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―保育所における子育て相談(15)―
保育園における子育て相談事例について(2)
キリスト教社会福祉専門学校 非常勤講師(看護師) 奈良平 典子
はじめに
 近年保育所の役割が、保育所入所児童の保育のみでなく、広く地域の子育て支援にまで及び、その業務の一環として、育児相談が積極的に行われています。加えて、子育て支援センターの設立に伴い、多くの子育て中の保護者から、さまざまな相談が寄せられるようになってきました。電話、面談等による相談では、やはりゼロ・一歳児という低年齢児の問題が一番多く、内容は食事、排泄、睡眠等の生活習慣、発育、発達、そして医学的相談等が上位を占めています。それらの中から、不安な状況の中で育児に奮闘する母親達の思いが伝わってくるようです。
 上記とは別に、実際の保育現場では、入所児童の育児全般にわたって、保護者からの相談に日常的に応じている実状があります。勿論、保育のなかでの児童の様子から、保育者から問題提起される場合も少なくありませんが、双方が児童の保育、育児に深く関わっている立場から、子どもを中心にして、より具体的な解決にむけて取り組める利点があります。産休明けから就学前までの保育所児童の育ちの中では、ほぼ生活の全てが保健的領域に関わっているといっても過言ではありません。特に、保健職が配置されている保育所に於いては、保健相談事項は多岐にわたっていますが、いずれの場合も、基本的に双方の信頼関係が基盤にあることが必要であり、相談者のおかれている状況を十分に理解し共に考えながら、解決の方向性を定められるような助言を心掛けるべきでしょう。また、医学的な問題は、診断、症状、病気の見解や予防、対応等は医学の進歩と共に常に変化するものであり、その中で出来得るかぎり新しい情報をも提供できるよう、努力をすることも大切です。以下、保育所で相談を受けることの多い問題とその対応について述べてみます。
 
発育に関する相談
 発育面での相談では、他児と比較して、我が子の身体の発育が遅いのではないかと心配されるケースが多いのですが、発育も発達も個人差があることを伝え、少し長い目で成長を見守るようアドバイスします。しかし、なかなか不安が解消されない場合もあり、そんな時は、母子手帳のパーセンタイルにお子さんの測定値を記入してみて、数か月のグラフが手帳のカーブ(成長曲線)に沿っていれば心配ないなど、具体的な説明を心掛けます。
◆身長が低い(低身長では?)
 「身長が低くすぎるのではないか?」という相談は比較的よくあります。出生時の身長もやや小さめだったり、両親が小柄だったり、多くは病的でないケースです。しかし次のような場合は、一度受診し骨年齢のチェック等を受けるよう薦めます。
・低身長の判定基準(平均値−標準偏差値×2)以下で問題が疑われる場合、
・一年間の身長の伸びが著しく少ない(4.5cm以下)の場合
・成長曲線の3%タイル以下で、カーブに沿わず下降ぎみの場合
・基礎疾患をもっている場合(心疾患、腎疾患、筋疾患)
◆肥満
 肥満の子どもは、高い率で両親(特に母親)も太っていることがあります。体質も関係しますが、家庭での食生活に原因がある場合が少なくありません。給食も含めて一日どれくらい食べているか、食記をつけてみると傾向がよくわかります。特に保育所の栄養士に一週間の食記を見せて、アドバイスを受けることも良いでしょう。
・肥満度(カウプ指数)を計算し、肥満の程度を知らせる。一年間の増加をチェック
・小児でも、肥満によって引き起こされる病気があることを説明します
・食事内容、量だけでなく、食生活全般を見直してみることを薦めます
 間食、夜食、早食い、噛まない、偏食、過食、外食、孤食(一人で食事)など
・生活環境で見直しが必要なことはないか、考えてみることも大切です
 運動不足、親子関係、ストレスはないかなど
◆“はいはい”をしない
 「寝返りをしない」「はいはいが遅い」という相談を受けることがありますが、発育には個人差があり、その差が数か月の場合もあり、あまり標準にこだわることはないと伝えます。ただ、お子さんの発育にあわせた大人の働きかけや、環境も大切であることを伝え、簡単な赤ちゃん体操や、部屋に“はいはい”しやすいスペースを確保する工夫など具体的な例を示して参考にしてもらいます。
◆言葉がおそい
 保育所での育児相談のなかでも、高位をしめる項目です。初めて子どもが意味のある言葉を話す時期は、早い子と遅い子ではかなりの差がありますが、以前に比べてやや遅くなっている傾向があるように思えます。はっきりした言葉は出なくても、簡単な指示を理解していたり、絵本を見て指さしができていれば、あまり心配せずに様子をみるようにと話し、保護者の不安を和らげるよう心がけます。しかし、育児のなかで年齢に応じた体験をさせることや、大人の的確な話しかけの必要性、テレビ、ビデオの利用の仕方なども、子どもの言語の発達に少なからず影響することも付け加えます。
 
日常における保健的対応についての相談
 第一回の西村重稀氏の記述にもあったように、何世代にも及ぶ核家族の形態は、育児の伝承を途絶えさせ、家庭における育児力を大きく低下させました。行き過ぎとさえ思える個人主義の浸透は、育児だけでなく、さまざまな生活上の知恵や工夫、人とのかかわり方や地域文化の在り方や伝承をも難しくし、地域のコミュニティの形態も変化させ、生活の多くの場面での助け合いや、援助のシステムも不安定なものにしてしまいました。この様な状況が、ますます各家庭の孤立化傾向を強くしていると思われます。日常生活のなかで避けられない体調不良や、病気のときの対応の知識も世代間で伝えることができず、多様な情報に囲まれて、いたずらに不安におびえたり、また反対に安易に考えすぎて状態を悪化させたりすることも少なくありません。「病気は薬で治すもの」との考えが浸透し、症状にあわせた対応、いわゆる「養生」の知識が乏しいように思えます。保育所で子どもの体調が悪くなった場合には、出来る範囲で安静や食事に気を配る等をして保護者のお迎えを待ちますが、家庭に帰ると全く配慮されずに過ごしていることがあります。保育所が症状に応じた対応の方法や、経過観察の大切さなどを、個々に伝える努力が必要だと考えています。
◆発熱
 子どもはよく発熱します。高熱がすべて重い病気とはかぎりませんが、多くの病気の始まりのこともあり注意は必要ですが、発熱は何かの原因があるのですから、他の症状や全身状態を十分に注意観察することが大切です。安静にすること、食事は消化のよいものを与えるなど、生活のなかでの配慮が基本であることを伝えます。
・解熱剤の使用
 安易に解熱剤を使用される場合が多いですが、解熱剤で病気が治ることはないことをよく説明します。その子の平熱にもよりますが、ちょっとした熱(38℃以下)では水分を十分に与えて様子をみること。一度使用したら次の使用まで六時間程度あけることなど、機会があるたびに細かく説明するようにします。
◆下痢
 下痢のときは、便の状態の観察の仕方、便状にあわせた食事の配慮、乳児であれば、臀部のただれの予防や処置について伝えます。乳児では、何回もの大量の下痢や、嘔吐を伴う場合は、急に容体が変わることもあり注意します。食中毒の知識も必要でしょう。「よく下痢をして心配」との相談をうけることもありますが、体質的に便が柔らかい子もいますし、人によって排便の回数も一日一回とは限りません。あまり神経質にならないで、元気で食欲もあり熱もないなら、その子の体質かも知れませんので様子をみるようアドバイスします。
◆アレルギー疾患について
 アレルギー疾患での相談の多くは皮膚の湿疹です。勿論、アレルギー疾患での中にはアトピー性皮膚炎だけでなく、喘息、食物アレルギーなど症状はさまざまですが、医療機関に受診し、治療を実施することが浸透しています。しかし、それでも症状が好転せず、なかでもアトピー性皮膚炎は、長い年月にわたって苦しむ我が子の姿に胸を痛めている保護者も多いのです。基本的には一番大切な毎日のスキンケアについて、個々に相談に応じます。治療についてではなく、日常の生活のなかで実施できること、改善すべきことを中心に、保護者と一緒に考えるようにします。反対に症状はさほどひどくないのに、心配のあまり神経質になり、あせって自分流の対応を実施している保護者には、過度な除去食の実施や、間違った対応の弊害等を説明し、医師の指示を基にゆったりとした気持ちで長い目で病気と付き合っていくことを話し励まします。
 
予防接種についての相談
 「予防接種を受けるべきか、受けるとしたら何時受ければよいのか?」という質問や相談は日常的にあります。集団生活では勿論ですが、そうでなくても一生の免疫、病気予防として予防接種は積極的に受ける方向で検討することを薦めています。
・定期接種(国が接種を勧めているもの)と任意接種がある。
・月齢、年齢によって受ける予防接種の種類を知る。
・一つの予防接種を受けた後、次の予防接種まであける期間。
☆生ワクチン(ポリオ・麻疹・風疹・おたふくかぜ・水痘・BCG)が先の場合、
 次のワクチンの接種は四週間あける。
☆不活化ワクチン(三種混合・日本脳炎・インフルエンザ・B型肝炎ワクチン)が先の場合、次のワクチン接種は一週間あける。
・ワクチンを受けられない場合や時期がある(病後、体調不良時)
・接種後の注意事項を知る(副反応)
 
健康診査について
 仕事を持つ忙しい保護者にとって、お休みをとっての健康診査はかなりの負担のようです。受けるべきかどうかとよく相談されますが、基本的には受けることを勧めています。代表的なものは、一歳六か月健康診査と三歳六か月健康診査ですが、診査の内容について説明し、普段医療機関で受けられない項目がまとめて診査される重要性を知らせます。異常や問題点を発見し、早期に医療につなげる利点の他にも、育児上の心配や不安を相談できるよい機会でもあり、日常の生活の指導も受けることができることを伝えます。
 
おわりに
 保育所における育児相談のなかでも、保健関係の相談は上位に位置します。どの相談においても言えることではありますが、答えは必ず一つでない場合があります。保護者の生活環境、育児観等を理解し、子ども一人ひとり異なる体質や生育歴を知った上で、解決へのアドバイスをするよう心掛けることが大切です。保護者が相談で何を求めているのか、具体的な方法なのか、日常の育児の大変さやしんどさを誰かに訴えることで、心の安定を得たいと考えているのか、自分のやり方を肯定し同意してもらいたくて相談しているのか、個々の目的を察して出来るだけ希望に添えるよう努力をします。医学的な相談であってもあまり専門的な問題は、やはり医療機関に任せるようにし、安易に自分の考えを主張しないことも心がけたいものです。また問題によっては、保健職だけでなく保育士、栄養士とも十分連携をとって、保護者にとってよりよい指針を示せるようにしたいものです。その場合、守秘義務を守る範囲で行うことは言うまでもありません。
 
 
 
木の香る学校、保育園
長野県林務部 林業振興課木材振興係
 長野県では、「信州の木でつくる私たちの暮らし〜長野県産材利用指針〜」を平成十五年二月に策定しました。
 この指針では、『地球温暖化防止や循環型社会を目指して、環境負荷の少ない木材等による暮らしづくり』を目指すこととしていますが、この基本にあるのが、石油などの化石資源をふんだんに使う生活から、森林を母胎とする再生可能な自然素材である木材(特に地元の木)に囲まれた暮らしに出来うる限り切り替えていこう、というテーマがあります。
 また木材は、独特の温もりを持ち、部屋の湿度を調整する作用や、衝撃を緩和する作用、適度な吸音作用など、様々な特徴を持っており、人にとって快適な生活空間を作り上げる材料でもあります。
 このように、環境的側面や日常生活の側面からみても木材は重要な生活資材の一つであり、特に将来の社会を担う子ども達にとって、これら環境と健康も持つ意味は大きいものと考えます。
 このようなことを背景に、長野県では平成十四年度から『木の香る学校推進事業』に取り組んでいます。
 この事業の目的は二つあります。
 一つは、学校や保育園・幼稚園等で木の温もりのある教育環境を作り上げること。
 二つは、使われる県産材を教材として、森林や木について触れあい学ぶことです。
 また、具体的な内容も二つあります。
 一つは、小中学校への県産材製の学童用机・椅子の導入への支援。
 二つは、小中学校、保育園、幼稚園等の木造化(構造部分も含めて建物全体に木材を使う)や内装木質化(床や壁に木材を使う)への支援です。
 机・椅子の導入にあたっては、単に備品として導入するのでなく、自分の使うものは自分で組み立てるとともに、森林や木材の講話を併せて実施するなど、教育的にも広がりのあるものを目指しています。
 当然これらのことは、県だけでは進みません。事業主体となる市町村や幼稚園・保育園の関係者の理解が必要ですが、長野県下では徐々に広がりを見せつつあります。
 この他、県として養護学校用の県産材製机・椅子の開発にも取り組んでおり、今年中には全国の皆様にご紹介できるものと思います。
 平成十四年度には、机・椅子の導入は二、〇六〇セット、木造化一箇所、内装木質化一箇所、平成十五年度は、それぞれ三、六五〇セット、二箇所、二箇所と取り組む市町村等が増えつつあり、平成十六年度もさらに内容を充実させ引き続き実施する予定です。
 導入を進めた現場からは、「子どものころから木に触れることにより、物を大切に扱う気持ちが生まれてくる」いった声が聞こえてきます。
 保育園児や幼稚園児は、「床に座りこむことが多いため内装の木質化を進めたい」といった要望も多く寄せられるようになっており、これらの先駆的取組が長野県全体に広がり普遍化することにより、子どもたちにとって健康的でよりよい教育環境が創出されるよう取り組みを進めてまいりたいと考えております。
 
木の香る保育環境
 
 
 
―米国産牛肉輸入禁止の波紋と今後―
道野英司
 この原稿を書いている二月第二週時点で、ほとんどの大手牛丼チェーン店のメニューから牛丼が消えたと報道されている。すでにご報告したとおり、昨年十二月二四日に米国でBSE(いわゆる「狂牛病」)が発生した。このため、日本に輸出される米国産牛肉に適切なBSE対策が講じられるまでの間、米国産牛肉の輸入を禁止した。米国産牛肉は国内の牛肉消費の約三分の一を占めているため、輸入禁止から二か月が経過し、国産や豪州産の牛肉の値上がりなどにより食生活や食品産業に大きな影響が広がりつつある。日本は米国から「部分肉買い」をしており、たとえば牛丼用の肉は、ショトプレートという部位を使うが、これが約一千万頭分、舌に至っては二千四百万頭分を米国から輸入しているといわれている。
 さて、この輸入禁止措置の解除問題は日米の食品衛生と家畜衛生を担当する役所が協議を行っており、日本側は厚生労働省と農林水産省、米国側は農務省と保健省が協議に参加している。現在までのところ、十二月二九日と一月二三日に米国側が来日したが、協議内容は日米両国のBSE対策の現状確認に止まっており、米国側から具体的な日本向け牛肉の安全対策は呈示されていない。
 米国において本年一月十二日に新たなBSE対策をスタートさせたが、その内容は日本で実施されている対策と比べると隔たりが大きい。例えば、BSEの原因である異常プリオンタンパクが蓄積すると言われている脳やせき髄などの特定危険部位の除去については、日本では食肉処理される全ての牛を対象としているが、米国では三〇か月齢以上とされており、廃用となった乳牛や繁殖用の牛に限られている。また、BSE検査も日本では食肉処理される全ての牛を対象としているが、米国では神経症状のある牛や三〇か月齢以上の歩行困難な牛を四万頭程度実施予定とするにとどまっている。これらの米国における対策は、米国の農務長官か自ら招いたBSEの国際的な専門家チームからも不十分という評価を受けており、今後、米国側がどのような強化策を打ち出すか注目される。
 さて、このように国際的には不十分という評価が出されるような米国のBSE対策ではあるが、当の農務省や保健省は、「国際基準に基づいている」、「国際基準よりも厳しい対策をとっている」としている。国際基準では、BSE感染牛が三〇か月齢以上の牛一〇〇万頭当たり一頭以上いる国と、一〇〇万頭当たり一頭未満の国で要求される対策のレベルが大きく異なっている。米国は自らが一〇〇万頭当たり一頭未満の国であるとして、一〇〇万頭当たり一頭以上としている欧州や日本に比べて相当ゆるい措置をとることができると主張しているのである。もっともこのBSE感染牛が一〇〇万頭当たり一頭以上いるかどうかということの判断は、これまでのその国がやっていたBSE検査の結果に基づいて算出されることとなるが、米国政府はBSEが発生するまで年間二万頭程度の歩行困難牛を中心とした検査を行っていた。しかし、米国では一億頭以上の牛が飼われており、年間三千万頭の牛が食肉処理されており、このなかの二万頭について行ってきた調査が適切だったかどうかが今後の米国の対策の正当性を議論する上で重要となっている。
 しかし、米国が欧州や日本並みの対策をすぐに採れるのかという実行性の問題もある。前述したとおり米国では年間三千万頭の牛が食用処理されており、これは日本の約三〇倍の規模に相当するが、検査を担当する政府職員は七千名と日本の二〜三倍程度しかいない。さらに欧州や日本で整備されているような牛一頭、一頭の誕生日や移動などの履歴をデータベース化したトレーサビリティーシステムがなく、牛の月齢を判断することも現状では困難である。また、米国内のマスコミや消費者団体もBSE問題について比較的冷静に受け止めており、平成十三年に日本でBSE感染牛が発見された当時とは相当事情が異なっているようである。
 このような状況下で、食肉処理される全ての牛についてBSE検査と特定危険部位除去の実施を基本とする日本側スタンスと米国側の現状に大きな開きがあり、今後の牛肉輸入禁止措置の解除交渉の行方はいまだ不透明となっている。
(厚生労働省食品安全部監視安全課課長補佐)







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