日本財団 図書館


―保育所における子育て相談(13)―
子育て相談の具体的実施について[2]
福井県総合福祉相談所所長 西村 重稀
相談の専門機関を紹介する場合には
 相談内容が専門的で、かつ、相談担当者が、相談内容について専門的な知識がない場合には、専門機関へ紹介するようにしてください。
 専門機関へ紹介する場合には、日頃から連携が必要でありますが、最低限の情報として、専門機関の住所、電話、相談担当者の名前などを教えてあげてください。
 できましたら、相談機関へ電話をして、「いつそちらへ行き、誰に相談したらよいか」等アポイントまで取ってあげると相談者は専門機関に行きやすくなるのではないでしょうか。
 そうしますと、相談者は、この保育園の先生を信頼するようになり、私の子どもはこの保育園で保育してほしいという気持ちになります。言い換えれば、選ばれる保育所になるのです。
 
最低限必要な情報を収集してください
 相談において最低限必要な情報の収集について考えてみたいと思います。
 ここで説明する情報については、実際の相談において必要でないと判断した場合には、これから説明する項目を全部聞く必要はなく、相談に必要な項目のみを聞くようにしてください。
ア 家族について
 家族については家族構成、家族の年齢・状況・経済状況など、相談されている子どもが、どのような地域と家庭で、またどのような環境の中で生活しているのかということを把握することが必要です。
イ 相談する対象である子どもについて
 子どもの生年月日、生育歴(胎児期の時、母体の状況、出生体重、その時の状況(異常の有無)、母乳であったかどうか、離乳時期、首のすわり、始歩、発語、基本的生活習慣の自立の時期、ひきつけの有無、習癖の有無、その内容、主たる養育者等、発達状況)、現在の状態など、相談対象となる子どもの出生から現在までの状況・状態を把握するために、情報を収集します。
ウ 学校とか、保育所等に行っている場合には
 保育士(先生)との関係、友達との関係、保育所等における状況等を把握してください。
 このように、子どもの生育歴や状況・状態、環境等の情報を収集し、子どもの置かれている状況や子どもの状態像等について把握をして、保護者が問題にしている発生状況や原因、対応などを検討するために必要な情報を収集するのです。
 
育児相談の記録
 次に、育児相談の記録について説明します。
 私は平成十二年度から十四年度までの三年間にわたり厚生科学研究(保育所における保健・衛生の対応に関する研究)の分担研究である「保育所における相談事業に関する保健学的調査研究」について調査研究をしました。
 この調査研究によれば、「保育所の業務がいそがしいから」、「保護者等の秘密の漏洩の配慮から記録を残さない」などの理由で四〇%以上の保育所で相談記録を作成していないという結果が見られました。
 しかし、ケース検討や再相談の場合、また担当者が代わってケースを引き継ぐ場合には、ケース記録がないと十分に対応ができなくなります。
 昭和五九年六月十四日付け母福第十五号厚生省児童家庭局母子福祉課長通知「保育所等における乳幼児健全育成相談事業について」によれば、相談に当たっては、相談日誌、個別相談記録票などによって、相談内容や助言指導についての要点を記録し、相談の評価や事例の蓄積などに心掛けることが大切であると記載されています。
 また、保育所保育指針には相談記録を必ず作成するように記載されていますので、相談記録票に記載する主な項目について考えてみます。
 まず、相談を受け付けた日、相談担当者名、面接相談か電話相談か、相談者の住所、氏名、年齢、児童との続柄、児童の年齢、性別、生育歴、出生順位、家族構成、相談内容、助言指導とその相談経過などの記録が必要です。
 記録を書くには、憶測や推理でなく、事実を客観的に書き、相談担当者の意見を記載するときも、どのような事実に基づいてそう考えたのか明記することも大切です。
 
相談担当者としての資質向上を図ること
 最後に、相談を専門的に受ける人は、「自己知覚」といって、自分のこと、性格などを含めて知っておくことが大切であると言われています。
 そのため、児童相談所などの専門機関の職員の多くは教育分析(個人分析)等を受けます。
 相談担当者の人間性は相談・援助をする場合には、大きく影響すると言われています。そこで、相談担当者は自分はどんな人間であるか、どんなことに感動し、どんなことに不満を持ちやすいか、どんなことに偏見を持ちやすいか。他人の言動にどう反応する傾向があるのか。他人にどんな印象を与えるかなど、自分の性格、行動、話し方など全般にわたって十分に把握するように努力をしましょう。
 つぎに、助言・援助は適切であったか。相談者のニーズを把握できていたか。今後、このケースをどのように展開していくのかなど、相談が終わるごとに検討しながら相談記録をつけましょう。
 記録については先ほど話したとおりですが、相手の反応だけでなく、担当者自身の応答も記載しておくと良いと思います。
 それが、相談技術の向上に役に立ちます。また、その記録をもとに、スーパービジョンを受けるようにしましょう。
 このスーパービジョンは自分で問題点を明確にし、それについて相談・援助を専門的に行い、熟達した人から指導を受けることをいいますが、これは相談担当者が相談する立場(スーパーバイジー)になって、指導者(スーパーバイザー)の面接を受けることを言います。
 このスーパービジョンを受けることは大変なことと思いますが、相談者の気持ちが分かり、相談技術の向上を図る方法としては良い方法だと思います。
 また、園内研修で、相談ケースの検討会をするのも良いと思います。
 その場合には、検討してほしい問題点を明確にし、他の人の意見を聞きます。
 自分とは違った見方や対応の方法があることがわかったり、または、自分が取った方法が適切であったことを確認して、自信を持つことができるなどの利点があります。
 そのほか、外部から講師を呼んで研修するのも一つの方法ではないかと思います。
 
まとめ
 今までの保育所保育は、子どもの保育すなわちケアーワーカーとしての仕事でありました。
 しかし、最近の家庭では、子育て機能が低下していることから、保育所保育がケアーワークだけでなく、子どもの保育を行うときには、その子どもが属する家庭全部を視野に入れて、保育をしなければならなくなってきました。
 言い換えれば、保育所保育においては、児童のケアーワークだけでなく、親を指導するためのケースワークを導入する必要がでてきました。
 また、家庭や地域の子育て機能が低下してきている中で、地域の子育て家庭を支援する機関が必要となりました。
 そのため、地域に根ざした児童福祉施設であり、毎日子どもの保育を実施し、子育てのノウハウを持っている保育所が地域の子育て支援という役割を担う必要があるため、平成五年から保育所地域子育てモデル事業として開始されました。
 そして、エンゼルプランが策定されるとともに、このモデル事業は改善され、地域子育て支援センター事業として推進されました。
 その後、平成十年度からは児童福祉法が改正され、どの保育所においても、児童福祉法の第四八条の二において、保育の支障がない限り、地域の子育て家庭から、乳幼児などの保育の相談を受け、助言に努めなければならないと規定されました。
 そして、平成十五年の秋からは、保育士は名称独占になると共に、この育児相談を受けるのは、保育士の役割となりましたので、援助技術の勉学をはじめ保育士自身の質の向上のために、更に研鑽が必要となりました。
 (次回からは、相談事例について記載します。)
 
 
 
誌上研修「人材育成」(25)
「保育と人生」を豊かに生きるヒント集 第95回
「私の21世紀・未来年表」を創る
人材開発コンサルタント
塩川正人
 新年おめでとうございます。
 皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
 年の初めに「未来史」創りをご提案します。自分史づくりがブームですが、過去の自分をまとめても過去の自分までです。21世紀と未来の自分をまとめることは「生きる力・夢」を描き出すことを意味します。自分だけでなく、保育園の未来や家族の未来や社会への自分の予測を添えるとさらにダイナミックになります。そして「2004年新しい自分が生まれる」と信じた生き方をしたいです。
 
「私の21世紀・未来年表」







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION