日本財団 図書館


(4)コーホート完結出生率の推移
 毎年次ごとの出生統計によって出生率を計算し出生力の変化を観察する期間出生力指標としての合計特殊出生率に対し、出生コーホートが示す実際の出生率を観察するのがコーホート出生力指標である。出生コーホート別の完結出生児数の推移を図4に示した。
 1930年出生以降のコーホートの完結出生率(ギリシャは1937年以降、スペイン1941年以降)をみると、イタリアでは1933年出生の2.32、ポルトガルは1931年出生の2.95をピークに以降減少している。スペインはデータのある最初の年1941年出生コーホートで2.55となっているが、以降は減少し続けている。人口置き換え水準を割り込むのは、イタリアが1944年出生コーホート、スペイン1952年出生コーホート、ポルトガルは1950年出生コーホートで、最も若い1962年出生コーホートではイタリアが1.60、スペインは1964年出生コーホートの1.63、ポルトガルは1966年出生コーホートの1.81となっている。ギリシャについては、データのある1937年出生以降では1939年出生コーホートの2.08が最大で、1956年出生コーホートが2.0を割って以降は漸次低下し1966年出生コーホートでは1.70となっている。各国ともすでに低位の水準であるが、今後もコーホートの出生力については低下し続ける可能性がある。
 
図4 出生コーホート別完結出生率の推移
出所)Council of Europe,2001.
日本は、「平成14年1月全国人口推計の考え方」。
 
 イタリア、スペイン、ポルトガルなど南欧諸国は北西欧諸国に比べ、過去40年間の合計特殊出生率の最大と最小の差には大きな開きがあり、より大きく激しい出生力変動を経験している(出生率の最大最小の差は1.5〜1.8程度ある)。南欧諸国の出生コーホート別完結出生率は、期間でみた合計特殊出生率より安定した出生力傾向を示しているようにみえる。北西欧諸国の1965年出生コーホートの完結出生力が2.0程度であるのに対し、南欧諸国の同世代のコーホート完結出生力は1.6〜1.8程度とすでに低位であるが、期間出生率とはほぼ20〜30年程度のタイムラグがあり、この期間を考慮するとコーホートの完結出生力は今後も引き続き低下する可能性を示唆している(ギリシャについては、コーホート出生率の動向は比較的安定していたが、1955年出生コーホート以降は低下が継続している)。
 
3. 出生率の近接要因の変化
 出生率の水準に直接影響を与える「近接要因」のうち結婚・同棲行動、婚外出生などのおもな行動要因について検討する。
(1)結婚・出産のタイミング
 女子の婚姻年齢、出産年齢の変化は、出生率とも比較的連動している。いくつかの結婚・出産関係の行動指標からその動向を観察する。
1)合計初婚率と生涯既婚率
 合計初婚率は、15歳から49歳までの1年間の初婚統計によって計算される。ある年次の年齢別初婚発生率を合計したもので、初婚に対する各年次の変動を反映する指標である。これに対し生涯既婚率(生涯未婚率の余数)はある世代の50歳前後の既婚率で、いわばコーホートの合計初婚率といえる指標である。
 1960年以降の女子の合計初婚率をみると、イタリア、スペインでは1974、75年、ギリシャ、ポルトガルでは1979年までは、おおむね1以上で推移していたが、1を切って以降は各国とも合計特殊出生率が下がるのと連動するように一気に低下した(図5)。スペインは、1981年には0.69となり20年近く0.6台の水準で低迷している。イタリアでも1984年の0.68以降1999年の0.62まで0.6台で推移している。ポルトガルでは1を下回って以降2000年の0.73まで漸減傾向にある。ギリシャではほぼ1年おきに振幅の大きい数値を示しているが1990年代は0.5〜0.7の幅で推移している。ただ南欧諸国の場合、北西欧諸国の0.5前後に比べると若干は高い傾向がみられる。
 
図5 合計初婚率の推移
出所)Council of Europe, 2002.
 
 つぎに、女子の生涯既婚率をみると、1930年から1945年以前の戦前出生ではギリシャ、イタリア、ポルトガルにつては、いずれも90%を越えており皆婚に近い状態である(図6)。ギリシャ、ポルトガルでは、この状況は戦後出生世代でも維持され、1967年出生コーホートでは依然90%を越えると推計されている。イタリアでは戦後出生世代の既婚率は徐々に低下し1967年出生コーホートでは79%、スペインは82%と推計されている(スペインのデータは1955年出生以降。1955年出生では87%と推計)。イタリア、スペインとも低下しているとはいえ、北西欧諸国に比較すると高めである(フランス1967年出生68%、スウェーデン1965年出生62%など)。
 
図6 コーホート別生涯既婚率の推移
注)ポルトガル:The data lead to an over-estimation of the proportion of ever-married.
出所)Council of Europe, 2002.
 
 南欧諸国では、おおむね結婚・再生産行動は依然として伝統に従っている。たとえば、イタリアでは結婚はほとんどが正式のものであり(96%、人口センサス1991年)、その内80%はカトリック教の挙式を挙げ、出生は嫡出である(92%)。1970年代以降、結婚は減少し、現在、合計期間初婚率(TPFMR)は60%に下がった。しかし、90%の女性が再生産年齢期の終わる50歳までに伝統に従い結婚している。スペインの婚姻については、1990年代を通じて減少傾向にあり、1990年の婚姻数は22万組、普通婚姻率5.7%。であったが、1998年には5.3%、1999年には20.6万組5.2%。にまで減じている(日本では1999年6.1%。)。全婚姻数のうち初婚割合は男女とも減少しつつあるが、それでも1998年で男子93.3%、女子94.7%と高い水準にある(日本では男子86.1%、女子87.6%)。また、合計初婚率については、1990年代を通じて減少傾向にあるが、1990年に男子0.68、女子0.69であり、1998年にはそれぞれ0.61、0.63となっており、これは日本より低い水準である(日本の場合男子0.65、女子0.68)。
 婚姻内出生が大勢を占める南欧諸国では、晩婚化の動向が第1子出産年齢の高齢化に密接な関連がある。
2)平均初婚年齢とコーホート平均初婚年齢
 年齢別の初婚発生分布の平均を示すのが平均初婚年齢である(図7)。1960年の女子の平均初婚年齢をみると、ギリシャ25.1歳、イタリア、ポルトガル24.8歳であり、この年以降徐々に若年化、早婚化し、ギリシャでは1979年に23.2歳、イタリア1977年に23.6歳、ポルトガルが最も遅くて1982〜83年に23.1歳、1975年以降のデータしかないスペインでは1979〜80年の23.4歳で低年齢化の底を打ち、その後は反転し現在まで晩婚化が続き、初婚年齢の高年齢化が進んでいる。イタリアでは1999年27.0歳、スペインでは2000年27.8歳と日本の2000年27.0歳(1999年26.8歳)を上回っており晩婚化が進行している。
 つぎに、出生コーホートでみた平均初婚年齢の推移をみる(図8)。1950年代出生コーホートを底にして初婚年齢の高年齢化が始まっている。1967年出生の平均初婚年齢は、ギリシャ24.5歳、イタリア25.6歳、スペイン25.7歳、ポルトガル23.9歳となっており、いずれも各国の最新年次の平均初婚年齢に比べ低い。
 
図7 女子平均初婚年齢の推移
出所)Council of Europe, 2002.日本は、厚生労働省統計情報部『人口動態統計』により国立社会保障・人口問題研究所が年齢別出生率を基に算出したものであり出生数を用いた平均年齢とは異なる。1970年以前は沖縄県を含まない。
 
図8 コーホート別平均初婚年齢の推移
出所)Council of Europe, 2002.
 
(以下、次号)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION