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☆ほいくの両極☆(70)
交付税化に思う(2)
太田象
 今の時代、交付税化は何を意味するのか。
 筆者は、交付税化にしろ、税財源の移譲にしろ、これが、行政が行うべきサービス、事業の範囲、量を厳しく見なおす重要な契機である点に注目する。
 先の経済財政諮問会議では、国と地方の税財政改革で厳しい議論が闘わされたと聞く。
 財源の移譲を抜きにして分権の推進はありえないのは当然である。が、同時に、財源を国に依存しようが、地方が握ろうが、今までと同じボリュームでサービス、事業を提供していたのでは、引き続き大きな負債を後世代に向けて生み出し続けることになるのも、また事実である。国が借金を抱えようが、地方が借金を抱えようが、最終的に国民が負担することにかわりはない。
 今、必要なのは分権の推進とともに、国、地方を通じた行財政構造改革あり、その一つの営みとして、交付税化や税財源の移譲を通じて、サービス、事業を見直すことが大事であるといえるのではないだろうか。
 そうした観点にたてば、先の経済財政諮問会議での税財源移譲問題を巡る激論は、既存のサービスを「切る」権限、判断、責任を国が負うか、地方が負うか、という問題と見えなくもない。その意味で、交付税化、税財源の移譲に伴い、対応する(対応関係にはないというのが筋のものもあるが)サービス、事業の範囲、規模に対して、現状通り一〇〇%の金額で移譲がなされない、というのは、ありうべきことだと思う。
 仮に国から地方への移譲に伴って、サービス、事業の見直しを迫られることなく、その後の各地方公共団体の毎年度の地方の予算編成過程等における見直し作業にこれが委ねられるとすれば、これは個々の地方公共団体にとってかえって大きな負担であり、なかなか縮減を実現できるものではないだろう。結果的に地方公共団体を政治的にも財政的にも窮地に陥れることにもなりかねない。
 もちろん、「切る」ことも含めて、「入るを量りて出ずるを制する」のが地方自治、自主財政の筋であるというのであれば、これは正論であって反論の余地はない。しかし、将来的な国民負担の増大を抑制するという点からみた場合に、それが結果的に良い結果を及ぼすものなのだろうか。
 
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お知らせ
2003年日本保育協会青年部北信越5県ブロック会議(金沢)のお知らせ
テーマ 「次世代育成支援を考える」
分科会 (パネルディスカッション)
○システム分科会「次世代育成支援施策システムの国イメージと市町村イメージ」
○支援内容検討分科会「支援施策で求められている事と保育園でやるべき方向性」
◎全体会(パネラー全員)
「現場から発信すべき意見と保育内容」
主催 日本保育協会北信越各県支部青年部
主管 日本保育協会石川県支部青年部
日時 平成十五年九月五日(金)〜六日(土)
会費 一施設一万円で複数の方が参加可能。
(会員以外は一人一万二千円)
申込先・問合せ 日本保育協会石川県支部事務局
青年部ブロック会議係(古田・井上)
TEL〇七六(二二四)一二一二
〆切 平成十五年七月二五日(金)
 
 
 
保育所や幼稚園で雇用創出事業
 政府は雇用対策の一環として、平成十三年度補正予算に「緊急地域雇用創出特別交付金」約三五〇〇億円を計上した。平成十六年度までの約三年間、都道府県や市町村が地域のニーズを踏まえた事業を企画し、民間企業やNPOなどを活用して雇用を生み出す取り組みだ。現在、各都道府県は人口規模などに応じで配分された同交付金で基金を造成し、都道府県自らあるいは市町村において緊急かつ臨時的な雇用対策事業を展開している。
 この中には、幼稚園や保育所などを活用した事業も含まれている。県レベルで私立幼稚園(団体を含む)に委託・実施している雇用対策事業としては、長期休業中の預かり保育事業や、子育て支援事業、社会人などを活用した特色教育事業などがある。失業者を教育補助者として雇用し、幼稚園の活動の充実につなげている。保育関係では、県レベルの取り組みはほとんどないものの、市町村レベルで障害児保育や延長保育などの補助員として、緊急地域雇用創出事業を活用している。県レベルでの特徴的な取り組みを拾ってみた。
 長崎県では、「緊急地域雇用創出特別交付金事業(私立幼稚園預かり保育補助員等活用事業)」として、平成十五年度は一億五〇〇〇万円の予算を確保している。県内各私立幼稚園への委託事業として実施。預かり保育の補助員をハローワークを通して雇用した場合に補助を行う。対象となる事業は、預かり保育だけに限定せず、ティーム保育やスクールバスの保育補助なども含めている。前年度も一億九〇〇〇万円を予算計上し、同じ趣旨の事業を展開。各私立幼稚園では預かり保育の補助員やクラス担任の教育補助員として雇用したケースが多かったという。
 神奈川県は、「私立幼稚園実践教育等推進事業」として、平成十五年度は一億六〇〇〇万円の予算を確保。県内各地区の私立幼稚園団体に委託して実施している。(1)生活技術(2)子育て支援(3)安全管理―などで特定の技術を持ち、失業状態にある人を私立幼稚園団体が調査員として雇用。幼稚園で実際に特色ある教育を展開しながら、調査するというものだ。今年度は百十五人の雇用を見込んでいる。
 具体的には、生活技術については、料理や清掃、木工、塗装、言葉遣いなどの体験活動に効果的に取り組むにはどうすればいいか、それらの専門技術を持つ人が各私立幼稚園で指導にあたりながら調査する。子育て支援については、子育て経験が乏しい若い母親などへの悩み事相談に応じる態勢を整えるにはどうすればいいかを、子育て経験者などが相談に対応する中で調査研究する。
 鹿児島県では、「私立幼稚園すこやか子育てプラン調査研究事業」として、平成十五年度は九八○○万円の予算を確保している。県私立幼稚園協会への委託事業としている。
 子育ての経験があり、関連する資格を持っている人などを子育てサポーターとして同協会が雇用し、各私立幼稚園に派遣。子育てサポーターは各幼稚園で子育て相談などに携わったり、子育てサークルの育成を支援し、その結果を事例集としてまとめる。昨年度は九十人の子育てサポーターを雇用し、百園以上の私立幼稚園で子育て支援事業を実施した。
 昨年度の活動をまとめた子育て相談事例集によると、言葉の遅れがあったり、なかなか園生活になじめない満三歳児などを子育てサポーターが担当したり、あるいはクラス担任が個別に対応し資格を持つ子育てサポーターがクラスの保育を担当するなどの細やかな保育を実施し、園児が落ち着いていったことなどが紹介されている。また、未就園児親子を対象とした親子教室を子育てサポーターが担当し、親から離れて遊びに参加するということがなかなかできない二歳児らが、回数を重ねるうちに楽しんで遊べるようになる様子も紹介されている。
 茨城県は、「私立幼稚園安心子育て支援事業」として、平成十五年度は七〇〇〇万円の予算を確保している。事業内容は「私立幼稚園預かり保育補助員配置事業」「私立幼稚園子育て支援相談員配置事業」の二本立て。延百七十八人の雇用を見込んでいる。
 預かり保育補助員配置事業は、早朝や土日、長期休業中に預かり保育を実施する私立幼稚園に対して、補助員の雇用を支援し、預かり保育のあり方について調査研究するもの。子育て支援相談員配置事業は、子育て相談員としての雇用を支援する。子育て相談員は、保護者への教育・育児相談を行うほか、未就園児親子への遊び場の提供、幼児教育雑誌の作成・配布などに取り組む。これらの活動を通して、幼稚園の教育活動と関連した子育て支援のあり方を調査研究する。
 宮崎県は、「私立幼稚園特色教育推進事業」として、平成十五年度は七八〇○万円を確保している。各私立幼稚園への委託事業として実施。子育てに意欲のある人や資格を持つ人を保育補助者として私立幼稚園が雇用し、英会話や読み聞かせ、ティーム保育など、各私立幼稚園で創意工夫を凝らした教育実践を研究してもらう。今年度は延二百人の雇用を見込んでいる。昨年度も同じ趣旨の事業を実施し、百八十四人を雇用。私立幼稚園が様々に特色ある教育に取り組んだ。
 宮城県は、「私立教育活動補助事業」として平成十五年度は二六〇〇万円の予算を確保している。私立幼稚園で預かり保育や子育て支援活動、満三歳児の受け入れなど、特色ある教育を行う場合の教育補助員の雇用に活用する。私立幼稚園連合会への委託事業としている。
 対象となる教育活動のメニューは、「預かり保育」「子育て支援」「特色教育」の三種類。預かり保育は、原則として幼稚園の長期休業中(夏休み、冬休みなど)に実施する場合の教育補助員を雇用する場合に補助する。子育て支援活動では、未就園の親子に週一回程度幼稚園に来てもらい、体験活動を提供したり、子育て不安のある親に対する悩み事相談に応じる人をアドバイザーとして雇用した場合に補助する。特色教育では、芋ほりやキャンプなどの野外活動に取り組んだり、茶道や華道、書道などの伝統文化に触れたり、英語などに接する活動を行う時の教育補助員を雇用した場合に補助する。百十三人程度の雇用を見込んでいる。
 京都府は「私立幼稚園補助教員設置事業」として、平成十五年度には二三〇〇万円を確保している。預かり保育や満三歳児保育、入園当初など、園児に手のかかる時期に補助教員を配置し、園児の生活指導に役立ててもらう。一園二十日程度、計一〇〇人(園)の雇用を予定している。
 大阪府は、「私立幼稚園の就園促進に関する実態調査」として、平成十五年度六〇〇万円を計上している。失業者を調査員として雇用し、満三歳児保育や子育て支援事業など、保護者が私立幼稚園に対してどのようなニーズを持っているのかを調査する。
 福島県は、平成十五年度予算で一七〇〇万円を計上し、「私立幼稚園情報化推進調査研究事業」「私立幼稚園障害児教育調査研究事業」「私立幼稚園満三歳児教育調査研究事業」を展開している。
 情報化推進事業は、情報分野に専門知識を有する人を雇用して、私立幼稚園教員のパソコン能力の向上を図るとともに、幼稚園教育にふさわしい情報機器の活用のあり方やソフト開発などについて研究する。障害児教育研究事業は、幼稚園での障害児の受け入れ態勢のあり方を研究する。これらの二事業は県私立幼稚園協会への委託事業。満三歳児教育調査研究事業は学校法人へ委託し、私立幼稚園における満三歳児の受け入れ態勢のあり方について研究する。
 このほか、青森県や福井県、山梨県、長野県、岐阜県、愛知県、山口県、愛媛県、福岡県、沖縄県などでは、私立幼稚園が長期休業期間中に預かり保育を実施する際の教育補助員の雇用を中心として事業を展開。北海道、愛知県、愛媛県では、私立幼稚園の子育て支援事業に雇用対策事業を活用。富山県や奈良県、香川県では、私立幼稚園で特色ある教育を実施したり、配慮が必要な子どもを受け入れるための教育補助員の雇用に事業を活用している。
 緊急地域雇用創出特別交付金は、既に国庫補助が行われている事業に対しては活用できないため、県レベルで保育事業に活用している例はほとんどない。ただ、例えば兵庫県では、「まちの子育てひろば推進員の配置」事業として、平成十五年度は約二億八○○○万円の予算を組むなど、子育て支援事業として活用されている。同事業では、公民館や児童館、保育所、助産院、集会所などのスペースに親子が気軽に集まれる「まちの子子育てひろば」を開設。ひろばで、県保育協会や県社会福祉協議会が雇用した推進員が巡回指導を行うと、ひろばは、親同士が子育て仲間を作ったり、子育て相談に応じたり、子育て情報を提供する場となる。推進員は、仲間作りを支援したり、相談に応じることになる。
 市町村レベルでも、緊急地域雇用創出事業として公私立幼稚園での預かり保育や特色教育が展開され、教育補助員が雇用されている。例えば、県レベルで私立幼稚園を活用した雇用対策事業を行っていない東京都では、市区で私立幼稚園の預かり保育事業を活用して雇用対策を実施。東京都立川市では、在宅の子育て世帯を対象とした一時保育「子育て支援ほっと保育サービス」の保育者をこの事業で確保し、私立幼稚園を活用して展開するなど、地域に応じた事業が取り組まれている。
 保育関係でも、雇用対策事業を活用し乳児保育や一時保育、休日保育の要望に応えるために臨時保育士を確保している。
(山田)







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