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☆ほいくの両極☆(72)
〈夏休み番外編〉
太田象
軽井沢のお店
 長い休暇の度に軽井沢に立ち寄ることにしている。
 働き始める前から、かれこれ二十年以上、毎年、遊びに行っていることになる。旧軽井沢の街並みをぶらぶらと歩いたり美術館をみたりする程度で、それ以上軽井沢の楽しみ方は何も進歩せず、深まってもいない。
 シーズン中のにぎわいは、あいかわらずで、最近は、新幹線も通って首都圏から一時間くらいで行けるようになった。避暑地としてのステイタスはそのままに、軽井沢銀座と呼ばれるエリアは、益々、いろんな人達が訪れるようになったのではないか。
 場所柄、春、四月後半から十月くらいにかけて開いているお店がほとんどで、店舗も賃貸だから、シーズンが変わるごとにお店も少しずつ、変わってくる。毎シーズン、ぶらぶらするとその様子がよくわかる。単純にお店が入れ替わるのではなくて、歳月とともに野原の植生が変わるようにお店の毛色も徐々に変わってきている。一言で言うと、流通が画一化されてきているような気がする。
 最近、首都圏近郊の特に大きなアウトレットモールとして、本牧、御殿場、そして軽井沢があげられているのを聞いたことがある。確かに、近年の軽井沢銀座には、アウトレットの店が増えた。スポーツ用品、衣類、千円ショップといった具合。
 飲食店などは、芸能人の出す店に加えてメジャーなデザインレストランが顔を出すようになってきた。あとは、地元の産品ということでジャムやジュースのお店、これは前からあった。やや、特徴的なのはここ三、四年で何店舗も店を出すようになったソーセージ屋、これは群馬県の業者らしい。
 かつての軽井沢銀座は、都内のブティックが出店のような感じで店舗をかまえているパターンが多かったように思う。小物なんかは、ほとんどが、というわけではないが、店独自に輸入したものなどを取り扱っているところがわりと多かった。衣類は、サイズがそろわなくなった高級品(ブランドもさることながら素材、品質の良い品)を本店からもってきて、かなり買い得な値段で売っていたりした。
 軽井沢で買い物するとしたら、こういうものが“狙い目”だったように思う。
 今は、そういう店はかなり少なくなってきた。
 アウトレットもいいが、せっかく足を運ぶなら、都内では、なかなかみることができないものが並んでいる方が筆者としてはうれしい。焼き物なんかは、その店が持っている窯で焼いたものがメインだから個性があるのは当然として、独自の流通、輸入経路をもった店が再び増えて欲しい。
 もしかしたら、軽井沢銀座は流通革命の縮図なのかもしれない。
 
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保護者から見た第三者評価
保育園を考える親の会
評価を求める保護者の声
 昨年の三月発行の「つうしん88」には、第三者評価に期待する会員の方からのおたよりが掲載されています。
 そのおたよりには、わが子が通った二つの保育園の質の違いに驚いた経験と、わかっていれば最初から二番目の園に預けていたのに、という後悔がつづられています。
 初めて子どもを預けた保育園は、外遊びが少ない、オムツを替えてくれる回数が少ない、保育料以外のお金の徴収が多い、など疑問に思うことが多かったといいます。三歳児クラスになると音楽の英才教育が始まり、発表会やら練習やら親子にきびしい保育園生活になりました。そんな保育内容に不信感がつのっても、毎日仕事と子育てに追われて、問い正していくゆとりもなく、子どもが慣れてくれることを望むしかありませんでした。音楽教育の件では園長とも話し合いをもちましたが、転園を勧められてしまいました。時間的に制約がある中で遠い保育園には通いたくなかったし、待機児が多いので簡単には転園できない心配もあり、どうしようか悩んだといいます。しかし、園側の高飛車な態度にいやけがさし、思い切って転園したところ、次に通った保育園では、保育の質がまったく違っていました。外遊びが多く、ちょっとした空いた時間にも手遊びや紙芝居を取り入れるなど、子どもの生活が充実するような「家庭ではとてもできないこと」がふんだんに取り入れられていたのです。そこで、「どうして最初からこの園を選ばなかったのか」「ゼロ歳からの六年間という乳幼児期の大切な時期、少し不便でも納得のいく保育園を選ぶべきだった」という後悔が残ってしまったのでした。
 このおたよりは、結論として、外部の目が入る第三者評価があってほしい、と結ばれています。そして、初めて保育園に子どもを預ける親は、保育についての経験や見識もなく、「どこでも同じ」と考えてしまいがちだし、入園してから疑問を感じても保育内容にこだわっている時間的なゆとりもパワーもなく、待機児のいる現状では転園もままならないという現実を訴えています。だから、入園する前に、選べる情報がほしいのです。
 さて、スタートしたばかりの第三者評価制度は、こんな保護者の期待に応えているでしょうか? 普光院の観測を述べてみたいと思います(七月発行「つうしん95」の記事を書き直しています)。
 
保護者のイメージとの相違
 規制緩和のかけ声とともに、この第三者評価の制度が登場してきました。それだけに保護者のほうでは、第三者評価を「保育園の質のチェック」ととらえ、どちらかというと、すべての施設を対象に、「質の低下を防ぐ」「現在の監査以上に質に踏み込んだ調査を行い、悪いものを指導する」というイメージでとらえていた方が多かったと思います。
 しかし、現在つくられている制度は、最低基準のレベルを調べる「監査」とは区別され、どちらかというと「保育園のよいところ」を評価しようという狙いになっています。
気になる点
 まだ発展途上の制度ですが、今のところ、私が考える問題点は次のように整理されます。
a 評価の普及の問題
 この評価は、施設が自分で審査料(国のめやす:二十万円程度、都のある機関:六十万円程度)を払って受けます。評価を受けるかどうかは、施設の意思に任されます。また、現在のところ、国のプランでは、認可保育園のみ、都のプランでは認可保育園と認証保育所が対象とされていますが、ベビーホテル等は対象ではありません。利用者にとっては、さまざまな種類の保育施設が、同じまな板の上に乗せられて評価されることが理想ですが、それができる評価項目、評価機関が整備されるにはまだ遠く、まずは全国約二万二千箇所にも及ぶ認可保育園をどう評価していくか、定期的で等質な評価が維持できるか、ということが、目下の課題になっています。
b 評価の新鮮度の問題
 評価は常にreal timeである必要がありますが、現状では、経費的にも労力的にも頻繁な評価は難しいのではないかと危惧されています。
c 多数の評価機関の出現
 評価基準や評価機関は、国や自治体が示したモデルにそって、今後、いろいろなものが登場することが想定されています。果たして利用者にとって信頼できる評価基準・評価機関がそろうのか、質のバラツキがひどくなるのではないか、不安なところです。また、同じ地域内で、各施設が異なる評価機関の評価を受けている状態では、利用者は施設間の比較ができません。評価機関も競争して淘汰されればよいという見方もありますが、その淘汰にあたって、評価機関を選ぶのは施設なのか、利用者なのか(多分、前者であり、前者のニーズが投影された競争になる)という点も注目されます。
d 評価者のレベル維持の問題
 保育の現場を調査し、その質を見抜くためには、評価者に経験と洞察力が必要で、適任な評価者の養成が急務です。また、評価者の資格についてきちんとした規定が必要と思われます。
e 評価経費の問題
 的確な評価を行うためには、ある程度の時間と経費をかける必要がありますが、そうなると審査料が高くなります。余剰金を蓄えて高いコストを払える施設だけが受審できる評価では困るので、高すぎない料金で質の高い評価ができる評価機関のあり方が求められます。
f 評価のポリシーの問題
 評価機関は、施設の払うお金で採算をとらねばならず、施設に喜ばれる評価に傾く傾向があります。施設側が「売り」としているものをすべて肯定的に評価するのでは、ただの宣伝媒体でしかなく、第三者評価とはいえません。たとえば、前掲のおたよりにあった一番目の保育園は音楽教育を「売り」にしていたと思われますが、それが本当に質の高い保育だったかというと、逆になっていた恐れもあります。評価機関には、保育園の「売り」に対しても、子どもに望ましい環境という視点から適正な評価を下せるポリシーが求められます。その点に、十分な議論がつくされていない観があります。すでに国と東京都では、「子どもの福祉・発育の保障」重視と、「市場的経営の視点・利用サービスとしての質」重視という違いとなって現れています。
 
「子ども」を忘れない、専門的な評価を
 大切な乳幼児期を託す施設を選ぶために参考にする保育園の評価が、レストランの評価つきガイドブックや、週刊誌の「○○ランキング」のレベルでよいわけはありません。このような問題点を整理するにつけても強く感じるのは、第三者評価だけでは保育の質を維持するシステムにはならない、ということです。
 第三者評価は、施設自身に質を高める努力をさせるための動機づけや、施設経営の透明性を高めること、利用者が保育の質についてある程度の判断材料を得るには、非常に有効だと思われます。しかし、従来設けられてきた「最低基準」やそれに基づく「監査」の制度も、二〇〇〇年に設けられた「苦情解決のしくみ」も、同時に機能させていく必要があります。
 親の会に届く苦情は、「最低基準」近辺のレベル、あるいは「保育指針以下」のレベルが多いのです。そのあたりに照準を合わせている「監査」制度が第三者評価の設置を理由に後退することは避けなくてはならないと思います。
(保育園を考える親の会代表 普光院亜紀)
 
 
*「保育園を考える親の会」は保育園に子どもを預けて働く親のネットワーク。情報交換、支え合い、学び合いの活動をしている。
 
共働き子育て入門
 完全失業率が五パーセントを超える現在、父親一人が家族を養う従来のライフスタイルは年々リスクが高まっています。今や「共働き子育て」を余儀なくされるケースは決して珍しくありませんが、子供を保育園に預けて働く母親や、父親の育児参加に対して世間の理解は未だ十分とはいえません。
 そこでお薦めするのがこの一冊。お馴染み「保育園を考える親の会」代表の著者が、共働きで子育てに取組むための新鮮でポジティブな家庭モデルを提案。父母の役割分担の考え方、仕事の続け方、合理的な家事育児技術にいたるまでのアイデアの提供を通じて、今後のライフスタイルを模索中の全てのパパ・ママの強い味方になってくれます。
 「親は(略)外のいろいろな人たちとつながっていて、その中で一生懸命責任を果たそうと頑張っている・・・そのことをさりげなく子どもに伝えられたら」と願いながら。
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