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シリーズ・保育研究(16)
次世代育成支援対策から見えてくるもの
 現在、様々な形態で子どもの保育や子育て支援が行われ、社会の保育ニーズの高まりにより保育所の役割も多面的になり、当然、現場の保育士はそれに応ずるべく果たす役割も重要になった。そのような流れの中で保育士のより一層の専門性が求められ、「保育の質」そのものが問われるようになった。ゆえに保育園経営者側は、社会の保育ニーズに応ずる上で、実際対応している保育士のレベルアップが必然的な課題になるであろう。そのために保育の質の確保のための点検、自己評価、情報開示が求められ、ついては第三者評価の実施、または自ら国際基準とされるISOを取得する動きも出てきている。
 
養成校では
 養成校も変わりつつある。昨年度以来、保育士の養成カリキュラムの見直しが行われ、各校の教科に独自性が見られるようになってきた。これを機に短大から四年制大学になるところ、短大・養成校で専攻科を設けるところも出てきた。
 教科においては、(1)現代の学生の弱点とも言われるコミュニケーション技術を高める教科―実習を重視したフィールドワーク、カウンセリング技術、対人援助技術の習得 (2)保育実習の延長(3)保育現場と養成校のギャップを埋めるために保育現場からの講師による授業 (4)卒業と同時に認定心理士など種々な資格の習得などがある。保育園側としては保育士の資質向上や即戦力に繋がってくれれば大歓迎である。
 しかし、少子化の中で今後、養成校が経営面から目先の学生獲得に必死になっていくようであれば、学ぶべき学生の質、勉学への向上心や学生の保育への情熱の低下が懸念される。つまり、これから各学校がどのようにして学力レベルを維持し、質を担保していくかが課題となるであろう。養成校からは、社会の一般常識がしっかり身についている質の高い保育士を現場に送り続けて欲しいものである。
 
研修プログラム
 このように今や保育園においては、保育の資質向上が急務であり、そのためには職員個別の能力向上プログラム作成する必要がある。保育現場は職員の公平性から順番に参加している現状であるが、目的に沿った研修の積み上げとは違っているようである。個々の保育士の特性を引き出すために、計画性を持った研修も必要である。そして、その研修を効果的に進める方法として、次のようなことが考えられる。
(1)個々の保育士の過去の研修記録を整理し、研修内容を分類化する。例えば、
社会性:一般常識、保育士としての心得、コミュニケーション能力研修など
指導力:リーダーシップ研修など
保育:乳児、幼児、特別援助(障害児保育、アレルギー、SIDS等)など
子育て支援:家庭や地域の子育て支援に関する研修など
マネジメント:危機管理、苦情解決、第三者評価研修など
 分類化することでトータル的な各分野のバランスを見ることができ、研修の偏りも防ぐことができる。こうして職員個々のデータ(研修カルテ)を集約して、園全体の研修実施状況のバランスも表すこともできる。
(2)研修記録(個人研修カルテ)があれば、保育士個人の研修計画や園全体の研修計画が立てやすい。
(3)研修の種類、内容の選択方法、研修方法(園内研修、研修会参加等)の分別、研修効果の評価方法、研修の報告方法などをシステム化する。
(4)個人研修カルテにより、保育士生涯の研修記録と実績として整理する。
 
次世代育成支援対策から考える保育園の方向と課題
 地域や家庭における様々な子育て支援の推進が、今後更に求められている中で、認可保育園の待機児童解消対策から認証保育所や認定保育室など様々な形態の保育資源が出現している。郡市部では、自治体が減少しない待機児童の解消に躍起になっている。また目の前の対策に追われ、実際には将来的な保育行政の展望が考えられているのか心配である。認可保育園として今後を考えたとき、いつまでこの待機児童対策は続くのか、先が見えにくい。
 何故か想像してしまうことだが、少子化が更に進み、待機児童が解消された後、近い将来、定員割れが発生し、経営困難に陥る事態のことである。絶対避けたいことであるが、現在の保育園が行っている事業は、施設内の子どもの保育、一時保育、育児相談などである。社会の変化を踏まえ、今後は現在の事業継続のみでは経営が成り立つのか懸念するところである。
 将来に向かって新たな機能を開発し、主体的に事業経営をしていく方向を考えざるを得ないところである。発表された次世代育成支援対策の中から、今後の保育園の事業方向が見つけられるような気がする。その基本理念の「保護者が子育てについての第一義的な責任を有する」という認識、そして「子育てをしているすべての家庭のために」、「すべて働きながら子どもを育てている人のために」、「次世代を育む親となるために」という基本施策は、より一層踏み込んだ家庭支援の推進と地域など、様々な場所との密接なネットワーク作りへの取り組みが予想される。
 高齢者介護の分野では介護保険の導入により、施設介護から在宅介護、居住型サービス(グループホーム・ケアハウス等)へと移行している。そして、ネットワークを活用しながら、種々サービスを利用できるプランニングをしているケアマネージャーの仕事も軌道に乗り始めている。今や資質向上が課題となっている。
 保育園としても遅れをとることなく、積極的にネットワーク作りを提案し、地域における子育て支援の中核となる役割を果たすべきである。現在の子育て支援も施設の保育に併せてすべての家庭の保育を視野に、地域や家庭に出向く形の支援も期待されている。次世代育成支援の中で「子育て支援総合コーディネーター」の設置を示されているが、役割として、利用者への情報提供、利用援助等の支援としているが、将来的には高齢者のケアマネージャー的役割に近い存在を期待したい。
 これから保育園による家庭支援の可能性は次のように考えられる。
(1)コーディネーターは、子育て支援センターなどを実施している保育園の経験豊富な主任クラスの保育士がまず主体的になるべきである。
(2)現在の子育て支援が、保育園内・集会所・公共機関等に来てもらっての実施だけでなく、家庭から出にくい保護者の支援も範疇に入れるべきである。ついては、保育士等が訪問保育をし、個々の家庭にあった育児ノウハウを伝え、サポートするシステムの構築である。
(3)育児能力が低下しつつある家庭はコーディネーターなどが育児支援のプログラミングをし、保育士や子育てサポーターなど必要な人材や機関を最大限活用してサポートする。
 
 今後、サポートする側の保育士やその他の担当者が地域の子育て支援を、より高度に行うには地域の家庭を直接的に支援するための対人援助技術研修や、家庭における育児ノウハウを伝授するための手法技術研修、カウンセリング技術研修、事業に関わってくる基本的な法律理解の研修などが必要不可欠となってくると思われる。
 より質の高い子育て支援を目指すには、支援担当者の定期的な研修や子育て支援能力向上プログラムを開発して、効果を上げるシステムが必要になってくる。平成十七年度から次世代育成支援対策推進法が施行される中で、本年度と次年度の二年間が行動計画策定期間と想定できる。関係機関等に最大限可能とされる子育て支援策をプログラミングして、保育園から提案することが重要となってくる。
(人材部会 田口)
 
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「活動記録」に記された子どもたちの姿
〜小・中学生の保育体験ボランティア(2)〜
こどもの城 保育研究開発部 山田 道子
 今年の夏休みも終わりに近づいたころ、スタッフルームに一本の電話がかかってきました。「あのう、そちらで子どもにボランティアをさせてくれるということですが、手続きはどのようにしたらいいのでしょうか」と中学生の子をもつ母親からでした。
 聞けば知人から聞いて自分の子どもにもぜひボランティア体験させたいという内容でした。あいにく、〔こどもの城〕の小・中学生保育体験ボランティアの受け入れは終了していたので、その旨を伝えるとその母親はがっかりしたようすでした。例年夏休み前に親(特に母親)からの熱心な問い合わせがあるのですが、今年は夏の間中このような問い合わせがあり、親の関心の高さを感じさせられました。
 今年の夏休み期間の保育体験ボランティアのプログラム(実施日数三十四日)には男女合わせて延べ五十人の小中学生が参加しました。幼児と小中学生がふれあい、交流することをねらいとしているこのプログラムは参加の回数も小中学生自身が決めます。今回も部活や塾通いのため、たった一日だけの子どもも何人かいましたが、おおかたの子どもは二〜三日、多い子でも五日間の保育体験をしました。梅雨寒が長く続くような今年の夏でしたが、小中学生たちは緊張しながらも一生懸命に子どもたちと一緒に生活と遊びを共にしてくれました。
 
保育のなかでふれあいを体験
 実際にどんな様子だったかを小中学生の活動記録から拾ってみます。
【二歳児との遊び】
 ままごと、しゃぼんだま、楽器をたたく、パペット人形、絵本、おめん作り、水遊び、折り紙、粘土、スライム、砂場遊びなど。
【三〜五歳児との遊び】
 一緒に走ったり歩いたり、紙を丸めてのチャンバラ、積み木、ブロック、電車遊び、折り紙、ぬりえ、ドミノ、粘土、スライム、紙ヒコウキ飛ばし、リボン作り、パズル、ままごと、オセロ、こま作り、ベランダでトマトを摘む、かくれんぼ、ドッジボール、サッカー、セーラームーンごっこ、プールなど。
 小中学生にとってはかつての遊びを、〈見守る側〉に立って経験しました。小中学生たちには、貴重な体験。いろいろな感想を活動記録に残しています。
 
「みんな、ならんで、ならんで。でかけるよ」
 
【おもしろかったこと、うれしかったこと】
 小さい子が一緒に遊ぼうと誘ってくれた/みんなと仲良く遊べた/先生と呼ばれてびっくりした/小さい子の反応がおもしろかった/絵本をもう一回読んでといわれてうれしかった/おねえちゃんではなく名前を呼んでくれて(感激/わらびもちを作って一緒に食べた/人気者になって子どもまみれになった/作ったものを私に見せに来てくれた/小さい子と私の考えの違いがおもしろかった/去年来たときの子が大きくなっていてびっくり/イス取りゲームがおもしろかった――など。
【困ったこと、気になったこと】
 小さい子のゴニョゴニョ言葉はわからなかった/急にママーといって泣き出した子がいたが、ママパワーはすごいと思った/いくら言ってもかたずけに協力しない子がいた/難しい言葉なのにあっそれ知っているーという子がいた/小さい子はみんな素直だった/小さい子に叩かれてこまった/洋服に噛みついた子がいて驚いた/ひとりの子にずっとくっつかれて少し困った/背中に子どもが乗って下敷きになり苦しかった/食べこぼしが床に落ちていて気になった/目の前でけんかがあって小さい子でも恐かった――など。
 
小中学生の動きにも配慮
 保育者の側からみた小中学生の印象もさまざま。日ごろ、二〜五歳の幼児を保育している保育者にとっても、小中学生の姿から学ぶことも多かったようです。
【保育者側から見た小中学生の姿】
 どの小中学生も最初は緊張気味だったが自分の役割を自覚していた/小さい子ども達に優しく声を掛けてリードする場面や、積極的に配膳などの手伝いをする子がいた/サッカーを一緒にやろうよと子どもに誘われてうれしそうな中学一年生/このおもちゃは私が小さかった時にもあったよ、といいながら遊んでいた/自分なりの遊び方をていねいに伝えていた/同じクラスに二〜三回参加すると慣れてくるようだ/子どもにせがまれておんぶや抱っこを何度もしてあげる小学五年生/パンツをはかせたり、靴下をはかせたりすることがうまくできずにとまどっている子に保育者がやり方をさりげなく教えた/給食の量が多いのか、苦手なものだったのかあまり食べなかったので残してもいいよというと安心した顔になった――など。
【保育者として気になったこと】
 初めて保育体験をする小中学生の中には懐かしい気持ちと同時に自分の話も保育者に聞いてほしかったり、受け止めてほしかったりする子がいた/ほとんど話さない子どももいてもう少し声がでるとよかった/子どもとの会話がなく傍で遊びを見るだけになった小中学生も/何をしたらいいのか分からず手持ちぶさたになるとその場に座りこむ小学五年生/午後、疲れたのか寝そべったり、椅子に足を掛けて座わる子もいたのでやんわりと注意をした/小さい子どもに何度も軽くかみつかれ、イヤといっても分かってもらえなかったようだ/保育者がレールと電車で小さい子どもと遊んでみたらと声を掛けるとやっと遊びだす状態の小学六年生もいた――など。
 このように、小中学生の活動記録からは戸惑いながらもなんとか二〜五歳児の集団の中に入り、その子なりに小さい子どもと全身で付き合おうと苦労している様子がうかがえました。
 その日の保育体験ボランティアが終わると「どうだった」と保育者が小中学生に感想を聞きますが、「小さい子とかかわるのは大変だが、とてもおもしろかった」とどの子どもも言います。一方、保育者側の活動記録には、幼児とかかわる楽しさ、おもしろさを味わわせたいという思いから保育を進めながらも、たえず小中学生の動きには注目し配慮していたことが記されています。
 今年の保育体験ボランティアの特徴と思われることもいくつかあります。例年、小中学生の中には親に促されて渋々参加しているという感じの子がいます(実際参加すると楽しくなる)が、今回はそんな雰囲気の子どもは見当たりませんでした。
 むしろ、保育者といつまでも話していたかったり、自分の幼児時代の写真や作品を持参して保育者に見せて回ったり、なかなか家に帰りたがらなかったりなど、一種の甘えのような行動をとる子どもが目につきました。また携帯電話で親との連絡が頻繁な子どもがこれまで以上に目につき、家庭での小中学生の置かれているさまざまな状況が保育者側にもかいま伝わってきました。
 
互いに「育ちあう」ことに意義
 厚生労働省を中心に新たな少子化対策として次世代育成支援の施策が出され、出生から青少年まで年齢に応じたきめ細かな施策が盛り込まれました。また、文部科学省でも来年度から三年計画で小中学生の「居場所」作りに取り組むことになったと発表しました。放課後や週末の学校を開放して、例えば「地域子ども教室」としてスポーツや文化活動をボランティアが子どもに指導するということと、地域の子どもたちがいつでも立ち寄れる場にしていくというものです。
 いずれも、子どもたちを地域で育てる・教育する環境を生み出すことが目的と考えられます。したがって、地域にある児童福祉施設(保育所、児童館等)や、教育施設(幼稚園、学校等)が果たす役割が大きくなることが予測されます。
 小中学生のときから、保育(子育て)を体験することは、次世代育成のうえからも意義があるのではないでしょうか。今どきの小中学生と話しをしてみると兄弟も少なく、地域での遊び経験もなく、学校と塾と習い事、家ではテレビゲームという子どもが驚くほど多いことが分かります。そうした彼らに「保育」をイメージさせることは無理があり難しいことですが、周囲の大人や、親が一緒になって環境を整えることが必要な時代になっているとつくづく実感させられます。
 〔こどもの城〕の保育研究開発部のささやかな小中学生の保育体験ボランティアの実践からも、幼児と小中学生が互いに育ち合う効果は明らかです。まだまだ保育者の効果的なフォローの仕方など、検討を加えなければならないことはありますが、保育の子どもと小中学生の出会いはそれぞれが「人」としての存在を認め合い、豊かに育ち合うことに大きな意味があり、今後も継続していきたいプログラムです。







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