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(5)児童福祉施設や里親との連携、協働
 児童相談所が子どもの児童福祉施設への入所や里親への委託措置を実施する場合、当該措置の実施に関する子どもの状況の十分な実態把握・評価(アセスメント)の取り組みを強化するとともに、施設や里親との連携強化が必要である。
 また、児童相談所による施設入所措置や里親委託後の子どもに対するフォローが十分になされていない現状を踏まえ、例えば、児童相談所と施設、里親との定期的なケース検討会議を実施し、子どもの自立支援計画を定期的に見直すなど実効性ある「協働」の取り組みを進めていくことが必要である。
 
(6)児童相談所職員の配置の充実、専門性の確保・向上
 児童相談所の職員の充実については、市町村その他の機関との役割分担による役割の重点化を前提としつつ、今後、児童相談所が市町村に対する専門技術的な支援や調整といった役割を担うことが期待されることなども踏まえ、引き続き、児童福祉司や心理判定員など必要な職員体制の確保に努めることが必要である。
 また、職員の専門性の確保・向上については、それぞれの地方自治体において、人材登用に関する様々な工夫を凝らすとともに、例えば、自治体間での人事交流の仕組みの検討、一定の勤続年数を確保することなどについての配慮などが求められる。また、実践的な研修を充実させるとともに、スーパーバイザー(専門的助言者)体制の充実を図ることが必要である。
 
(7)児童福祉司の必置規制、任用資格のあり方
 地方分権推進改革会議において検討が求められている「児童福祉司の必置規制の緩和」については、職員の登用に関する地方自治体の裁量を拡大するというメリットはあるものの、児童相談所が、権限発動など今後より一層求められる役割を的確に果たすためには、高度の専門性を確保することが必要であることから、慎重な検討が必要である。
 このように、児童福祉司の必要性を再確認し、今後さらにより一層求められるべき幅広い専門性を充実・強化する観点から、子どもや家庭に関わる相談やケアなどについて様々な実務経験やノウハウを有する人材を活用することも有用であると考えられる。このため、必要な専門性を確保することを前提に、児童福祉司の任用資格を見直し、例えば、保健師、助産師、看護師、保育士、児童指導員、教員等幅広い人材が登用できるようにするような検討が求められる。
 この場合、単に有資格であることのみをもって資格要件とするのではなく、児童福祉に関する業務(子育て相談、施設での子どもの生活指導等)に一定期間従事した経験を有しているなどの実務経験や一定の研修の受講を要することとすることが適当であると考えられる。
 
(8)心理判定員の業務および名称の見直し
 児童相談所の心理判定員の業務については、従来、障害等の判定業務が中心となっていたが、児童相談所において、虐待を受けた子どもや虐待を行った親に対する心理療法の実施等の機能を強化することが求められる。
 また、行政機関における心理専門職として、児童福祉施設その他の民間機関における心理療法等の取り組みに対する専門的な助言などの支援を行う役割を強化することや相互連携の強化、大学との連携強化なども求められる。
 心理判定員の名称についても、業務の実態ニーズを踏まえ、児童相談所運営指針における名称を、心理判定員の業務の実態を踏まえたより的確なものとする方向で見直しを検討することが適当である。
 
(9)一時保護所のあり方、混合処遇緩和のためのシェルター機能の分散
 児童相談所の一時保護所は、シェルター機能、行動観察機能、治療的機能など様々な機能を果たすことか求められ、これらの機能が混在していると同時に、様々な異なる背景を有する子どもが同一の空間において処遇されているなど多くの問題点を抱えている。こうした中で、児童相談所に付置することが原則とされている一時保護所(機能)そのもののあり方について、他の児童福祉施設等との機能分担を含め、検討することか必要であり、児童福祉施設の一時保護機能の強化、里親や医療機関などへの一時保護委託の積極活用などの具体的な取り組みを強化していくことが必要である。
 また、当面、混合処遇を緩和するための緊急対応措置として、一時保護所において分離処遇を可能にする設備の改善や居住環境の向上等を図ることか求められる。長期化する一時保護中の子どもの教育の保障のあり方についても検討することが必要である。
 さらに、例えば、当面、特に処遇上の課題の多いとされる、虐待を受けた児童と非行児との混合処遇の緩和の観点から、地域の実情に応じ、児童自立支援施設の一部を活用することについて、施設入所措置児との処遇の混乱を避けるなどの適切な配慮措置が講じられていることを前提にその促進策を検討したり、ケアの連続性を確保する観点から、あらかじめ施設措置が見込まれるケースや施設入所措置を家庭裁判所に申し立てる児童福祉法第28条ケースについては、積極的に児童福祉施設への一時保護委託を行うなど、地域の実情に応じた地方自治体の主体的判断により、柔軟に一時保護制度を運用できる仕組みを検討することも必要である。ただし、こうした運用は、もとより、児童相談所が子どもの処遇に関する十分な実態把握・評価(アセスメント)を実施することを前提に進めることが必要である。
 
(10)その他関係機関の役割、あり方
 福祉事務所(家庭児童相談室)、地域子育て支援センター、児童家庭支援センター、市町村保健センターなど児童相談に関わる機関は様々あり、地域の状況により格差もあることから、そのあり方について一律に考えることは必ずしも適当ではない。
 また、前述の市町村における相談機能の強化に際しても、上記の諸機関をはじめどのような機関をその中核として実施していくかについては、地域の実情に応じ、柔軟に対応されることか適当である。この場合、社会福祉法人やNPO等の民間機関による相談援助活動の育成や委託を含めたこれらの機関の活用などについても、プライバシーの保護に留意しつつ、積極的に検討を進めることが期待される。
 こうした点を前提とした上で、例えば、児童相談所からのケース送致に対応できる児童相談所のブランチ(支所)機能を強化する観点から、地域の実情に照らし、必要に応じて、郡部福祉事務所の機能強化、児童家庭支援センターの設置促進や機能強化を図ることなどについても検討がなされることが必要である。
 また、国においては、地域の実情に応じた市町村における様々な効果的な取り組み事例を収集し、情報提供を行うような取り組みも求められる。
 主任児童委員については、区域を担当する児童委員の業務の支援や関係機関との連絡調整が主たる役割とされている。しかし、個別のケースの状況に応じ、児童虐待防止などに関する直接的な活動を行うことも可能であり、そうした点の周知も含め、積極的な活用を図るともに、児童委員に対する研修の強化を図ることが必要である。
 
4 今後の要保護児童および要支援家庭に対する社会的養護のあり方について
 
(1)基本的考え方
 社会的養護については、子どもの権利擁護を基本とし、今後とも国、地方公共団体、保護者、関係団体などの関係する主体が、それぞれの責任を適切に果たしていくことが必要である。
 今日の社会的養護の役割は、子どもの健やかな成長・発達を目指し、子どもの安全・安心な生活を確保するにとどまらず、里親への委託や施設への入所などを通じて、心の傷を抱えた子どもなどに必要な心身のケアや治療を行い、その子どもの社会的自立までを支援することにある。
 もとより子どもの健全育成、自立を促していくためには、里親や施設のみならず家族や地域の果たす役割も重要である。家族や地域が有していた養育力が低下している現状にあっては、家族の再統合や家族や地域の養育機能の再生・強化といった親も含めた家族や地域に対する支援も、社会的養護本来の役割として取り組むことが必要である。
 こうした認識の下、社会的養護については、現在の仕組みの下で何ができるかということではなく、制度や意識を転換し、ケア形態の小規模化、親や年長児童に対する支援、更にはケアに関する児童福祉施設の創意工夫を促す仕組みの導入など、子どもの視点に立って、子どもや家族の多様な要請に応えていくことが必要である。
 なお、そのためには、家庭的養護と施設養護の協働や、一人ひとりの子どもの状況に応じた最適な支援を行うための子どもや家族の十分な実態把握・評価(アセスメント)を実施できるよう、児童相談所、福祉事務所などの地域の関係機関や児童福祉施設の体制の強化を図っていくことも必要である。
 同時に、これまでの社会的養護は、保護を要する児童を対象とするものとして、いわゆる子育て支援とは別個のものとして進められてきたが、今後は、両者を連続的なものとして捉え、一体的な施策の推進を図ることにより、より効果的な子どもの健全育成や児童虐待の防止等につなげていくことが必要である。
 
(2)家庭的養護・施設養護、年長の子どもや青年に対する自立支援などのあり方についての方向性
(1)家庭的養護(里親・里親によるグループホーム等)のあり方
 家庭での養育が十分に期待できない子どもの養育を希望する者(里親)が、自らの家庭においてこうした子どもの養育を行う里親制度については、その利用実績が長期的には低下傾向にあり、その理由として「里親制度が知られていない」「子どもの実親が里親委託を望まない」等の指摘がなされている。しかし、家庭での生活を通して愛着形成を図ることのできる意義深い制度であり、子どもの立場に立てば、より積極的に里親制度の普及を図り、活用していけるよう、この制度の一層の啓発に努めることが必要である。
 また、里親制度については、乳幼児期から自立期に至るまで里親を活用できるよう、里親によるグループホームといった工夫を図るとともに、より良い養育の実現に向けて、里親の心身両面での負担軽減に向けた支援の強化や里親に対する研修体制の充実を図ることにより、多くの者が参加しやすい仕組みとしていくべきである。
 さらに、親権の一部代行など里親の責任等を明確化することにより、その専門性や役割を明確にすることも重要である。
 
(2)施設養護のあり方(施設サービス体系のあり方等)
 児童福祉施設における養護の中長期的なあり方としては、まず4(1)の基本的考え方を踏まえ、子どもの視点に立って、大規模な集団生活ではなく、より家庭的な生活の中での個別的なケアの提供を基本とした上で、各施設の本体施設を治療機能等を有する基幹施設と位置付け、高度な支援が必要な子どもへの対応が可能な専門職員を配置する方向を目指すべきである。
 児童福祉施設については、こうした将来的な方向を見据え、子どもの自立を視野に入れて生活面、治療面で個々の子どもの要請に応えられるよう、各施設が有する特性を活かした相互支援や、里親や児童相談所などの関係者との幅広い連携を図りつつ、ケア形態の小規模化を進めていくことが必要である。同時に、入所している子どもの処遇に支障を来すことのないよう配慮しながら、専門的支援機能や在宅支援機能、一時保護機能など地域の拠点としての諸機能を充実・強化していくべきである。
 また、子どもを中心に据えるという視点に立って、乳児院及び児童養護施設で受け入れる子どもの年齢要件の見直しなど、可能な限り子どもに対するケアの連続性や親子関係を保持することに配慮する必要がある。
 さらに、虐待を受けた子どもをはじめとする様々な支援を必要とする子どもの状況や意向を踏まえて、適切なケアが提供されるよう的確な支援計画の作成に配意すべきである。
 なお、これら一連の取り組みに必要な職員の確保についても十分検討すべきである。
 施設に対する措置費の支弁についても、一人ひとりの子どもが必要とするケアの内容は異なっていることからすれば、こうしたケアの内容に関わらず全ての施設に一律に支払う方法から、個々の施設における子どもの状況、子どものケアに関する施設の創意工夫や努力といった取り組みを反映したものに見直すべきである。
 
(3)家族関係調整及び地域支援
 子どもの自立を促していくためには、子どもを取り巻く家族や地域の果たす役割も重要である。
 このため、児童福祉施設においては、施設に入所した子どもの家庭復帰や家族再統合に向けて、子どもへの支援のみならず、児童相談所等の幅広い関係者と連携しつつ、家族への支援や親権者との関係調整を適切に実施していくことが必要である。
 また、施設を退所し、地域で生活する子どもについても職員が訪問し、あるいは施設に招き、必要に応じ相談・助言等を行うといったアフターケア(施設退所後のケア)を充実させていくことが、今日の施設の役割として重要である。
 さらに、児童福祉施設は、養育に関する専門知識、経験を生かし、地域の子どもやその家族(里親を含む)に対して、必要な支援を行う役割を担っていくことも期待される。
 こうした様々な役割を児童福祉施設が地域の福祉拠点として的確に果たしていけるよう専門的支援機能や在宅支援機能、一時保護機能など諸機能の充実・強化を図っていくべきである。
 
(4)年長の子どもや青年に対する自立支援
 近年、社会的養護を必要とする子どもの中には、虐待を受けるなど、よりきめ細かな手厚い支援を必要とする子どもが増加しており、こうした子どもをはじめとして里親委託を終了した子どもや児童福祉施設を退所した子どもが、ただちに社会的に自立することは容易ではない。こうした子どもの自立を促していくためには、生活拠点の確保と就労支援が重要であり、施設退所後等の当分の間や求職期間中の生活を支えることが可能な実効ある制度的対応を検討すべきである。
 こうした施設退所後等の子どもに対し、生活の場を提供し、その相談に応じる児童自立主活援助事業(自立援助ホーム)が果たす役割は重要であり、その設置促進や機能の強化を図るべきである。
 また、里親、児童福祉施設や自立援助ホームについては、18歳、20歳といった年齢に達した子どもについては一律に支援を打ち切ることが原則となっているが、こうした施設等の対象年齢から外れた者であっても必要に応じて支援を継続していくべきである。
 
(5)社会的養護の質の向上
 社会的養護については、虐待の防止の徹底など、子どもの権利擁護のための取組みを強化していくことが必要である。
 社会的養護の質の向上を図るためには、児童相談所、福祉事務所や児童福祉施設において、一人ひとりの子どもの状況に応じた最適な支援を行うための子どもや家族の十分な実態把握・評価(アセスメント)、自立支援計画の策定等を推進していくとともに、自己評価に加え第三者による評価の実施を促進していくことが必要である。
 また、社会的養護関係者の必要な専門性を確保するため、その養成・研修のあり方についても、実践現場の要請を踏まえてその充実を図るべきであり、必要とされる研修を実際に受講できる仕組みを作ることが重要である。
 こうした種々の取組みによるサービスの質の向上が正当に評価され、サービスの改善に向けた動機付けが生じる仕組みとしていくことが必要である。
 
(6)学校教育など関連分野との連携
 里親や児童福祉施設といった社会的養護の枠内の取組みだけではなく、学校教育など関連分野の関係者の社会的養護に対する深い理解やそれに基づく適切な対応が、こうした保護を要する子どもの減少につながるとの視点が重要である。
 特に子どもに密接な関わりを有する学校教育との連携については、児童福祉施設における学校教育の保障、虐待を受けた子どもの特性に関する学校関係者の理解の促進といった、社会的養護関係者と学校関係者の双方向の連携・協働を推進していくことが重要である。
 
 これからの目指すべき社会的養護の仕組みの姿としては、以上に整理した方向性を重ね合わせれば、おおむね別添案のような見取り図が考えられる。
 
5 今後に向けて
 
 以上、これまで、主として「児童虐待への対応など要保護児童および要支援家庭に対する支援のあり方」について、当面早急に対応すべき課題を中心にその方向性を提言した。
 これらの提言の実現に向け、「虐待防止委員会」および「社会的養護委員会」報告書に盛り込んだ「具体的な取り組みに関する意見・提案」「当面の具体的な取り組みに関する委員会としての意見」なども十分に踏まえ、児童福祉法などの関連する法律の改正を含め、まずは、これらの課題に着実に取り組まれることを期待する。
 また、こうした取り組みを第一歩として、その実施の状況も踏まえつつ、適時適切な制度のあり方の検討が継続的に行われ、必要な措置が講じられていくことが求められる。
 そしてさらに、今後、地域の子育て支援サービス、保育サービスと社会的養護システムを含めた子どもと家庭に関するサービス全体を通したサービス提供主体のあり方や措置制度のあり方など幅広い観点からの議論が行われることを期待する。
(以上)
 
これからの社会的養護のあり方(案)
=各児童福祉施設を基幹施設(センター)とする=
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社会保障審議会児童部会名簿
氏名 役職
◎岩男 壽美子 武蔵工業大学環境情報学部教授
慶應義塾大学名誉教授
○阿藤 誠 国立社会保障・人口問題研究所長
網野 武博 上智大学文学部教授
遠藤 俊子 山梨大学大学院医学工学総合研究部教授、医学部看護学科併任
大日向 雅美 恵泉女学園大学人文学部教授
柏女 霊峰 淑徳大学社会学部教授
津崎 哲郎 大阪市中央児童相談所長
服部 祥子 大阪人間科学大学人間科学部教授
堀 勝洋 上智大学法学部教授
松原 康雄 明治学院大学社会学部社会福祉学科教授
無藤 隆 お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授
山? 高哉 佛教大学教育学部教育学科教授
渡辺 久子 慶應義塾大学医学部小児科学教室専任講師
◎:部会長 ○:部会長代理







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