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メメント・モリ(2)―苦沙弥先生の蘊蓄(131)
 前回から、メメント・モリ(死を想え)という題で書かせていただいている。社会福祉が「死」に対峙する覚悟があること、そして社会福祉の仕事に「死」を内在化させることにより、知恵や勇気が沸いてくるのではないかということを表現したいと思っている。
 高齢者福祉を考えてみよう。いわゆる入所施設として、特別養護老人ホームや老人保健施設が設けられている。そして、これらの「生活施設」で病気になったり、死に至る虞れが生ずると「入院」するのが昔通である。一般の家庭でも同じ状況になれば、入院するだろうという常識が働いているからであろう。
 重篤な病気イコール入院という考え方は、現代社会の豊かさが生み出した思想であり、特に国民皆保険を築き上げた日本社会の財産でもあろう。そして重篤な病気イコール入院と考えれば、病気の急変による事故を防ぐことができるし、同居の家族が「枕を高くして寝る」こともできるであろう。
 一方、近年、ターミナル・ケアの世界で、「在宅ホスピス」という提案が行われるようになっている。「ターミナル・ケア」は終末期医療と訳されるのが通例であるが、その時期に「人生の頂で、その人生の生の意義をとりまとめる」という思想を背景にもち、「遺される家族」がその哀しみを乗り越えるための大切な期間でもある。すなわち、「人生」が深く関わる場合、それまでの生活と人間関係を継続することの大切さが「発見」されつつあるわけである。また、そもそも病院とは「治療」のための施設であって、「安全」のための施設ではないという認識も必要であろう。
 そうであれば、「訪問看護」や「往診」を活用することにより、在宅生活に医療サービスを持ち込むという方法が生み出されるべきなのではあるまいか。
 
訃報
 日本保育協会元評議員・前新潟県支部長の佐藤織江氏が、平成十六年一月二八日に逝去されました。享年六七歳でした。
 先生が園長をされておりました「芳香稚草園」は、大正のおわりに創設された八十年近い歴史と伝統ある保育園として、地元栃尾市の人々に愛されてきました。
 先生は創立者の理念を継承され、地域の児童福祉・保育事業に尽力されました。そのことについては、日本保育協会発行の「特別保育実践講座」に執筆されております。
 また、先生は日本の保育のため団体活動に大きく貢献され、新潟県における民間保育園の会長として保育事業の向上に尽力されました。日本保育協会におきましては、新潟県支部女性部長、支部長を歴任され、日本保育推進連盟の副会長として現在まで活躍されておりました。
 さらにまた、先生は大変に勉強熱心な方であり、日本保育協会の国庫補助事業の調査研究にも参加いただきました。新潟県内においては保育研究会「あじさいの会」を主宰され、後進の指導と育成にあたられました。心からご冥福をお祈り申しあげます。
 
 
 
[日保協速報 No.1605 16.2.6]
社会福祉法人 日本保育協会
 
公立保育所一般財源化の児童福祉法改正案が決まる
 平成16年2月6日の閣議において、児童福祉法改正案が決定され、今国会に提出されることになりました。法案の概要は別添のとおりです。保育所関連については、市町村が設置する保育所(公立保育所)の運営費の国庫負担と都道府県負担の規定が、平成16年4月1日より廃止されることとされました。
 
児童福祉法改正法案(三位一体改革関係)の予算への影響
一般財源化の対象となる負担金・交付金 予算額
  億円
公立保育所運営費負担金 1661
介護保険事務費交付金 305
介護納付金事務費負担金 12
児童手当事務費交付金 87
児童扶養手当事務取扱交付金 22
合計 2087
※予算額は、平成15年度
※※この他に、公共事業費(水道施設)の64億円を一般財源化する。
 
児童福祉法等の一部を改正する法律案(概要)
○都道府県及び市町村が設置する保育所における保育の実施に要する費用、市町村における介護保険の事務の処理に必要な費用等を国庫負担の対象外とすることに係る所要の改正を行う。
 
(法案の概要)
○児童福祉法の一部改正
・都道府県及び市町村が設置する保育所における保育の実施に要する費用について、国の負担を廃止すること
・市町村が設置する保育所における保育の実施に要する費用について、都道府県の負担を廃止すること
※地方公共団体以外が設置する保育所における保育の実施に要する費用については、従前どおり、国及び都道府県が負担
 
○介護保険法の一部改正
・市町村における要介護認定に係る事務の処理に必要な費用について、国からの交付を廃止すること
 
○国民健康保険法の一部改正
・市町村における介護納付金(介護保険の2号被保険者の保険料)の納付に関する事務の執行に要する費用について、国の負担を廃止すること
 
○児童扶養手当法の一部改正
・都道府県及び市町村が支給する児童扶養手当に関する事務の処理に必要な費用について、国からの交付を廃止すること
 
○児童手当法の一部改正
・市町村が支給する児童手当に関する事務の処理に必要な費用について、国からの交付を廃止すること
 
○施行期日 平成16年4月1日
 
 
 
新潟県における少子化対策
―“安心子育てサポート戦略”について―
新潟県福祉保健部 児童家庭課長 渡邉 博文
1 新潟県の少子化対策
 本県が平成十三年四月に策定した「新潟県長期総合計画」においては、今後十年間、特に重点的に取り組むべき課題を抽出し、それを解決するための取組を「にいがた未来戦略」として六項目掲げ、計画の柱に位置付けました。その一つに「安心子育てサポート戦略」があり、本県の具体的な少子化対策を推進する根拠としています。
 また、長期総合計画の保健・医療・福祉に関する部門計画である「新潟県健康福祉計画(平成十三年三月)」では、県版エンゼルプラン「新潟県子育て支援総合計画」を包含した計画とし、「子育てと仕事の両立支援」や「家庭や地域での子育て支援」など、子育てのための総合的な施策を推進することとしました。
 さらに、少子化の対策は、男女の共同参画や教育など様々な施策分野に及ぶことから、「男女平等推進プラン」や「新潟県第8次総合教育計画」など、各種各部門毎の計画においても、少子化関連施策が盛り込まれており、その関連を図に示しました(図1参照)。
 
【図1 本県の少子化関連施策と関連計画】
 
2 安心子育てサポート戦略の考え方と概要
 本県において少子化への対策を考えた場合、大きく二つが考えられます。
 一つは、結婚・出産・子育てのための環境づくり。二つ目が若者の県内定着、すなわち定住対策です。双方あいまって効果が上がっていくことはいうまでもありませんが、この戦略では、まず前者として、保育体制の充実や男女共同参画に向けた取組など、出産や子育てのための環境づくりの推進を掲げています。
 また、後者としての若者の定住対策では、県全体としての魅力の向上や働く場の確保などかなり広範囲の施策が対象となりますが、この戦略では、UJIターン情報の提供を中心とした取組となっています。
 以上のことから、安心子育てサポート戦略では、前者をさらに二つに分けた上で、次の三つのシステムにより施策を推進しています(図2参照)。
(1)地域の子育て安心システム
ア、多様な保育の推進
 本県の場合、大都市圏と異なり、待機児童はほとんどいないとはいうものの、延長保育や一時保育等の特別保育については、地域毎に大きな格差があり、全ての地域で、住民全てが安心して子どもを預けられる体制ができているとは言い難い状況にあります。
 そこで、市町村を通じて県が積極的に地域の実情やニーズを把握し、特別保育や放課後児童クラブ等、多様な保育の推進を支援するとともに、民営化を推進する他、人口規模の小さい市町村等実施が困難な地域においては、広域的に受委託を推進するなど、誰でもが安心して子どもを預けられる体制づくりを進めています。
イ、地域の人々による助け合いの推進
 保育所だけではまかないきれない病後児保育や保育施設への急な送迎、保護者の病気や急用などに対応するため、地域の人々による助け合いのシステム、いわゆるファミリー・サポート事業の全県への普及を図り、安心して子どもを預けられる体制づくりを推進しています。
 
【図2 安心子育てサポート戦略の3システムと施策の概要】
 
ウ、地域における交流や相談機能の充実
 子育てについての不安解消や子どもの健全な育成のための環境整備として、妊娠、出産、育児に関する各種相談機能の充実を図っています。また、子育て中の親たちが身近で交流し、相談することができるよう、保育所や幼稚園などの施設や人材の活用と自主的な子育てサークルの育成など、地域における子育て支援機能の充実を推進しています。
エ、子育てしやすいまちづくり
 子育て中の親たちが安心して外出できるまちづくりの推進です。公共的施設における授乳室やおむつ替えスペース、ゆったりトイレの整備など、子育てしやすい施設の整備を促進しています。
(2)子育て理解推進システム
 男女雇用機会均等法や育児・介護休業法、男女共同参画社会基本法など、子育てと仕事の両立を支援する仕組みは随分整ってきています。しかし、実態は未だ性別固定的役割分担意識が抜けきれず、取組を推進する余地があります。
ア、男女共同参画に向けての県民意識の醸成
 男女共同参画に関する中学・高校生向けパンフレットや教師の指導用パンフレットを県内の全中学・高校に配布する等、学校での取組の充実を図るとともに、各種フォーラムを開催し、県民や企業、市町村に対する意識啓発を実施しています。
イ、事業主の理解推進
 働く場では、育児休業制度等、子育てと仕事を両立するための法律や制度はかなり整ってきていますが、制度に対する事業主の理解を深め、子育てしやすい職場が増えるよう、国や経済団体等と連携して諸制度の普及に努めています。
ウ、子育てについての正しくわかりやすい情報の提供
 子育ての楽しさや大切さを伝えるため、思春期における健康教育等により、子育ての正しい知識の普及に努めています。また、子育てについての様々な制度やサービスを利用しやすくするため、情報を一元化して提供する等、子育てについての理解を深められるよう取り組んでいます。
(3)にいがたUJIターン促進システム
 子育て環境が十分であったとしても、若者の県外流出が続き人口が大きく減少しては、少子化問題は解決に向かうことができません。
 若者の定住を促進するために、他の「新事業創出倍増戦略」や「世界に向けた日本海発信全方位戦略」などでも重点的に取り組むこととしていますが、少子化対策としては、定住に向けた情報の受発信を中心に取り上げています(ここでは説明を省略させていただきます)。
 
3 今後の取り組み
 次世代育成支援対策推進法や児童福祉法の一部改正により、今後ますます、子どもとその親に関わる全ての人が連携・協働しながら次代を担う子どもの育成をサポートしなければなりません。
 次世代育成支援対策推進行動計画を策定・推進する際に、現在の安心子育てサポート戦略を踏まえ、庁内関係課との連携はもとより、市町村や事業所との連携に加えて、県民の意見をも施策に反映させながら、本県の少子化対策を着実に推進していきたいと考えています。







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