――シリーズ・保育研究(14)――
これからの情報公開と支援
現在の社会形態の変化
現在の経済形態を見てみると昔と比べて随分変化している。以前は大半が第一次産業の農業、漁業、林業が中心であった。この形態から見える社会は定住である。農村に生まれた子供はその地を離れず農業に従事し、四世代同居なども当然のようにあったわけである。高度経済成長期を見ると、第二次産業が主体の社会で、工業中心の社会であった。これから見える社会は移動から定住である。親子二世代、三世代同じ会社で従事ということも当然としてあったわけである。この二例を見ると、相談などがあった場合それを解決してくれる相手は、親や会社の同僚に見られるようにすぐそばに居たのである。では、現代の社会を見てみると、第三次産業のサービス業が中心の社会である。この形態から見えるものは定住の原理の崩壊である。この形態を表す言葉に「核家族」がある。しかし、今の核家族は「新核家族」である。つまり、以前は、核家族と言ってもおじいちゃん、おばあちゃんは近くに住んでいるというケースが主であったが、現在の核家族は、おじいちゃん、おばあちゃんが他府県に住んでいるというものに変化しているし、この傾向はこれからも更に進んでいくものと思われる。
社会形態の変化から必要とされる二つの支援内容
では定住の原理が無くなった社会を見てみると、地域コミュニティーが希薄になり、自分が何か相談事や悩み事があった場合、話を聞いてもらう相手がそばにいないというデメリットが発生してしまう。子育てに関わる部分になると尚更である。これを解消するために保育園や幼稚園、児童館、学校などが中心となった支援活動が重要になってくる。子育ての社会化とはこのような意味である。では支援する内容であるが、大きく分けると、「保育の専門分野」に関わるものと「他の専門分野」に関わるものの二通りがある。保育園の機能という観点から見てみると、全ての物事に対して万能選手という訳にはいかない。保育園自身もそれぞれの専門化とネットワークを形成する必要性が出てくる。逆に保育に対するノウハウはどの保育園でも蓄積されている訳であるから、それを大いに活用すべきである。
支援活動の手法
次にその具体的手法であるが、その一つは情報誌などを利用したものや子育て講演会や一時保育などの直接的なものとインターネットを利用した間接的なものがある。今後の課題として、全国的な発信を可能にするネット網の整備も重要である。親の年齢とネットユーザーは同世代だからである。その例として、園が位置する地域の施設情報を自園のHPで簡単に取り出せるシステム構成などがある。これには定期的な更新が必要になってくるものも出てくるが、これにより担当者同士の実質的で堅固な人的ネットワークが形成されることも期待される。又、同じシステムを持つ他市区町村の園と、相互に情報を取り出せるシステムを追加することより多様な情報を提供することができる。保育園で行っているサービスは基本的に移動することが出来ない。園から直接サービスを提供できる範囲はおのずと決まってくる。しかし、情報は移動させることが可能であり、ネットを利用すれば世界的な情報提供も可能である。実際当園にも、アメリカやオーストラリアからも相談などのメールが送られてくることもある。
支援活動をする対象者
上記の内容の本質的な部分は、子育ての社会化という言葉を我々が耳にした場合、往々にして在園児や入園希望園児の家庭に目が行ってしまいがちというのである。しかし、現在の利用者をないがしろにするわけではないが、我々保育者が目を向けなければならない対象の中には、入園は希望しないが「子育てに関する情報を知りたい」「愚痴を聞いてほしい」「何かアドバイスが欲しい」などといった人達がいるのではないであろうか。これらの人の中には「相談したくてもできない」「どこに聞いていいのかわからない」と言う意見が必ずあるはずである。そのような理由から、HPを只の宣伝媒体で終わらせていいのであろうか。これらの悩みのある人や、将来園に就職を希望する学生、行政、他園の園長や職員に対して、全世界レベルでの対応をする媒体としてインターネットを使用することを強く望むものである。
新たな情報公開
この話は、「情報公開」にもリンクするものである。平成十年四月一日に児童福祉法が改正施行され、それまでは行政が入園する保育園を決定する措置制から、利用者(親)が保育園を選択できるものへと変更された。これに伴い、市町村や全ての保育園には園の情報を公開することが義務付けられた。この情報が、親が自分の考えに合った保育園を選択する材料になるからである。
では、その公開する内容とはどんなものがあるか。制度が変わって五年が経ち、実感するのは、保育時間や休園日、給食の有無や利用料などの利用者としての親の視点から見た情報公開が中心となり、子供の視点から見た情報公開で言えば保育士の数や設備のみになっているのではないであろうか。しかし、これから重要視されるのは、子供の視点から見た情報公開、具体的に言うと「保育内容における情報公開」であると言える。当然利用者としての親の視点に立った公開は絶対必要であるが、もっと子供の視点に立ったものも公開していくべきであると考えられる。それに加え、在園児の親や、入園希望者のみを対象とする情報公開からそれ以外の人も含めた情報公開へとシフトすべき時期に来ていると言える。
情報公開における子育て支援
「保育の専門性とは」と質問された場合、的確な説明が難しい。お父さん、お母さんが毎日家庭で保育しても構わない。おじいちゃん、おばあちゃんに至っては保育の先輩であると言える。しかし、少子化や核家族化によって子どもを取り巻く環境の変化によって、保育の専門的知識が求められてきた。私が考える「専門性」とは、長年のノウハウの蓄積により、「子供一人一人の未来を予測し、それをより良い方向に変更する力」であると考えている。これと同じように、「子育て支援」という言葉を耳にすることも多い。しかし、「子育て支援」について説明を求められた場合、多くの人は「子育て講演会」「情報誌」「一時保育」などの答えをするのではないであろうか。これらの一連の言葉は、「子育て支援」の手法の説明であって具体的内容の説明ではない。この言葉の本来の意味は、就労の支援と「親の育児能力を向上させる支援」ということである。子育てには当然基礎知識も必要であるし、乳児期にいたってはある程度のマニュアルの部分もある。特に最近になって感じることは、大人のコミュニケーション能力の低下である。これらの状況を正しく把握し、それぞれのニーズに合わせて公開していくことが今後さらに重要になってくると考えられる。
これからの支援手法
今まで、重要視される支援活動と内容について書いたが、この手法の発展の一つとして、インターネット網を利用したライブカメラによる映像配信が上げられる。実際当園がライブカメラの本格運営を始めて、四か月が経過した。多くのマスコミにも取り上げられ、私が当初想像していたよりもはるかに反響が大きく大変驚いている。しかし、このライブカメラについても、ただ利用者に安心してもらう為だけに設置するのでは全く意味がないと考えられる。目新しさや他園との差別化といった意味合いでこのシステムを構築したわけでもない。ではこのシステムを設置運営し始めた理由には以下の三点が挙げられる。
第一点は、社会変化における子育て不安の解消である。お父さんお母さんは近くで気軽に子育て相談できる人が減り、それが多くの不安を招くことにもなり、それが波及し他の精神的、肉体的な問題を実際引き起こすケースも多い。
二点目は、「新核家族」の形態である。他府県に住むおじいちゃん、おばあちゃんや親戚の方などは子供の成長を絶えず見守ることができない。単身赴任の場合もこれに関連する部分である。これにより、保育園で行事などがあった場合、参加しにくくなってしまう。近県ならまだしも遠距離になると尚更である。仕事を一日休むなどでは対応しきれない部分もあるであろう。又、車椅子生活などをしている場合、尚難しくなってしまう。これに関することで期待の部分もあり、おじいちゃん、おばあちゃんが病気などで寝たきりや病院生活を余儀なくされた場合など、このシステムを利用することによって早期回復が望めるようになればとの思いもある。
三点目は保育園で働くスタッフが、よりいっそう自分の仕事に対する姿勢を強固なものにするという部分である。よく間違った解決をされることがあるが、それは管理の部分であるという点である。具体的には、保育士を管理するために導入したのであろうと言われることも度々あるが、このような気持ちで設置した気持ちは全く無い。つまり、このシステムを使う人間の中には当然保育士も入るのである。休暇中の保育士が気になる子供の状態を確認したり天候状態などを事前に知ることからよりいっそう自分の仕事の重要性や役割などを自覚することも期待されるのである。
上記三点が主な理由であるが、これとは全く別の理由がある。それは、保育内容における新たな情報公開である。支援の定義は先に書いたがこの部分を向上させるためにありのままの子供の姿をいつでも目で見える形で提供することが重要である。これらの情報を提供するアイテムとして家庭での保育の参考になればと考えての導入である。このシステムを「子育て支援ネットワークシステム」と名付けた理由はここにある。しかし、当然批判的な話も耳に入ってくることがある。その理由として「そんなものを設置すると、親が働かないようになる」などといったものである。保育園の機能やノウハウをフルに活用し、本当の意味での子育て支援をすることが現代社会に強く求められていることを再認識する必要性を強く感じる。
(子育て支援部会 川崎)
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保育総合研究会事務局
太田象
今、求められているのは地方分権の推進とともに、国・地方を通じた行財政構造改革であり、交付税化や税財源の移譲を契機にサービス・事業を見直すことである。
六月後半に策定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」をみてみる。
基本方針では、「「国と地方」の改革」として、「事務事業及び国庫補助負担事業のあり方の抜本的な見直しに取り組むとともに、地方分権の理念に沿って、国の関与を縮小し、税源移譲等により地方税の充実を図ることで、歳入・歳出両面での地方の自由度を高める。」とし、「地方が自らの支出を自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やし、真に住民に必要なサービスを地方自らの責任で自主的、効率的に選択する幅を拡大する。」としている。
この基本方針では、「望ましい姿」として、地方の一般財源(地方税、地方贈与税、地方特例交付金、地方交付税)の割合の引き上げ、さらに、一般財源の構成にも言及、一般財源に占める地方税の割合を引き上げることとしている。
交付税額の抑制が「地方歳出の徹底した見直し」という手段に限定された記述となっている点は釈然としないものが残るものの、地方の行財政の自律性の確保という方向性に沿ったものであるといえる。
具体的な改造工程としては、「国庫補助負担金については、広範な検討を更に進め、概ね四兆円程度を目途に廃止、縮減等の改革を行う。」とされており、「国庫補助負担金等整理合理化方針」というものが掲げられている。問題は、そこからである。この整理合理化方針には、その一項目として「新しい児童育成のための体制の整備」が盛り込まれているが、その内容は、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の設置を可能とする」等となっている。
何故、国庫補助負担金の整理合理化方針において、幼保の一元化のような方向性が打ち出されるのであろうか。何故、国庫補助負担金の整理合理化と幼保の一元化が関係するというのであろうか。
○「ほいくの両極」についてのご感想、ご意見等がございましたら、
E-mail: hoiku@jobs.co.jpまで。
(1)「プール熱」大流行の恐れ
日経・15・7・4
高熱に加え、のどの痛みや結膜炎を伴う「咽頭結膜熱」が流行している。患者は幼児や小学生が中心で例年六月ごろから増え始めるが、今年はすでに昨年のピークを超え、過去十年間で最多。プールでの感染もあるため「プール熱」とも呼ばれ、夏本番を控え、さらに増加する恐れがある。(以下略)
(2)予防としては、感染者との接触を避け、うがいや手指の消毒を励行。消毒法は、手指に対しては流水と石鹸による手洗い、および九〇%エタノール、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用いる。プールを介しての流行に対しては、水泳後のシャワーなど一般的な予防方法の励行が大切だが、ときにはプールを一時的に閉鎖する必要もある。
(感染症発生動向調査週報より抜粋)
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