―子ども総研から―
文献情報(24)
日本子ども家庭総合研究所
「社会福祉研究」第八六号、二〇〇三年四月、一七〜二一頁、「社会福祉教育のグランドデザインを描く」阿部志郎(横須賀基督教社会館館長)
大学・大学院のあり方の見直しが推し進められている昨今、社会福祉を標榜する大学や学部の新設・増設が目まぐるしく行われている。しかし、同時に社会福祉教育・教員の水準についての厳しい指摘もある。本稿は、大学における社会福祉教育のグランドデザインを描くために、現在の社会福祉におけるいくつかの課題をあげ、グローバリズム化の中でどのように社会福祉専門職(ソーシャルワーカー)を育成し、新しい未来に繋げていくかの提言を行なっている。
近年、多様な価値観、多様な家族の形態、多様な家族の問題などがある中で、保育士にもソーシャルワーク的援助を提供することが期待されてきている。つまり、ソーシャルワーカー育成の過程は、少なからずも保育士育成の過程と重なるのである。
本稿では、社会福祉の課題として次の一〇の課題を挙げている。
課題(1)「ひと」と「ひと」とのかかわり。「ひと」の権利を尊重することが専門職の課題である。
課題(2)人間を全体性として把握する。福祉は「生活」を視座とすることから、人間が多面的複合的に人生を過ごすものであるという視点で支援しなければいけない。
課題(3)サービスの意義について。ニードに誠実に対応しながら、そこから何かを指し示す。
課題(4)社会の構成員が対等に問題を共有し連帯してコミュニティを形成していく。
課題(5)サービスの統合化。人間を全体性として捉えるということは、様々な環境要因が複雑に絡み合って問題が発生したと考える。
課題(6)社会科学的認識の視点。
課題(7)福祉の思想的本質としてのボランタリズムの認識。
課題(8)地域性と国際性。グローバリズム化の波の中、欧米を学習対象とするとともに、アジアに焦点を当て、謙虚に学ばなければならない。
課題(9)教育者の義務としての研究。
課題(10)大学の転換期に目を背けない。今こそ、生涯をかけての専門職育成を考え、福祉の世界へと学生を招き入れる時である。
これらの課題をみていくと、ソーシャルワーカーだけでなく、「ひと」と対峙しサービスを提供していく専門職全てに投げかけられている課題として浮き上がってくる。
グローバリズム化の中、「ひと」は「生活者」である、という視点で捉えて援助していく時、我々対人援助専門職は、「ひと」とは何か、自分とは何者か、専門的サービスとは何か、社会とは何か、連帯し共生していくとはどういうことかを、常に哲学を持ってあらゆる環境の中で謙虚に学びながら考えていかなくてはならない。その哲学の基盤作りが教育の現場に求められている。
「世界の児童と母性」二〇〇三年十月、一〇〜一三頁、「幼児にかかわる人へのケア」平田ルリ子(清心乳児院園長)
乳児院の最近の動向として、被虐待児の入所が多くなってきていることが挙げられる。このような状況の中、乳児院の職員へ期待される役割は多義になってきている。その期待に応えるために、職員とのチーム実践や職員間の調整、対人援助を行なう職員のケアなどがますます重要になってきており、課題も出てきていると本稿において報告されている。
現在、乳児院に入所している子どものほとんどは保護者がいて、何らかの理由により家庭での養育が困難になり、一時的に乳児院に入所して、多くは家庭に帰っていくという。そのような意味から、入所してくる子どもの養育に加えて、保護者への支援が乳児院の役割として求められるようになってきたとのことである。
子どもが経験する親との安定した愛着関係が、その子どもの成育過程に大きな影響を与える、ということに疑問の余地はないだろう。乳児院において子どもの養育を担当するのは職員である。その職員の存在、援助のありようが、子どもの成長に大いに関係してくる。
職員は一貫性を持って持続的に一人の子どもと向き合わなくてはならない。そのためには、その職員自身が安定した自己を保持し、専門職としての資質の向上を常に心がけなくてはならない。また、他者を理解し、他者を尊重しながら共生していける人物でなくてはならない。
このように、職員が安定して質の高い援助を提供するためには、職員が安心して働ける職場の雰囲気作りや組織作り、子どもへの一貫したチームワークを可能にするための記録の整備や会議の持ち方の工夫、そして職員の心のケアや資質向上のためのスーパービジョンなどが必要であると筆者は述べている。
子どもに関わるということは、その関わった人間のあり方・関わり方がその子どもの将来にまで影響を与える可能性があることから、乳児院の職員の人的・物的環境整備はとても重要である。そして、これらの環境整備や職員へのケアは、対人援助サービスを行なう職場全てに必要なことでもある。
「社会福祉学」二〇〇三年十一月、六五〜七五頁、「不適切な養育環境に育った子どもに対する援助−児童養護施設における実践事例一」野津 牧(日本福祉大学大学院社会福祉学研究科)
本稿は、ネグレクトともいえる不適切な環境で育った四歳八か月の男児・Aが、児童養護施設に保護されてからの二年間の実践報告である。筆者はAが入所した児童養護施設の当時の施設長であった。
Aは養育能力が低い両親のもとで、出生届も出されず、したがって戸籍もない状態で暮らしていた。自宅のアパートからほとんど出ることもなく、外の環境と接していない状況で五年間弱生活していた中で保護された。
施設入所時のAは、ほとんど言葉も発せず、つかまり立ちのよちよち歩きを始める段階で、排泄も自立出来ていなかった。また、色々なおかずを食べた経験がないのか、白いご飯のみと、唐揚げしか食べなかった。対人関係では初対面の人間に対して拒否的ではないが、それは特定の大人との愛着形成が不十分である結果からきていると思われた。Aの保護時点での発達検査では、発達指数四〇で、中度の「知的障害児」と診断された。
このAに対して、愛着形成を課題として、特定の養育者との関わりを重視するなかで対人関係を広げていくという施設の方針のもと、新人の保育士を担当につけて、発達段階を考慮した援助と、子ども集団との関わりへの援助をその都度職員間で確認しあいながら行なっていった。また、並行してAと親との関係修復への援助も行なった。
集団生活に移ったAは、二年後の発達検査では、発達指数が七七と急速な伸びをみせ、「知的障害」と診断された原因が養育環境からくるものであることを示したのである。
しかし、Aが幼児期に経験した不安定な生活の影響は、緊張時の手の震えなどに表われ、幼児期の安定した大人との関わりがどれだけ大切なものかが本報告から伝わってくる。
子どもに安心感をもたらす大人が両親である方が良いのは言うまでもないが、それが可能でない子どもにとっては、施設職員との関係がとても重要になってくる。被虐待児が児童福祉施設に入所してくるケースが増えている中、それらの施設に従事する職員に対する期待と責任はますます大きくなってきている。
「世界の児童と母性」二〇〇三年十月、二六〜二九頁、「ケア職員への教育−保育士養成に焦点をあてて」大嶋恭二(東洋英和女学院大学人間福祉学科教授)
本稿は、わが国における社会福祉施設従事者総数の四分の一を占める保育士の養成課程を考察している。
平成九年の児童福祉法改正、平成十一年の保育所保育指導指針改訂に続き、平成十四年四月から保育士養成施設において新しいカリキュラムによる保育士養成が始められた。本稿では、この改正の特徴的なものとして、必修科目として新設された「家族援助論」、「社会福祉II」から名称変更された「社会福祉援助技術」、そして、必修化された「養護内容」、「乳児保育」等の科目が挙げられている。
このカリキュラム改正は、近年の家族を取り巻く様々な環境の問題や、児童虐待の顕在化から、家族に起因する多様な問題の理解や支援を果たすことが保育士に要請されている表われである、と本稿では述べられている。また、これまで保育所保育士養成に偏っていると指摘されていたものから、乳児院や児童養護施設等の居宅型児童福祉施設において、子どもや親への援助の担い手としての機能を果たすことが期待されている表われでもある、とのことである。
そして、親への援助支援とともに、地域の中での子育て支援も保育士は要請されている。このような多様なニーズに応えるためには、保育士の質の高い専門性の確保が課題となってくる。
平成十四年三月時点での、保育所への就職者のうち、四年制大学卒業者は三・八%であり、大部分は短大、専門学校、二年制を中心とした養成施設の卒業者で占めているという。今後、四年制による保育士養成が増加してくとしても、当分は二年制中心の養成で保育士の供給を担っていくのが現状である。多様で複雑なニーズに対応し得る、高い質を保持した専門性の基礎を、いかにして限られた養成期間の中で行なうかが今後の大きな課題であると本稿では投げかけている。
(小玉夕香)
「日本保健福祉学会誌」第七巻一号、二〇〇〇年、四一〜四七頁、「夜間保育サービスの今後の課題に関する研究−施設長・保育専門職のグループインタビューを通して−」丸山昭子(北里大学大学院看護学研究科)・他
保育所に対するニーズが高まる中で、夜間保育に対する要望も高まっているという。感情的には、夜遅くまで子どもを預けなくてはならないのか、という批判もあろう。しかし、女性の社会進出や、職種・就業時間の多様化、離婚率の上昇による単親世帯増加などによって、現実として夜間保育の必要性は否定できない。認可保育所が夜間保育制度を躊躇する中、ベビーホテルなどの無認可夜間保育所は減少することなく、真に夜間保育を必要とする子どもの多くが、これら無認可施設に預けられており、夜間保育所の質の確保という点からも、今後考えていかなくてはならない問題である。本稿では、夜間保育に関する顕在ニーズおよび潜在ニーズを、グループダイナミクスを応用した手法により体系的に把握し、夜間保育における課題を明らかにするとともに、今後の総合的な夜間保育のあり方への一助とすることを目的とした。対象は、夜間保育所の施設長六人、保育専門職十二人である。一般的なアンケート調査ではなく、グループインタビュー法を用いて質的に分析しており、その手法にも注目したい。
結果、施設長グループから、(1)保護者の精神的援助の必要性、(2)多用なニーズに対応可能なサービスの提供、(3)学童保育の体制整備、(4)十分な保育専門職の確保、(5)地域に根ざした育児支援システムの整備、(6)子育てに関する社会システム変革の必要性、の六点が課題としてあげられた。保育専門職からは(1)子どもの生活リズムの調整、(2)環境調整の工夫、(3)異年齢保育の有効性、(4)(保護者に対する時間的・精神的サポート、(5)保育専門職処遇の回善、(6)一時保育のための体制の整備、が課題として明らかにされた。
子どもはこれからの未来を持つ大切な存在である。子ども達が心身ともに健康に育つために、社会全体が応援しなくてはならないといえる。これらの課題の意味を理解し、保護者、保育者、そして社会全体が取り組んでいかなくてはならない問題である。
「日本保健福祉学会誌」第九巻一号、二〇〇二年、二五〜三四頁「障害児の親に対する子どもの発達の遅れと育児方法の情報提供」佐藤秀紀(青森県立保健大学理学方法学科)・他
「うちの子は少し変かな・・・?、発達がおそいのかな?」という疑いをもちつつも「いいや個人差があるからそのせいだろう」とすごしている家族は多いのではないだろうか。そして、実際に障害があるとわかったときの親の気持ちを思うとたまらない気持ちになる。障害児の親は心理的ショックを受け、わが子の障害を否定したり、自責や悲しみなどの感情をもち、時間を要しながら適応への努力を始め、対処していくものといわれているが、この過程には、その家族に関わるものの態度や言動が大きく影響するという。本稿では、専門職による適切な情報提供のあり方の指針を得ることを目的に、障害児の親に対する子どもの発達の遅れと育児方法について、情報提供の現状を検討した。調査方法は北海道内の知的障害養護学校と高等養護学校在学の親二五一人に対して、多肢選択方式および自由記述方式で回想法により解答を求めた。障害をもつ子どもの親の視点から専門職のあり方を問う問題であり、障害をもつ親子にかかわる専門職者には考えてもらいたい内容である。
結果、調査対象二五一人のうち一〇七人の回答が得られた(回答率四二・六%)。専門家からの子どもの障害と育児方法についての説明に関して、親が自発的に専門職に相談を求めたと回答したものは、子どもの発達の遅れについては七四・八%、子どもの育児方法については六一・〇%であった。このことは逆に三〜四人に一人は相談する専門職が得られなかったことを意味し、適切な相談相手から情報が十分に行き渡っていないことが考えられる。また、発達の遅れの説明があった時に、親の気持ちに対する十分な配慮が感じられたのは三八・六%、育児方法の説明のときに、十分に配慮が感じられたものは四四・一%であった。障害告知の場で精神的に不安定な親に対し、どのように接していけばよいのかは難しい問題であるが、不用意な言動が診療拒否や不信感を招来するだけでなく、親の育児態度にも影響するためできるだけ親の気持ちを受け止め、正しい理解と立ち直り、適切な養育姿勢の獲得を促すような対応が求められる。今後、専門職は障害児と親の生活を支援するものとして、親が求めている援助を適切に捉え、きめ細やかな対応と提供する知識や技術を発揮できる能力を養っていくことが求められる。
専門職は障害についての相談を受けると、障害にどう対処するか、どのように訓練すれば障害が軽減するかという技術的なところに目がいきがちである。しかし同時に親の生活や心理的サポートにも目をむけなければならない。この積み重ねが、親の障害受容につながるものでもあり、障害児にかかわる専門職には是非、本調査の結果を考えて対応していってほしい。
(門脇睦美)
西平賢哉
イラスト・松村隆
この稿を書いているのは長い年末年始休暇(今年はなんと九連休)の最終日。今回は里帰りもせず、東京で一家揃っての年越し。ユキとタクミとも久しぶりに長くゆっくりと遊べたのでその中で気づいたことを紹介したい。
まずはユキ。考えてみればユキはもう三歳十一か月で、四歳目前。数か月後には幼稚園に通う身であり、もうある程度「お姉ちゃん」であることに何度か気づかされた。
ひとつはタクミをお姉ちゃんとしてリードして一緒に遊べるようになっている点。両親(二人とも追い詰められるまで手をつけないタイプ)が年賀状や大掃除で二人の相手ができない間はユキがタクミと一緒に遊んで時間を稼いでくれる(ブロックや歌など)。
また、かなり聞き分けがよくなった点。以前は一度言い出したら泣くまで聞かなかったのに、弟の手前もあるのか素直に聞くようになっている。誉めると「ユキちゃんもうすぐ四歳で幼稚園にいくお姉ちゃんだから」と若干胸を張り気味に話す姿が微笑ましい。
次は一歳になったばかりのタクミ。大分足腰はしっかりしてきて立ったまま静止できるようになったが、まだ次の一歩、二歩が出てこない(ちなみに歯も七本目以降が出てきていない)。この年末年始の間もかなり特訓してみたが(立たせたままちょっと離れて足を出すことを促す)、二三度の例外を除いて、棒が倒れるように笑いながら倒れてくる。ウォーカーにつかまったり、手を持って歩かせたりするとご機嫌に歩くのを見ると、もう一息で歩けそうなだけに、この連休中に歩けなかったのはちょっと残念。
ただ代わりと言っては何だがハイハイがバージョンアップしておなかを持ち上げて進む「高バイ」をマスターした。自慢の四輪駆動ハイハイは車高の高いRV仕様となり、スピードも若干速くなっている。
タクミはまだしゃべれないが、ベビーサイン(身振りでの意思疎通)をいくつか使えるようになっている。「もっと(左手の手のひらを右手の人差し指で指す)」や「帽子(頭を指差す)」や「さかな(口をパクパク)」など。私が驚いたのは名詞ではなく、抽象概念とでもいうべき「もっと」をわずか一歳で使っている点。大好物のチーズを食べてしまって、しきりに自分の左手の手のひらをつついている姿を見て感動してしまった(かなり親ばか)。
さて明日からは仕事。しばらく二人と遊べなくなって悲しいことをユキにお風呂で愚痴ったら「またお休みになったらパパとも遊んであげるから」と本気でなぐさめられた。ということで次の週末までがんばろう!
事務局から
▽「生涯学習プラン」の情報は十二月号のこの欄でお伝えしたが、先日の検討会でプログラムIの実施要項案がまとまり、役員会への報告・承認等の後に公表する予定です。事業実施と同時に発足する「生涯学習プラン認定委員会」が指定する研修、実習、学会等へ参加し所定のポイント(受講時間)を確保すれば、「健康安全管理」プログラムの修了認定を受けることができます。
▽四〇周年記念シンポジウムに関する報告は三月号に掲載いたします。
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