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社会連帯による次世代育成支援に向けて
(抜粋)
 
平成15年8月7日
次世代育成支援施策の在り方に関する研究会
 
(2)保育
(利用者の普遍化への対応)
○これまで保育は、福祉の考え方に基づき、市町村が自らあるいは社会福祉法人等に委託するという形で「保育に欠ける」児童を対象に提供されてきた。利用世帯は市町村に申請するとともに、国の基準では、所得に応じ7段階を基準として設定された利用者負担を市町村に対し支払う仕組みとなっている。
 
○一方、女性就業の増加などに伴って、近年、保育所を利用する世帯は急速に増加しており、利用世帯の経済状況をみると、昭和35年度には所得税課税世帯が2割に満たなかったのに対し、平成9年度には4分の3が課税世帯となるなど、今日、保育所の利用は一般化しているといえる。
 
○こうした状況は、高齢者介護や障害児・障害者福祉施策などの分野においてもみられるが、これらの分野では、介護保険制度の創設や社会福祉基礎構造改革の際に、市町村の役割を確保しながら利用者と事業者が直接契約を行うという方向で改革が行われている。
 
○保育についても、平成9年には、市町村の措置に基づく入所の仕組みを見直し、保護者が希望する保育所を選択して、市町村に利用申込みを行うという改正が行われている。しかし、最近の保育を取り巻く環境の変化や周辺分野における改革動向を踏まえると、新たな次世代育成支援システムの一環として、市町村が自らあるいは委託という形態で行う現行の仕組みを見直し、子の育ちに関する市町村の責任・役割をきちんと確保しつつ、保護者と保育所が直接向き合うような関係を基本とする仕組みを検討することが考えられる。
 
○保育の利用申込みやその受諾が利用世帯と保育所との間で直接行われる仕組みとなれば、利用世帯と保育所の双方で、保育に関する当事者意識がより高まり、子どもの状況に応じた保育の在り方が検討されるようになることが期待される。
 具体的には、利用者側からみれば、より主体的に保育所の運営方針や保育内容を確認しつつ保育所を選択することができるようになり、一方、保育所としても、広く地域に情報提供するインセンティブが生まれるとともに、利用者のニーズに合ったサービスの提供が期待される。
 
○こうした見直しに伴い、保育所にとっても、市町村からの委託費としての資金の性格上、使途か厳しく限定され、新しい事業などに充当できない現在の仕組みが見直され、弾力的な財務運営が可能となるなどの利点もある。
 
○他方、保護者と保育所が相対で契約する仕組みとなることに伴い、親の都合ばかりが優先されることとなるのではないか、あるいは障害児や母子家庭などの利用が排除されるといったケースが出るのではないかとの懸念もある。
 
○こうした中で市町村は、保育を必要とする児童・家庭に対するサービスを確実に提供する観点から、住民の意見を踏まえて保育の計画的な供給体制の整備やその質の向上を図る必要がある。さらに、子どもの育ちに関し、市町村が引き続き負うべき責任と役割として、障害児や母子家庭などへの適切な配慮を前提としつつ、保育所利用の必要性や優先度の判断に関する新たな仕組み(要保育認定)を導入し、市町村が自ら又は適切な第三者に委託して実施に当たることが必要である。
 
○加えて、家庭や地域の子育て力が低下し、特別な配慮を必要とする家庭が増加している状況も踏まえ、市町村は、地域内の社会資源を適切に活用しながら、いわゆるケース・マネジメント機能をより一層強化するなど、新たな状況への対応を進めていくことが必要である。
 
○また、保育所においては、単に親のニーズに迎合するのではなく、その専門性を発揮し、保育所と保護者が「共に育てる」という視点から、保護者への働きかけ、子どもたちの育成に努めることが求められる。
 
○なお、保育の利用補助券を子育て家庭に配布する、いわゆるバウチャー制度については様々な定義があり、何を持ってバウチャーと呼ぶかは議論があるが、諸外国で導入されたような自由価格制の下で追加的な差額負担が家計に生じる仕組みを我が国に導入することは、
ア)市町村の公的関与が後退するのではないか、
イ)低所得者などの利用が事実上排除・制約されるのではないか
といった懸念などかあり、今日の我が国の現状からすれば慎重に考えるべきである。
 
○また、パートタイム労働者の増加など就労形態の多様化等と相まって保育に対するニーズも多様化する中で、これまで特定保育の実施などを進めてきたところであるが、今後多様な働き方が増えていくことか見込まれる中で、さらに柔軟な対応を図っていくことが適当である。
 
(待機児童の解消・多様な保育ニーズヘの対応)
 
○保育については、これまで新エンゼルプランや「待機児童ゼロ作戦」等により、供給体制の整備が進められてきたが、都市部を中心として依然として待機者か存在することや今後とも女性の就労が増加すると考えられることから、さらにその充実を図ることが必要である。また、多様な保育ニーズを踏まえ、延長保育、夜間保育、休日保育や病児保育などについて、子どもの育ちに十分配慮しながら必要なサービスを確保することが必要である。
 
○国の定める最低基準を満たし財政基盤が制度化されている認可保育所と比べ、基準を満たしていない認可外保育所については、一般に、保育料が高くなる場合が多い。こうした認可外保育所を利用しなければならない家庭の中には、認可保育所利用世帯と同様又はそれ以上に保育を必要とする家庭も存在すると考えられる。
 
○認可外保育所の中には、東京都の認証保育所や横浜保育室など、地方公共団体においてその独自の判断によって補助が行われているケースもある。児童福祉法の改正によって保育計画(待機児童解消計画)を策定することとなる市町村においては、待機児童の解消に向けた緊急の取組として、市町村が地域の実情に応じ必要と判断した保育サービスについて、これを保育計画に組み込んでいくことが適当である。
 
○認可保育所の利用者負担については、地方公共団体の上乗せ軽減措置もあって、認可外保育施設や幼稚園の利用者負担との比較、在宅育児家庭とのバランスといった観点から低いとの指摘もあり、待機児童解消に向けた効率的な資源配分の観点から、必要に応じ見直しを行うことを検討すべきである。あわせて、現行の保育所利用の見直しに際しては、負担能力に応じ7段階にも細かく区分されている利用者負担区分の簡素化を図るべきである。
 
(運営の効率化)
 
○認可保育所の公営・私営別の推移をみると、私営保育所の割合が次第に上昇しており、平成14年では施設数で約44%、児童数では約49%に達している。公営・私営の保育所は、それぞれが他方にない長所を有しているが、私営保育所の方が延長保育等の特別保育の実施率が高いなど利用世帯の多様なニーズに応えている一方で、公営保育所は、多様なニーズヘの対応が不十分で、かつ、保育士の年齢が高いこともあって費用がかかるなど費用対効果という面で問題がある。「民でできることは民で」という官民の役割分担の観点を踏まえると、今後とも公設民営形式の推進や公営保育所の民営化など民間活力の導入を進めていくことが適当である。
 
○公営保育所は、障害児など特に配慮が必要な子どもたちへの対応など、公営としてふさわしい特色ある取組を地域の拠点施設として進めるほか、経験のある保育士が地域子育て支援事業や、さらには近年増加しているソーシャルワーク的支援を必要とする家庭の子育て支援など、今日新たな対応に迫られている。
 
(保育の質の確保)
 
○保育所利用児童が増加するとともに、家庭の子育て力が低下している中で、保育士が有する保育についての専門的な知識やノウハウは、子どもの健やかな育ちを支える上で重要な資源ともいうべきものである。このため、今後とも、教育や研修等による施設長や保育士の資質の向上を通じて、保育の質を確保・向上させていくことが必要である。また、保育所が地域子育て支援センターとして、家庭の子育て力の低下を踏まえ、ソーシャルワーク能力など専門性を高めていくことが求められる。
 
○さらに、地域の実情に応じ保育所がその役割を適切に果たすことができるよう、引き続き規制改革や認可外保育所の認可保育所への移行などを進めるとともに、第三者評価の推進などにより、保育の質の向上を図ることが必要である。
 
(地域社会における保育所の役割)
 
○保育所は、子育てについて高度な専門的ノウハウを有し、保育が必要な子どもに対するサービスのみならず、地域における子育て拠点として、子どもの健全育成のために重要な役割を果たすことが期待されているが、その取組はなお十分ではなく、子育て家庭からは敷居が高い存在となり、その子育ての専門性が広く活用される状況には至っていないとの指摘がある。このため、今後、保育所が地域や子育て家庭に身近で親しまれる存在となり、地域の子育てを共に支え、助ける子育てのひろばとして、地域に開かれた存在となっていくことが必要である。その際、地域のNPO、民生・児童委員等との連携を図っていくことか求められる。
 
○なお、地域社会の中ですべての子育て家庭を対象としたサービス提供が重要となる中で、近年、親の子育て力が低下していることを踏まえると、特別な配慮が必要な家庭へのきめの細かい支援という面でも、保育所の専門的なノウハウが十分に活用されることが期待される。
 
(保育と育児休業の関係)
 
○本年3月に決定された「次世代育成支援に関する当面の取組方針」では、育児休業の取得率について社会全体の目標値が定められるなど、子育てと仕事の両立に向けた取組の強化が求められているところである。一方、実際の取得状況をみると、近年、女性の取得率が急速に上昇しつつあるものの、なお、取得できない者や取得しても短期間しか取得しない者も多い。また、男性の取得率に至っては平成14年度で0.3%と極めて低い水準にとどまっている。
 
○こうした状況の下で、ゼロ歳児保育のニーズは急速に拡大しており、他の年齢と比べても高い伸びを示している。その利用児童数は、平成14年4月現在において約7.1万人と利用児童総数の約3.8%に過ぎないのに対し、ゼロ歳児保育は手厚い人員配置を要することもあり他の年齢と比べて費用がかかることから、保育予算全体の20%以上を占める状況となっている。なお、こうしたゼロ歳児保育は、北欧諸国ではほとんどみられない。
 
○育児休業の取得ないし長期間の取得を阻んでいる要因にはさまざまなものがあるが、その一つとして、育児休業を取得し、子どもが1歳となった後に保育所入所を申し込んでも、年度途中からの入所が困難であるなど、育児休業後の保育所への入所不安が存在することが考えられる。この結果、育児休業を取得しない、あるいは短期間しか取得しないという事態が生じており、ゼロ歳児保育が増加している一つの要因ともなっている。
 
○これまで、ともすると親の就労支援を目的とする育児休業制度と保育に欠ける児童の健全育成を目的とする保育制度とは、それぞれ別個の観点から、その在り方が検討されてきた面があるが、実際には相互に関連する施策であり、両者を総合的に捉え、整合性の取れた取組へと変えていくことが必要である。
 
○育児休業をさらに促進する観点から、例えば、1歳児保育の受け入れの推進を図ることにより、育児休業取得後に確実に保育所を利用できるようにしたり、育児休業制度においても、取得期間について子どもが1歳に達するまでとされている取扱いを弾力化し、育児休業取得後、円滑に保育所に預けることができるようにするなどの見直しを行うことが期待される。
 
○こうした施策は、あくまでも育児休業による就業継続を望む者がその希望どおりに取得できるようにするためのものであり、ゼロ歳児保育の重要性を否定するものであってはならない。また、ゼロ歳児等の保育については、保育所のみならず、保育ママのような家庭的保育事業を含む代替的事業の活用について柔軟な対応を検討することか望まれる。
 
○また、あわせて、育児休業取得後において、希望する者は必ず元の職に戻ることができるようにするとともに、子育てのために離職した者が円滑に再就職できるような支援を充実していくことが望まれる。
 
(保育所利用世帯と非利用世帯との支援の格差)
 
○現在、保育所利用世帯に対する支援がある程度進んでいる一方で、在宅育児世帯に対しては、教育施策や児童手当、母子保健などを除き公的支援は少ない状況にあり、保育所利用世帯と非利用世帯との間で利用できるサービス、投入されている公費についての格差がある。とりわけ幼稚園通園前の3歳未満児において、その格差は大きい。
 
○保育所を利用する世帯も、利用せずに在宅で育てる世帯も等しく公的支援を行うという観点から、一部の北欧諸国においては、1〜2歳児を養育する保育所非利用世帯に対し、児童手当とは別に「在宅育児手当」が支給されている。
 
○このような在宅育児手当については、子育て支援給付を総合的に捉えた場合に保育所利用世帯と在宅育児家庭との支援のバランス、育児という社会的な意義を有するアンペイドワークを評価する観点から、施策の選択肢として考えられるのではないかとの意見があった一方で、ア)育児費用のかなりの部分を公的に賄うというのは今日の日本の実情にはなじまないのではないかといった意見や、イ)このような手当は女性の社会進出を阻害する方向で作用するのではないかといった意見、ウ)北欧諸国における在宅育児手当の金額は、保育所への公費支出に見合った相当高い水準であり、これを我が国に適用すると、費用がかかりすぎるのではないかといった意見もあった。
 
○また、保育所非利用世帯に対する公的なサービスが母子保健サービスを除きわずかであることもあり、まずは、在宅育児家庭のための地域子育て支援など現物サービスを充実することが重要ではないかといった意見や在宅育児手当という新規の給付よりはむしろ児童手当との関係を整理していくことが必要ではないかといった意見もあり、今後、さらに議論を深めていくべき課題と考えられる。
 
(幼稚園との連携)
 
○保育所と幼稚園については、前者が親の就労等の事情により家庭における保育を受けられない児童に対し、家庭に代わり保育を行う福祉施設である一方、後者は親の希望により就学前教育を行う教育施設であり、その機能を異にしている。また、近年、保育所においては、女性の就業形態の多様化等に対応し、休日を含めた多様な時間帯のニーズが増加するとともに、0〜2歳児の受入れが増えるなど、保育所と幼稚園との間ではその差異が拡大している面もある。
 
○一方、少子化や過疎化の進行により、地域によっては、施設運営の効率化などの観点から、保育所と幼稚園について、一体的な設置・運営が求められているところがあるほか、子育て家庭の多様なニーズに対応し、預かり保育を実施する幼稚園が増加しているという新たな状況もみられている。さらに、地域子育て支援サービスを含め、子育て支援サービスの総合的な提供を図る観点からも、保育所と幼稚園の連携を図ることが重要な課題となっている。
 
○こうした状況を踏まえ、これまで、施設の共用化、資格の相互取得の促進等が図られてきたほか、さらに、構造改革特区においては、幼児数の減少等の事情にある地域において合同保育等が認められたところである。
 また、去る6月27日の閣議において決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」では、「地域のニーズに応じ、就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の設置を検討する」とされたところであり、今後、子どもの幸せを第一に考え、保育所と幼稚園それぞれの役割と機能の発揮を基本としつつ、共用施設や合同保育の実施状況も評価しながら、その具体的な姿について検討が進められるべきである。
 
○なお、保育所等の就学前の子どもの育ちを支える施設については、次世代の育成という点で中核的な役割を果たすことを期待されていることを踏まえ、その費用については、施設ごとの機能・役割に応じた適切な形で、公的支援を行っていくことを基本に考えるべきである。
 
○保育所運営費について、その公的支援のすべてを市町村が負う、いわゆる一般財源化等に関する議論については、
ア)次世代育成支援は、国の基本政策であり、地域の自主的、自立的な取組を前提としつつ、国としてどのように具体的に取り組むのか、
イ)地方公共団体の財政状況等によって取組に格差が生じるおそれがあること、特に、過疎地域においては、一般的に担税力が弱く、仮に税源移譲等がなされた場合でも、十分な財源保障がなされないことにより現在の保育サービスの水準が維持できないおそれがある
などの課題があり、慎重な検討が必要である。
 むしろ、高齢者介護における介護保険制度のように、国と地方公共団体を含め国民皆で支える中で地方分権を進めるという考え方についても選択肢として検討することが考えられる。
 
3. 費用負担の在り方
(1)基本的な考え方
○これまでみてきたとおり、次世代育成支援施策の中核的役割を果たす子育て支援施策に関しては、その充実強化を図る必要があり、その費用を支える負担(財源)についても、あわせて強化を図っていくことが必要である。
 
○この場合、子育て支援施策の財源構成は、現在のところ、施策ごとにそれぞれ異なっているが、効率化を図りつつ全体的に抜本的な強化を図る観点から、選択肢としてこれを総合的に見直し、新たな次世代育成支援システムの下で、財源の統合を図ることが考えられる。
 
○子育て支援施策の中には、公費のみを財源としているものもあるが、厳しい財政状況の下で、今後公費のみで各種のニーズに対応していくことは容易ではないと考えられる。このため、国民一人ひとりが次世代育成支援のために拠出するという新たな枠組みを検討するとともに、あわせて、高齢者関係給付の伸びをある程度抑制し、これを支える若い世代の負担の急増を抑えるとともに、子育て支援施策の充実を図るといった給付構造の見直しを推進することが適当である。
 
(2)現役世代・高齢者、企業・団体、国・都道府県・市町村の役割
 
(現役世代・高齢者)
 
○これまで、児童手当について、制度を拡充する観点から、国民個々人の拠出が検討された経緯があるように、次代を担う子どもたちの健全育成を図る次世代育成支援施策については、その充実を図る観点から、子の有無や年齢を問わず国民皆が費用を分かち合う仕組みとすることか適当ではないかと考えられる。
 
○この場合、高齢者については、国民皆が連帯して分かち合うという意味でも、また、社会保障制度を支える現役世代の子育ての負担に対する理解を示すためにも、目に見える形でこの連帯の仕組みに加わり、費用の一部を担っていくことが考えられる。
 
(企業・団体)
 
○次世代育成支援施策と企業や団体の関係をみると、
ア)児童手当については、将来の労働力の維持・確保の観点や企業等の扶養手当の代替という性格から、企業等もその費用の一部を負担しているほか、
イ)保育所についてみると、就学前の子を持つ労働者が安心して就業を継続するために必要なサービスであり、その充実は企業等にとっても大きなメリットとなっている。
 
○次世代育成支援は、将来の労働力となる子どもの健全な育成を図るという面があるとともに、こうした子どもの育成が、現在そして将来の日本市場の消費の担い手となっていく面があることからすれば、企業等も、個々の国民とともに、次世代育成支援に関する費用の一部を担っていくことが求められる。
 とりわけ保育については、現在、事業主からの拠出金の一部が充当されているが、事業主にとってのメリットやゼロ歳児保育と育児休業制度の代替関係も踏まえた両制度の整合性の観点から、企業等の負担の在り方を検討すべきである。
 
○ただし、実際の負担を考えるに当たっては、他の社会保障分野における企業等の負担の状況も踏まえつつ、社会保障負担全体を見渡す中で、その在り方や水準を検討する必要がある。
 
(国・都道府県・市町村)
 
○子育て支援施策については、これまで国、都道府県、市町村が中心となってその費用を負担してきたところであるが、今後は、地域の実情に応じたきめ細かな取組が積極的に進められる仕組みとするとともに、少子化が急速に進行する中で、国の基本政策としてその充実強化を図っていくことが求められている。
 こうした状況を踏まえ、国・都道府県・市町村は、費用負担の面でも、それぞれの役割を踏まえつつ、引き続き重要な役割を果たしていくことが必要である。
 
○こうした費用については、そのすべてを市町村の一般財源で賄うべきとの議論がみられるが、2の(2)で述べた問題点を踏まえれば、市町村の自主的な取組を最大限尊重しつつも、国民全体で費用を分担するという形で、国・都道府県等が重層的に財政支援を行う仕組み(例えば、国全体で資金をプールし、これを次世代育成支援交付金といった形で児童数や事業量に応じて市町村に交付し、併せて都道府県が公費負担するなど)についてもあわせて検討し、最適な結論を得ていくことを期待したい。
 
(3)共助の視点に基づく費用負担
 
○次代を担う子どもの育成は、個々の子を持つ家庭のみならず、すべての国民にとって重要な意味を持つ営みである。このため、新たな次世代育成支援システムの費用負担も、親が子育てについての第一義的責任を有することを踏まえつつ、社会連帯の理念に基づき、「共助」の視点からすべての国民が分担していくことを基本とする仕組みが考えられる。
 
○その際、我が国の社会保障制度において中心的な役割を担っている社会保険の仕組みを活用して、国民が等しく費用を負担する枠組みを検討すべきではないかとの考え方がある。
 
○具体的には、構想段階ではあるが、既存の介護保険や年金保険の保険事故に出産や子育てを追加して、新しい保険給付を創設してはどうかといった提案がなされている。一方、出産は、親の選択・裁量の下にあるものであり、いわゆる保険事故とすることにはなじまないのではないかといった意見や、子を持つ意思のない者や高齢者など給付を受けられる可能性が低い者も多数存在することから、リスク分散を本旨とする社会保険として位置付けることは困難ではないかとの意見もある。
 
○新たな次世代育成支援システムの費用負担の在り方を考える際には、国民一人ひとり、子どもを持ち、育てる立場となるかどうかについて、置かれた状況は大きく異なることから、給付の受給可能性のみに着目した制度を構想することについては慎重に考える必要がある。むしろ、次世代の育成がすべての国民にとって重要な意味を持つという事実に着目し、その費用を含め、国民が連帯して支えていくという視点で考えていくことが重要であると思われる。すなわち、直接給付を受ける可能性の多寡にかかわらず、現役世代・高齢者、そして、企業等が一定の費用負担を行う仕組みである。
 
○こうした仕組みの中には、税を通じた財源確保も含まれよう。しかし、次世代育成支援という大きな目標に対し、国民が自覚的に参加し、これを支えていくという観点からは、国民一人ひとりがこの目的のために拠出するという枠組みの方が、よりその趣旨が明確となる。
 
○こうした枠組みの具体的な設計を考えるに当たっては、制度の効率的な運営という観点からも、白地に絵を描くことは適当ではない。年金制度を始め既存の社会保険制度は世代間扶養を基本として設計されており、次世代の存在によってその持続可能性が確保されるという宿命を有していることを踏まえると、既存の社会保険の徴収機構の活用を検討することが適当である。また、「拠出なくして給付なし」の原則を採り、拠出した者についてのみ保育や児童手当といった子育て支援給付を行うような制度設計を検討することも重要である。
 こうした措置を講じることにより、徴収の確実性を高めるとともに、既存の社会保険制度にとっても、若い世代にとって保険料負担の見返りを実感できる仕組みとなり、保険料の納付意欲の向上を期待できるものと思われる。
 
○なお、受給可能性の多寡にかかわらず、次世代育成支援のために幅広く拠出を求めるとの考え方については、国民、企業等の理解と納得が得られるかなどの課題もあり、今後、様々な観点からさらに掘り下げた検討が行われることを期待したい。
 
(4)社会保障に要する費用の増大
 
○次世代育成支援施策の充実を検討するに当たっては、今後とも高齢化の進行が見込まれる中で、社会保障負担の増加を懸念する声が大きいことを踏まえ、社会保障費用全体を視野に入れながら考えていくことが必要である。一方、子育て支援施策は、高齢化の進行に伴い費用の増大が予想される高齢者関係施策と異なり、対象者(児童)が減少していくという傾向にあり、将来的に費用が増大していくものではない。
 
○これらの点を踏まえれば、制度を構想するに当たっては、社会保障全体でみた場合、新たに大幅な負担増とならないよう、高齢者世代の理解を得ながら、高齢者関係給付の伸びをある程度抑制し、これを支える若い世代の負担の急増を抑えるとともに、子育て支援施策の充実を図るといった給付構造の見直しを推進することが適当である。
 
○こうした給付構造の見直しを通じ、現役世代の実質的な負担水準を軽減することができれば、世代間の公平の確保、ひいては年金制度を始めとする世代間扶養を基本とする社会保障制度に対する若い世代の理解を高めることにつながるほか、結果として、少子化に歯止めがかかり将来の支え手が増えることとなれば、社会保障制度の安定という点でも意義あるものと考えられる。
 
おわりに
○本報告書で提案された「社会連帯による子どもと子育て家庭の育成・自立支援」を基本理念とする新たな「次世代育成支援システム」の構築に向けて、今後、国民的な議論が喚起され、21世紀にふさわしい次世代育成支援施策が実現されることを強く期待したい。
 
(参考1)
 
次世代育成支援施策の在り方に関する研究会委員名簿
 
(座長)京極高宣(日本社会事業大学学長)
柏女霊峰(淑徳大学教授)
新澤誠治(東京家政大学教授)
杉山千佳(子育て環境研究所代表)
鈴木眞理子(岩手県立大学助教授)
武石恵美子(東京大学社会科学研究所助教授)
栃本一三郎(上智大学教授)
堀勝洋(上智大学教授)
宮武剛(埼玉県立大学教授)
山縣文治(大阪市立大学教授)
山崎泰彦(神奈川県立保健福祉大学教授)







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