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――社会保障審議会児童部会――
「児童虐待防止等に関する専門調査会」報告書について(2)
(3)児童相談所の行政権限、裁判所の関与
【取り組みの方向性】
○立入調査 立入調査については、立入を拒否された場合の打開策がないという課題認識を前提としつつ、要件を設定しうるのか、誰が執行するのか、現実的に対処できるかといった問題点等を踏まえ、有効な手だてについて、引き続き、検討が必要である。
〇一時保護
 一時保護制度が緊急性がある場合に発動する行政権限であることを踏まえ、人権に十分配慮して、現行制度の運用を図ることとし、制度運営に対する司法関与については、引き続き、検討が必要である。
○保護者の意に反する施設入所等の措置(児童福祉法第二八条措置)
 現行制度上、無期限措置となっている家庭裁判所の承認に基づく保護者の意に反する施設入所等の措置については、人権保障の観点からの手続きの適正化という観点や、保護者が将来の見通しを持てることで家庭復帰に向けた指導を効果的に行い易いという観点から、家庭裁判所の承認に基づく施設入所等の措置は期限付きのもの(期限付きの承認)とし、必要に応じ、再審査をするなどの仕組みの導入に向け、内容や要件などを検討することが必要である。
 また、子どもの安全・安定等を確保する観点から、児童福祉法第二八条措置にかかる審判前の保全処分ができるような仕組みの導入に向け、保全処分の内容や要件などを検討することが必要である。
○保護者への指導
 保護者に対する指導のあり方については、親子がともに生活していくことを目指す以上、現行制度の効果的な活用はもとより、司法が関与することによって、保護者指導の動機付けや実効性を高めるための仕組みの導入は、重要な課題。
 このため、司法の枠組みに適するように制度を設計することを前提に、制度導入を検討することが必要である。
○親権喪失
 十八歳以上の夫成年者の親の親権喪失について、児童相談所長による申立を認めることが適当である。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
・立入調査に関し、鍵を壊してでも確認する緊急性が認められる場合は、警察官職務執行法で対応が可能な場合がある。同法による対応が想定されない場合に、果たして裁判所が命令を出せるかについてはプライバシー保護との関係で疑問もあることから、慎重な検討が必要である。
・親子が一緒に住める権利を奪うこととなる一時保護処分を、行政機関の判断のみで行うことは、「子どもの権利条約」に反し、人権の観点から、不当に長い間分離している場合は、親の意見が反映される仕組みが必要である。
・一時保護処分について、司法が事前に審査することになれば、一時保護の緊急性が損なわれる可能性がある。
・施設入所等の措置解除(退所、家庭復帰)に関して、一定のシステムをつくることは、保護者に対するケア、子どもに対するケアの充実につながる。
・児童福祉法第二八条の家庭裁判所の承認に基づく施設入所等の措置(以下、二八条措置という。)については、入所段階で親権と子どもの福祉を比較考量して承認している以上、一定期間後に再度、親子分離の必要性を判断することが必要である。また、再度審査があることが、保護者の改善への動機付けとなり得る。
・二八条措置については、期限付きのものとするとともに、保護者の努力目標が示されることが効果的である。
・二八条措置の期限をどの程度とするか、再審査の要件をどのようにするかについては、実例の分析等を踏まえて検討する必要がある。
・二八条措置の期限については、一律ではなく、ケースごとに家庭裁判所が判断することが望ましい。
・二八条措置の期限については、ある程度の年限で、一律としないと裁判所の承認にかかる要件の設定が困難である。
・一時保護を行っているケースにおいても、親による強制引き取りなどの行動によって、保護の安定性が確保できない実態がある。
・二八条措置にかかる審判前の保全処分については、二八条措置の状態を仮に承認するような内容とするのか、多様な内容とするのか、慎重な検討が必要である。
・児童相談所としては再審査時や審判前の保全処分に関する資料を裁判所に速やかに提出する必要があるとともに、保護者に対するプログラムを充実させる必要がある。
・保護者指導については、児童相談所において、知事勧告という現行制度を視野に入れた運用がなされているか、現行制度を十分使い切っているかどうかなど効果を見極めることが必要である。
・裁判所が審判の理由中で親に対してカウンセリングの受講を求めることで、改善につながることが多いという実例もある。また、二八条措置の承認を認めた場合、保護者の態度は消極的ではあっても、同意するようになるといった調査もある。このように、保護者指導にかかる司法的関与は有効である。しかしながら、全ての困難ケースに二八条措置を適用することは不可能である。
・保護者指導にかかる司法的関与を検討するに当たっては、行政の勧告権限に対して司法が関与する類似の立法例が見あたらないことから、司法審査にふさわしい枠組みはどのようなものがあり得るのかを検討する必要がある。
・二八条措置の承認前の保全処分や期限付き承認を行うことで、実質的には、親権の一部一時停止につながる。
・児童相談所長による親権喪失の申立は十八歳未満の児童の親についてしか認められていない。また、十八歳以上の未成年者の親の親権喪失について、親族からの申立は可能であるが、親族が拒否する場合も多い。したがって、本人の申立権や児童相談所長による申立権を認めることが必要である。
・児童相談所長による申立を認める場合には、子ども本人の意思が尊重、配慮される仕組みとすることが必要である。
・施設入所中の児童の監護、教育、懲戒について、施設長がとる措置の範囲が不明確である。二八条措置の場合、面会、通信の制限は規定されたが、それ以外、特に、医療行為については不明確である。
【今後の課題】
・長期にわたって子どもと外部との接触が断たれている時など安全確認の必要性は高いが、緊急性が明らかでない場合などに、令状を発布してまで立ち入るということについては、どの程度の必要性があるか、介入すべき要件、介入するための人権保障(適正手続き)など、十分な吟味が必要である。
・一時保護処分や二八条措置に対し、行政不服審査に加え、運営適正化委員会や地方児童福祉審議会など既存制度の活用を含め、親が申立を行い、意見が反映されるような仕組みの整備について検討が必要である。
・一時保護制度に対する司法関与の是非については、その要件や有効性などの問題点を含め、引き続き検討が必要である。
・親権や面会、通信の制限のあり方については、親権の範囲や一時停止と制限の差異などに関する解釈が未整理であることなどから、条件の厳密化と併せての整理が必要であり、現行制度の中での工夫、親権規定の見直しを含め、さらに検討が必要である。
・子どもの医療ネグレクトヘの対応については、医療拒否の実態把握とともに、現行制度の運用などについてさらに検討することが必要である。
・性的虐待を受けた子どもについては、審判プロセスが子どもに与える影響が大きいため、司法手続上の慎重な配慮について運用上の工夫が必要である。
・児童相談所と保護者の間のトラブル、混乱を緩和し、話し合いができる仕組みとして、緩衝的機能と支援機能を発揮できるような保護者に対する代理人制度の構築を検討することが必要である。
・未成年後見人について、個人後見だけではなく、公的な機関や法人による後見も認められるような制度の検討も必要である。
III、保護・支援等における取り組み
 児童虐待防止対策の目標は、虐待を受けた子どもが安全で安心できる生活を保障するにとどまらず、適切なケアや治療を提供することによって、子どもの心身の健全な発達と自立を促し、さらには親への適切な指導・支援を通じた家族再統合や家族の養育機能の再生・強化にある。
 そのためには、分離保護の場合も在宅支援の場合も可能な限り、家族の再統合や家族の養育機能の再生・強化が望ましいとの基本的な考えの下、虐待を受けた子どものみならず、虐待を行った親に対する治療や指導の充実など「家族」への支援という視点に立ち、十分なアセスメントと家族再統合や家族の養育機能の再生・強化に向けた精度の高いプログラムの開発が必要である。
 また、親子の分離(保護)を行った場合であっても、可能な限り家庭的な生活環境を保障するとともに、必要に応じ、適切な治療や、自立を促していくための支援を充実していくことが必要である。
 なお、子どもの自立や家族再統合・家族の養育機能の再生・強化に向けた取り組みは、幅広い関係機関の連携による長期にわたる支援が必要であり、関係職員の資質の向上やネットワークの強化が必要である。
(1)児童福祉施設、里親等の機能、システム
【取り組みの方向性】
 子どもの社会的自立に向け、安全で安心した生活環境を保障するとともに、個々の状況に応じてきめ細やかなケアと治療を可能とする規模の小さな施設や里親制度の充実、自立援助ホームの充実等について検討していくことが必要である。併せて、それらに対応した支援体制の確保を図っていくことも必要である。
 親子分離や家族再統合などを進める場合に、親と子が置かれている状況を客観的に判断するアセスメント(評価・判断)指標の開発や、アセスメント指標に基づく的確な支援の仕組みの整備、養育サービスの質を維持するための客観的評価を確立し、親子を適切に支援していくことが必要である。
 なお、児童福祉施設の体系や里親のあり方などについては、児童部会に新たに設置された「社会的養護のあり方に関する専門委員会」において、当専門委員会が指摘した諸点を十分に踏まえ、さらに検討を深めることが必要である。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
・できる限り、個々の状況に応じた支援を行っていくため、施設の小規模化や里親制度の充実を基本にしながら、そのあり方を考えていくことが必要である。
・小規模施設の整備に当たっては、施設を小規模化する誘導策や里親型の小規模施設の運営の促進など多様な手法を検討することが必要である。
・虐待を受けた子どもの多くは、安全な「生活」はもとより、精神面における治療的な支援が必要であり、生活と治療の両側面の充実が必要である。
・子どもに最適の社会的養護を提供するために、子どものニーズを測る的確なアセスメントが必要である。
・児童家庭支援センターを核にした児童福祉施設による地域支援のあり方などについて検討が必要である。
・ケアの連続性の観点などから、乳児院と児童養護施設の関係についての検討が必要である。
・施設の満杯状態への早急な対応が必要である。なお、施設のあり方を考えるに当たっては、虐待を受けた子どもの入所や通所が少なからず存在している障害児施設における対応についても念頭に置く必要がある。
・家庭復帰できない十八、十九歳の子どもが自立していくためのプログラム及びその支援体制については、自立援助ホームの整備・充実や年齢延長といった生活拠点の確保や就労支援なども視野に入れ、検討していくことが必要である。
・子どもの自立年齢は上昇していることを踏まえ、社会生活の中で個別に対応する仕組みを、NPOなどの活用も視野に入れた検討が必要である。
・里親が普及しない根本的な原因を究明し、その対策を講ずることが必要である。
・レスパイト・ケア(里親の一時的な休息のための援助)やケアワーク(養育支援)を含め、施設が里親を支援するなど里親に対する抜本的なバックアップ体制の強化が必要である。
・里親・施設・児童相談所が一体となった柔軟な取り組みが必要である。
・施設内での職員や他の子どもからの虐待や暴力が発生した場合に的確に対応できる体制や、これらの発生を防止する体制づくりが必要である。
・施設で暮らす子どもの権利を擁護する仕組みをより実効性のあるものとすることが必要である。
・施設への第三者評価(外部評価)を促進するため、施設等の客観的な評価を進める評価者の養成が必要である。また、情報公開も進めていくことが必要である。
・二八条措置にあっては、その期間を定めることも有用であると考えられる。
【今後の課題】
・子どものケア内容に応じた措置費体系の見直しや児童福祉施設最低基準の改善について検討が必要である。
・虐待を受けた子どもへのケアと治療を目的とした施設として、地域の施設の中核となる拠点を定め、そこを中心として地域全体の関係機関が連携して虐待を受けた子どもを支えていくということをモデル的に検討することが必要である。
(2)児童福祉施設職員、里親等の資質向上、資格要件、人材確保、メンタルヘルス
【取り組みの方向性】
 虐待を受けた子どもやその保護者をケアしていくには、専門的なトレーニングを受けた職員が必要となる。
 そのため、実習を充実させた研修などによって、施設で子どもの生活・治療にかかわる職員の養成、資質と専門性の確保とともに、関係機関施設職員の意識などの向上を図ることが必要である。
 また、資質・専門性の確保に加えて、担当職員数の一層の拡充についても、「社会的養護のあり方に関する専門委員会」での議論を踏まえて検討することが必要である。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
・児童福祉施設にケア担当職員の増員が必要である。
・虐待を受けた子どもの養育や援助に意欲や関心のある里親をトレーニングするとともに、里親がいつでも相談に行ける体制が必要である。
・子どものケアに関わる研修プログラムを開発して、ケアワーカーを養成することが必要である。
・スーパーバイザーの養成、配置とともに、職員等のメンタルヘルスのための相談体制の確保が必要である。
(3)在宅支援の強化
【取り組みの方向性】
 虐待の進行防止、家庭復帰後の支援のために民間も含めて市町村の在宅支援機能を充実するとともに、市町村レベルでの子育て支援のさらなる充実・展開が必要である。
 また、地域で虐待を受けた子ども(及び保護者)の自立に向けた長期的な支援を行うという観点からは、見守り役としての市町村の役割は重要となる。
 ただし、市町村の取り組みに当たっては、児童相談所の支援・協力は不可欠であり、重篤なケース等については、児童相談所が、支援の過程を管理することを含めて関わりが必要である。
 なお、その際は、家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指した支援を行う観点から、虐待を受けた子どものみならず、親を含めた「家族」への支援のあり方を援助方針のなかに含み込むことが必要である。
 また、児童虐待防止対策においては、福祉、医療、保健はもとより警察、教育、司法、さらにはNPO等民間団体や地域住民等の広範な関係者が基本的認識をひとつにした上で、組織的に対応していくことが必要である。
 その一つの手法として多くの関係機関からなる市町村ネットワークの整備が重要であるが、ネットワークが有効に機能し、虐待を受けた子どもが自立に至るまで、継続的に関わり、その時々に適宜適切な支援が行えるためには、その運営の中核となる、市町村の果たすべき役割を明確にするとともに強化することが必要である。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
・通所型の支援では限界があり、支援意欲をもった専門家による継続的な訪問型の支援が重要である。
・NPOが親グループ活動などに対して市町村と連携して運営して効果を挙げている例もあり、積極的な連携を図ることが必要である。
・市町村などと連携し、施設のノウハウを活用した在宅支援を行うため、児童家庭支援センターの整備促進やファミリーソーシャルワーカーの配置などの体制整備が必要である。
・学校の教員を対象にした研修の充実にあっては、子どもの指導にかかわるプログラム作成も必要である。
・市町村の役割強化とそのための人材養成、研修システムが必要である。
・地域での見守り体制は、多様な機関による連続性が求められることから、これらを的確にコーディネートする者(機関)を育てることが必要である。
【今後の課題】
・虐待の予防に向けては、関係機関・施設のみならず、地域社会がこうした問題を理解し、支えることも必要である。例えば、子育て中の親を孤立化させない、虐待を受けて施設に入所している子どもを学校等で他の保護者や子どもが正しい知識と理解を持って受け入れるなどが求められる。こうした地域社会を形成するためのプログラムの検討と実施が必要である。
(4)子どもに対する治療・援助法の確立(福祉・医療・保健機関等)
【取り組みの方向性】
 虐待を受けた子どものケアや、治療に関する知識や技術の一層の開発・普及、また、そのあり方を明らかにするアセスメント方法の一層の研究、開発・普及が必要である。特に、性的虐待を受けた子どもに関する治療やケアは特別な注意が必要である。
 また、子どもの養育に関する情報の共有化や、専門性の維持のために必要な情報を適宜活用できる仕組みを整備することが必要である。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
 ・今までの研究をベースにして、治療やケアに結びつくアセスメントのガイドラインをつくっていくべきである。なお、アセスメントは、子ども、家族、地域資源など、多角的・重層的に行われることが重要であり、それに基づき、総合的な支援計画を立て、一定期間後に見直すことが必要である。
・情報を集積した情報センター(子どもの虹情報研修センター)を活用することも有用である。
・施設内での記録を画一化するなどの手法により、セキュリティに十分な配慮をしつつ、情報を共有化することが必要である。
【今後の課題】
・虐待を受けた子どもの処遇やその後のケアに関するアセスメントについては、その方法・技術の開発・普及だけではなく、望ましいアセスメント実施のための体制の確立に向けた検討が必要である。この検討の中では、児童相談所の一時保護所と児童福祉施設のアセスメントに係る役割分担も検討されるべきである。
・子ども・親への適切な支援を始め、ケア評価をするためのアセスメントの研究、開発及びアセスメント機関の機能的整備、アセスメントセンターの創設を検討することが必要である。
・性的虐待を受けた子どもへは、他の虐待とは異なるケアが要求される。保護した直後の関わり方から重要であり、よりきめ細やかな対応を確立していくことが必要であり、新たな施設体系を検討する際に考慮すべき課題の一つである。
(5)保護者に対する治療・指導法の確立(福祉・医療・保健機関等)
【取り組みの方向性】
 家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指した支援を行う観点から、虐待を受けた子どものみならず、親も含めた「家族」に対する支援という考え方が重要である。
 すでにいくつかの関係機関によって実施されている保護者に対する治療・指導プログラムを充実、発展させ、普及を進めるとともに、家族再統合に向けたプログラム開発についても研究を進めることが必要である。
 なお、保護者に対する指導のあり方については、II(3)「児童相談所の行政権限、裁判所の関与」の欄を参照。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
・虐待を行った保護者で、治療意欲が乏しく、対人関係が取りにくい者も少なからずいることから、そうした者に対する支援の在り方も検討することが必要である。この場合、専門家による継続的なねばり強い支援をしなければ対応は困難であり、効果は期待できない。そのため、関係機関職員に対する養成・研修の拡充と併せて、訪問型在宅支援の強化が必要である。
【今後の課題】
・家族再統合に向けたケアワーク(養育支援)、治療、ソーシャルワーク機能をもった治療システムの確立が必要である。
・家族再統合プログラムの開発・研究が必要である。
・子どもと親のライフサイクルに応じた治療・生活モデルの構築が必要である。
・ソーシャルワーク、心理、医療などを結合させ、単一ではない支援のメニューが必要である。
(6)医療機関の機能、システム
【取り組みの方向性】
 虐待を受けた子どもは複雑なトラウマを抱えており、精神医学的な介入が必要な子どもが多い。このため、こうした子どもに的確に対応できる医療環境の整備が必要である。
 虐待を受けた経験のある、あるいは精神疾患を抱えている保護者に対しては、地域の医療機関による一層の専門的な支援が必要である。
 また、その他の医療関係者に対する教育・研修の充実を図るとともに、小児科医と精神科医の連携強化を図ることが重要である。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
・虐待を受けた子どもの入院加療中の人権を保障していくためには、教育の保障や保育士によるケアなど生活を保障する福祉と治療する医療・看護と合体するシステムを整備することが必要である。
・小児科医と精神科医との連携強化を図ることが必要である。
・地域に児童精神科の専門医が少ない現状および低年齢児への対応の必要性を踏まえ、小児科医の研修等が必要である。
・治療のための医療関係者の人材養成及び医療対応システムの開発が必要である。
・虐待をしてしまう保護者の心の問題は、これまで一般の精神科医が十分には対応してこなかった問題である。さらなる知見の集積と治療技術の向上のための研究とそれに基づいた卒後研修が必要である。
・虐待のケースヘの係わりは、非常に多くの時間を費やさなければならず、この点を考慮にいれ、医療機関の対応を促す対策が必要である。
【今後の課題】
・医療対応システムに関する研究に取り組むことが必要である。
・都道府県レベルでの拠点医療機関の設置を検討することが必要である。
・児童(小児)精神科医の充実を図ることが必要である。
IV、その他(全体を通じた指摘事項等)
【取り組みの方向性】
 発生予防、早期発見・早期対応から保護・支援に至る各段階において、市町村の役割強化、民間機関も含めた関係機関の連携によるきめ細かな取り組みが重要である。
 また、児童虐待防止対策に関する継続的な検討の場の確保や制度の運用状況を踏まえた法律の定期的な見直しが求められる。
【具体的な取り組みに関する意見・提案】
・児童虐待防止法に子どもの人権尊重の理念を盛り込むことが必要である。
・児童虐待の定義(範囲)について、きょうだいなど保護者以外からの性的虐待を加えることや、目の前で親が暴力(DV)を受けている姿を見せられることも加えることを検討することが必要である。
・児童虐待防止法に、予防や援助、ケアについても規定すべきである。
・関係機関を幅広く法律上に明記することが必要である。
・制度の検討に当たっては、国による家庭への過剰な介入への配慮が必要である。
・児童虐待への対応を向上させるためには、児童虐待に関する総合的データベースづくりを行い、それを基に的確な分析を行って、科学的根拠に基づいた対策をとることが必要である。さらに、データだけではなく、総合的・統合的に検討して、継続的にプランニングする機関も必要である。
・国において援助、ケアについても骨格や指針を示すべきである。
・虐待の予防と対応について、全体的なシステムのあり方の検討を継続的に実施していくことが必要である。
【今後の課題】
・「虐待」という用語については、その言葉の印象が重すぎることから、「虐待」という言葉を用いることの適否や定義のあり方についても議論することが必要である。
 
4、さいごに
 以上、児童虐待防止制度の見直しについての取り組みの方向性を整理してきたが、取り組み全体を貫く考え方を集約すれば、おおむね以下の四点にまとめられるものと考える。
I、発生予防から虐待を受けた子どもの自立に至るまでの切れ目ない支援
 児童虐待防止対策の目標は、虐待という重大な権利侵害から子どもを守り、子どもが心身ともに健全に成長し、ひいては社会的自立に至るまでを支援することにある。
 早期発見・対応のみならず、発生予防から虐待を受けた子どもの自立に至るまでの各段階において、こうした「子どもの権利擁護」という理念に立脚した多様な関係機関による切れ目のない支援体制が必要である。
II、「待ちの支援」から要支援家庭への「積極的なアプローチによる支援」
 児童虐待の特性(家庭(地域)内で発生、虐待と認めない親が多いなど)にかんがみ、その解決に向け、親の権利や個人のプライバシーには最大限配慮しつつも、幅広い関係機関が、積極的に親・子にアプローチする形での新たな支援のあり方が必要である。
III、家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指した子どものみならず親を含めた家庭への支援
 家庭的な暖かい養育環境での生活が子どもの健全育成には望ましいとの基本認識のもと、家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指す方向で、子どもに対する支援はもとより親(含む里親)も含めた家族への支援という視点が必要である。
 また、それが困難な場合であっても、できる限りそれに準じた生活環境を確保することが必要である。
IV、虐待防止ネットワークの形成など市町村における取り組みの強化
 児童虐待問題の解決に当たっては、地域、特に市町村における取り組みを強化することが必要である。なお、その際には、都道府県(児童相談所、保健所等)との協力関係の確保に特段の配慮が必要である。
 児童虐待防止制度の見直しについては、本報告書において指摘した点を踏まえつつ、さらに議論を深めるとともに、その実現に向けた早急な取り組みを期待する。







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