――子どもの健康を考える(7)――
水遊びの衛生管理
全国保育園保健師看護師連絡会 井口幸子
はじめに
園庭に子ども達の元気な声にまじって、ピチャピチャ・・・バシャバシャと水の音が聞こえる季節になりました。水遊びは暑いこの時期を乗り切るために欠かせない子ども達の遊びです。保育士はこの時期クラスの年齢にあった水遊びを保育計画に盛り込みます。私達看護職は安全面・衛生面での配慮を考えます。そしてお互いが協力して、子ども達が楽しくひと夏を過ごせるよう日々気を配ってゆくわけです。
ではどのような点に気をつければ良いのか、私の区での流れを通してお話したいと思います。
一 五月に細菌・蟯虫卵検査を全園児に行います
この検査で陽性に出た園児に対しては病院受診を依頼し、処置後再検査をしてもらい、陰性の証明書を提出してもらいます。
この時蟯虫卵検査が陽性に出て水遊びが始まっても陰性の証明書がもらえない園児をどうするかという問題があります。そういう時は陰性の証明書が出るまでは他の園児と同じプールには入れませんが、お尻をよく洗って別のかたちで水に触れる遊びをさせます。
二 嘱託医によるプール前健康診断を行います
全身運動に支障はないか、感染症に罹っていないか、目・鼻・耳・皮膚等に疾患はないか診てもらいます。何か疾患があれば受診を依頼し、完治したのちに水遊びに参加できます。また、心臓・腎臓に疾患のある園児、てんかんのある園児など慢性疾患のある園児には主治医に相談してもらい、その園児に合った水遊びのやり方や注意することを聞いて来てもらいます。
三 各園の代表を招集して、保健所生活保健課の説明会が開催されます
「なっちゃんの水あそび」という保育園・幼稚園向けのプールの安全と衛生テキストをもちいて(1)園児の健康管理(2)プールの安全管理(3)プール使用時の注意点(4)プールの消毒についてなど細かな話があります。
四 前記の説明を元に園内での(1)(2)(3)(4)に対しての具体的な方法を話し合います
(1)園児の健康管理
細菌・蟯虫卵検査結果を把握し、陽性に出た園児の対応を確認します。
プール前健康診断の結果、要受診となった園児の経過観察と主治医からの許可の確認をします。
また、プールで感染する主な疾病・アデノウイルス感染症(ア)咽頭結膜熱(プール熱)(イ)流行性角結膜炎(はやり目)腸管系ウイルス感染症・伝染性軟属(水いぼ)などの潜伏期や症状などについて再確認し、対応については嘱託医の指示を受けます。
プールに入るのを控えた方がよい園児については、保育士によって、あるいは保護者によって対応が違ってしまうことは保育園と保護者の信頼関係を悪くすることにもなるので、園全体での共通認識をもつよう充分話し合います。
例として、(ア)前日、発熱・下痢などで体調がすぐれなかった時(イ)中耳炎・外耳道炎、とびひ・虫さされの悪化した傷がある(ウ)鼻水・咳など風邪の症状がある時(エ)疲れていたり、寝不足・下痢・嘔吐・空腹の時(オ)ホクナリンテープを貼らなくてはならない健康状態の時(カ)薬を飲んでいる時(キ)予防接種を受けたばかりの時(いつから入ってよいか医師に確認してきてもらう)などがあります。
そして保護者に自分の子どもの状態を把握してもらうことと保育園との連携のためプールカードを作成します。水遊びの当日はそれをもとに(ア)体温は普段と比べて高くないか(イ)便が軟便・下痢便ではないか(ウ)朝の食欲はあったか(エ)皮膚に発疹がないか・目に眼脂や充血はないか(オ)機嫌・顔色など普段と様子が変わらないかチェックします。
以上のことを踏まえて、園全体に共通した項目を盛り込んで、幼児向けのお知らせ、二歳児クラス・一歳児クラス・ゼロ歳児クラス向けのお知らせを作成し、保護者に配布します。
お知らせの中には水着についての説明も入っていますが、二歳児以上は水着と水泳帽を用意してもらいます。一歳児・ゼロ歳児については水着でも水遊び用のパンツでも準備しやすいほうを用意してもらっています。最近の水着の素材は良くなり、水切れが良いので身体を冷やさないものになりました。乳児の水遊びは短時間といっても水に濡れたものを身につけているのですから木綿のパンツより水着のほうが良いと思いますが、経済的なことを考えると保護者の判断に任せて用意してもらっています。
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また、プール・水遊びや沐浴は汗を流し気分をさっぱりさせるだけで入浴の代わりにはならないこと、毎日入浴・洗髪をすることを呼びかけています。
(2)プールの安全管理
プール開きの前には五歳児に水遊びへの期待を持たせる意味も含めて担任といっしょにプールの掃除をします。とは言っても五歳児ですから遊びの延長のようなものです。ですから、プール開きの前々日か前日に職員ですみずみまで掃除します。この時プールの設備やプールサイドに危険物はないか細心の注意をはらって点検をします。
屋外プールの水温については、保育園・幼稚園の水遊び程度では、水温はできるだけ高い方がよく、できれば二七℃以上が望ましいと指導を受けています。また、気温が高い(三〇℃以上)場合、水温は二四℃以上あれば差し支えないが、二四℃未満の時は使用を避ける。風があると体温が奪われるので、風の強い日は、水温を高め(三〇℃以上が望ましい)に設定するようにと指導を受けています。
しかし、朝十時近くに水遊びを始めるクラスの水温はなかなか指示通りの温度にはなりませんので、お湯を足して水温を上げています。
(3)プール使用時の注意点
・プールを使用する前に
プール開きは二歳児以上が参加します。各クラスで水着に着替えて、園庭に集まります。
そこで、これから始まる水遊びに関する注意事項(ア)トイレに行く(イ)鼻をかむ(ウ)準備体操をする(エ)シャワーを浴び、腰洗い槽に入る(オ)プールサイドは走らない等を園児が理解できるように毎年趣向を凝らして、保育士が、また看護職も協力して行います。
保育士は、気温・水温・残留塩素濃度の測定を行います。そして、それをプール日誌に記入します。プール日誌は看護師業務連絡会で作成したものを使用し、右記の他に、天候・遊泳者数・時間も記録します。また、プール内部や周辺の安全チェックも行います。
・プール使用中
プールに入るクラスが交替するたびに塩素剤を追加し、プール日誌に記録します。
また、園児の様子がおかしくないか、トイレに行きたそうにしていないか等常に目を配り、プールサイドは絶対走らせないようにし、休憩時間は水から完全に上がって体温の回復や身体を休ませるようにします。
・プール使用後
幼児は洗眼・うがい・シャワーを浴びてから着替えます。乳児は沐浴をして身体を暖めてから着替えさせるようにしています。
プールの水は毎日排水し、ホースで砂などを流します。乳児の使用したビニールプールは排水した後、干してなるべく乾かすようにします。
(4)プールの消毒
プールの水は、人の汗や垢・ほこりなどで徐々に汚れます。汚れた状態にしておくと細菌が増殖し、プール熱などの病気が発生しやすくなります。こうしたことを防ぐために、プールの水の消毒は必要です。
プールの消毒の代表的なものは、塩素(塩素剤)によるものです。塩素はほとんどの細菌を死滅させ、ウイルスを不活性化させる効果があります。残留塩素が○・四mg/l以上で、プール熱の原因となるアデノウイルスを不活性化させます。しかし、残留塩素は人の持ち込む汚れや日光(紫外線)によって消耗され濃度が低下します。また、濃度が高すぎると粘膜に炎症を起こします。
残留塩素濃度は、○・四mg/l〜○・七mg/lの間に保つようにします。
残留塩素の検査方法は平成十二年十二月二六日付けで厚生労働省生活衛生局水道環境部長通知『「水道水質に関する基準の制定について」の一部改正について』が公布され、平成十四年四月一日からオルトトリジン法が削除されました。改正後はDPD法での検査を行っています。
おわりに
毎年水の事故で幼い命が奪われています。水遊びは楽しさの影にたくさんの危険が含まれています。注意の上に注意を重ねて遊ばせなければなりません。
しかし、安全面・衛生面での配慮が遊びのブレーキになるのも困ります。園児が充分水遊びを楽しむため看護職と保育士がお互いの立場から、安全と衛生についてしっかり把握・実行していくことが大切だと思います。
薮の中・・・
春競馬の最後を飾る、競馬界のビックレースの一つ「宝塚記念」が六月二十八日に阪神競馬場で行われた。このレースで、優勝したヒシミラクルの単勝(一着馬をあてる馬券)を千二百二十二万円買って、約二億円(配当十六・三倍)を的中した人がいて話題を集めた。その後、配当金を寄付したいという、いたずら電話がマスコミにあったり、不景気な世の中に「夢」をあたえてくれた。
だからこそ、スポーツ紙だけでなく一般紙でも大きく取り上げられた。偶然、七月五日付けの朝日新聞に「宝塚記念 二億円的中 常道外れた競馬の『神』 元手は別レース払戻金?」、毎日新聞には「『二億円』元手はたった『五十万』?単勝狙いでウマいお話」という見出しがおどった。
二つの記事を読み比べてみると、いくつかの相違があるのに気づいた。同じ出来事なのに微妙な違いがあるのである。真相は薮の中というわけ。
まず、馬券の買い方。新橋のウインズ(場外馬券場)で購入したのは同じだが、購入の仕方が異なっていた。毎日新聞は「安田記念=同月八日開催=の単勝当たり馬券百三十万円分を高額払戻窓口に出したが、払戻金を受け取らずに、すべてヒシミラクルにつぎこむよう窓口の職員に命じたらしい」。これは多くのスポーツ新聞などが報じていたのと同じ。一方朝日新聞は、安田記念の当たり馬券の払い戻しについて「透明プラスチックの仕切り越しに、札束が男性の手に渡った」としている。そして「発券機に一度に入る一万円札は約二十枚。六十回以上、投入を繰り返したことになる」と、一般の人と同じように馬券を購入したように書いている。
二つの記事とも、肝心なところは「推測」になっている。どちらが正しいのだろう。多くの競馬ファンは、毎日新聞の記事のほうが正しいのではないかと考えると思う。一枚の馬券で購入できる限度額は五十万円で、発券機のお金を入れるところは、たばこなどの自動販売機と違って、一枚一枚入れなくても、二十枚まとめて入れても処理してくれることを知っている。朝日新聞記事はいささかの違和感を覚えるのである。
朝日新聞の記事は、入金の行為に注目した形。しかし、大量の馬券購入でオッズが急変したのは一瞬の出来事。帯封を切って現金を勘定、発券機に入金、機械がカウント、購入馬券を記したマークシートの投入、読み取り、発券――という手順の繰り返しには相当な時間がかかるので、毎日新聞の記事のほうに真実味を感じるのである。
朝日新聞の記者は、ウインズ新橋の所長や日本中央競馬会の広報などに取材しているが、プライバシー保護もあって具体的なコメントを引き出すことができなかったようだ。「スポーツ紙は『中年のサラリーマン風だった』と報じた。ウインズ新橋の杉森和夫所長は『うちは正式には男性とも申し上げていない』という」と書いている。
どうも、競馬のことをよく知らない人が、中央競馬会サイドの人に取材してまとめた記事のように思えた。もっとも、馬券を的中させた人がおいそれと人前に現れるとも思えないので、取材のしようが無かったのは分かるのだが・・・。しかし、毎日新聞の記事では、人物像についてこう書いている。「JRAなどによると、男性は、中年のサラリーマン風」。各種の情報を総合して「男性」と特定している。JRAなどの関係者が、正式にではないかもしれないが「ささやいた」に違いない。
法律的には、競馬の払戻金は一時所得とされ課税対象になる。これについても、「一年間の所得がこの二億円だけだとしても、約三千四百五十万円の所得税がかかる」(朝日新聞)、「男性の場合九千三百二十三万円になる計算で、名乗り出る可能性は少ない」(毎日新聞)と両紙の記述は異なっている。朝日新聞の場合、国税だけで地方税は考えていなかったのだろう。
取材の仕方、掘り下げ方、視点をどこに置くかなどで記事は違ってくる。複数の情報にあたって、真相を読み解く力を身につけておく必要があると思った。
(えびす)
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