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――素敵な話の道しるべ(81)――
あいさつからはじまる物語
 
 
嘉悦大学短期大学部助教授 古閑博美
(こが・ひろみ)山口県生まれ。日本航空国際線スチュワーデスを経て、教育に携わる。東洋大学大学院修了。教育学修士。現在、嘉悦大学短期大学部助教授、東京都講師、魅力行動学研究所主宰。魅力行動学会・日本語表現検定協会・志塾(論語−素読と研究の会)・日本の文化に親しみ楽しむ会を運営。著書に『魅力行動学入門』(単著)、『ホスピタリティ概論』(単著)、『インターンシップ ―職業教育の理論と実践―』(編著)などがある。
 
あいさつ行動に異変あり
 私たちは、日々、あいさつのある、あるいはあいさつを散りばめた生活を送っています。朝起きて、家族同士で「おはよう(ございます)」と言い合ったり、出勤して同僚と「おはよう(ございます)」とことばを交わしたりするなどは日常的風景です。あいさつしたりし合ったりするのは、いわば、身についた生活習慣といえるものであり、条件反射的な行動といっていいでしょう。
 しかし、近年、そんな日常のあいさつ行動に異変が起こっているとの声や、そのような姿を数多く見聞きするようになりました。たとえば、あいさつしてもパソコンの画面に向かったまま振り向きもせず返事もしない人がいたり、メールのやり取りは得意でも会うと会話がつづかなかったりするなど。他者と向き合うことや、コミュニケーションが苦手という人が増えているとの記事や報告は枚挙に遑がありません。
 情報化や国際化の影響を受け、生活が多様化していくなか、一日の時間帯を睡眠・就労・余暇に均等に振り分けることはなく、使い方にも変化が生じています。一日の活動時間は人によってまちまちです。シフト制や夜勤など仕事上の都合というだけでなく、余暇産業やマス・メディアの発達、パソコン、携帯電話などの出現により、生活時間が不規則となり、朝目覚めない人や目覚めるのが苦痛と感じる人たちも増えています。昼夜が逆転したかのような生活体験を多くの人がもつようになり、あいさつのしかたも必然的に変わってきています。
 
朝から「おつかれさま」?
 私の勤務する大学は、三年前に四年制大学を創設し、男子学生がキャンパスを闊歩するようになりました。彼らのあいさつで戸惑ったのは、朝から「おつかれさまです」(「おつかれさまっす」「おつかれっす」)といわれることでした。しかも、そういう学生が少なくないのです。冗談めかして、「朝から『おつかれさま』といわないでね。疲れていないし、意気も上がらないし」といいますと、学生は「はあ」などといってキョトンとしています。
 これは、推測ですが(「おつかれさま」は、アルバイト先等で接するおとなたちが、日常、おおいに使っているのではないでしょうか。高校生のころからアルバイトを経験する若者は多く、彼らはこれを聞いて、誰にたいしてもいつでも使える正しいあいさつことばだと信じて疑いもせず使っているのではと思われます。けれども、「疲れる」は「使い過ぎたため、そのものの本来の機能が(極端に)低下した状態になる」(『新明解』)ですから、朝から使われると抵抗を感じる人も少なくないといえます。
 小学生にも慢性的な睡眠不足がみられるとして問題となっていますが、学生たちの話を聞くと、日常的に夜更かししたり一晩中起きていたりする生活態度は、もはや特別とはいえないこととなります。学生のなかには、授業中に眠そうであったり机に突っ伏したりするだけでなく、なかには、すっかり寝入ってしまっているものさえいます。理由を聞くと、つぎのような答えが返ってきました。
(1)深夜にわたるアルバイトをしたあと、そのまま大学に行く。あるいは、帰宅が深夜になるアルバイトをしている。
(2)テレビゲームなどゲームに熱中したり、パソコン操作を一晩中したりしている。
(3)携帯電話やメールに熱中している。
 ほかにも、街に出ると不夜城が待ち受けているなか、眠らない街の刺激を求めてさまよう若者は少なくありません。一晩中、外で過ごした彼らは、始発電車を待って行動することになるわけですが、そのころには、体はクタクタの状態です。「おつかれさま」のことばがぴったりの生活を送っていることも、若者のあいだで「おつかれさま」を定着させている理由のひとつかもしれません。
 朝であれば「おはよう(ございます)」、昼ならば「こんにちは」、夕方、夜は「こんばんは」というのはあいさつの決まり文句ですが、そうでない場面に遭遇することもふえました。「どうも」といっただけであとがつづかない人がいますが、これも、気になる中途半端なあいさつのしかたです。学生には、「『どうも』だけでは意味不明ですよ」と注意しています。時・場所・場合(TPO)に応じて、メリハリのきいたあいさつを行いたいものです。
 
朝のあいさつは元気に
 看護職の方たちを対象に講演したさいのことですが、つぎのような現場の悩みが寄せられました。
 「看護師にたいする患者様からのクレームなのですが、朝のあいさつが元気にできない人が多いとの指摘がふえてきています。朝、お互い気持ちよく一日のスタートがきれるように、明るくさわやかに、と指導しているのですが、どうも、若い人たちには、そんな意識がないようなのです。」
 確かに、朝から、やる気のない声や沈んだ声、はたまたふてくされたような声を聞かされたら、患者でなくても気が滅入ります。あいさつの有無や善し悪しは、職場の士気にも影響するほどです。しかし、若い人たちに、そんな配慮ができない人がふえているというのです。一日をさわやかにスタートさせるという意識は、社会性とも連動します。自分の調子が悪いときでも、それをそのまま表出するのではなく、相手や周囲をおもんぱかって、自分を奮い立たせ、機嫌よく振舞うのはおとなとしてのマナーです。そのような態度を心掛けるのは、人として成長することであると教えられたことでもありました。
 あいさつは、いつでもどこでも「N(ニコニコ)・H(はきはき)・K(キビキビ)」と実行したいものです。相手によい印象を与える努力の行く先は、老若男女すべてが対象であり、手抜きが許されるものではないでしょう。
 
あいさつを交わす
 「あいさつ」は、漢字で書くと「挨拶」です。漢和辞典(三省堂第三版)には「(1)おおぜいで押し合い、へしあうこと。(2)問答して学徒を啓発する。(3)応接。応対。(4)返答。返礼。(5)人と会う時にかわす儀礼的な言葉や動作。(6)わたりをつける」とあります。通常、あいさつは「あいさつをしましょう」「挨拶励行」などといって、(5)や、(3)(4)の意で使います。「挨」は「(1)おす。強く進める。(2)せまる。近づいている。(3)「受ける」、「拶」は「迫る」の意であることから、挨拶は「相手に近づき相手から何かを引き出したり、胸襟を開いて相手に迫ったりする行為」といえましょう。ただ単に、頭を下げ、声をかければよいというものではないのであります。
 禅家や茶道人には、昔から、あいさつを修行として取り組む姿があります。禅語の「一挨一拶」は、あいさつの大切さをいうものです。一般にも、あいさつができない人やしない人の評価は低く、その後の人間関係で信頼を得ることも容易ではなくなります。あいさつは最初が肝心です。私たちは、意識するしないにかかわらず、あいさつの言動から相手の力量をはかっているといっても過言ではないでしょう。
 「挨拶は心の脈拍」ということばを聞いたことがあります。脈拍が聞こえなくなったら、私たちの命は終わりです。心の脈拍としてのあいさつは互いの命の鼓動(存在)を伝え合うすばらしい行為であり、文化です。辞儀(あいさつのマナー)は礼儀作法のひとつであり、昔から、適切なことば(辞)をそえて礼を交わすあいさつをおろそかにするものではありませんでした。
 礼儀正しさを愛でる気持ちを大切にし、心豊かな日々を送るためにも、一日をあいさつからはじめたいものです。
 
 
 
人材開発コンサルタント
塩川正人
 仕事の現場は常に問題の溜まり、そしてピンチの連続です。保護者からのクレーム、子どものケガ、職員の突然の欠勤・・・。しかしピンチは、問題解決のチャンスでもあります。ピンチの時こそ全員の思いが1つになります。ピンチになったら「今をチャンスにして今までの悪いやり方を変えよう」と皆で思いを1つにしましょう。
 変化は必ずピンチの後にきます。なぜならピンチの時が一番「変革へのエネルギー」が充満した時です。例えば下表のように、チャンスヘの転換を「当たり前」として行いませんか。私生活でも可能です。
 
  ピンチ→ チャンスに変える
仕事 保育方法が未熟と言われる→ 未熟部分を「1日1つの改善」として毎日行うチャンスとする
上司と意見が対立している→ 対立は人間関係のこと、しかし仕事は別。仕事の「報告」をキチンとする。これをきっかけに対立関係を修復し、以前より強い信頼を築くチャンス
仕事が難しくて覚えられない→ 他の人に「教えて下さい」と素直に言える自分と心から感謝する自分に生まれ変わるチャンス
働くのがいやになった→ 心や体の疲れを取り除くチャンス。体調を整えるため睡眠や自己管理をやり直すチャンス
私生活 失恋したばかり→ 失恋は「新しい自分の生き方」を創るチャンス
結婚相手がいない→ 自分のアピールポイントを明確にするチャンス
自分の「志」や未来設計を新たにするチャンス
自分の子供とケンカ状態→ 子供の意見や悩みを、本気で受け止めるチャンス
自分の意見を本気で子供に語るチャンス
ケンカを反省し「家族の絆」を深め合うチャンス
今、離婚の危機にある→ 危機は反省と大きな節を築くチャンス
短期でなく長期的に「結婚の価値」を確認しあうチャンス







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