日本財団 図書館


―子ども家庭支援(10)―
親も、子もともに育ちあう
〜一・二歳の親子を対象にした「親子教室」〜
こどもの城 保育研究開発部 山田 道子
 〔こどもの城〕の保育研究開発部では長年一〜二歳の親子を対象にした子育て支援プログラム「親子教室」を講座の形で実施しています。保育者の指導による親子遊び、友だちと遊ぶ体験が中心ですが、お父さん、お母さん同士が育児への思いを交換し合うディスカッション、医学や心理、発達などに関する講義など親プログラムも加えて、全十回のコース。育児を楽しく豊かにするために、そしてもう一度親として子どもを見る目、親子の関係などを一緒に考えようというものです。
 開館してまもなく始めましたが、担当者が交代したり、回数や講師の内容などに多少の変化があったりしましたが十八年間続いています。一年間に三期間(一期間が十回)行いますが、一期間の定員は今は親子十六組としています(以前は十二〜十四組)。開催時間は、主に月曜日の十時から十二時三十分の二時間半のプログラムです。父親の参加も考えて、土・日曜日も三回開催するようにしてあります。
 
 
遊びをとおしての子育て支援
 「親子教室」は当初から一貫して保育者が主導して行う遊びをとおしての子育て支援プログラムです。参加を希望する親も「他の子どもと遊ばせたい」「親子とも友だちを作りたい」「初めての子どもで遊び方が分からない」「参加して親子で成長したい」「両親プログラムがあるから」などといった理由が大半です。
 第一子の親子が目立ちます。それだけ親の方にもなんとなく子育てに自信がなく、誰かと子育てについて話してみたい、聞いてみたい、アドバイスが欲しいなどと応募の理由に書きこんできます。最近ではよりよい子育てを願って参加をする親が増えているのも特徴です。
 
遊びの過程を大事にする
 全十回中の五回ぐらいまでは、集中的に親子で遊ぶプログラムを組んでいます。家庭生活のなかで親子で簡単に作って遊べるものや、体を動かして遊ぶことなどを紹介していますが、できるだけ他の親子と関わりながら遊べるようにするのも「親子教室」の隠れたねらいです。代表的な三つのあそびを紹介します。
■小麦粉粘土で何作ろう■三〜四組の親子がビニールを張ったテーブルの周りに座ります。テーブルの上に小麦粉をこん盛り上げます。保育者は「小麦粉は強力粉を使っています。のびがいいですよ」と説明。親の中には「強力粉ってなんですか」という人もいます。保育者は「強力粉」「薄力粉」の違いを説明することもありますが、親同士が「うどんを作る粉じゃないの」「お菓子は薄力粉でしょ」などと会話がはずみます。
 保育者は親子に「そっと粉に触ってみましょう」と声を掛けながら進めます。指先に粉がついてあわてて手を引っ込める子ども。「小麦粉ってフワフワしてるわねー」と子どもに話しかける親。「だめよ、そんなにつかんじゃ、ちらかるじゃないの」と子どもをたしなめる親。そうした他の親子のやりとりを親たちは自分の子育てに重ね合わせていろいろと感じるようです。粉に少しずつ水を入れて皆で手を出してこねます。
 「こんなことは初めてだわ」と手をベタベタにして楽しそうな親子。手を洗いに水道に走り出す子ども。追いかける親。「あら、黄色になってきたわ」と驚く親。食紅をしのばせてあることを伝えると「どこで売ってるのかしら」などと粘土をこねながら親同士でおしゃべりが続きます。同じテーブルを囲んでいる親同士は、力をあわせて大きな小麦粉ねんどを作り上げます。保育者は手が汚れるのを嫌がる子どもには無理に誘わなくていいですよと話しておきますが、粘土の形になるとたいていの子どもはさわります。
 およそ十二〜十三分で小麦粉粘土になりますが、後は各グループごとにお店やさんを開くことにします。「果物屋」「八百屋」「お菓子屋」「おもちゃ屋」「魚屋」などです。各グループのお母さんたちはなんのお店がいいか相談しながら品物を作ります。
 それぞれのお店の品物を各グループごとに歌で紹介して終わるのですが、子ども時代のままごと遊びのようで楽しかったというお母さんが多いのもこの遊びです。また、小麦粉粘土を作るという目的を持って四〜五人のお母さんが一緒に作業をすることで、仲間意識が増してその後友だちになっていったりします。作った粘土はおみやげとして家庭に持ち帰ります。その際にはクッキーの型抜き、ニンニクの絞器(おそばになる)など、道具類を使って遊ぶのも楽しいことを伝えておきます。
一枚の紙から■(写真右)一枚の新聞紙をさまざまに使って遊ぶ遊びです。特に目新しい遊びではないのですが、近頃の家庭では、意外にもあまり遊んではいないようです。お母さんが子どもの目の前で「イナイ、イナイ、バー」と紙で顔を隠しては子どもを喜ばせる遊びからはじめます。「イナイ、イナイ、バーはハンカチでやるものだと思ってました」というお母さんもいます。
 また、思いっきり新聞紙を破いたり、ちぎったりして遊びますが、とまどう親子が多くなりました。保育者が「遊びですから、思い切ってビリビリ破いてみましょう」とお母さんに端を持たせ新聞紙を破いて見せたりしますが、勢いよく破くお母さんが少なくなったと感じています。
 たくさん破いた後の新聞紙は保育者が「雨が降ってきたー」といって親子にかけてまわります。その後は部屋中に散らばった新聞紙をあつめて雪玉に見立てて「雪合戦で遊びましょう」などと遊びを盛り上げます。
 単純なこの遊びは「まあーやったわねーお返しよ」など親の素朴な姿が現れて、親同士がリラックスします。しかし、新聞は大切なもので破くものではないと子どもに教えている家庭もあります。保育者は古新聞を使っての遊びの楽しさを伝えると同時に、親のストレス解消にもなることをていねいに話しておきます。
リズムは友だち■音楽系の遊びは親子で体を動かすことにもなり、子どもも親も気軽に遊びに参加します。
 親子で音楽を聴きながら歩く(ふつう、ゆっくり、はやく、)、小走り、止まるなどをしてみます。「小麦粉粘土」「一枚の紙から」などの遊びと違って気持ちが軽くなるのか、親子とものびのびと表現しているのが分かります。他の親子と自然と並んだり、ポーズをとったりするのも豊かな表情です。親子同士も互いに楽しく印象づけられるようです。
 簡単なマラカスを親子で作って一緒に歌ってみることもします。マラカスは、子どもも握られる大きさの小さなペットボトルに、食紅で色付けしたお米を少し入れます。ペットボトルの表面には子どもにシールなどをはらせます。自分で作ったはじめてのおもちゃになることもあって、家庭でも子どもがよく遊ぶとお母さんたちからは喜ばれます。
 この他にも講師の話や親同士のディスカッションの合間などにも手遊び、スキンシップ遊び、運動遊び、おもちゃ作りなどさまざまな遊びを盛り込んでいます。お父さんも参加するときには特にダイナミックな遊びを入れます。
 
親子がともに育ちあおう
 十六組の親子が、一週間に一回「親子教室」で出会い、いろいろな遊びをした後に給食も一緒に食べます(親は軽食)。四〜五組の親子が一つのテーブルを囲みますが、同じ年齢の子どもを育てていることもあり、子どもの遊びや生活のこまごましたことに話はつきることはありません。「食べてくれない」からに始まって、偏食の悩み、料理の工夫、しつけや健康、教育、親の趣味のことなどあらゆる話題の情報交換の場になります。
 食事中は、保育者はさりげなくお母さんの傍らにいて、必要があれば子育てについてのアドバイスや援助をします。親達は、参加している他のさまざまな親子の姿から学んだり、得たりすることの方が多いのではないかと思っています。
 「親子教室」は保育者が企画してプログラムを進めていますが、主役は子どもと親(父・母)です。参加する主役の親子同士がいきいきと振るまい、元気に遊び出すのを目にするのはうれしいものです。子どもを育てることの厳しさがいわれていますが、
 「親子教室」を続けてきて思うことは、時代は変わっても親が子どもを育てる過程は変わらず、育てる環境が変わったのではないか、ということです。親たちは子どもが幼いほど、まずは生活の仕方(食事、健康、睡眠、排泄、衣類等)、を学びたいと思っています。「親子教室」は親子遊びが中心のプログラムですが、楽しい親子遊びをしながらさまざまな形で生活の仕方を今後も伝えていきたいと思っています。
 
 
 
綸言(りんげん)汗のごとし
 政治家たるもの、ましてや一国を代表とする大統領や首相の一言が、外部からの批判に対して簡単に翻る(ひるがえる)ようではつとまらない。首脳の一言で国の運命を決した歴史は数多い。
 首脳が前言を翻す(ひるがえす)とメディアは一斉に言質を取り全国報道をし、永田町も霞ヶ関も大慌てになり、果ては国会審議が留まることさえもある。「失言した」と心中期することがあったにしても翻意すると大騒動、大紛糾になるので意地を張らなければならない羽目になる。
 「綸言(りんげん)汗のごとし」という言葉がある。
 広辞苑によると『一度口に出した君主の言には汗が再び体内に戻らないように取り消すことができない』とある。為政者が言葉を軽々に言うことで国が乱れるのは今も昔も同じことであり、それを戒めたものである。しかし、最近では大汗をかいて前言を訂正し、「そのようなつもりで言ったのではない」とか、弁解がましく詭弁を弄して自分の立場を守ろうとする政治家が多くなっている。そのために政治生命を失った事例がある。先の衆院選で、ある衆院候補が「女性蔑視」の言質を捉えられ、前回の選挙では、約十万票を獲得しながらも落選したのである。
 日本の従来の総理は、毎日のようにテレビでの記者のインタビューに応じる人はいなかった。それを小泉総理は言質が取られることをプラスにし、マスメディアを味方にして国民受けをしっかりと狙っているのだから恐れ入る。
 しかも、この人は言い出したら人の言うことを聞かないので有名である。与党の仲間でさえメディアを上手に使って国民の敵にしてしまう。自他共に認める「変人」だけのことはある。だが、これだけの支持を得ているというのは、まさに「カリスマ的」である。
 総理は、「待機児童ゼロ作戦」と日本の次代を担う子どもの育成を最重要課題にして、昨年六月二三日、待機児解消策として、平成十八年度までに業界では初耳の幼保一体を基本とした正体不明の「総合施設」の設置と、保育所運営費の「新たな財源の確保」までを閣議決定しておきながら、その周辺では卒然たる行動に出て公立保育所運営費全額の一、七〇〇億円を一般財源化に求め、舌の根の乾かぬうちに見事に前言を覆したのである。
 「思いつき」で決断されるのか、選挙の勝利の美酒に酔う勢いがそうさせているのか。しかし、地方自治体首長などの次期参院選での闘いの脅しに屈したのである。
 今回の四兆円削減にしても与党、官僚には何の説明もなく敢行する無意識過剰ぶり。このような政治家としてデュープロセス(当然とるべき手続き)を無視した総理の軽挙妄動と専横を決してマスメディアは表現しない。国民と密着している福祉と生活のニュースに緊張感がないので、「総理ぶら下がり」や「官庁記者クラブ」での情報待ちの楽な取材が浮き彫りとなり、汗をかいて走り回って集めた取材ではないことが伝わる。その証左に過去に閣議決定をした点と一般財源化したことへの矛盾を突いた論評や批判記事は一切見当たらない。
 今回の公立保育所の運営費が一般財源化されたことによって世界に類を見ない日本の伝統的保育制度の良さと、子どもを支えてきた児童福祉法を消え去ってしまう序幕にしてはならない。
 総理の近辺も、不況や国民生活の不自由性の元凶がすべての「制度」や「基準」にあることにして、同時にマスメディアも国民からの声望を高めるために規制改革を進め、特区をもって自治体や改革派を称揚している。
 加えて「総合規制改革会議」は、国民にあえてわかりやすい「敵」をつくり、マスメディアを利用し、官僚を血祭りにあげ批判を沈黙させる。マスメディアと政府委員が世論を作りあげる。つまりポピュリズムである。
 マックスウエーバーのいう『日常的なものを超えた非凡な資質に対する畏敬の念が、非支配者の服従の基礎になっている』と、いえないことはない。
 カリスマの典型的例は、ヒトラー・スターリン・スカルノであり、いずれも革命的寵児であったが、思想そのものが伝統的支配や合法的支配でなかったことから自ずと限界が見え、一番の味方であった民衆の信頼感も次第に失われていったのである。
 しかし、カリスマ人の歴史の多くが語っているのは、万雷の拍手に人も我も酔うとき、必ずひそかに背後から倨嗷(きょごう)の魔が忍びよる。
 そして正義は滅びるのである。それは対峙する悪によってではなく、自らによって。
(夢井 仁・フリーライター)F
 
 
 
保育所の第三者評価事業の推進について
小峰 弘明
 厚生労働省は、平成十四年四月、「児童福祉施設における福祉サービスの第三者評価事業の指針について」を示し、第三者評価事業の普及を目指したが、保育所の第三者評価事業は、全国的にはあまり拡がっていない。わたしは、厚生労働省で指針作成に関わり、現在、埼玉県の児童福祉行政に携わっている立場から、保育所の第三者評価事業の推進について、都道府県の保育担当者に呼びかけたい。
 第三者評価事業は、いうまでもなく、保育の質の改善や利用者に対するわかりやすい情報提供を行うため、事業者自らが活用するツールの一つである。保育所において、どのような保育を行っているかについて、保育所自らがまず自己評価を通じて点検する。第三者評価機関は、その自己評価について、利用者調査を参考にしながら、客観的かつ公平な立場で評価を行い、それを事業者に示すとともに公表し、その結果に対して、事業者もコメントできる。評価結果が公表されることにより、利用者は、保育所の保育について、第三者の眼で確認した結果を知ることができるのである。
 社会福祉法第七八条第一項は、事業者は自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことなどにより、利用者の立場に立った良質なサービスを提供することに努めることを規定し、同第二項で、国に対して、経営者の自主的な取り組みを支援する観点から、福祉サービスの質の公正かつ適切な評価(第三者評価)の実施のための仕組みづくりに努めることを義務づけている。これを受けて、前述の指針では、評価を受ける方も評価を行う方も自由という考え方に立ち、第三者評価という市場に評価機関が自由に参入するという仕組みとしたわけだが、この方法では、第三者評価事業が全国に広まるまでには至らなかった。
 第三者評価事業がうまく機能するためには、評価を適切に行いうる事務体制はもとより、評価基準の見直し、評価調査者の資質の維持、評価結果の精度管理などのシステムが必要であり、これをすべて評価機関に委ねるのでは、評価機関には肩の荷が重すぎる。そこで、評価調査者の養成や評価機関の認証など評価事業全体に目をくばる認証機関(評価機関のための評価機関)が必要となってくる。
 東京都は、第三者評価を推進するため、東京都福祉サービス評価推進機構を立ち上げたが、評価機関の認証機関は、ある程度広域的な設置が必要であり、このしくみは都道府県単位で検討することが望まれる。都道府県自らが行うか、県域の法人を活用するかなど、手法は地域の実情により異なるが、早急に認証機関の設置に向けた準備を行う必要がある。
 社会の構造改革、男女共同参画、仕事と子育ての両立支援など様々な方向から保育制度に対して提言がなされている中で、第三者評価事業への期待は大きい。第三者評価を活用する準備として自己評価の手引きをまとめ上げた事業者団体、ISOの審査員の経験を通じて第三者評価の在り方について提言をしている保育園長、市の委託事業として全保育所の評価を行うべく補正予算を計上した自治体、きちんとした評価機関があれば活用したいと日々保育の自己点検に努めている保育園長、先駆的な保育関係者の英知を結集して新たに第三者評価機関を立ち上げようというNPOなど、全国の心ある保育関係者が、納得のいく第三者評価制度の到来を願っている。
 今こそ、都道府県が積極的に役割を担い、保育園がいくつかの評価機関の中から、「これなら活用してみようか」という評価機関を選んで第三者評価のしくみを活用できるような土壌を早急につくらねばならない。
(埼玉県健康福祉部こども家庭課主幹、前厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課保育指導専門官)
 
 
 
住民参加の子育てプラン
 次世代育成支援対策推進法の成立を受けて、全国の市町村では行動計画の策定作業が始まっているはずだ。地域で取り組むべき子育て支援事業を網羅するために、まずは必要とされる延長保育時間や一時保育量などを把握するニーズ調査に乗り出そうとしているところだろう。
 今回、自治体に策定が義務付けられた行動計画は、かつての地方版エンゼルプランとは若干異なっている。まず、対象とする範囲が保育サービスだけではなく、教育や住環境、交通安全などの幅広い分野にまたがっている。さらに、行動計画を策定する手順についても、何らかの形で市民の参加を求めている点が違う。策定委員会などに市民代表を入れたり、計画案を公開して市民の意見を求めるなど、市民参加型で計画を策定することを求めている。そうしたプロセスを経て、地域で子育てに対する関心を高めることが期待されているといえる。
 住民参加型の計画づくりという意味で、行動計画のモデルとなっている自治体がある。長野県茅野市だ。
 平成十四年度に策定した同市の「茅野市こども・家庭応援計画(どんぐりプラン)」が注目を集めている。いわゆる地方版エンゼルプランだが、同市は教育分野も含めた「地域教育福祉計画」として位置付けている。注目を集めるのは、策定に当たって市民主体の委員会で二年に及ぶ論議を行っただけではなく、プランの推進についても市民のネットワーク組織が音頭を取るという、「市民と行政のパートナーシップ」を実現している点にある。
 また、市民主体の取り組みを進める中で、保健福祉部門と教育委員会との協働も進んできた。平成十六年度から、こども関係の部署を教育委員会内に一元化する予定にしているという。行動計画策定・実践のプロセスは、市民の生涯学習に通じている点でも多くの示唆を含んでいる。
 同市で、市民主導の取り組みが始まったのは、民間出身の矢崎和広市長の誕生が大きい。平成七年に当選して以降、「公民協働のパートナーシップのまちづくり」を掲げ、まず地域福祉計画を策定する際に、市民が積極的に計画策定に関わるスタイルをスタートさせた。市の重点課題として、「福祉、環境、教育」を掲げ、市民主体の計画策定と推進組織作りを進めてきた。
 福祉については「茅野市域福祉計画(福祉21ビーナスプラン)」と「茅野市の二十一世紀の福祉を創る会(福祉21茅野)」という市民組織、環境については環境三基本計画と「美サイクル茅野」という市民活動組織が誕生した。この流れから、教育に関する計画策定と組織づくりも動き出した。
 ビーナスプランを策定する際、分科会の一つとして「子育て部会」も設けていた。主に乳幼児を中心とした論議を行ない、子育て支援センターの設立などの課題が挙げられた。これがゼロ〜十八歳までを通した子育てを応援、支援していく計画づくりにつながった。
 福祉21ビーナスプランの策定後、改めて「茅野市子ども・家庭支援計画市民ワーキング」が発足。子育て部会のメンバーも加わりながら、どんな支援が必要か、子どもや家庭が何を求めているか、当事者の意見も聞きながら、市民ワーキングの報告書をまとめた。これを受け、さらに幅広い市民が参加して、具体的な計画づくりに進むために、総勢三十四人の市民で構成する「子ども家庭支援計画策定委員会」が設置された。
 どんぐりプラン策定までには、十二回の策定委員会のほか、「支援施設のあり方について」「子どもの声を生かしたまちづくりについて」など五つのテーマに分かれた分科会を延三十七回開き、「胎児〜幼児期」「幼児・学童期」「思春期・青年期」の発達段階別に分かれた委員会を延二十五回開催。平成十四年七月「茅野市こども・家庭応援計画(どんぐりプラン)」がまとまった。
 会議の持ち方も、市民主導。役人は情報提供役に徹し、具体的な施策を提案し、決定する役割は全て市民に委ねられた。夕方になると、委員となっている市民が市役所にやってきて、市役所内の会議室で論議を繰り広げる。市役所職員も会議室を押さえるのが大変だというくらい、市民に活用されている市役所でもあるようだ。
 それだけに、当初「子ども家庭支援計画」とされていた名称も、「子育ては『支援』するものではなく、親の子育ての苦しみを分かった上で、みんなが『応援』するものだ」という委員らの意見から、「茅野市こども・家庭応援計画」と変わった。
 また、プランの中で出てきた、未就園親子のための「0123広場」や中高生らのたまり場「CHUKOらんどチノチノ」の開設、地域の里山「小泉山」の整備といった事業も、市民の思いからスタートし、当事者も参加して内容や運営方針などが形づくられた。
 どんぐりプランは、「一人ひとりの子どもを、地域みんなの力で育てていく」ことを主眼に、ゼロ〜十八歳の子どもとその親を総合的に支援する体制の整備を狙っている。乳幼児、学童、思春期といった発達段階の違いにより、親や子どものニーズや、地域で取り組める施策は異なる。そこで、年齢層と生活圏(一層は茅野市を含めた諏訪地域(施設としては児童相談所・保健所)、二層は市全域(施設としてはこども館・図書館など)、三層は中学校区単位の保健福祉サービスエリア、四層は市内十地区(施設としては公民館、地区こども館)、五層を自治会と設定)に応じた支援体制を考えた。その中心には、教育委員会と保健福祉部が連携した「こども・家庭応援センター」を市役所内に設置した。
 同市では、計画を立てた市民がその後も計画推進に継続的にかかわっている。計画を立てた市民が責任を持って実践していく体制となっている。どんぐりプランについては、「茅野市こども・家庭応援計画推進ネットワーク委員会(どんぐりネットワーク茅野)」を組織。この中には、各種子育てサークルや保育園長会、幼稚園、PTA連合会なども参加している。
 さらに、市内十地区でどんぐりプランを推進するための「どんぐりプラン推進委員会」を設置し、地区こども館の開設などに取り組んでいる。このほか、専門部会として、「子育てに関する市民活動部会」「こども館運営部会」「情報処理部会」なども設けている。
 具体的な実践の姿としては、「0123広場」がある。駅前の商業施設跡地に、平成十四年に誕生した。ビーナスプランで子育て部会が提案した、子育て支援センターの具現化。設計段階から、どんぐりネットワークの「0123広場運営委員会」がかかわってきた。これとは別に、利用者が参加する利用者運営委員会「おひさまの会」も設けている。読み聞かせ絵本は何を置くか、誰を講習会に呼ぶかなど、広場の運営は委員会との話し合いで進む。
 広場のスタッフは、保育士の館長をはじめ、有資格者ばかり。広場では、スタッフが保育をしたり、手遊びを講習するのではなく、来場する親子が自分たちで遊び交流するの基本としている。置く遊具にも気を配り、本格的な木のおもちゃや、着せ替え遊び用の本物のドレス、使えなくなった携帯電話、ダンボールの空き箱などが用意されている。親同士が情報交換しあうコーナーや、感想を書き込めるノートもあり、ノートなどの要望からおもちゃや行事なども見直されているという。
 おひさまの会では、昨年、クリスマス祭を企画。一日だけだと参加できない親子も出てくるため、一か月程度をクリスマス期間とし、室内を飾りつけて楽しんだ。クリスマス会当日には、矢崎市長がサンタクロースの扮装で登場し、親子に好評だったという。ただ、運営委員だけで設営するのに負担が大きかったこともあり、夏に実施した夏祭りでは実行委員制を採用した。ヨーヨーなども手作りで用意し、人気を博した。館長らは、こうしたイベントを通して、積極的に広場の運営にかかわる親たちを発掘したいと考えている。
 広場を利用する母親は、「アパートなので、子どもを十分に遊ばせることができない。広場にくると、自分の好きなおもちゃでじっくり遊んでくれるので、その日はぐっすり寝てくれる。また、子どもが同じ年齢だと声もかけやすく、育児友だちもできた。こうした場ができてありがたい」と話していた。
 広場のほかに、中高生のための施設として「CHUKOらんどチノチノ」地区こども館を設けている。チノチノがあるのは広場の階下。利用する中高生らで組織する運営委員会が、計画段階からレイアウトなどのアイディアを出し、自主的な運営を行ってる。
 市内十地区の設置を目標にしているのは地区こども館。平成十五年六月に第一号館が誕生して以来、七館が開館した。公民館などの一部に図書館分室を設け、非常勤のどんぐりメイトが常駐する。午前中は、地域の未就園児親子などが、絵本を借りにきたり、定期的なおしゃべり会などに参加し、午後からは授業が終わった小学生らが三々五々立ち寄る。図書室で宿題をしたり、図書を借りたり、座敷で鬼ごっこなどをして、家へ帰るまでのひと時を過ごす。子どもにとっては、学校でもなく、家庭でもなく、くつろげる場となっている。子ども館が地域の大人と子どもたちとの交流拠点になることも期待されている。実際に、子ども向けに伝統芸能を教える高齢者もいるという。
 どんぐりネットワークの活動を点検するために、年一回は進捗状況を報告しあっている。「どんぐりプランはまだ地域の人に理解されていないみたいだ」という不十分さもさらけ出しあいながら、地域への浸透を図っている。
(山田)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION