いやりやいたわりの気持ちを持つ」四三・五%などとなっていた。
 一方、幼稚園では、「友だちのかかわりを深め、思いやりをもつ」が四〇・〇%で最も多く、次いで「友だちと楽しく生活する中できまりの大切さに気づき、守ろうとする」二九・一%などとなっていた。
 「言葉」領域では、保育所は「人の話を注意して聞き、相手にも分かるように話す」が五八・七%で最も多く、次いで「親しみを持って日常の挨拶をする」四三・五%、「絵本や物語などに親しみ、その面白さかが分かって、想像して楽しむ」四一・三%などとなっていた。幼稚園では、「絵本や物語などに親しみ、興味を持って聞き、想像する楽しさを味わう」が四七・三%で最も多く、次いで「先生や友達の言葉や話に興味や関心をもち、親しみをもって聞いたり、話したりする」三八・二%などとなっていた。 (山田)
 
 
 
子ども・家庭支援・保育士
 昨年の児童福祉法の一部改正により保育士が国家資格として法制化されました。この改正によって保育士は専門職としての重要性が高まったと共に、今まで以上社会に対して信用・責任感が重大なものとなりました。併せてさまざまな規定も整備され、その中に保育士の資質の向上がうたわれています。これからの一人一人の保育士の資質をどのように向上させるか悩みの種となってきます。
 現在は、一旦資格を取れば終身有効となっています。平成二年の保育指針改訂に始まり、刻一刻と保育の現状は変化し、更に平成十一年に改定されました。そして、保育所職員といえばまだほとんどが女性です。結婚・出産・育児休暇、そして再就職。現場復帰への研修が必要になってくるのではないでしょうか。
 保育士資格の定義には[専門知識を持って児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うこと]とあります。子どもだけでなく、保護者に対しても指導を行っていかなければならなくなりました。その為には、今まで養成校で学んで来た事や経験だけでは、解決できなくなってきています。やはり、専門職としての対応が問われてくるでしょう。
 ここで保育現場でのある最近の事例を紹介します。
 家族構成・・・両親・中一の兄・小六の姉・小四の姉・二歳児のA子・一歳児のB子
 今までにも迎えが遅かったり、子どもたちには満足に食事を与えていなかったり、お風呂に入れてなかったり、衣服が清潔でなかったりと母親の子育てだけでなく生活そのものが乱れている家庭だった。昨年の夏ごろ、二歳児のA子がいつもと違い午睡も三十分毎に起きたり、脅えた様子で保育士の側から離れなかったりと不振な行動をとっていた。別件で児童相談所へ連絡することがあったのでこの様子も伝えておいた。
 秋ごろ(○月一日)延長保育担当者が午後七時をまわっても迎えに来ないので、母の携帯電話に連絡を入れたが繋がらず、帰宅している様子もない。仕方なく父の携帯電話に何度か連絡をするとやっと繋がる。事情を話しても「仕事をしているので自分が迎えに行くと午後九時か十時ごろになる」との連絡がはいる。しかし、母に連絡がとれない以上ただ父の迎えを待つしかない。その間、家にいた兄弟たちも心配になってやってくる。午後八時四十分頃、「会社に無理を言って早く上がらせてもらった」と父が迎えに来た。今まで何の連絡もなく迎えに来なかった事はなかったので、父に聞いてみるが心当たりはない。会話の中で、父は明後日から五日間の出張に出ることが発覚した。このまま母が、帰らなかったら・・・、あとの子どもたちはどうなるのか?とりあえずこの日は、帰宅してもらった。
 次の日の朝(○月二日)、小六の姉が二人の妹たちを連れてくる。やはり、母は、帰宅していない。すぐに市の保健師に連絡を取り相談をする。子どもたちを一時的に児童相談所で預かってもらうには「親からの申し出がないとできない」という。早速父の携帯電話に連絡を入れ児童相談所と話しをしてもらう。その日の夜から父が出張から帰る日まで、四人の子どもは、児童相談所に、中一の兄は里親の元へ行けることになり、ひと安心した。
 連絡が取れなくなって三日目(○月三日)の夕方、母から保育所に連絡が入った。保育所に来るように促すと、子どもたちが皆いないと母は、泣きながらやってきた。主任・担任・私とで、この三日間のことを夜遅くまで話をした。何故、帰宅しなかったのか聞くと、「家賃を週末までに支払わなければならなかったので、実の姉の所で相談にのってもらっていた」という。それから、しばらく身の上話などをして母の気持ちも落ち着いたところで、今回の事がいかに大変な事態であったかを懇々と話した。
 四日目(○月四日)の夕方、保育所に母から電話が入り家を片付けたいのでやり方を教えて欲しい。前日の話で「手伝ってあげるよ」と言っていたので、今は誰もいない寂しさもあり連絡をしてきたのだろう。約束をしていたからには実行に移さなくてはいけないので、手の空いている職員五〜六人で行った。初めて、家の中に入り皆、言葉を失った。ガスは止められ、部屋という部屋は衣類が散乱し、布団は敷いたまま、足の踏み場がない。どこから手をつけていいのか一瞬動きが止まってしまった。片付けること約一時間どうにか床が現れた。子どもたちが帰って来るまで現状を維持するように話をした。父が出張から帰った次の日(子どもたちを迎えに行く日)私たちも同席するように児童相談所から依頼があり迎えに行く。事前に担当の人と話をして、このまま施設に預かるかどうか両親の出かたにより決める事にした。母は、「離れて暮らす事はできない」と涙ながらに訴えた。今回のように、黙って外泊をしない。子どもたちに、食事を食べさせる。決められた時間に迎えに来る。電話が鳴ったら必ずでる。月一回児童相談所が家庭訪問をすることを約束して親子七人児童相談所を後にした。
 しかし、約束の甲斐も無く、二日後迎えが遅くなり午後七時前になる。その後も、迎えが遅くなったり、子どもたちに満足な食事を与えなかったりが続いた。「お金がないからおかずが買えない」と言いながらも携帯電話を二台も三台も自分名義で購入したり、父親といえば車が大好きで数万円もかけてタイヤを購入し、両親ともに金銭感覚に問題がある。最近もお金が手に入ったと言い、金運ブレスレットを購入する始末である。「こうすると何故かお金が入る」と母は、意気揚々と話をする。しかし、そのお金は児童手当などである。子どものための児童手当と金運ブレスレットとは何ら関係ない。また、この母は、児童相談所の勧めで療育手帳を取ることを決めた。何故なら、「手帳を持っていると就職が有利だ」とか、「お金ももらえる」と思っているらしく、手続きの日を心待ちにしている。まったく勘違いな話である。
 この一件があり、母は担任や私に気安く声を掛けてくるようになった。担任は、毎日のように家庭での子どもたちの様子や休みの間の過し方、夕食はどのようなものを作っているかなどを聞き取った。たまに母の方から、「私がトンカツを作ったらみんなまずいと言って食べてくれない。作り方を教えて下さい」とやる気を見せたりもする。しかし、行動にはなかなか移せない。この母のようなタイプの人を養育する機関は無いのかを児童相談所に尋ねてみた。どうやら中途半端な症状で、あったとしても施設はいっぱいなのでもっとリスクの高い人が入所しているらしい。私たちは、この二人の子どもたちが保育所を巣立って行くまで根気よく付き合って行くしかないであろう。
 
 このような家庭は、かなり極端な例ですが、多少に関わらずこれに近い家庭はあると思います。最近、虐待などで児童相談所にも通告され、一時保護されていたにも拘らず残念な結果になるケースもたくさんあります。養育力が低い家庭の子どもを保育するには、保護者自身の指導も併せていかなければならないという難関があります。保護者を変える事は、並たいていのことではありません。しかし、「子どもたちに最善の利益を・・・」、その為には、私たち保育士が惜しまぬ努力をしなければなりません。こうしたことから、今後は専門性を高めるために系統だった研修や、国家資格の更新制度なども検討し、「大切な命を預かっている」という意識の高揚に向けたらと思っています。「保育士資格」に威厳を持たせ信頼性に繋げたいと思っているのは私だけでしょうか。今のままでは、以前の「保育士の任用資格」と変わりないもののような気がしてなりません。くれぐれも「宝のもちぐされ」にならないようにしたいものです。
(人材部会 田和)
 
 このシリーズ保育研究についての、ご質問、ご意見がありましたらこちらまでお寄せ下さい。
TEL 029-292-6868
FAX 029-292-3831
Eメール iinuma-n@ans.co.jp
保育総合研究会事務局
 
 
 
再びカムサハムニダ(2)
 “釜山周遊三日間”の二日目の朝を、慶州で迎えた。今日は、二〇〇三年の最後の日の大晦日(韓国は、旧正月。この日が我が国のような“特別な日”か否かは不明)。釜山からの慶州入りは、昨夕。湖畔のホテルにチェックインした時には、辺りは闇の中。そのため、窓からの風景に期待を膨らませて、カーテンを引く。日の出とともに明るくなったホテルの周辺は、広々としたリゾート地。バイキングでの朝食を済ませ、一夜のホテルに別れを告げ、迎えのマイクロバスにメンバー全員(三組の中高年夫婦)が乗り込み、最初の予定地の郊外の山間地にある石窟庵に赴いた。
 冬山をクネクネと「バスと徒歩」で登り、山頂の著名な「釈迦如来座像」(高さ三・二六メートル)がある処に行き着いた。石窟庵は、次の見学先の仏国寺の付属の庵。詳しいご説明を申し上げている余裕はないが、世界遺産。「像」は、大理石で出来ており、色白で、スベスベし、清楚で、神々(?)しく、庵の中に鎮座。これをガラス越しで、見学。境内から目を東方に転じると、東海(我が国では、日本海?)に真っ赤な太陽が、明日の元旦を予告。「あの辺りは、対馬あたりか」と感傷に耽り、難問山積の我が国を思ん量った。山門のところまで下山して来ると、テレビ局が除夜の鐘の放映の準備中。我が国の大晦日風景と「同じだな」と、感激。
 石窟庵を後にして、山の麓にある仏国寺を見学。仏国寺も世界遺産。大きな境内に数々の建物をレイアウトさせた伽藍が、歴史を感じさせる。こちらの寺院の建物は、日本のように精緻に出来ていない。「地震がないから」との説明を受けたかと思う。
 慶州の寺院を跡に、次なる目的地の海印寺に向かった。海印寺は、大丘(テグ)に比較的近く、慶州からおよそ二時間の距離。朝鮮半島を東西でスキャンすれば、中央の山間部に位置している。途中、地下鉄事故やサッカーのワールド杯で記憶に新しい大丘の街を走り抜け、街を過ぎた処の田舎道の真ん中で、石焼ビビンバの店に寄った。オコゲも美味しく頂戴した後、その店の隣の「メノウの直営販売店」に連れて行かれた。再び、バスに乗り、又々「青磁の窯元の直営販売店」へ寄り道。これもパック旅行の宿命。目の保養には、なった。海印寺は、埼玉の秩父の山々の奥にある感じ。海印寺には高麗時代に彫られた約八万枚にも及ぶ木版の経典「八万大蔵経」があり、経典を保管する「板殿」とともに世界遺産。ここでも、歴史の重さと文化の広がりを痛感。二つの観光地を通して、トイレの綺麗さと広告や看板の無さに、感心。
 こうして寺院めぐりを終え、今夜の宿泊先の釜山に向け高速道路をひた走りに南下。この国も、一月一日だけは祝日。高速道路は、釜山での初日の出詣のためもあってか、釜山に向かう車で渋滞気味。わがバスの運転手さんの英断(?)で、要所々々は側道をゲット。少し手に汗を握ったが、お陰で、海鮮料理屋さんの予約時間にセーフ。夜は、オプションで、市内のデラックスクラスのホテルの常設劇場での「ラスベガスショー」を予約済み。夕食後、宿泊先のホテルに荷物を置きに行った。我々のホテルは、スタンダードクラスで、下町に所在。
 劇場は、十数年前に訪れたことのあるパリのムーランルージュより、少し小さな感じ。今度はカプリツキだったので、ビールを飲んでも寝ることはなかった。帰りはタクシーに分乗して、ホテルに直行。ホテルのテレビのNHK(ワールド)では、ちょうど紅白歌合戦の大トリのスマップが「世界に一つだけの花」を唄っていた。「曙とボブサップの試合」が気になれど、結果は残念にもその日は不明。こうして旅程の二日目も、無事終了。
 三日目は、二〇〇四年の元旦。朝、ホテルから前のお店の名前のハングル文字を旅行のガイドブックで解読に挑戦。「パラダイス」と分かり、思わず苦笑。でも解読成功で、幸先を慶ぶ。今日は、自由行動の日。老夫婦と我々夫婦は、韓国風サウナ(汗蒸幕〜蒸し風呂〜アカスリ、ヨモギ蒸し、足マッサージなどのサービスを提供)のオプションを所望。義妹夫婦は、繁華街の南浦洞・光復路エリアや影島周辺の散策を所望。時間を決め、同エリアのFホテル前で落ち合うことで、一旦別れた。ここでの全工程(筆者の場合)は、汗蒸幕→アカスリ→足マッサージで、一丁あがり。汗蒸幕では、芋虫のように南京袋を被って、暗い丸い洞のようなところで座って、蒸された。アカスリでは、薬草湯に浸かった後、全くスッポンポンで調理台(?)に「仰向け」あるいは「うつ伏せ」にて、屈強な男にゴシゴシやられた。こんな姿は、異国では勿論始めて。恥ずかしかったが、その屈辱に耐えた。日本男子として恥ずかしくなかったか。
 その後は、義妹夫婦と合体し、中華料理店で昼食を済ませ、国際市場とかを散策。帰りには、地下鉄も体験。
 原稿の枚数制限により、残念ながらこの辺で終わりとするが、ともかく特段のハプニングもなく、無事帰国。韓国の皆さん、良い正月をカムサハムニダ(ありがとう)。
(S・O)22







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION