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保育界(平成15年10月号)

 事業名 保育活動の推進
 団体名 日本保育協会 注目度注目度5


―報告―
保育所の機能を強化するために 保育問題検討委員会提言から
社会福祉法人 日本保育協会
 保育問題検討委員会では、平成十四年四月から平成十五年度五月まで七回にわたって委員会を開催し、「保育所の機能を強化するために」(平成五年七月二一日)の見直し作業を進め、新たに提言をまとめました。この提言は保育をめぐる現状認識と、九つの具体的な提言から構成されています。
 
序にかえて
 保育問題検討委員会では、初年度の平成十三年度は主に第三者評価事業、総合規制改革会議への提言など外部に向けての提言を中心に、二年目の平成十四年度は前保育問題検討委員会の提言、「保育所の機能を強化するために」(平成五年七月二一日)を検討し、新たにこの提言書を作成いたしました。
 前回の提言は、厚生省児童家庭局(当時)の私的諮問機関である「これからの保育所懇談会」の「今後の保育所のあり方について(提言)―これからの保育サービスの目指す方向―」(平成五年四月七日)や、厚生省母子福祉課(当時)の「保育問題検討会」の設置と「直接入所制の導入」「措置制度の堅持」の両論が併記された報告(平成六年一月十九日)など、保育制度改革が政府でも盛んに議論がされた時期にあって、政府に対して日本保育協会の意見をまとめ、あわせて保育制度への展望をまとめたたいへん意義のあるものでした。
 それから約十年が経過し、社会福祉基礎構造改革、児童福祉法の改正、そして現在の幼保一元化、地方一般財源化の議論など、保育をめぐる状況はめまぐるしく変化し続けています。ここで前回の提言を見直し、新しく日本保育協会としての方向性をまとめて会員各位に提示することは時代の要請である、との委員各位の共通した認識にたって丹念に議論をして参りました。とはいえ、与えられた時間の中では十分な議論に至らなかった部分もあります。これらについては次期委員会で引き続き議論が深まるよう、期待を込めて課題とさせていただきたく思います。異論をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、さらなる保育界の発展のためにも、ぜひ協会事務局まで文書にてお送りくださいますようお願いいたします。
 未だ保育をめぐる情勢が予断を許さないことはすでにご承知のことと思います。この提言書を一つの契機として、会員の皆様の議論が深まり、そうした現場の声が大きなひとつのうねりとなって、子どもをとりまく環境がさらに豊かになるよう期待いたします。
平成十五年六月二七日
日本保育協会保育問題検討会委員長
井 恒昭
 
1、保育所の現状と課題について
(1)現状についての認識
 ここ数年、日本経済の活性化と雇用対策の観点から、様々な分野で規制改革が論じられている。ことに保育の分野については、単に、供給側の理論だけの改革案が提起されていることに強い不安を覚える。物質的に豊かで便利なものが氾濫している現代社会とは裏腹に、個人の価値観を尊重しすぎた結果の自己中心的考え方の増加、また、人との関わりが希薄になった結果の地域社会の崩壊等、地域ぐるみで子どもを健全に育成すべき環境が悪化している。さらに、大人の忍耐力の不足や短絡的なものの考え方等、また、身勝手な欲求解消の矛先が子どもに向けられる児童虐待の増加は、将来の日本を担う子どもたちに暗い影を落としている。
 保育所は子どもにとっては生活の場であり、教育ということに関しても、数字や文字という概念だけでなく、子ども自身の望ましい発達を支援する場である。また保育所生活の中で、自分の人生を生き抜いていくための糧となる、様々な事柄を経験する生活教育の場でもある。幼稚園との関係性が取り沙汰されているが、保育所における養護と教育の部分をもっと地域にアピールしていく、そういう行動を通して地域の中での存在を明確にし、真に地域と共存し、保育所の存在意義の確立とさらなる機能強化をしていかなければならない。
 
(2)社会保障としての保育所
 地方分権の一環として保育所補助金の一般財源化が議論された。一般財源化は試算された経費が、子ども以外の使途に使われる可能性が高く、「子どもの最善の利益」が損なわれるばかりか、最低条件を含んだ基本的な部分が地域によって格差が生ずるので、憲法第二五条や児童福祉法に反するおそれがある。子育てに関わる基本的な事業、特に保育所のような社会保障(保育に欠ける)に関わる部分は確実に国が関与し、保障するということが、重要でかつ有効な基本的施策である。その上で、地方や地域にあった施策を地方で行うことにより保障を強くしていくということが大事であろう。これらを考えてみても保育施策というのが国の事業であるということを再確認すべきである。子育て支援事業としての保育所の基本的財源は、使途目的(保育に欠ける)をはっきりとさせたうえで国が確保する現在の仕組みが最善と考えられる。
 
(3)少子化対策としての保育所
 子育てに関わる経済的負担は大きく、何人も子どもを産める状態では決してない。平成十四年の合計特殊出生率は過去最低の一・三二となった。しかも出産したら仕事をやめるという生き方よりも、出産後もそのまま仕事を続けるか、育児休業を短期間とって仕事に復帰するというケースが多くなっている。
 現在の不況の中では、保育の供給がさらに需要を喚起している。ゆえに都市部においては超少子化にならない限り、待機児童が出現してくる。このまま少子化が進めば、年金や国家財政の破綻も含め、一〇〇年後は人口が現在の半分になり、高齢弱小国になるのである。認可保育所の整備とあわせて、短時間労働制の導入、父親の育児参加及び育児休業の義務化、税制の改革などの働き方を支援する施策も重要である。
 
(4)財源問題
 単純なバランスだけの問題ではないが、日本の社会保障費や税制は高齢者が優遇される仕組みになっている。子育て支援費用は年間約二兆七千億円であり、社会保障給付費全体の三・五%にしか過ぎない。高齢者医療の自己負担増など、少子高齢化社会に対応してきているといっても高齢者関係給付費の十分の一にも満たない。また、それぞれが国庫、雇用保険、児童手当など別々の財源からの支出であり効果的でない仕組みとなっている。
 国の財政が困難な状況にあっても、子育て施設の絶対的な必要性を考えると、そこに関わる財源の確保は必至である。子育てを全て施設でというベースに考えれば、今のままの国庫財源で進むには当然無理がある。少子化対策は男女共同参画社会の一環であると同時に、子育てが社会化していく現在、社会を連帯して支えるような仕組みを考えることが必要である。
 少子化対策を国の問題とし、待機児童問題を時限立法的に解決するとなれば、国家的に緊縮財政を目指している現在にあっても、国庫負担金に新しい財源を投入することが必要不可欠となる。
 
(5)公立保育所は社会福祉法人保育所に
 財政難にあえぐ地方自治体にとって、公立保育所にかかるコストは大きなものになっている。そうした市町村の財政状況により、公立保育所の環境整備は進まないのが現状である。社会福祉法人立保育所は非営利法人という特殊性はあるが、常にコストを真剣に考えて経営している。経営努力をして生まれた剰余金は、当然、職員処遇や子どもたちへ還元していく。
 極めて大胆な発想ではあるが、公設民営を推し進め、公立保育所を一手に社会福祉法人が引き受ける。そうすれば社会福祉法人は子どもたちのより良い生活の場を確保するためにあらゆる努力を惜しまないであろうし、その地域で必要なことを事業化する努力はするであろう。公立保育所と違い、独自性・即応性が発揮できるのは社会福祉法人の強みでもある。待機児童解消のための企業参入、供給増のための規制緩和も数字の上で行うことは可能かもしれないが、それ以前にまず改革すべき公立保育所問題がある。社会福祉法人の保育所として機能強化するためにも、現在の資源をいかに有効に機能活用させていくか、また、その期待に応えられるだけの資質をもった保育所にならなければ、今後の認可保育所の存在意義はいつになっても明確にならず、改革論議はいつまでも続くのではなかろうか。
 
(6)食の重要性を考える〜調理室の必要性
 食事は子どもが人間性を形成する上で大きな鍵を握るものである。まずは楽しいあたたかな雰囲気の中で、栄養と一緒に愛情を感じながら食事を取ることが基本である。加えて「感謝の気持ち」を育むという教育的な要素もある。「いただきます」の言葉の中には、自分以外の生命体の命をいただくことへの感謝やそれを育む人、流通する人、食卓に上るために手を加えてくれる人たちへの感謝が含まれており、いいかえれば実に多くの命と人の手のおかげで自分が生きていること、みんなで力をあわせて社会を作っていることを実感することになる。
 保育所は子どもにとって最初の社会生活の場であると同時に、もうひとつの家庭でもあり、そこでの給食やおやつは保護者が調理をして子どもたちに与えていた形を代替することが望ましい。まして現在の家庭生活では朝食、夕食を家族で一緒に食べることが困難になってきており、それに伴って保育所での食事は重要性を増してきている。また、乳児の離乳食やアレルギーの除去食、長時間保育での食事における栄養バランスなど、保育所ならではのきめ細かい対応も行われている。子どもの健やかな成長発達には食事への配慮が重要であり、保育所における調理室は不可欠の要素である。
 
2、現行保育制度への提言
提言1 子育て支援施設として〜認可保育所によるネットワークの構築
 平成七年度から行われている地域子育て支援センター事業は、それ以降の児童福祉法改正や保育所保育指針の改正により、地域の子育て支援としての機能を全認可保育所が果たすようになった。しかし現実は、子育て支援センター事業を行う保育所と行わない保育所では歴然とした差(普通の保育所においては入所者の保育で手一杯という感覚があると同時に、センター事業の費用も要因)がある。しかしそれではこれからの子育て施設としての意義(入所者への最善の利益と地域の子育て支援)に反するし、特に地域の子育てのコーディネーター的な役割を果たすことが認可保育所の重要な鍵と同時に必須条件になろう。現在の子育て支援センター事業を解消する必要はないが、それとは別に(又は併合して)全ての認可保育所が地域に対して(全ての家庭に対して)何らかの子育て支援(いくつかのメニューを用意しても良いし、自主性に任せても良いと思う)を行うことを義務付けるべきである。それを地域でネットワーク化し、情報提供することは、認可保育所が地域社会に責任を果たすことになる。早急な全認可保育所の子育て支援の整備とネットワーク化を提案したい。
 
提言2 待機児童解消〜乳児保育所(小規模園)と分園の充実など
 現実的には、縮小予算の中で待機児童問題を全面解消するのは難しい面がある。だが、都道府県・政令指定都市・中核市八九地域の中で一千人を超える待機児童を抱えているのは八地域、五〇〇人から一千人の間は六地域である。一般的に待機児童問題を考えると全国を一律に考えた施策と待機児童の多い地域(たとえば上記の十四地域)への集中的な施策が必要である。次の三点を時限立法的に進めることにより解消をすべきであろう。
 
○全国的に考えた場合
 待機児童を全国的に考えた場合、中途からの受け入れが出来なくなることが多い。その大半はゼロ・一・二歳児と思われる。このことを考えると乳児保育所等の小規模園の増設をすることの必要性があると思われる。
○待機児童の多い地域
 施設数と子どもの数がミスマッチしていることを考えれば、認可保育所を増大することが望ましいが、現実的には難しい。それらを考えると学校の空き教室・公民館などの徹底的なリサーチをして早急に分園システムを導入すべきであろう。現状として分園整備費を増大し、分園による定員変更などによる運営上の問題をクリアし対処すべきである。
 
○地域による入所人数の制限撤廃
 地域によっては自治体の財源に応じて入所枠を制限していることが多い。ある意味では定員問題と関連してくるが、定員枠を超えた部分の補助金の自治体分をカットして施設としての最大限を活用することを考えるべきである。
 
提言3 週五日を通常保育とする考え方
(1)土曜日保育は別体系で
 土曜日保育は厳密にいうと保育料の観点から、保育に欠けなくても預けられるという矛盾がある。逆に「保育に欠けない」を理由に、土曜日は休みを前提にする保育所もある。この現状から一歩進むには、現在の保育料を前提にして保育に欠けなくても保育所に登園出来るようにするか、保育料を現在の六分の五に削減して土曜日を特別保育事業扱いとする二つの方法がある。日本保育協会では以前より週五日制を提案している。平成十四年度より義務教育が週五日制になり、社会の考え方は週休二日制へ移行している。ただし、特定業種(例えば理容院など)など、月曜から金曜までの間に休みがある場合に土曜日を利用した場合、その土曜日だけは保育料を平日と同額にする必要がある。よって単純に休日扱いにすることが正しいかどうかの一部是正は必要であろう。戦後は一人あたりの労働時間四八時間の設定で保育所運営をしてきたが、労働時間が四〇時間になった今、短時間保育士の導入だけでは対応できない部分も多々ある(週六六時間保育を保育士のローティーション四〇時間制では相当な無理がある)。これらを鑑みても保育所の週五日制を早期に導入すべきである。よって週五日×十一時間=五五時間を公費の責任と考えるべきである。
(2)保育所週五日制保育で十一時間開所に
 現在の公費山型投入での十一時間保育(月―土 十一時間×六日=六六時間制度)は、あらゆる子どもの時間帯をカバーしていることもあって効果をあげている。最低基準にある一日の保育時間は八時間を原則というのは、今どきの就労形態には殆どあてはまらない。現在は保育所開所時間十一時間が最低基準の八時間を超えて標準の保育時間になっている。このことから十一時間×六日分=六六時間分保育料を支払っていると考える保護者が多くなっており、朝早くから遅くまで保育してもらえる感覚でいる。開所促進事業等で対応してきたところだが、これらを考えると公費は山型ではなく完全四角形に投入しなければならない。しかし原則の保育時間八時間分だけを公費投入して、他時間を利用料で対応するのには現時点では無理である。土曜日を別枠にした保育所の週五日制であれば、現状の十一時間を開所時間とするのが無難である。ただし、保育所の週五日制を実施しない場合でも、公費で充当する時間は週の保育時間五五時間を基本とする。そうすれば現在の六日で割れば単純に一日の保育時間は九時間一〇分(例えば八時―十七時一〇分)を各保育所で想定して他の時間は利用料で補うことが望ましい。そうした場合には運営委託費も六分の五となる。
 
提言4 特別保育事業について
 特別保育については、利用者との契約による利用料と補助金スタイルが妥当だろう。ただし補助金の度合いの無料に近いものや高いもの選別が必要である。障害児は相当高い補助金(低所得者も同じ)が必要だし、一般的な子育て支援は利用者にとって無料が望ましい。
 
提言5 規制緩和と公費の捉え方
 保育所は地域の様々なニーズに応え多様な保育サービスを拡大させている。また、地域への子育て支援ということにも様々な形で積極的に活動しているのが現状である。しかし様々な保育ニーズに対して、より充実したサービスを行うためには、現状の運営委託費の使途制限のさらなる規制緩和が求められる。現行、本来利用料である保育料も公費の一部と捉えられて支出されていることに関しては、将来的に直接契約の可能性があるとすれば、公費と利用料というものの分離を検討すべきではないだろうか。あくまで、二分の一が保育料という基本的な考え方であるならば、それは利用料として捉え、家計に考慮するのであれば、その減免措置も施設での代理受領の考え方で行い、利用料は利用料たる扱いにすることも必要になろう。
 
提言6 幼保一元化はあり得ない
 幼保一元化については現状ではあり得ない話である。保育所保育内容の科学的な実証を通して、子どもの生活にとっての保育所と幼稚園の違いを鮮明にする必要がある。
 ただ、現実には園庭の共有が認められているなど、施設建物部分などの利用方法についてはこれからも検討が必要であろう。また過疎地における公立幼稚園などの存続が難しい場合などは、その地域に存在する保育所へ統合するなどの時限立法的な措置は必要になってきている。
 
提言7 市町村法的関与の必要性という問題
 保育は地方自治の仕事である。今後、国・県・市町村の関与のあり方が焦点となるが、国・県の公費支出とともに自治体は保育所入所審査を担当し、苦情を受けつけ、情報提供機関を持ち、保育料を決定することで保育業務を遂行していく。このように考えると自治体が行う保育業務がある程度整理されることになる。ただし、バウチャーにより保護者に直接に給付されるということは、市町村の関与が希薄になるなど問題が多いので絶対避けるべきである。前述したが、保育に欠けるということが根拠になって公費が投入されている点は遵守すべきである。そこで問題は保育に欠ける意味の時代的変遷にどう対応するか。例えば、専業主婦世帯の育児不安による児童虐待の増加が指摘されている昨今、こうした方々が有効に保育所を利用できる仕組みをあわせて考える必要がある。
 
提言8 保育士の処遇の改善
 保育士の社会的立場については国家資格となったことで、その責務が明らかになり、身分保障がされた。しかしそれだけでは不十分で、さらに保育士の処遇の向上を図る必要がある。まずは給与の改善である。社会的に未成熟な子どもと直接かかわる保育士には、その人間性を含めて真に有能な人材が必要である。昨今、公立保育園の非効率性がその人件費の高さから様々な調査等で指摘されている。その個々の金額はさておき、民間だから安上がりなのではなく、保育士がその仕事に誇りを持てるような給与は公私立問わず必要なのである。このコストは社会的な必要経費であり、保育、あるいは子育ての価値を社会が認識したことの表れでもある。
 保育士の処遇の向上と専門性の向上は不可分であり、一刻も早く保育士の系統だった現任訓練体系の整備が望まれる。これは国庫補助研修を主催する日本保育協会が主導となって検討すべきであると考える。加えて、法定化によって保育士個人の社会的責任が増大することは必定であるので、業務上の不安を取り除き、安心して働ける環境を創る方策の検討も必要である。
 保育士の業務が、親をも含めた支援などの機能の拡大や高い専門性が要求されている現状を考えると、現在二年の保育士養成校のあり方についても、三年制、四年制移行、インターン制導入などを視野に入れた養成課程の改革を、私たち保育現場の立場から提案することも検討に値する。この四点がそろってこそ初めて保育士が国家資格となった意義が達成される。
 
提言9 最低基準を適正基準に
 現在定められている最低基準は、五〇年前に制定されたままの基準であるため、実際の保育にそぐわない点が多数存在する。保育士の労働時間や人的な配置、物的な環境などからみた場合、最低基準は文字通り最低限度の保育を実施するためのものであり、保育所が子どもの健全な成長発達の保障や親への子育ての啓蒙活動、地域の子育て支援センター、延長保育、一時保育など多様な親のニーズに応えていくためにも、基準の是正による適正基準の設定と移行が不可欠といえる。
 具体的には、一歳児の基準は現行の六対一から三対一への是正が必要であり、三歳児以上おいても適正な基準が求められている。例えば、四、五歳児の三〇対一の基準は、三〇人学級を推し進めている学校教育の流れなどからも、整合性を取っていく必要があるのではないか。人間性の形成や知的能力の基礎は、小学校低学年までに培われるといっても過言ではない。したがって人生の中で大切な時期である乳幼児期にかかわる保育所および保育士の役割と責任は非常に大きく、人的にも物的にも最低基準の見直しが早急に必要である。
 
まとめにかえて〜
 認可保育所は機能していないのか
 現在言われている多大な経費をかけているにもかかわらず、認可保育所が機能していないという議論は、いったい認可保育所をどう位置付けているのであろうか。確かに、数字の上ではアンバランスがあるのかもしれない。しかし、子どもの数が減っているにもかかわらず認可保育所への入所児童は年々増加し、今や保育所は二〇〇万人以上の子どもの保育をしている実績も上がっているのである。保育士の国家資格化と同時に保育士の定義も明確になり、その責務も益々重大になる。また、保育所の機能も、児童福祉法改正と同時に、地域への子育て支援活動と保護者に対する育児の助言指導も明確になり、益々存在意義が高まっている。認可保育所に対する一方的な機能不全論だけでなく、かつては少子化への対応を推進する国民会議や、昨今では少子化対策プラスワンで論議されているように、その時々の経済情勢がどうであれ、日本全体で子どもの育成について親の働き方の問題も含めて知恵を出し、それぞれが役割を果たし、責任を負うようにする。そして未来に向けて、しっかりとした子育てビジョンを構築することが、今、そしてこれから最も大切なのではないかと考える。
 
 
 
過ぎたるは及ばざるがごとし
 人間は、自分の脳の能力のほんの一部しか使っていない――と言われると、もう少し脳を使うようにすれば、もっと賢くなるに違いないと思ってしまう。とは言っても、今までの二倍も使うようにするのは無理のような気もするので、少しぐらいならがんばって使う量を増やしてみようか、ぐらいは考えたくなる。
 さらに考えてみる。もっと脳の力を活用してみようとは言っても、長年にわたって一部しか使ってこなかったのだから、過ぎたるは及ばざるがごとしで、一部しか使わないことのほうが正常ではないのかとも考える。どっちなんだろう?
 人体については未知のことがたくさんある。脳についても、今は使っていないと思われている部分も、研究が進むと実はほかの役割を担っていることが分かってくるかもしれない。なにはともあれ、自分に都合がいいように勝手に解釈することにして、無理をしないようにしている。
 多くの機械に「アソビ」というのがある。自動車のブレーキペダルにしても、ペダルを踏んでからブレーキが作動するまで、若干の時間差がある。ペダルに触れると同時に作動すればよさそうなものだが、数センチメートル踏み込まないと、ブレーキが作動しないようになっている。この「アソビ」がないと、ブレーキ踏むたびに急ブレーキのような状態になり、ペダルから足を離すたびに急発進することになる。
 「アソビ」というのは、スムーズな作動と危険防止のための仕組みで、あらゆる機械に想定されている。自動車のような機械は、正確無比に機械的(つまり非人間的)にスイッチを入れれば即座に作動するように思われがちだが、必ず「アソビ」という、一種の猶予がある。しかも、それが非常に大切。
 人間の脳もその能力のごく一部しか使っていないのも、「アソビ」と同じような意味があるのではなかろうか。あまりにもキッチリと使っていると、なにかの拍子にパンクしてしまう。それを防ぐために、「アソビ」が十分にとってあるのではないか。無理して脳の働きを高めることはない。ふつうに使っていればいいのである。
 最近の殺伐とした世情をみていると、IT技術の進歩、情報化、能力主義等々で、脳の「アソビ」の部分までも使い切って、みんながパンクしかけているのではないかと思えてしょうがない。一人ひとりにゆとりがなくなっているように思える。ちょっと肩がふれあった、というだけで暴力をふるったりする。ものの考え方もジコチュー(自己中心)になって、他人への思いやりや気配りができない人が増えてきている。
 これらは、目の前のことを処理するのが精一杯で、その行為が周囲へ及ぼす影響や結果について、考えを及ばせることができないからではないか。つまり、脳の受容処理能力を超えてしまっているのではないか、と思うのである。アソビの部分まで使い切ってしまって、なにかをしようとすると、急ブレーキ、急ハンドルになってしまうのである。
 二十年、三十年前に比べると、私たちの回りにははるかに多くの刺激(知識として持っていなければならないことなど)がある。パソコンの入力にふつうに使っているキーボードのタイピングも、以前は算盤などと同じような「特殊」な能力とされていた。今思うと不思議なのだが、確か高校のときにタイプライター部というのがあって、正確に素早くきれいにタイプを打つ練習をしていた。
 私たちの生活は、時代とともに変わってきた。機械等の進歩で労力を使わなくてもすむようになった反面、新しくIT関連のものを扱わなければならなくなった。一方では負担が減り、一方では負担が増えている。プラスマイナスすると、楽になったのか、辛くなったのかよく分からない。肉体的に楽になったのは確かだが、精神的には負担が増えたようなきがしてならない。どっちがいいのだろう。
(えびす)







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