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(4)避妊・中絶の動向
1)避妊方法
 南欧諸国の避妊の解禁は、スペインで公式に避妊が合法化されたのは1978年で、イタリアでは1971年である。中絶同様宗教的な事由により避妊行動や避妊法に関する自由化は比較的遅い。
 避妊実行率および避妊方法に関して見たのが表3である。避妊実行率は、1995年のFFS調査では、イタリア54.3%、スペイン60.8%であるのに対し、フランス、ドイツでは75%近くが避妊を実行している(それぞれ実施年は1994年、1992年。日本は58.6%の実施率)。
 避妊方法についてみると、ピル、IUD、および避妊手術などの現代的な避妊方法の組み合わせ使用は、1995年調査ではスペインは22%、イタリアでは19%程度と、フランスの64%(1994年)、ドイツ66%(1992年)程度と比較するとかなり低い(日本は南欧諸国よりさらに低く7%程度)。コンドーム、ペッサリーなどの伝統的方法はイタリアではよりポピュラーな方法で35%、スペインでも38%がこの方法を用いている。これはフランス、ドイツでは10%にも達しない(日本では伝統的避妊方法のトータルは48%程度になる)。
 イタリアやスペインの避妊方法で伝統的方法の占める割合はともに高い。1995年FFS調査の結果では、フランス、ドイツ以外のEU諸国に比べても伝統的方法の利用率は高く、ピルなど現代避妊方法の実行率は低い。
 1970年代後半から始まった急激な出生率の低下期に、イタリア、スペインでは宗教的な背景もあって、現代的な避妊方法はあまり利用されず伝統的な方法がより一般的であった。したがって、南欧諸国の出生率低下は不完全な「避妊革命」にもかかわらず達せられたことになる。南欧諸国のこうした点は他の北西ヨーロッパと異なり日本の状況とは共通点をもっている。
 
表3 避妊実行率および避妊実行者の避妊方法別内訳
  調査対象
年齢
実行率 不妊手術
女性 男性
ピル IUD コンドーム ペッサリー 性交
中絶法
定期
禁欲法
その他
イタリア
1979 18-44 78.0 b 1.0 0.0 14.0 2.0 13.0 2.0 36.0 .. 10.0
1995 20-49 54.3 - - 13.6 5.5 13.7 0.2 17.5 3.6 0.3
スペイン
1977 15-44 a 51.0 - .. 13.0 1.0 5.0 1.0 22.0 2.0 7.0
1985 18-49 59.4 4.3 0.3 15.5 5.7 12.2 .. 15.8 5.7 c
1995 18-49 60.8 - - 14.6 7.6 24.3 0.6 11.4 1.9 0.3 d
フランス
1994 20-49 74.6 ---8.0--- 35.6 19.9 5.0 0.8 3.2 .. 2.1
ドイツ
1992 20-39 74.7 0.9 .. 58.6 6.0 4.4 1.2 0.3 .. 2.5
日本
1994 15-49 58.6 3.4 0.7 0.4 2.2 45.5 0.6 1.7 .. 4.1
a 初婚女性のみ。 b 前回の妊娠から(妊娠の経験がない場合は結婚時から)。 c ペッサリーを含む。 d 注入法を含む。
資料)United Nations, Levels and Trends of Contraceptive Use as Assessed in 1998. Fertility and Family Surveys 1995.
 
2)人工妊娠中絶
 南欧諸国の人工妊娠中絶が合法化されるのは、宗教上の問題もあって遅く、イタリアでは1978年、スペインは1985年である。イタリアでは15〜49歳の女性1000人に対し1999年8.7、スペインでは1999年5.7、ギリシャでは4.9程度(1994年)と低い。イタリアでは中絶の自由化直後には15程度の数値を示していたが、1990年代以降はさらに低い水準にある。南欧諸国では、妊娠中絶が出生力水準に与える影響は比較的小さいと推測される。
 
図16 人工妊娠中絶割合の推移
生児出生100に対する値。
出所)Council of Europe, 2002. 日本は、厚生労働省統計情報部『衛生年報』、『母体保護統計報告』。15-49歳女子人口について。
 
 なお、ポルトガルでは治療的妊娠中絶または優生学の妊娠中絶のような例外的ケースを除いて、一般には妊娠中絶は禁じられている。しかし、非合法での妊娠中絶は存在しており、1年間で15〜44歳の女性1000人中38人程度の規模と推計されている。これは、2000年のイギリス14.1、スウェーデン15.7を上回っている。しかし、東欧で確認されている90という数値よりはかなり小さい。
 
(5)Tempo Index(TI)とQuantum Index(QI)
 合計特殊出生率の水準の変化を、生涯出生力の動きを示すQuantum(カンタム)要因と出産のタイミングを示すTempo(テンポ)要因に分けて検討する。
 Quantum要因とTempo要因に関する検討は、Ryder指数を計算すると長期の年齢各歳別出生率データが必要で、南ヨーロッパ諸国についてはデータがそろわない。そこで、29歳で交差するようにCTFR-TFRを求め、これをTempo Index(TI)、CTFRをQuantum Index(QI)とする方法を使えば、簡易に長期の結果が得られる。ここでは、完結出生率(CTFR)をQuantum Index(QI)、TFR/QIをTempo Index(TI)とする計算方法を仮定して、簡易の結果を得た。Ryder指数との違いもほとんどない。1974年以降の合計特殊出生率の動きについて、先述の方法によってTempo Index(TI)とQuantum Index(QI)を求め、各国別に観察したのが図17である。
 スペインの1974年以降のQuantum Index(QI)とTempo Index(TI)は、ほぼ相似、平行し心持ち幅を縮小させながら単調に減少している。高水準にあった合計特殊出生率が急激に低下したため、1980年まではTFRの方がQIよりも上回っている。1980年以前はTIは1以上となっており、QIはすでに低下を始めておりその影響でTFRは低下する。1981年以降TIも1.0を割り込み(出生の先送り)、QIについても低下し続ける。両者が相乗効果をもたらしTFRは急激に低下することがわかる。しかし、出産年齢の上昇によるタイミング効果によって、実際の生涯出生力よりも合計特殊出生率の低下を大きくみせているといってよい。
 
図17 tempoとquantum 1974〜1997年
 
イタリア
 
スペイン
(注)ただしここでは、出生年に29を加えた年が合計特殊出生率(TFR)の年と交差する完結出生率(CTFR)をQuantum(QI)、TFR/QIをTempo(TI)として計算してあるので、正確なRyder指数とは微少な誤差がある。
 
出所)Council of Europe, 2002.
 
 ここでは、スペインの場合を説明したが、総じて南欧諸国のTFRと、Quantum Index(QI)とTempo Index(TI)の関係は似通った動きをしている。南欧諸国の場合いずれも一時期TFRがQIの水準を上回り、時期の違いはあるが交差する形で、TFRがQIの水準を一気に割り込む。これは、TIが1以上であることからQIの低下がTFRの低下を引き出し、その後TIも1を割り込み、両者が連動する形でTFRは低下したと考えられる。TIの動きはおおむね単調で南欧諸国では家族政策などの影響があまりないことの結果であろう。いずれにしても晩婚化、晩産化などによるタイミング効果、生涯出生力低下の要因の両者の影響を受けてTFRは低下している(ただし、ギリシャではTFRに対しQIの動きはあまり影響を与えず晩産化などタイミング要因による影響が大きい。1990年代にはQIの影響もみられる。ポルトガルについてはギリシャに相似しているがタイミング要因による影響がより強くみられた)。ギリシャ、ポルトガルではQIは1.7〜1.8程度にまでしか低下しておらず、タイミング効果が落ち着けば、現在1.5を割り込んでいる合計特殊出生率は1.7程度にまでは水準を切り上げる可能性がある。







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