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六、共に考え、共に行動
 環境問題に関する世論調査の結果などみると、個人レベルの取り組みでは、環境問題の解決に向けて大した力にならないと思っている人が多いという結果になっている。
 たしかに一人ひとりのエコ・クッキングの心掛けなどは小さい効果しかないように思われるが、波及効果を考えれば大きな成果を生むことになる。
 ロジャースによる、一般化された商品等の普及理論モデルによると、図2に示す普及曲線のように時間の経過とともに成果があがっていくものと考えられている。
 
図3 PDCAサイクルを活用した環境保全活動
資料:環境省
 
 要するに個人の力は小さくても多くの人が参加して長時間に亘って継続されるときは、大きな成果を生むのである。エコ・クッキング運動など、皆んなの力で盛り上げて大きなパワーに成長させたい。
 POCAサイクルは(図3)Plan→Do→Check→Actionの略で、地域環境活動をすすめる場合の手法として推奨されている。従来から公衆栄養活動の手法としてとりあげてきた、Plan(計画)→Do(実施)→See(評価)と同じ手法である。
 地域で環境問題を考えたり、保育所を中心としたエコ・クッキング運動を進めるに際しても、フォローアップの仕組を整えて、取り組みの成果を把握することは極めて大切なことである。
資料 平成十五年版環境白書、環境省編集(株)ぎょうせい発行、平成十五年六月二日
 
 
 
 前回、「病(後)児保育」について論じた。ポイントは、看護師という「専門家」の活用であり、訪問看護という支援費の制度の改革である。
 保育サービスのように「人の心身」を用いたサービスには、「知恵と技術」という「専門性」が求められる。それとともに「心配りと手助け」という「普遍性」も必要であろう。このことは医療でも同様である。「障害児保育」と「病後児保育」について、医療の「専門性」が必要とされることは言うまでもないが、「普遍性」は、有能な保育士によって実践可能であることに留意したいと思う。
 「医療」という名がついた瞬間から、自らの心と手が無用になったかのように考える保育士がいるが、職責の放棄であろう。一方、「医療」という名がついた時から、その対象者を全て「独占」しようとする看護師がいるが、それは自らの「専門生」に対する認識不足であろう。このように考えれば、「障害児保育」と「病後児保育」について、保育士と看護師の協働することは当然のことであろう。
 それにも関わらず、これらの事業が進まないのは何故なのか。
 「制度」と考えるのは本末転倒であろう。何回も論じたように、「制度」とは、所詮、支援費の集め方、出し方に過ぎない。問われるべきは人的なサービスそのものなのである。「設備」を考えた方もいるだろう。しかし、設備は備えればよいのであって、不可能なことであるはずがない。
 そうなのである。この問題の解決に必要なのは、保育士と看護師が子どもたちのために協働しようとする姿勢なのである。これを理解できる人こそが「専門家」という名に値する者なのではなかろうか。
 
 
 
コラム
保育の目的をはっきりと
 学童保育の補助職員として十五年ぶりに現場に復帰している保育士と話をした。そのときその保育士は、「私は何も出来ないけれど子どもたちに心をいっぱいかけてあげようと思っている。憎まれ口はきくし、言うことはきかないけど、それでもいつか心は拠りどころとなるものだから私はずっとそれをしていきたい」と言っていた。本当にそのとおりだと思った。心という表現はとても抽象的だがよく分かった。
 不思議なもので、良きにつけ悪しきにつけ大人の思いというのはいつの間にか子どもに通じているものである。日々の保育を進める中でも保育士自身がその日の保育の目的をしっかり自分のものとして理解していないと、子どもの行動はばらばらになり、目的とした保育が達成できない。これと同じようにその園の大きな目的を達成するための基本の倫理が定かでないと保育士も目標を見誤ることになる。
 保育の中で合奏をするときを例に考えてみると、合奏によって子どもの中に何が育ち、何を育てようとしているか、保育の目的をはっきり理解していなければ、ともすると合奏そのものが目的になってしまう。つまり、合奏は目的を達成するための方法手段であり、本来の保育の目的ではない。音楽を皆で楽しみ豊かな心を育てそれを自ら体験し、一つのものを作り上げる充実感と達成感を味わい、豊かな人間性を育てる一助にするということを理解していれば、個々の特性に合わせた演奏の楽しみ方を実践できる。そのときは演奏の出来不出来はそれほど重要ではない。しかし演奏自体が目的になれば、子どもの育ちより演奏の出来不出来が重要になってくる。と同時に子どもは演奏をするための道具になってしまう。そうなったとき子どもの中には、人間としての自分たちの思いより演奏技術のほうが価値あるものとして写ってしまう。保育士がその保育の目的を見誤ることで子どもの中に間違った価値観を育ててしまうのである。
 制度改正や一般財源化、幼保一元化や次世代支援等保育園を取り巻く環境も慌ただしくなり、本来の子どもの育ちに必要な環境をともすると見失いがちになる。生活の状況が変わることで保育の方法も変わってくるのは当然だが、それを理由に大人の都合だけを優先させてしまえば、子どもは自分の価値を落とし、いずれ命そのものの価値も落としてしまう。
 既に少年犯罪の現状を見るにつけ、そのことは実証されていると言っていい。子どもたちはその特異な行動により私たち大人に警鐘を鳴らしている。それは特定の大人や親だけではなく人間そのものへの警鐘のようにも思える。
 乳幼児を預かる保育所は福祉施設ではあるが子どもの教育、育ちにも大きな責任を持っている。子育ての現場にいてその警鐘に気づいたものが、まずはその足元を確認し、応えていかなければならない。そのためにも本来子どもの育ちとはどうあるべきかを踏まえ、保育所が果たすべき役割や園長として保育士として守るべき事柄、つまりは倫理綱領を共通認識し文章化することで常に確認しておくことが重要である。そしてその倫理に基づいた保育をするために、保育の専門性に基づいた資質の向上に努めていかなければならないだろう。
(幸苗)
 
 
 
親同士の交流を楽しむ親子遊び
〜一・二歳児のための「よちよちクラブ」(2)〜
こどもの城 保育研究開発部 新田 久美
 
 子育て支援プログラムの「よちよちクラブ」は、親子がいろいろな遊びを楽しく体験することだけでなく、子育て中の親同士が談笑できる場を提供するというねらいが込められています。今、各地で「集いの広場」として乳幼児の親子を対象とした子育て支援のプログラムが活発化しています。その多くはふれあい遊びを中心に、手遊びやリズム遊び、親子の作り物、そして親の相談にのるなどのようです。「よちよちクラブ」も似たような内容ですが、親自身が子育ての力をつけるためのささやかな「親プログラム」を入れているのが特徴です。
 
「親のためのプログラム」を導入
 今家庭で子どもを育てている親が、周囲との関わりもなく孤立して育児にあたっている厳しい現状が、さまざまな形で取り上げられていますが、「よちよちクラブ」にも多様な親子が参加してきます。
 初めての子どもでより良い子育てを求めて参加してくる親もいますが、子育てに自信をなくしている親、育児に振り回され疲れている親、一日中子どもといることでストレスがたまっている親、兄姉がいるので二人だけの時間をとるために参加する親、また、とにかく誰かに話したいと切羽詰っている親など、さまざまな親に出会います。こうした親の現状を、子育て支援のプログラム実践者が改めて理解しないことにはプログラムは成り立たないことに気づき、親プログラムの模索を行っています。
 〔こどもの城〕の「よちよちクラブ」には地域性がありません。来館する一般の親子が誰でも気軽に立ち寄りプログラムを楽しんでくれればいいと思っています。時間も土曜日の午前と午後の各一時間としています。
 限られた時間の中で、親子遊びのプログラムを行いつつ〈親のためのプログラム〉をどのように組み込み、その内容をどうするかが課題でした。ヒントは、通常の保育の現場にたくさんありました。そのいくつかを紹介します。
【お父さん、お母さんが口ずさむ歌、心に残る歌】
 保育中に三歳の子どもが「うさぎ追いしかの山〜」と歌っていました。「Aちゃん上手ねー、誰が教えてくれたの」「お母さん!」。Aちゃんのお母さんは子どもと一緒に歌いたいと思うより、きっとリラックスした気分で家事をしながら何気なく口ずさんでいたのではないでしょうか。その姿をしっかり見て聞いていたのだと思います。この事例から「よちよちクラブ」の親のプログラムにも応用してみました。
 その日参加してきた十四〜十五組のお父さん、お母さんに、「カーペットに楽な姿勢で座わってください」と声をかけます。「今日は、よちよちクラブにようこそいらっしゃいました。短い時間ですがお子さんも、お父さんも、お母さんも楽しく過ごしていただければうれしく思います」とあいさつした後に、Aちゃんのエピソードを話します。ゆったりとほほえましく伝えることがコツで、たいていの親たちは興味深そうに聞いています。
 「皆さんも日頃思わず口ずさむ歌とか心に残る思い出の歌があるのではないでしょうか、今日はそんなお父さん、お母さんの口ずさむ歌、思い出の歌を出し合ってみませんか」と提案します。突然尋ねても困惑してしまうので、はじめはスタッフから見本を示すとスムーズにいくようです。例えば「私は、幼稚園の頃歌った思い出のアルバムの歌が好きで、いまだに何かあると口ずさみます。自分でも不思議なくらい歌っています」などと言って少し歌ってみます。こうすることで、座がぐっと柔らかになるのが感じられます。
 今までに親たちから出された歌は次のとおりです。
 『ありさんのおつかい』『小鳥はとってもうたが好き』『バナナの親子』『むすんでひらいて』『小さな世界』『おもちゃのチャチャチャ』『元気マン』『さんぽ』『ちゅうりっぷ』『どんぐりころころ』『海(うみはひろいな、おおきいな)』『アイアイ』――など。
 これらの歌は子どもと一緒に折に触れて歌っていることがうかがわれました。一方、親自身が口ずさむ歌で圧倒的に多かったのがシャンソンの『ケセラセラ』(ほとんどがこの部分のみ)でした。どの親も「あー、子育て中ってみんなそんな思いなんだなー」と共感したり、安心したりするようです。
 『おお牧場はみどり』を歌うと元気になれるというお父さんや自分の母親が『七つの子』を歌っていて、今でもこの歌には愛着があるとしんみり語るお父さんもいました。
 保育スタッフは「皆さんどれか歌ってみましょうか」と親たちからあがった歌のいくつかを歌ってみます。
【お父さん、お母さんが好きな絵本、読んであげたい絵本】
 絵本は子どもの想像力を広げたり深めたりする上で大切なものですが、親子のコミュニケーションをとるのにも盛んに使われます。夜、寝る前に必ず絵本を子どもに読むことを習慣にしている家庭も多いことでしょうが、特にお父さん、お母さんのひざの上に座り好きな絵本をよんでもらうのは、子どもだけではなく親にとっても心あたたまるひと時になります。
 「よちよちクラブ」の親プログラムで絵本を取り上げてみました。
 子どもの好きな絵本では『にじいろのさかな』『いないいないばー』『こぐまちゃんシリーズ』『うたのえほん(おかあさんと一緒にうたう)』『のりものシリーズ』『なにたべてきたの』『発色のきれいな絵本』『三匹のやぎのがらがらどん』『ぞうのババール』『100万回生きたねこ』等があがりました。
 お父さん、お母さんが好きな絵本、将来読んであげたい本は次のようなものでした。『手袋を買いに』『いやいやえん』『はじめてのおつかい』『ぐりとぐら』『ちいさいおうち』『こねこのピッチ』『ないたあかおに』『赤いろうそく』等などでした。
 「この場面が好きなんですよ」「母親に何度も読んでもらいました」と懐かしそうに話すお母さん。あるお父さんは「子どもが生まれたら、グリム童話を読んでやるのが夢だったんですよ」とうれしそうに話してくれました。
 絵本を話題にした雰囲気の中で親同士が「それはどんなお話ですか」「私も親に何度も読んでもらいました」などの会話がはじまっていきました。
【お父さん、お母さんの楽しい「言葉遊び」や「しりとり遊び」】
 四、五歳児が「しりとり遊び」をして笑いあっていたことをヒントに、大人の「言葉遊び」を行ってみました。それぞれに顔が見える位置に座り、「子どものころを思い出してことば遊びやしりとりあそびをしてみましょう、皆さんは大人ですからテーマを決めてしてみましょう」と提案します。
 ある日、〈子育て〉に関連する言葉を集めてみました。スタートはスタッフから「こそだて」とはっきり言います。そして順に回していきます。
 例えば――、ミルク、赤ん坊、うるさい、バギー、寝不足(母親)、夜泣き、手形、たいへん、おむつ、キッズ、すいどう、離乳食、いい子、こいのぼり、良妻賢母、ぼうし、仕事、トイレ――と続きます。多少言葉がおかしいと思っても、気にせず保育スタッフの判断でどんどん進めます。
 お父さん、お母さんに、思いつくままポンポンと言わせるのがポイントですが、まじめに考え過ぎる親が多いときもあり、進行するスタッフの機転がものをいう場合もあります。どうしても思い浮かばないときは、周りの助け舟を受けてもいいことにしています。夫婦で楽しめましたという母親、意外にむずかしいですねという父親、「普段は使わない脳を使った」といって皆を笑わせたお父さんもいて盛りあがったこともあります。初対面の親同士が話し始めるきっかけにもなりました。
 この他、「子どもが生まれてよかったこと、困ったこと」をテーマに親同士が話し合うこともあります。また、「親が作る新聞紙のかご」など、作り物をメインにすることもあります。いずれにしても親自身の発言や出番が、今のところ素直に受け入れられ楽しまれていると思っています。前回楽しかったから、また遊びにきましたというリピーターの親子もいることにプログラムの結果が現れています。
 
これからの子育て支援
 〔こどもの城〕の「よちよちクラブ」は、他の保育事業と平行して行っています。そのため保育の現場での子どもや親の姿からヒントを得て、プログラムに応用することがよくあります。
 親のためのプログラムも、日常行われている親の保育参加の姿を参考にしたり、イメージしたりしています。どんな子どもでもお父さん、お母さんが笑顔で話したり、遊んだりしている姿をみるのはうれしいものです。小さい子どもたちは、かたわらでおもちゃで遊びながらもしっかりと親を観察して自分の親を感じ取っています。
 親が生き生きとして子どもと共にいることを喜ぶためには、周囲の力が必要条件となってきました。児童福祉施設の保育所などにおいても、一人ひとりの子どもをていねいに保育するのみではなく、親をも視野にいれた保育が求められるようになりました。
 「よちよちクラブ」の親プログラムも保育スタッフは常に親に寄り添う気持ちで親と一緒に子どもの成長を見守り、そして親もこの時期を豊かに過ごして欲しいと願い、今後もプログラムの工夫を重ねていきたいと思っています。







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