日本財団 図書館


――子どもの健康を考える(8)――
生活リズムを大切に
全国保育園保健師看護師連絡会 内田富喜子
 「夜も眠らない大都会」という言葉がありますが、今や都会に限ったことではなく、日本の現代社会を象徴する言葉のようです。この夜型社会の影響を受け、子どもの生活習慣の乱れがさまざまな問題を惹き起こしています。
 夜型の生活は、睡眠不足を招きます。そのことが、子どもの情緒不安定や疲労蓄積の誘因となり、心身の健全な成長発達に悪影響を及ぼしてきています。
 保育園の子どもたちの中にも、朝からあくびをしている、活気がなくボーとしている、機嫌が悪い、食欲がないなど、元気に遊べない子が目立ってきています。
 二〇〇二年七月、埼玉県保育園保健職連絡会で県内の保育園児一歳・三歳・五歳児を対象に「日常生活習慣に関するアンケート調査」を実施しました。その中で、
(1)十時以降に就寝する割合について
 調査対象年齢の三五%〜五〇%の子どもが十時以降に就寝しています。三歳・五歳児では、半数の子が十時以降に就寝しています。また、一歳児の三分の一強、三人に一人が十時以降に就寝しています。
(2)七時までに起床する割合について
 調査対象年齢の六〇%〜七五%の子どもが七時までに起床し、二五%〜四〇%の子どもは七時以降に起床しています。
(3)起床時の状態について
 a 自分で起きた五六%、b 起こされて起きた三六%、c 無理に起こした八%でした。bとcを合わせると四四%になります。
(4)朝食について
 a よく食べた十三%、b 普通に食べた五八%、c あまり食べない二七%、d 食べない二%でした。cとdを合わせると二九%になります。
 この結果から、十時以降の就寝は、三歳・五歳児で五割、一歳児で三割強であることが読み取れ、子どもの生活が夜型傾向にあり、これが低年齢から始まっていることが伺えます。また、約三割の子が七時以降の起床で、七時までに起床した子でも、四割強の子は起こされて起きており、全体の約三割の子は朝食をほとんど食べずに登園していることになります。
 この調査からも、社会の夜型化は、子どもの生活リズムに大きな影響を与えていると考えられます。
 乳幼児期において規則正しい生活リズムを確立することは、健康な体と心をつくり、将来の健全な社会生活の基盤となるのです。
 そこで、保育園の子どもの現状から、どのような配慮が必要か考えてみたいと思います。
 
朝の健康観察
 保育園の朝は、さまざまな表情で登園してくる親子の受け入れから始まります。子どもは、その時々の体や心の状態をほとんどありのままに表現してくれます。
 「おはよう」とはずんだ声で挨拶してくれる子は安心ですが、生気のない顔つきの子や親にまとわりついて離れない子などは要注意です。
 この朝の健康観察は、その日の子どもの体調を見きわめ、保育に活かす上で大切なポイントになります。少しでも気になることがある場合は、(1)昨日から今朝までの様子を聞く、例えば、夜の睡眠の状態、今朝の食事の様子、園に来るまでの様子など。(2)今日の親の居場所、連絡先を確認すること。(3)働きに行く親への配慮をすることが重要です。「いってらっしゃい」の言葉に添えた配慮ある声がけは、気になる我が子をおいて行く親を安心させ、励まし、「頑張るぞ」という働く意欲につながると考えられます。
 
午前の活動
 それぞれの保育園によって違いはあると思いますが、午前の保育が始まる前に、朝の健康観察などで得た情報を活かし、保育者間でミーティングを行ないます。その日の保育内容や連絡事項、体調の優れない子への対応などを確認し、事務所、給食室、各クラスと連携をとりながら保育を進めていきます。
 乳児の睡眠不足や空腹への対応は、おんぶや抱っこ、ベビーカーなどでの仮眠をとることや午前のおやつによる調整でフォローすることができます。しかし、幼児への対応は、各園で違うと思いますが、ある程度は保育士の質問に答えられる年齢であることから、(1)原因について確認すること。(2)自分はどうしたいのか。(3)今後どうすることが大切かなど、子どもの目線に立って聞いてみることから対応策がみえてくることもあります。また、別室(事務所等)での仮眠後の集団保育への導入は、保育の一環として仲間意識を育てることを考慮し、数人の子どもに迎えにいってもらうなどの方法もあります。
 睡眠不足や空腹への対応は、午前中のケアがその後の活動の決め手となるので重要です。
 
給食時の配慮
 食欲には個人差があり、その日のメニューにも左右されますが、睡眠不足による食欲不振の場合は、(1)少な目か、または自分が食べられるだけよそう。(2)午後からの活動源であることを伝える。(3)まずのど越しのよい水分から取るなど工夫する。(4)用意した分はなるべく食べ切るように励ますことが大切です。また、無理に食べさせることはしないで、水分補給を優先にします。
 空腹の場合も一回の量は少な目にし、急に沢山食べると胃がビックリすることを伝え、慌てずゆっくり噛んで食べるよう声をかけ、食べ切ったらおかわりするよう勧めます。
 楽しい雰囲気の中でみんなと一緒に食べることは、心のやすらぎとなり、何よりの栄養であり、力になるのです。保育者はそのことを十分理解し配慮しなければなりません。
 
午睡時の配慮
 必要な睡眠の量、長さには個人差がありますが、午後三時過ぎまで眠らせていては夜の睡眠に影響しますので、三時までに起こすようにします。睡眠不足の子は、給食の頃から眠くなり始め、午睡でぐっすり眠り、午後からはすっきり元気に活動しているケースが多いようです。しかし、夜の睡眠を補っているわけではありません。
 
乳幼児期の睡眠は大切
 (1)成長ホルモンは、眠りに入って一〜二時間(熟睡している時)の頃が分泌のピークで、一日の分泌量の大部分がその時間帯に分泌されます。子どもの骨や筋肉の成長を助け、傷ついたり、汚れたりした体の細胞を修復します。(2)睡眠のパターンは、夢を見ながら体の点検をし、疲労回復をはかり、日中の活動のエネルギーを蓄えるレム睡眠と、ぐっすり眠って脳の休息をするノンレム睡眠があり、脳の成長に大切です。(3)明るいと出なくなってしまうメラトニンというホルモンがあります。このホルモンは、性的刺激ホルモンをコントロールし、抗酸化作用で老化を防止し、心身の働きをコントロールする自律神経の調整をします。それは夜に分泌され、しかも一生の中で幼児期に一番多く分泌されるといわれています。昔から「寝る子は育つ」といわれるように、子どもの成長や脳の発育には睡眠が不可欠なのです。
 以上のようなことを保育園では、個別に口頭や連絡帳で連絡を取り合い対応したり、また園だよりや保健だよりでも特集を組んで掲載したり、入園時オリエンテーションや保護者会など、折にふれ生活リズムの大切さを伝えています。
 
子どもの生活実態の背景には
 日々の保育の中で、睡眠不足の子を見るといつも同じ子であったり、また一週間を見ると月曜日に多いことに気づきます。この背景には、大人優先の夜型生活が一般的となり、生活観が変わってきたことにあると思います。夜遅く、コンビニエンスストアーやファミリーレストランなどで子連れの姿を見かけることも珍しくありません。今では、夜帰りの遅い父親に合わせて家族団らんという家庭もけっこうあります。また、せめて土・日曜日は子どもと一緒にということで、遊園地や動物園、ミニ旅行と出掛けることが多くなってきています。そのような中で、共働きで残業があり、子どもの迎えが閉園ギリギリになる場合や祖父母の迎え、二重保育を余儀なくされている家庭も増えてきているのが現状です。
 この生活スタイルが子どもの健全な成長発達に良いわけがありません。子どもたちが睡眠時間をたっぷりとり、早起きをして、朝の陽を浴び、しっかり朝食を食べ、日中元気に遊べる環境を保障するために、保育園の果たす役割は大きいのです。保育者は、そのことを十分理解して、地域も含めた子育て支援の求めていることは何かを明確にし、援助していくことが大切だと考えます。
 
 
 
東京都児童福祉審議会の提言から
 「利用者本位」をキーワードに福祉改革を推進している東京都は、その先駆的な取り組みとして認証保育所制度を打ち出した。認証保育所は、利用者が事業者との直接契約し、多様な事業者が参入することによる競い合いを通じてサービス向上を目指す仕組みとしている。実際、利用者ニーズに応え、ニーズの高い低年齢児保育を担うなど、一定の役割を果たしている。こうした認証保育所の取り組みを評価し、その特性を認可保育所にも広げるよう、このほど中間まとめを公表した都児童福祉審議会は提言した。
 その背景としては、厳しい財政状況の中で、認可保育所での保育サービスの提供だけではなく、幅広い子育て支援にも対応する必要が生じていることや、都の加算補助を受けながらも十分に利用者ニーズに対応しているとは言いがたい認可保育所制度の問題がある。保育制度を子育て支援サービスの一つに位置づけて、子育て支援システムの全体構図を描いた、「次世代育成支援のあり方についての研究会」報告に通じる問題意識がうかがえる。今回は、この中間まとめとともに、最近の認証保育所の現状を紹介する。
 東京都児童福祉審議会(委員長=網野武博・上智大学教授)は八月一日、「都市型保育サービスヘの転換と福祉改革―選択・競い合いによる利用者本位のサービス推進に向けて―」と題した中間まとめをとりまとめた。
 中間まとめでは、まず、子育ての現状を分析。「経済的な支援や養育困難家庭への支援に重きを置いた『措置的な性格を持つ福祉的サービス』から、誰もが利用する、普遍的な社会サービスとして一般化した」と、保育サービスの性格が変化したことを指摘。在宅で子育てをしている家庭でも、一時保育や幼稚園預かり保育のニーズが高まっていることを挙げて、「『保育に欠ける』という観点からだけではなく、子育て支援サービス全体としての観点から考えていくことが必要」としている。
 その上で、利用者本位の保育サービス提供に向けた基本的な考え方として、(1)子育て支援サービスの充実(2)保育サービスの基本的あり方(3)保育サービスの供給増に向けた改革(4)保育サービスの質の向上(5)子どものための保育環境の確保(6)地域に開かれた子育て支援サービスとしての機能――の六点を提起。子育て支援サービスの充実としては、都の児童福祉予算の半分を保育サービスが占めている点を指摘し、「現在の子育て支援施策は依然として『保育に欠ける』児童に対する保育サービスの施策に偏っている」と問題視。在宅で育てられている子どもを含めて、「すべての子育て家庭を視野に入れて子育て支援サービス全体を充実させていくよう施策の転換」を求めている。
 また、保育サービス供給増に向けた改革としては、現在の保育制度の大きな問題点として、都民の生活スタイルが都市型化し保育ニーズが変化しているにもかかわらず、「供給システムが依然旧来のまま」である点を指摘。利用者の多様なニーズに応えて保育サービス供給量を拡大するために、民間事業者参入の必要性を訴えている。
 さらに、保育サービスの質の向上という点では、「多様な事業者の参入により保育サービスの供給を拡大するとともに、利用者と事業者との直接契約制度を取り入れ」、利用者の選択肢を拡大するよう求めている。
 地域に開かれた子育て支援サービスとしての機能の充実としては、ファミリーソーシャルワークの役割を提言。保育所の豊富な人材を活用し、孤立した子育てや育児疲れなどの悩みを抱える家庭への子育て支援に取り組むほか、関係機関と連携して虐待や養育困難家庭に対してファミリーソーシャルワークの支援を行なう役割も求めている。
 この基本的考えを踏まえ、保育サービス提供施設の改革について言及。まず現状の認可保育所が、(1)都市型保育ニーズヘ十分に対応できていない(特に公立保育所の立ち遅れ)(2)「保育に欠ける」認定要件に基づく入所方式が、利用者に不公平感・不透明感を与えている(3)社会福祉法人と株式会社などとの事業者間の競争条件が違う――といった問題があることを指摘している。
 一方、認証保育所については、(1)ゼロ歳児保育や十三時間開所を義務付け、「保育に欠ける」要件を外し、直接契約にするなど利用者本位のサービスとしている(2)平成十五年七月現在の認証保育所定員約四千七百人のうち八割以上を低年齢児とするなど、保育ニーズに応えている(3)運営費コストが認可保育所と比べて半分以下となっている――と評価している。
 そこで、認可保育所についても利用者のニーズに柔軟に対応した多様なサービスメニューやサービス事業者としての意識改革を求めるとともに、多様な事業者の参入促進を指摘。その際、「事業者間の対等な競争条件を整えられるよう現行システムにおける補助金制度、税制面等の見直しが必要」と、国にその改革を働きかけていくよう要請している。
 また、認証保育所については、「認可保育所が十分に対応していない都市型保育サービスを提供し、利用者のニーズに応えるという役割を果たしてきている」と評価し、認証保育所制度そのものを「国に認知させてく具体的な道筋を明らかにすべき」としている。
 中間まとめでは、子育て支援施策の充実に向けた財源配分のあり方についても言及。現状の認可保育所が、(1)国基準の運営費に加えて、都や市区町村からの加算補助が行なわれているにもかかわらず、公立保育所における延長保育、ゼロ歳児保育等の実施率が低い(2)企業立認可所保育所は加算がなくとも経営努力と工夫によって公立・社会福祉法人立と遜色のない保育をしている――などと指摘している。
 認可保育所の保育料についても、ほとんどの市区町村で国の保育料徴収基準額より低い保育料を設定し、平成十三年度実績では、一人当たりの月額平均で、国基準保育料の四七%しか負担していないことを明らかにしている。
 それらを踏まえ、今後の方向として「子育てに携わっているより多くの人々が公平に支援を受けられる」仕組みを求め、「都が行っている認可保育所への運営費加算補助は、本来利用者サービスの向上のために行われてきたものであるが、財政負担が大きい割には、都民ニーズに十分に応えられるものとなっていない」と指摘している。企業立保育所や認証保育所が国基準で「加算を受けている保育所と遜色ないサービスを実施している」ことを挙げ、見直しを要請している。さらに、利用者負担についても、子育て家庭間の受益と負担の公平性を配慮し、見直すよう提言している。
 都の役割としては、「認証保育所で取り組んできた大都市の保育ニーズに対応する仕組みを認可保育所に広げていく道筋を明らかにしなければならない」と指摘。それと同時に、「増大する保育ニーズ、子育て支援ニーズに応えていくという観点から、供給と利用のしくみや都独自の補助制度(都加算)のあり方を見直しながら保育サービスや在宅の子育て支援の拡充に取り組むべき」と提起している。さらに、(1)幼稚園教育との連携(2)認証保育所の法制度化(3)バウチャー制度等の利用者負担のあり方――などを今後の検討課題として挙げている。
 この中間まとめで、大都市東京の保育ニーズに対応した保育サービスと評価されている認証保育所は、実際、着実に増えている。平成十五年八月一日で、総数は百六十七か所となった。このうち、駅前ビルなど利便性の高い場所に設置し、株式会社や学校法人などが運営できるA型(駅前基本型)は百か所を超えた。このほか、従来の地域保育室をレベルアップし、定員三十人未満で三歳未満児対象、設置主体を個人に限定したB型(家庭的・小規模型)がある。
 A型の中には、認証保育所制度が創設されたことをきっかけに、新たに保育事業に参入してきた株式会社も多い。施設数の増加につれて、複数の認証保育所を設置・運営する株式会社も出てきた。事業意欲の高い民間事業者が、都の制度をうまく利用していると言えそうだ。
 昨年十一月には、認証保育所の設置者らが、お互いに情報交換し合い、認証保育所制度を定着させようと、東京都認証保育所協会(会長=宇田川貴子・仲よし保育園長)を設立した。発足早々同協会は、認証保育所を設立した際の問題点などを会員にアンケート調査。(1)B型の受け入れ児童年齢区分をA型と同じにしてほしい(A型はゼロ歳〜就学前までの乳幼児が対象。B型は三歳未満児が対象)(2)B型にも開設経費の補助を出して欲しい(A型で、駅から徒歩五分以内の場所に設置される場合に事業費六千万円を上限に半額の施設整備費補助が出る)(3)A型では幼稚園教諭も有資格者として認めて欲しい(4)認可外保育施設での経験も施設長の資格要件にカウントして欲しい(5)自治体への補助金の請求等、手続き・書式等バラバラなので統一してほしい――といった要望が出てきたという。これらの声を踏まえ、都に対して制度面の改善についての要望も行った。また七月には、認証保育所経営者を対象にした研修会を実施するなど、経営強化にも励んでいる。
 一方、認証保育所は、認可保育所と並び東京都の福祉サービス第三者評価事業の対象ともなっている。評価事業を管理している東京都福祉サービス評価推進機構は、インターネットを活用した福祉情報総合ネットワーク(とうきょう福祉ナビゲーション)を構築しているが、この中で評価結果を公表している。このホームページでは、平成十四年度の第三者評価を受けた五か所の認証保育所の評価結果が公表されている。既に、認可保育所と同等の扱いとなっている。 (山田)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION