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―子ども総研から―
文献情報(22)
日本子ども家庭総合研究所
 
「保育学研究」第四十巻第二号、二〇〇二年、七二〜八十頁、「異年齢児とのかかわり―いたわりと思いやりの心の育ち―」仲野悦子(岐阜聖徳学園大学短期大学部)後藤永子(岐阜聖徳学園大学短期大学部)
 
 子どもをとりまく環境は、少子化や核家族化など人と人とのかかわりが希薄化しているなかで、昔であればきょうだいや近所の交友関係で容易に経験できていた異年齢の子どもとの遊びやふれあいの体験がなかなかもちにくくなってきている。
 本研究は、異年齢集団の活動が、子どもの思いやりやいたわりの気持ちを育むことに注目し、三年間にわたる子どもたちの縦割り活動を通して行った実践的な研究である。
【方法】
対象:ゼロ歳〜六歳まで園児一一〇人(三歳未満三四人、三歳児二八人、四歳児二〇人、五歳児二八人)、保育士十一人のs保育園の三歳から五歳の園児合計七〇人
手続き:五歳、四歳、三歳児を一緒にして異年齢グループを作り、さらにその中で異年齢ペアを組み、年間計画に従って週一回のペースでかかわり活動をとり入れ、夏季保育(七・八月)期間は、終日異年齢グループによる保育を行なった。期間は、開始時三歳児が五歳になるまでの三年間である。
【分析方法】対象児の日常の保育や長時間保育の時間帯における自由な遊び場面で、異年齢児との自然なかかわりの姿を観察し、事例研究による分析を行なっている。観察は、筆記による記録と写真やビデオも使用した。
【結果】三歳児は、四・五歳児の活動をみて自分もやってみたいという気持ちやあこがれの気持ちから真似るようになった。四歳児は、最初は自分のことで精一杯であったが、泣いている子を見つけると自分から進んで相手に近寄り言葉をかけるようになった。五歳児は、同年齢児のクラスに戻ったとき、自分の意志をしっかり友だちや保育士に伝えられるようになり、頼られる存在になり、自信に満ちた姿に成長発達した。
 また、子どもの活動として、自然探索などの散歩、川遊び、芋掘り、雪遊びなど自然に親しむ活動を多く取り入れ、自然物(どんぐり、松ぼっくり、すすき、落ち葉、サツマイモの蔓など)を利用しての製作も多く取り入れており、それらの活動が子どもたちのかかわりをより豊かにした様子が報告されている。
 最後に異年齢保育が成り立つためには、保育者や保護者、あるいは地域の理解や支持がなければ成り立たないことが指摘されている。ただし、このことについて、それ以上の具体的な報告はされていない。
 今後、子どもたちのいたわりと思いやりの心の育ちのために、異年齢保育の実際について、問題点(実施する際の困難さ、工夫・配慮を必要とする点等)や方法論などについてのさらなる研究が期待される。
 
「児童育成研究」第二〇巻、二〇〇二年三月、一三〜二四頁、「わが国の育児書に記述された父親の役割の変遷(第一報)」田川悦子(鎌倉女子大学)石原栄子(作新学院大学女子短大部)岡本美智子(聖心女子専門学校)加藤翠(元日本女子大学)
 
 本研究は、わが国で育児書が発行され始めた江戸期から平成十一年までの約三百年間の育児書から、第二次世界大戦終了までと戦後の時期に分け、五十冊ずつ合計百冊を選び、子育てにおける父親の役割に関する記述について分析、調査したものである。なお、第一報では、主に戦前の育児書についての分析結果について報告している。戦前の時代背景を反映した父親像が育児書を通して描き出されている。
【目的】父親の役割の変遷をたどることによって、その得たものと失ったものの意義を明らかにし、これからのあり方を考える一助とすること。
【方法】わが国で江戸期から平成十一年までの発行された育児書から、第二次世界大戦終了までと戦後のそれぞれ五十冊ずつ計百冊を抽出し、父親の子育てにおける役割の指導記述について調査した。本の選択は、江戸期(五冊)、明治前期(二三年まで。十三冊)、明治後期(十冊)、大正期(十一冊)、昭和戦前(二十年まで。十一冊)、昭和四十年まで(十九冊)、四一年から六十年まで(十九冊)、六一年以降(十二冊)であり、これらは期ごとの発行数の約一割を著者や発行年が片寄らないように、またその時代を代表するような総合的な育児書を取り上げたものである。
【結果】江戸期から終戦までの育児書の父親の役割の記述は、大正期と昭和戦前の三冊(六%)にみられたのみで、戦後四十年まで七四%、四一年以降はすべてに記述がみられ、第二次大戦の前と後では子育てにおける父親のあり方が育児書の記述においても大きく変わっていたことが確かめられた。
 また、この時期の父親の姿を明らかにするため、父母を対象とした記述や父親が描かれた挿絵などを拾い上げた結果、五十冊中三八冊(七六%)に何らかの形で父親の姿の登場が認められた。これは戦前においても子育ての中で父親の存在は不可欠であったと考えられるが、その役割が戦後とかなり違ったものであったことが示された。
 江戸期から終戦までの父親の役割は具体的に子どもの世話に参加するというより、家長として威厳と秩序を保ち、子どもの病気や事故と言った緊急時にその存在感を示し、道徳的に教え導くなど、精神的支柱としての役割が主になっていた。子どもの病気については、江戸期から、麻疹や疱瘡などが多くの子どもたちの生命を奪う病として恐れられていた。
 初めて父親の役割についての記述がみられたのは、大正期である。なお、その記述には、父親と母親の愛情の違い(例えば、父親は子育ての大方のことは母親に任せて子どもに直接口やかましく言ってはいけないなど)について記述されている。
 昭和戦前の育児書は、大正期までに比し、両親を対象とした記述が多くなり、子育ての実務における父親の役割は書かれていなかったものの、具体的に子育てにかかわる姿が見られるようになっていた。
 
「児童育成研究」第二〇巻、二〇〇二年三月、二五〜三四頁、「わが国の育児書に記述された父親の役割の変遷(第二報)」石原栄子(作新学院大学女子短大部)岡本美智子(聖心女子専門学校)田川悦子(鎌倉女子大学)加藤翠(元日本女子大学)
 
 本研究は、先に示した育児書分析の第二報である。なお、第二報では、昭和戦後から平成十一年までに発行された五十冊について分析し考察したものである。
 戦後の社会情勢の変化と共に父親の役割が変化してきた様相が育児書の具体的な項目の記述を通して明らかにされており、興味深いものといえる。
【目的】昭和戦前まで父親が権威の象徴でもあった時代から、現代では共働きも増加し、夫と妻の対等意識は高まり、父親の育児参加は実質的にその必要性が高まるばかりである。
 したがって、昭和戦後の育児書の記述を通して、父親の役割がいつどのように変化して今日に至ったかを明確にすることである。
【方法】第一報に示した通りである。
【結果および考察】父親の具体的役割についての記述は、昭和二〇年代ではきわめて少なく、三〇年代から次第に増加し、四一年以降は育児書のすべてに記述されるようになり、平成になると記述分量は更に多くなっていた。
 挿絵や写真は四〇年代以降に多くなり、育児書が視覚に訴える編集になってきている。
 妊娠・出産における役割では、四〇年までは一冊に外国の事例として父親の参加が紹介されているだけで、四一年以降では二冊に、六一年以降では半数に父親が取り上げられ、父親学級への参加や出産への立ち会いなどが記述されている。
 授乳や離乳食の世話では、六一年以降急激に父親の登場が増加していた。
 おむつ交換については、徐々に増加し、六一年以降で半数に記述が認められた。四〇年代では、情けない恥ずかしいことでなく、父子関係にとって望ましいとされ、父親や周囲の意識改革を求める記述になっていた。
 入浴における父親の役割は四一年以降半数に、六一年以降すべてに記述され、スキンシップの時間としてその意義が積極的にとらえられていた。
 睡眠については、四一年以降半数、六一年以降七五%と急増していた。どの時代も帰宅が遅くなった父親が子どもの安眠を妨げないよう注意する内容が多かった。
 抱き方、運び方においては、四〇年まで一冊、四一年以降一冊、六一年以降六七%に記述されており、泣いたら積極的に抱くようにといったスキンシップを重視する指導になっていた。
 病気や事故への対応においては、時代と共に父親についての記述が増加し、六一年以降で六七%に登場していた。
 遊びや外出については、時代と共に父親の登場が増え、六一年以降では乳児期からの父親との遊びの方法が紹介されるようになっていた。
 子ども教育に関しては、どの時代も全般的に高い割合で、しつけの重要性が指摘されていた。両親の方針の一致が大切であり、父親の権威だけを振りかぎすことは不適切であるとされていた。
 共働きにおける役割についての記述は近年急増しており、女性就労の増えた三〇年代後半から記述が認められ、協力や助け合いの精神が必要とされていた。四一年以降は、協力から分担へと変化し、六一年以降では母親と対等の養育者として交代で育児休業をとることなどが記述される様になっていた。
 母親への心遣いの項では、四一年以降半数、六一年以降七五%と記述が増え、核家族化の進行で孤独になっている母親の子育てに父親の精神的なサポートの重要性が強調されていた。
 家事の手助けについては、四一年以降から記述がみられ、六一年以降半数に父親が登場していた。四十年代はじめには外国の例として紹介され、五〇年代になってわが国の父親の役割として記述されるようになっている。
 以上のように、終戦後の昭和二一年以降、法的にも家族の関係が戦前のものと変わり、父親の役割についての認識も徐々に変化し、最近では、父親は日常生活において具体的な育児の担い手として子育ての中で重視されるようになってきたことが明らかにされた。
(安藤朗子)
 
「小児保健研究」 第六二巻五号、二〇〇三年、五六九〜五七五頁「絵本の読み聞かせによるデスエデュケーションの試み」光岡攝子・他(島根医科大学医学部看護学科)
 
 保育現場において、絵本の読み聞かせは必須であり、保育士に絵本を読んでもらっている子どもの顔は真剣そのもので、絵本から様々な現実を学ぶものでもある。本稿では身近に死を体験しにくい現代の子ども達に「死ぬ」ということはどういうことなのか、生きること、死ぬことの意味を親子の語らいに取り上げていってもらいたい、ということから、生と死をテーマとした絵本を選び、絵本による子供へのデスエデュケーション(死の教育)を試みた。
 筆者らが入手した生と死をテーマにした絵本は四〇冊あり、うち五冊を選定して、保育所(一箇所)、幼稚園(三箇所)、小学校(一箇所)において読み聞かせと家庭への貸し出しを行った。そして読み聞かせを行った保護者や保育士、教師に子どもの反応を記録してもらい、分析した。結果としては、読み聞かせを行った保育士、親からは好評であり、子どもと自然にその話題について話が進んだり、読んでいて感情移入し、泣いてしまったというものもあった。子どもの反応としては、年少児でもじっと聞き入り、死の本当の意味は理解できなくても、いなくなることの寂しさや悲しさを感じたのではないか、また読み手が涙声になったことからも心に響くものがあるのではないかと述べている。年長児になると、死のプロセスまで考えが及び、より深い悲しみや寂しさの表現が聞かれた。小学生になると、死ぬこと、生きることの思いは更に深まり、主人公の気持ちにたった感想や、自分も主人公のように生きたい、といった感想がきかれ、死の意味をつかんできているようであった。
 子どもは学童期になるまでに、身近な人やペットの死などから死の概念を発達させるという。現代社会では、死は非日常のことである一方で、ゲームやメディア等からは簡単に生と死を扱い、多くの問題も指摘されている。生命を軽視している犯罪の実態を考えると、子どもの頃から生と死について考えるデスエデュケーションのあり方を今後真剣に考えていかなくてはならないだろう。そして筆者らのような絵本を用いた方法は、有効な手段のひとつかもしれない。
 
「日本看護研究学会雑誌」 第二六巻四号、二〇〇三年、五九〜六六頁「除菌効果からみた臨床現場における効果的な『石鹸と流水による手洗い』の検討」鵜飼和浩(兵庫県立看護大学)・他
 
 外で遊んだ後には手を洗う、食事の前には手を洗う、と手を洗うことは日常的に毎日行われているものである。しかし、この手洗いは子ども達や保育士自身にとって感染症の伝播を予防する上で最も重要で基本的な行為である。本稿では臨床現場において、最も有効な手洗い方法を検討するために、細菌学的な手法を用いて科学的に検討しており、その結果は是非保育現場においても参考にしたい。
 実験方法は石鹸を泡立てる時間を八秒、十五秒、三〇秒、流水ですすぐ時間を十五秒、三〇秒、六〇秒、手指乾燥に用いるタオルの使用に関しては、ペーパータオルを一枚使用、二枚使用、三枚使用と布製共用タオルの場合と各条件を設定して、手洗い前後の細菌数を調べ、除菌率を算出した。
 結果、流水すすぎ時間を十五秒とした場合、石鹸泡立て時間は八秒と十五秒で手洗いによる細菌数の減少を認めたが、三〇秒間では減少は認められなかった。石鹸泡立て時間を十五秒とした場合、流水すすぎ時間は十五秒、三〇秒、六〇秒ともに細菌数の減少を認め、すすぎ時間が長いほど効果が高かった。ペーパータオル使用では、一枚では除菌効果は認められず、二枚以上で除菌効果が認められた。布タオルの連続使用は、タオルに付着した細菌数は使用と共に増加し除菌効果はなかった。以上より、石鹸あわ立て時間は八〜十五秒で、泡とともに存在する細菌を流水で十分すすぎ、ペーパータオルは二枚以上を使用し、手指を乾燥させることが細菌除去には効果的といえる。また共用タオルは手洗いによる除菌効果を下げるため、その使用は厳に慎まなければならないという結果であった。
 本方法は実験的に条件を一定に揃えていることから、例えば水道の栓は他の人が閉めるなど実際の場面とは異なる面もある。しかし実験から流水ですすぐことには、泡と石鹸に存在する細菌を除去する効果があり、皮膚表面の細菌数減少にもなるという結果を考えると、現場では、子ども達と数を数えながら十分にすすぐようにすることを習慣づけたい。また、石鹸にも細菌があることを考えると今後は液体のポンプ式石鹸を用いるなどの検討も必要かもしれない。そして、水道栓をしめる場合は水道栓自体も水でよく流してから閉めるようにすべきであろう。これからウイルス性の下痢症や風邪が流行る時期だけに、保育現場においても意識して手洗いをすることを習慣づけていってもらいたい。
(門脇 睦美)







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