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レポート
幼稚園の窓から(43)
人間関係の分析と対応で眠らない教員研修会を
片岡 進
「月刊・私立幼稚園」 編集長
研修会での「本日休園」は減ったが
 保育園でも工夫を重ねていることと思いますが、幼稚園では年間を通じて、園内、園外の教員研修活動を活発に行っています。経営者としては、自園の先生方の資質を磨き、教育技法を高めてもらおうと、いろいろな研修会への参加を働きかけます。
 全国や地区レベルの教育研究大会は夏休みに行われることが多いのですが、県や市単位の団体研修は通常の保育期間中に行われることが多く、そのため取材で歩いていると、ときどき「市団体研修会のため本日休園」という貼り紙に出会うことがあります。こういうケースは保育園ではめったにないことでしょう。でも最近は、さすがにこのパターンは減って、午前保育で切り上げて午後あるいは夕方近くから研修を始める形が増えました。
 そのせいかどうか、研修中に眠ってしまう先生が多く、主催者を悩ませています。ひと仕事した後なので疲れと安堵感が混在しているのかも知れません。三百人ほどが参加したある県の研修会では、調子よく話していた某大学教授が、突然ピタッと話を止めてしまいました。一番前でメモをとっていた私は気づかなかったのですが、聴衆が全員眠ってしまったというのです。子守歌が止まると参加者は慌てて目を覚まし、それを確認して講師はまた話し始めました。しかし十分もしないうちに再びピタッと止まってしまったのでした。
 ユニークな語り口で知られる作曲家・小林亜星氏の講演でも、自身の子供時代のエピソードやテレビ界の裏話のときは参加者の目が輝いていたのに、本題の音楽論に入ると、とたんに先生方の顔が俯いてしまい、講師を慌てさせていました。
 どんなに博識豊かな講師を招いても、眠ってしまったのでは何にもなりません。そこで、グループ討議や対面問答を取り入れたワークショップ形式が増えていますが、講演形式でも眠らない研修会に最近二回出会いました。ひとつは福岡県・春日市私立幼稚園協会(白水敏会長=くすの木幼稚園)の教員研修大会で、人間観察の得意な講師が、最新のディスク理論をもとに人間の思考と行動を四つに分類し、幼稚園現場を想定した具体的人間像をそのパターンにあてはめていきました。
 「そうだ、うちの主任はこのタイプだ」「あのお母さんはこのタイプだ」と参加者もそれぞれの頭の中で分類を始め、「それじゃ、このタイプの人とうまくつき合うにはどうしたらいいのだろう」と目をランランに興味を高めていきます。「どのタイプがいいとか悪いとかいうことはありません。そういういろいろなタイプの人間が組み合わさって社会は成り立っているのです」と講師の結論は肩すかし気味でしたが、それでも参加者は「相手の考え方や行動の見通しが持てるだけでも対処の仕方が随分違ってきます」と満足そうな顔をしていました。
 もうひとつは千葉県・船橋市私立幼稚園連合会(高橋清仁会長=中台幼稚園)の三回シリーズの教員セミナーでした。こちらは円滑な人間関係を築いていくためのコミュニケーション技法を、ひとつずつ丁寧にコーチしていくスタイルで、声の出し方や表情、身振りまで生々しく伝授していくので、先生方の顔は真剣そのもの。夕方の研修なので時間を短くしてのシリーズ化でしたが、一回目より二回目、二回目より三回目と参加者が増えてくるのにも驚きました。
 現場の先生が何を求めているかを的確にとらえ、具体的に対応する研修でないと、保育の技法も理論も高まっていかないと感じた一コマでもありました。
 
 
 
 
千代田区のいずみこども園が研究発表会を開催
 千代田区の年齢別区分方式による幼保一体型施設、いずみこども園では、千代田区教育委員会研究協力園としての研究発表会を平成十六年一月三〇日に開催しました。
 研究主題を「遊びをつくり出す いずみの子ども」―モノと場の構成の工夫とした研究発表の後に、「就学前の教育・保育」と題したパネルディスカッションが企画され、司会には永井孝子(東京女子体育短期大学助教授)、パネラーには神長美津子(文部科学省初等中等教育局幼児教育調査官)、増田まゆみ(小田原女子短期大学教授)、小林晶子(いずみこども園幼児部教諭)、原田秀子(いずみこども乳児部園保育士)を配して、現場の側からの幼保一体型施設の利点や課題などを熱心に討議されました。
 小林教諭は幼保一体型施設のメリットとして、子どもにとって長時間であっても園には遊ぶ環境がそろっている、地域で失われているいろいろな年齢の子ども同士の交流ができる、保護者にとっては園の安心できる環境で遊べる、職員の交流が少なかったが、同じ施設で幼児部・乳児部のお互いの保育を見合うことができる、六年間を通じて子どもの自立を見通すことができるなどをあげ、課題としては預かり保育などで降園時間がばらばらになり生活リズムがつきにくい、職員の勤務体制が多様になり一堂に会することができない、保育をさらに充実させ連続性を保つなどを指摘されました。原田保育士は、以前は乳児保育園で、現在は幼稚園活動に接する機会が持て、子どもが一緒に遊ぶようになった、小動物と接する機会が増えた、保護者が他の幼児とのかかわりを喜んでくれているなどを、課題としては、職員間の連絡の工夫や園内研修への参加や園内研究などの場所の設定、移行期にある子どものために連携を密にする、などをあげました。
 これらの発言を受けて、幼・保の関係について神長調査官は、総合施設を検討していく中で、幼児教育をどう考えていくか。幼児期の教育の意義と役割から整理する。幼児期の教育は家庭との連携から始まる。家庭が本来持つ役割を果たせるように、幼稚園が集団教育施設としての充実と、子育て支援の役割を担い、保護者が保護者として育っていく環境を作っていくなどを述べられました。
 増田教授は、今までの子どもの視点からの取組みが充分でなかった。これからは幼・保の垣根を越えて子どもの視点に立って考える。幼児教育の側面が強調されると、生活と家庭養育の補完の視点が抜け落ちてしまう。幼児教育を改めて問い直し、養護と教育を一体となって行う。お互いの築き上げてきた文化の違いを出し合って、より良いものを作っていく。これからの保育者の役割はたいへん重要で、日常の保育内容の充実から子どもが育ち、その状況を家庭に伝え、家庭が子育てに意欲的に参画していくような関わりを持っていく、などが述べられました。
 
第7回幼児教育部会で意見聴取
 平成十六年二月二日、第七回中央教育審議会初等中等教育分科会幼児教育部会が、千代田区の如水会館において開催されました。幼児教育部会は三月末までに総合施設について集中的に審議することになっており、今回はその第一回目にあたります。
 部会では総合施設の具体的なイメージを持ってもらうために、千代田区の幼保一体型施設いずみこども園の藤原和子園長に対してヒアリングと意見交換を行い、藤原園長は幼保一体型施設を運営する際に、子どもの教育と生活の区分についていかに配慮しているかなどを中心に意見を述べられました。
 委員からの主な質疑は、園の財源における国の関与、保育料の設定、職員の配置、子どもの夏休みなどの対応、設置において地域の他園との調整や保護者の意見、合築のメリットとデメリット、区が独自に策定している乳幼児育成方針の内容などで、続いて「合築しているがゆえに、自治体の費用負担が増えるのでは意味が無い。」「いずみこども園は、幼稚園・保育園が並行している感じが強い。総合施設ではその点が整理されてくる。」「保育所の子どもの家庭の状況が多様化している。総合施設で教育以前の生活の問題に対してどう予想し、対処していくか。」「自治体の総合施設の所管部局は教育委員会に置き、ここで議論をしてはどうか。」「幼稚園・保育園、別々の文化が一緒になるので、知的好奇心が高められる教育内容を。」「いい幼稚園、いい保育園を前提とした議論を。高い意識を持って子どもにとって良い環境を新しく作っていく。」などの意見があがりました。次回第八回は二月十七日に開催される予定です。
 
保育問題検討委員会で厚生労働省保育課と意見交換
 日本保育協会保育問題検討委員会(委員長 坂田誠二鳥取県倉吉愛児園長)は第四回委員会を平成十六年二月十六日(月)に開催し、総合施設・会計基準の弾力化・福祉医療機構の施設改築に係る融資制度の変更について、厚生労働省雇用均等・児童家庭局唐澤保育課長、重元同課長補佐と意見交換した。検討委員会では先の第三回で、この三点について現時点での考え方を取りまとめていた。
 総合施設については、どこの省で所管するのか、きちんとした財源をどのように捻出するのか、法的な根拠と規制をどこに置くのか、そこを踏まえて保育園・幼稚園・総合施設のきちんとした住み分けを考えていくべきだ。地方における公立保育所の統廃合から総合施設に転換していくことが考えられているのか、子どもの育ちを第一義にハード面・ソフト面の基準をより高いものにして欲しいなどの意見があった。また、会計基準の弾力化について上村協会理事は、本部会計にも民改費の一定率の繰り入れを認めるなどして、理事会経費等は本部会計から支出できるなどの措置を、特に待機児童の解消に資すると認められた場合には、積立金の目的外使用についても柔軟に対応して欲しいなどの意見を述べた。福祉医療機構の施設改築に係る制度変更については、保育園は施設数も多く、これから改築を計画している老朽施設が数多くある。そうした法人の資金繰りなどへの影響が大きく、制度変更はやめてほしいと要望した。
 これに対し唐澤保育課長は、「総合施設については新しい時代の幅広い子育て支援の拠点として考えているが、具体的には皆さんの意見も参考にしながらこれから検討していく。八月の概算要求前には中間的な姿を、十一月下旬にはきちんとした形でまとめたい。財源の問題も含めて保育園の方々の広がりのある議論と運動を期待している。基準の弾力化については、第三者評価、苦情解決の仕組み、財務諸表の公開など保育の質の担保の問題と合わせて、地域の実情にあった仕組みを考えながら弾力化していきたい。理事長や園長の経営責任が増してきており、積立金の使途制限の緩和についても考えたい。保育園の老朽施設整備とその融資制度については、引き続き福祉基盤課に要望していきたい」と述べた。
 
 
 
職員の健康
全国保育園保健師看護師連絡会 藤井 祐子
1、職員の健康管理の目的
 「児童福祉施設最低基準」第七条には児童福祉施設における職員の一般的な用件として「児童福祉施設に入所している者の保護に従事する職員は、健全な心身を有し、児童福祉事業に熱意のある者であって、できる限り児童福祉事業の理論及び実際について訓練を受けた者でなければならない。」とあります。
 このように、職員の心身の健康は大切なことと言えます。また、施設職員は労働者としての労働基準法、労働安全衛生法が適用され、事業者は職員の健康を守るべき種々の条件を整備しなければなりません。
 保育園現場において園児の保育と健康を考えるとき、まず保育者の健康管理が必要です。園児は低年齢であることから、感染症に対しての抵抗力が弱く、重症化しやすい状況にあります。その中で、職員が感染源となることがないように、また感染の伝播者となることがないようにしていかなければなりません。また、自分の健康状態を表現できなかったり、障害を持っている園児に対しては、保育者が綿密な観察を行うことで、園児に対して適切な対処を行っていくことが必要となります。
 職員が健康であることは、自らの健康を守ると同時に園児の健康を守ることにもなります。それは適切な保育を提供していく上での基本と言えるでしょう。
 
2、職員の健康管理の実際
 
(1)健康診断
a、雇入時の健康診断(労働安全規則第六章第四三条)
 職員を雇い入れた際に健康診断を行うことが義務付けられており、健康診断の項目は以下の通りになっています。
・既往歴及び業務暦の調査
・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
・身長、体重、視覚及び聴力の検査
・胸部エックス線検査
・血圧の測定
・貧血検査(血色素量、赤血球数)
・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
・血中脂質検査(総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)
・血糖検査
・尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
・心電図検査
b、定期健康診断(労働安全規則第六章第四四条)
 一年以内ごとに一回定期的に健康診断を行うことが義務付けられており、健康診断項目は上記の雇入時の健康診断の項目と同じで喀痰検査が追加項目となっています。
c、結核健康診断、休職従事者の検便が義務付けられているが、その他にも成人病検診(四〇歳以上の者を対象とした検診で一般検診に乳房検診・子宮癌・心電図・胃エックス線検査が加わります)、職業病検診(腰痛症・頚肩腕症など)
(2)健康診断後の対応
 健康診断の結果については、職員が自主的に健康管理を行えるよう正確にわかりやすく伝えられなければなりません。
 要治療者に対しては、検査に異常が認められたこと、精密検査あるいは診療が必要なことを説明し適切な医療機関を紹介します。
 要指導者に対しては、危険因子が認められたこと、生活習慣に改善すべき点があること、危険因子に適切に対応し、その効果を観察する必要があること等を説明し、生活習慣について助言する必要があります。
 異常の認められなかった者に対しても、健康の維持増進に対する保健指導が必要といえます。
(3)保育者としての健康管理の実際
 保育園に従事するものとして、保育者自身の体調が良くなければ、子どもに対して良い保育は提供できないことを忘れてはいけません。そのためには自分自身で健康管理をきちんとするよう、心がけていく必要があります。
 保育者から園児に病気をうつすことは避けなくてはいけないことです。このためには、まず保育者各人がきちんと感染症の既往歴や予防接種歴を確認しておくことが必要です。義務付けられてはいませんが、インフルエンザの予防接種を受けておくことも必要と考えます。
 そのほか、保育者が体調不良と思うときには速やかに受診をし、適切な治療を受けることも必要で、園としても早期受診を勧めることが大切です。
 受診の際には、保育者は自分が保育園に勤務していることを告げ、保育園への出勤に対しては医師の指示に従うことが必要です。
 また、保育園では保育者の手からの感染を考えた手洗いの励行が必要となります。
 
3、実際に保育現場で見られたこと
 
(1)インフルエンザ
 職員がインフルエンザと診断を受けた際の連絡で、明日は当番が入っているので頑張って出勤すると言ってきたことがありました。保育園と言う現場で働く上で、職員に正しい感染症に対しての知識を教育していくことの必要性を感じた一場面でした。
(2)流行性角結膜炎
 職員が結膜炎の症状が朝からあったのですが、日ごろからアレルギー性結膜炎を起こすことがあり、この日も自己判断で出勤してきましたが、眼脂や充血がひどくなったために受診を勧めました。結果は流行性角結膜炎との診断で十日間の病欠となりました。診断後保育園では、職員の触れた場所等の消毒を行い、その後の園児や職員の様子に注意しました。幸い二次感染はなかったのですが、出勤前の受診であればこのような対処は必要なかったといえます。自己判断ではなく、園児への影響を考え、速やかな受診の必要性を痛感した事例と言えます。
(3)感染性胃腸炎
 昨年の十月末に感染性胃腸炎が流行しました。園児が嘔吐や下痢を発症した際の、吐物や下痢便の処理を職員が行う際にしていることは、他の園児をその場所から移動させます。それから一人の職員がマスクと使い捨ての手袋を着用して、園児の更衣や片づけを行います。処置の際にはセットしてある、廃棄してよいボロ布・新聞紙を用い消毒までを行い、吐物や便はビニール袋に密封し廃棄とします。部屋は消毒後換気し、三〇分ほど時間が経過してから使用するようにします。処理に当たった職員は流水と石鹸を用いて三〇秒以上は手洗いをするようにしてぺーパータオルで拭いた後、エタノール製剤を用い手指を消毒し、更衣をしています。症状のあった子どもは個別保育とし、保護者に連絡をして迎えをお願いしました。この方法を用いてから、園児や職員への二次感染を減らすことが出来ています。
(4)血液の取り扱い
 第三五回日本小児感染症学会にて「従来知られていない、特異な経路によるB型肝炎の集団感染」について研究報告がありました。これは、アトピー性皮膚炎を掻破し出血したことによって、保育施設内で感染が拡大した可能性が示唆されたものでした。これは園児と職員二五四人中、発症五人、不顕性感染十八人(うちHBs抗原陽性七人)であることが判明しました。うち職員と園児九人につき血清を用いてウイルスの塩基配列が一致したという報告でした。
 保育園では園児が怪我をしたり、鼻出血があったりと血液の取り扱いは日常行われていることです。つい面倒くさいからと、素手で行っていないでしょうか、血液の取り扱いは使い捨ての手袋を用いることが大切といえます。血液の取り扱いをきちんと行うことは、保育者自身の感染を防ぐとともに、園児の健康を守ることにもつながっていきます。
 保育園の現場において、園児の保育と健康を考えるとき、保育園職員の健康管理は欠かせないものです。保育園として職員の健康管理を行うことはもちろんですが、職員自身が自分の責任で健康管理することが大切です。それによって日々の良い保育を提供することが出来るとともに、子どもに対して感染の原因とならないように責任を果たしていくことは大切なことと言えます。







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