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――ルポルタージュ(27)――
地域に広がる子育て支援事業
 先の国会では、少子化対策に関係する法律が相次いで成立した。次世代育成支援対策推進法、児童福祉法の一部改正法、少子化社会対策基本法の三本。次世代育成支援対策推進法は、都道府県・市町村や従業員三〇一人以上の企業に対し、子育て支援の取り組みを指標化した行動計画策定を義務付けている。各市町村はこれから、国が示す指針やマニュアルに沿って、子育て世帯などヘニーズ調査を行い、行動計画策に乗り出す。行動計画づくりには、住民参加が盛り込まれているだけに、地域の実情に即した行動計画づくりが期待されている。
 子育て世帯のニーズに対応した支援活動という点で注目されるのが、子育て中の母親などが発足させた子育て支援のNPO団体だ。育児サークルがネットワーク化したり、子育て情報誌づくりの事業が発展していったりと、発足の経緯は様々。だが、子育て期に自分たちが体験した孤立感、不安感などを次の世代には味合わせたくないとの思いから活動した結果として、行政サービスが不十分な分野へ対応している点に特徴があるようだ。その典型例としては、ゼロ歳から三歳くらいまでの親子のたまり場づくり、ひろば活動が挙げられる。
 母親たちが設立し、親子のたまり場「おやこの広場びーのびーの」を運営するNPO団体として有名なのが、「特定非営利活動法人びーのびーの(奥山千鶴子代表)」。約三年前、横浜市港北区の商店街の一画に未就園児の親子のためのひろばを開設した。
 横浜市には児童館がないため、未就園児親子が情報交換をしたり、仲間づくりをしたり、子どもを遊ばせる場を必要だと思う親たちが大勢いた。その中の一人だった奥山代表は、「武蔵野市立〇一二三吉祥寺」を知り、同じものを地域で作ろうと呼びかけてみた。その後、呼びかけ賛同した母親たちや地域の支援者らでNPO法人を設立し、ひろばの開設に至った。
 ひろば開設にあたっては、場所探しに一苦労。ベビーカーを押して集まってくる親たちが多いと予測されるだけに、いくら賃貸料が安くても交通の便の悪い場所は難しい。小さい子どもと親があつまりくつろげるような賃貸物件はなかなか見つからず、縁あって駅前商店街のスーパーだった空き店舗にたどりついたという。
 ひろばは、約二〇坪のフローリングのワンフロアだが、角には壁で区切られたキッチンスペースがあり、そこにはひろば全体が見渡せるように窓が設けられている。奥は赤ちゃんのためのスペースで、授乳もできるよう配慮。絵本の読み聞かせができる畳コーナーもあり、地域のボランティアが手作りしてくれた木製キッチンや、閉園した幼稚園から譲りうけたというピアノがおかれている。
 土日は基本的に閉館。利用するには、入会金(千円)や利用料(月二千円)を支払い会員登録する必要がある(今年度は、国の補助を受けることができた関係で昨年度より入会金等を減額している)。特別なプログラムを提供するわけではなく、親子が自由に来て、ひろばにあるおもちゃで遊んだり、絵本を読んだり、お茶を飲んでくつろいだり、他の親子とおしゃべりしたりして一日の数時間を過ごしてもらう場と考えられている。ボランティアスタッフも子育て中の母親が中心。このほかに、子育て経験のある子育てサポーターが相談事に応じてくれたり、学生ボランティアが手伝ってくれたり、専任アドバイザーとして大学教官らも支援している。
 当初は、ひろば事業とはどういうものか見当がつかなかった商店街の人たちも、実際の活動がスタートするにつれて好意的に受け止めるようになったという。ひろばに通ってくる親子と商店主らとの交流が生まれ、商店街の賑わいを演出するという効果を生み出した。商店街のお祭りにもびーのびーのが積極的に関わり、会員親子らの多数集まることにもなった。
 びーのびーのの活動は、商店街の中に子育て支援施設を設け、商店街の活性化につなげる先駆的な取り組みとして国も注目。経済産業省のコミュニティ施設活用商店街活性化事業のモデルともなった。また、常設型ひろばの必要性に対する認識も広まり、厚生労働省は平成十四年度から「つどいの広場」事業として予算化。全国各地で未就園児親子が集まり、情報交換したり、友達づくりをするひろばを設置するきっかけともなった。
 香川県でもこの三月、NPO法人わははネット(中橋恵美子代表)が、坂出市の商店街にたまり場「わはは・ひろば」をオープンした。国や自治体の補助を受けず、商店街の寄付や企業とのタイアップ事業で運営費を捻出するという、元気なNPOだ。
 わははネットは、県の育児情報誌「おやこDEわはは」を発刊したことからスタートしている。地元で出産を向かえることになった中橋代表だが、出産前まで他市にいた関係で、産婦人科や小児科などの最新情報が手に入らなかった。両親や親戚などの情報では、古くさく参考にならなかったという。子育てには地元の生の情報が重要であることに気づく。
 待っていても自分が望む育児情報誌はできないと考えた中橋代表は、まず、育児サークルを作った。育児サークルで、参加した親から情報を集め、そこから情報誌づくりにとりかかろうと考えた。その結果として、平成十年に誕生したのが「わははネット」。情報誌発行を目的に集まった母親たちのグループだ。情報誌づくりの準備として、サークルの会報誌を発行。一年ほどの準備期間を経て、平成十一年秋に、「おやこDEわはは」を発行した。
 情報誌創刊の背景には、「子どもを育てている間に何かを残したい」という中橋代表の思いもあった。「時間ができてから何かを作ろうとしても、子どもの年齢とともに関心も変わってくる。子育てのことを真剣に考えられるのは今しかないから、今の思いを込めた情報誌を作ろう」と考えたという。実際、子どもを連れて出生届を市役所に出しに行くと、窓口ロビーにはタバコの煙が立ちこめ、赤ちゃんのオムツ替えスペースもなく、子育て中の親への配慮が全くなされていない現実に遭遇し、その思いが一層強くなった。「赤ちゃんを連れている今だからこそ、今の大変な思いを声に出せる。今しかできない」という思いから、創刊号は誕生した。
 創刊号への反響は大きく、手にした親たちからたくさんの手紙やメールが届いたという。その多さに、情報誌を発行し続けることを決意した。
 中橋代表が驚いたのは、寄せられた手紙やメールの中には、「遊びにいける公園がないので、なんとかしてほしい」「子どもを殴ってしまったのだけれど、私は悪い母親でしょうか」などと、行政に対する要望や子育ての悩みがつづられていたこと。親たちは、どこに出してよいか分からない不満や意見を、わははネットにぶつけてきていた。
 そうした意見が集まってきたのは、ありのままの自分たちの姿をみて、親たちが安心してくれたためだと中橋代表らは考えている。創刊号が新聞やテレビで取り上げられる際には、子どもがよだれをたらしてまとわりつく姿もさらした。それは、「自分と同じ人たちが情報誌を作っているんだ」と思ってほしかったから。親たちは、「自分は小さい子どもがいて何もできないと思っているけれど、この人はこの本を作っている。私にも何かできるのではないか」と自信を取り戻したり、「この人に言ったら何かかなえてくれるかも」と信頼するようになったようだ。
 一人の母親の声だけであれば、行政でも取り上げてもらえないだろうが、たくさんの母親たちが意見を寄せてくれた。この「子育て当事者の声をしっかり行政に届けなくてはいけない」と考えた中橋代表は、NPOの法人格を取得。育児情報誌の取材として知事をインタビューするなど、積極的に行政とかかわり、子育て中の当事者の声を反映させる努力を行ってきた。
 NPO法人としては、育児サークルのネットワーク作りのために、定期的にリーダー交流会を開催。幼稚園や保育所の園長先生ら、地域子育て支援センターの職員、小児科医、産婦人科医などの子育て支援をする団体などと当事者とをつなぐ役割を果たしている。サークルを作りたいという母親たちを支援したり、県と共同でのイベント(「みんなで子どもを育てる県民会議」と、「全国マミーズサミット(地域情報誌の全国団体)in香川」の同時開催)も開いた。県が発行した子育て情報誌の企画・編集にも携わった。
 ユニークな取り組みとしては、父親にも子育ての苦労を体験してもらいたいと、「子連れ父ちゃんはじめてのお使い」と題してイベントを開催した。ジェンダー学習の一貫だが、二歳までの子どもを抱える父親に、高松市の一番の商店街で買い物と昼食をとってもらうという企画。父親たちは、男子トイレにオムツを替える場所がなくて戸惑ったり、ぐずる子どもにてこずったり、ベビーカーを押している横をすり抜ける自転車の速さに恐怖を感じたりといった体験をしたという。日ごろの母親の苦労を再認識しただけではなく、子育てに不親切な環境への関心も高まったようだ。
 これらの取り組みの延長線として、今回、ひろばを開設。親子が自由に来て、くつろげる空間が欲しいということで実現した。ボランティアの講師による「ビーズ教室」や「音楽ひろば」「英語で遊ぼう!」などの講座を開くほか、各種イベントも行われている。商店街の人たちにも「自分の地域の子ども」という視点を持ってもらえることを願っている。 (山田)
 
 
 
電話相談
福井県総合福祉相談所 吉田修次
 平成十二年の厚生労働省による育児相談の調査によると育児相談は全国の保育所の六四・六%が実施しています。そして、電話相談を実施している保育所は八一・二%、面接相談を実施しているのは八三・六%でありました。今回は電話相談について記載します。
 電話による相談体制はあらゆる分野で年々整備され、利用者も増えてきています。たとえば、精神保健福祉センター、児童相談所、女性相談所、ヤングテレホン、子ども一一〇番、いじめ一一〇番などがあります。保育所においても電話による相談が増えてきているのではないでしょうか。電話相談の効果や技術について記載します。
 
1 電話相談の効果
 電話相談は、面接相談とは異なる効果があるとされています。その効果とは次の四つが考えられます。
 一つ目は「気軽に相談できる」ことです。
 電話番号を押すだけで直ぐに相談が始められ、未知の相談担当者に会う不安や緊張がなく、気軽に相談できます。また、移動や身支度にかかる時間や経費が節約できます。そのため、いつでも、どこでも、相談したいときには相談ができるという便利さがあり、また、携帯電話からもできるため、現在の若い親の感覚にもマッチしています。
 二つめは「親近感がある」ことです。
 対面が苦手な人でも、機械に話しかけるのは抵抗がなく、息づかいまで聞こえる独特の親近感がありながら遠い関係にあることも利点になっています。
 三つめは「匿名性によるプライバシーが確保される」ことです。
 相談者に匿名の自由があり、電話をしている人が誰か分からないため、安心して本音で相談できます。
 四つ目は「主導権は相談者にある」ことです。
 電話相談は利用者が相談したいときに電話で相談ができるという相談者の意思で電話ができます。そして、安心して本音で話ができますが、相談担当者の対応が気に入らなければ、いつでも電話を切ることができるため、相談者主導の相談が可能となります。しかし、面接では、主導権を相談担当者が握っていることが多く、相談者は自由に振る舞えないため、相談の難しさがあります。
 
2 電話相談の技術
 基本的には面接相談と同じですが、相手が見えないことや、相談者の意思によって相談の始まりも終わることもできるなど、相談者にとってよい面もありますが、相談担当者にとって対応に難しい面があるため、以下のような特別な留意が必要です。
 〈話し方や音から相談者の心情や問題の切迫度を理解すること〉
 相手が見えないため、その表情・動作がわからず、相談担当者は全身をアンテナにして些細な情報でもキャッチする必要があります。背後から聞こえてくる音などから相談の緊急度を推察できる場合もあります。また、相談者の話し方や声の調子からも問題の深刻さをくみ取ることができます。逆に相談担当者は、話し方や声の調子によって相手は冷たく感じたり、また暖かく感じたりするなどがありますので、どのような印象を与えるかを考えておく必要があります。
 できるだけ温かく、穏やかな口調で対応することが必要です。
〈匿名性について配慮すること〉
 匿名であることが本音で相談することにつながりますので、住所や氏名を確認しないほうがよいでしょう。まずは、相談者の話を丁寧に聞くことから始めます。もし、問題を理解するために居住地域や年齢、職業などを聞く必要がある場合は、相談者にその理由を説明し、了解を得る必要があります。
 そうすれば、多くの相談者は了解してくれます。
 電話相談は匿名であるからこそ、家族間のトラブルや子どもへの否定的な感情を赤裸々に語ることができるのです。心の中に秘めていたものを相談することによって感情を放出し、感情の浄化ができて、自ら問題解決を図る場合も多くみられます。
〈傾聴をより重視すること〉
 電話相談は面接相談以上に傾聴が必要です。相談者の動作や表情を読み取れないだけに耳で聞き取ることしかできません。単純な応答や繰り返しの技法を摂り入れながら相談者に十分に話をしてもらいます。早くまとめて回答や指導をしなければいけないと思わないでください。
〈時間を制限すること〉
 相談を受けられる時間についてあらかじめ伝えておきます。相手が電話を切らないと相談を終わることは難しいのですが、次回の日時を約束して電話相談を終えることもできます。
 
3 電話で相談するということはどのような意味があるのか。
 ほかにも相談するところがあるのに、なぜ「ここ」へ電話をかけてきたのかを考えてみる必要があります。たとえば、子どもの病気の相談をしながら、本当は子どもとの関わり方を聴いてほしい場合は、すぐに医療機関を紹介することはよくないのです。相談者の真意がどこにあるかをキャッチすることが必要であります。
 なぜ、「いま」電話してきたのか。なぜ、「いま」でないといけないのか。必要となった時にいつでも電話をかけられるというのが電話相談の利点であるところから、「いま」電話をしたのは、「いま」相談が必要であるということでありますので、電話に出るときは、「いま」の重みを充分認識して話を聴く必要があります。
 なぜ見ず知らずの相談担当者に「そのような話」をするのか。相談者の話を聴いているうちにだんだんわかってくるものであり、どのような内容の電話でも誠心誠意聴くことが必要であります。
 相談者は話を聴いてもらっているうちに、自分自身なぜそのような話をしているかがわかってくるのです。
 以上三つの「なぜ」を念頭において、かかってきた電話に対応すれば、きっとよい援助ができると思います。
(児童相談課児童福祉司)
 
――訂正について――
 本誌七月号付録の「平成十五年度保育を高める全国研修大会実施要綱」の三頁、シンポジウムの提言者の中で、広瀬準一(山梨県 和泉愛児園長)を、広瀬一と訂正し、おわびいたします。







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