――「食育」をすすめる実践活動(7)――
食育を通しての望ましい食習慣づくり
仙台市向山保育所栄養士 高橋由紀子
《はじめに》
仙台市には、公立保育所と民間保育園が一緒に活動する仙台市保育所連合会があります。その中の私たち栄養士が中心となる給食会研究委員会は、一九八三年に会を発足以来、毎年、子どもの食事についての研究に取り組んできました。
豊(飽)食といわれる現代では、自ら調理しなくても食べたいものが簡単に入手でき、安易に嗜好品で空腹を満たすこともめずらしいことではなくなってきています。「健康日本21」の中では《健康長寿》がさけばれており、幼児期からの食習慣を大切にし、《食》への関心を高めていくことは言うまでもなく重要であると思われます。
子どもたちは、自ら望ましい食事を選択することが難しく、大人の援助が必要です。これまでの研究会の結果では、「子どもの野菜嫌い」や「食事のあり方にあまり関心のない保護者の存在」などの問題があきらかになっています。子ども自身が望ましい食習慣や食行動を身につけるために、子どもを含む、その家族・家庭に対して影響を与えていく食育が必要であると考え、次の事について取組んできました。
・四、五歳児への食育の取り組みと食育事例集の作成
・リーフレットを通しての家庭への啓蒙活動
・より効果的な食育を実践するための食育年間計画の作成
《方法及び内容》
1、四〜五歳児への食育の取組みと食育事例集の作成
〈取組み期間:平成十三年五月〜平成十四年三月〉
子どもたちへの食育を通して、その家庭にまで影響を与えることができるのは言葉や理解の面で四、五歳児であると考え、委員のいる十三か所の保育所(園)で食育に取組みました。
内容としては、第一には清潔の大切さを知らせるために、ヨードでんぷん反応を利用しての手洗い実験、紙芝居やぺープサート、絵本等を使用した「手洗い指導」「ばい菌の話」をしました。第二には食べることの大切さを知らせるために、紙芝居やぺープサート、絵本、エプロンシアターを利用した「食べ物と体の関係の話」「うんこについての話」をしました。第三には食材に興味関心を持たせ、食べることへの意欲につなげるために、実際に食材をさわらせたり、臭いをかがせたり、魚をおろすところを見せたりしました。また実際に子どもたちが調理をする、芋煮会、カレーパーティー、お好み焼きパーティー、クッキー作り等の「調理保育」がありました。その結果、日頃あまり手洗いに熱心ではない子どもたちが、指導後はこまめに手洗いをしている姿が見られました。そして食べることに積極的でなかった子どもが調理保育の時には目を輝かせ、それ以来、苦手な食品にも挑戦する姿等が見られました。保護者からは積極的に、メニューの作り方について質問されたり、「子どもが『緑の野菜も食べなければいけない』と言っていた」等が報告されました。これまでに比べて子どもたちが食事に関心をもってきていると感じられました。これらのことから、私たちの「食べることは楽しい」といった食育のねらいが子どもたちに影響を与えてきているのではないかと考えます。
また食育事例集に、実際に使用した教材及びその活用の仕方、手法、評価、反省などを具体的に記録したことによって、食育への取組みに悩んでいる各現場の栄養士にとって参考になったと思います。今まで書面の整理が十分ではなかったので、改めて記録の大切さを確認しました。
2、リーフレットを通しての家庭への啓蒙活動
〈取組み期間:平成十四年三月、平成十四年八月〜平成十五年三月〉
「家庭で子どもと一緒に楽しんでクッキングしてもらいたい、そしてそのことを通して家庭で家族みんなで食に関心をもってほしい」という考えから、家庭向けのリーフレットを二回作成し、仙台市内の公立保育所(四九か所)、民間保育園(四七か所)の全家庭約八千世帯への配布を行いました。
一回目は、〈たべるってたのしい〉と題して(1)楽しく食べるための食事の工夫、(2)子どもたちができるお手伝いの内容、(3)子どもと一緒にできる料理メニューを記載しました。二回目は〈楽しくつくろう 旬クッキング〉と題して、子どもと一緒に楽しく作ることができる、(1)旬の素材を使った季節の料理、(2)由来も一緒に載せた行事食、郷土料理を記載しました。
二回目については、各家庭で活用してもらえる内容にするために、平成十四年八月〜平成十五年一月までの間、委員のいる十三か所の保育所(園)で五回にわたり一枚ずつのリーフレットを配布し、活用状況のアンケートを取りました。配布する際にはリーフレットの形式を活用しやすい料理カード式に工夫しました。
アンケートの結果としては、残念ながら回収率が平均二七・七%と低く、実際に子どもと一緒に調理をした家庭はもっと低い数字になってしまいました。作らなかった理由としては、「忙しい」「作り手が食材を嫌う」等があったのですが、作らなかった家庭でも「これから機会を見て作ってみたい」という回答がありました。作ってみた家庭では、概ね好評で、「子どもたちも一緒に作ったメニューはよく食べていた」と回答がありました。また、由来については子どもに話して聞かせるより、保護者の方が勉強になったと回答してきた家庭が多かったようです。そして保護者が求めているものは、もっと手軽に作れるメニューであるということがわかりました。これからはこの結果を参考にして研究を続けていきたいと考えています。伝統的な行事料理や郷土料理の内容が、保護者にとって難しいと思われたようでしたが、次世代に伝えたい内容でもあるので、今後も機会あるごとに啓蒙したいと考えています。
<食育全体目標>
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保育所食育年間計画(5歳児)
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3、より効果的な食育を実践するための食育年間計画の作成
〈取組み期間:平成十四年五月〜平成十五年三月〉
食育年間計画、食育全体目標の作成にあたり、これまでの実践、及び話し合いの結果、四、五歳児が中心であった食育を低年齢児まで対象を拡大すること。また、単発的に実施してきた食育を、ゼロ歳児から五歳児まで系統的に実施し、より効果があがるようにと考えました。
この計画表を基にして、各所(園)の栄養士が、食育内容を具体的にかつ効果的に子どもたちに実施していって欲しいと思います。
《まとめ》
保育の関わりの中で保育士と連携をとりながら、栄養士が直接子どもたちに食育を実践したことで、子どもたちの中に「食と健康に対する関心」が少しずつ高まってきていると思われます。
また、二年間の実践研究の中から、食育年間計画表が作成できたことは、各所(園)において栄養士が食育を実施しやすくなったと考えています。今後、計画に沿った食育に取り組むことによって、子どもたちの中に「食と健康に対する関心」が育って、食事の大切さが分かり、より楽しいものになっていくものと考えます。そして、子どもたちが保育所で経験したことを家庭で話題提供することを通して、「食と健康に対する関心」を家族が共有していってほしいと思います。
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