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――保育所における子育て相談(7)――
カウンセリングの技術
仁愛女子短期大学 森俊之
 
はじめに
 
 人との関わりにおいて大切なことはテクニックではなく、相手を想う心です。どんなに会話術を訓練してすばらしいテクニックを身に付けていても、心がかよっていなければ表面的な会話になってしまいます。しかし、テクニックが人との関わりを高めることもまた事実です。ちょっとしたことに気をつけるだけで、話しやすい雰囲気をつくることができるものです。他者の相談に応じる方法論については、カウンセリングという形で研究されてきました。カウンセリングでは、まず相手の話を受容的に聴くということに重点がおかれます。今回は、カウンセラーがカウンセリング場面でおこなっているテクニックについて幾つかとりあげてみます。
 
相手の状態をミラーする
 
 まずは、姿勢や動作、話し方(声の調子、声量、速度など)などを、できるだけ相手に合わせてみましょう。早口でしゃべる人には早口で、小声の人には小さな声で、身振りの大きい人には大きな身振りをつけて話してみましょう。話をしている人は、自分の慣れ親しんだ雰囲気を感じ、リラックスしやすくなります。また、話を聴いている人も、話をしている相手の特徴をまねることによって、相手の世界に少しでも近づくことができるでしょう。長年連れ添ってきた仲の良い夫婦はどことなく似たような雰囲気をしており、顔つきまで似てくるとよくいわれますが、これはあながち間違いではありません。おそらく長年連れ添ううちに自然に相手の動作や雰囲気をお互いに合わせていっているのでしょう。
 
相手の状態をリードする
 
 相手の動作などにある程度自分を合わせることができたら、今度は少しずつ自分の行動などを変えてみましょう。たとえば、相手が興奮して息を切らせている場合、最初は同じように自分も興奮して話を合わせた後、少しずつ相手より呼吸をゆっくりにしてみましょう。そうすることで、相手の呼吸のペースもしだいに落ち着いてくるでしょう。このように、相手の状態をより望ましい状態に少しずつ導いて変えていくことも大切です。
 
身体サインで受容を示す
 
 私たちのコミュニケーションは必ずしも言語だけとは限りません。ノンバーバルコミュニケーションといってさまざまなことで意思を伝え合います。目で合図をするとか、背中で哀愁を物語るとか言いますが、おそらく誰しもが日常生活の中で自然に行っていることでしょう。「私はあなたの話をききますよ」というメッセージを伝えるためには、まずは相手ときちんと向かい合うことが大切です。話をしている相手が横を向いていれば、何か他のことに注意がいっているように感じられます。ときどき相手の目を見つめたり、ときどき上体を前に乗り出すことも、話を聴いてもらっているという感じをかもしだします。さらに適切なタイミングで「ウム、ウム」と相槌がうてるようであればOKです。
 
言語内容または問題の繰り返し(オウム返し)
 
 日常の会話ではあまりしないかもしれませんが、相手の話した言葉をそのまま、または内容を要約して、相手にオウム返ししてあげることも相談の場面ではとても効果的です。たとえば、「夫が何も相談にのってくれない」という妻に対して「ご主人が相談にのってくれないのですね」という具合です。話した内容を繰り返すことで、話をしている人は、「自分の話している内容がきちんと相手に伝わっている」という安心感を高めることができます。また、悩んでいる人はときとして気持ちが混乱して、自分の言っていることがわからなくなることもあります。そんなとき、ときどき話を聴いている人が、話を要約して繰り返してあげることで、話をしている人自身の思考の整理を促すことにもつながります。
 
感情を明瞭化する
 
 単に相手の言っている言葉を繰り返すだけでなく、「それはつらいですね」とかいうように、言葉のなかに含まれる相手の気持ちや感情を言葉として表現して相手に返してあげることで、共感してもらえているという感じが強まります。また、会話の行間をうまく読むことで会話が深まることもあります。たとえば、母親が保育士さんに向けて発することの多い「うちの子は保育園ではちゃんとやっているでしょうか」という言葉。もちろん、「大丈夫ですよ」とか、「○○が少し問題ですよ」と園での子どもの情報を正確に伝えることも大切です。一方で、「園ではちゃんとやっていますが、ご家庭で何か気にかかることでもありますか?」と声をかけることで、家庭での悩みの相談につながることもあります。
 
リフレイムする
 
 私たちの住んでいる客観的世界は一つです。しかし、私たちの心は主観的世界に住んでいて、その主観的世界は人それぞれに幾つも存在します。同じものを見ても、同じように感じるとは限りません。たとえば、ある音楽を聴いて素晴らしいと思う人もいれば、うるさいと思う人もいます。あるファッションを見て、カッコイイと感じる人もいれば、ダサイと感じる人もいます。ある悩みや問題を解決するとき、客観的な世界を変えることも一つの方法ですが、主観的な世界を変えること、すなわち物事の見方や考え方を変えることも一つの方法です。枠組みをかえて、物事を捉えなおす簡単な方法の一つは、文章の順序を入れかえてみることです。たとえば、「社会は一〇〇点だったけど、算数は五〇点だった」という文章と「算数は五〇点だったけど社会は一〇〇点だった」という文章を比較してみてください。どちらも客観的な事実は同じですが、後者の方が明るい希望がもてそうな感じがしませんか。もちろん、話し方や前後の文脈にも影響されますが、一般的に日本語の場合、後半にポジティブな内容をもってくることで文章全体が、ポジティブなイメージになります。「かけっこでがんばったけどビリになった」という子どもに対して「ビリになったけどがんばったんだね」というポジティブな言葉がけをすることで、子どもの気持ちに変化が生じるかもしれません。
 
沈黙に対応する
 
 日常の会話において、沈黙ほど気まずいものはありません。お互いに息苦しい感じを受け、何か話さなきゃと思い、とりあえず頭に思いついたことをしどろもどろになりながら話をしたという経験をお持ちの方も多いと思います。カウンセリングの過程でも、相手が沈黙し何も話をしないということが多々あります。カウンセリング場面において沈黙が生じたら、カウンセラーは下手に言葉を発したりしないで、静かに沈黙を守ります。カウンセリング場面における相談者の沈黙には様々な意味があります。相談者が自分の気持ちをかみしめている、言うべきかどうか迷っている、どのような言葉で表現しようか考えている、・・・などです。こんなときにカウンセラーが下手に言葉を発すると、相談者の思考を乱すことになりかねません。一方で、疲れてしんどくなっている、カウンセラーに無言の抵抗をしている、・・・など否定的な意味をもっていることもあります。もしも、しばらく沈黙を守っても、なお沈黙が続くようであれば、相手が最後に発した言葉を再度ゆっくりと繰り返してみます。カウンセラーの言葉に触発されて、再び話が始まることがあります。それでも、沈黙が続くようであれば、沈黙の原因と推察できることを言葉に出してみて相手の反応をみましょう。
 
おわりに
 
 いかがですか。いずれも難しいことではなく、対話の上手い人はごく自然に行っているものばかりです。もちろん、ここでとりあげたものは基本中の基本のものであり、カウンセリングの技法は他にもいろいろあります。ただ、最初に書いたとおり、カウンセリングで大切なのは技術ではなくて、いかに相手のことを理解しようとするかという気持ちです。あまり技術にしばられることなく、相手のことを想って話を聴いていたら、自然と前述のような聴き方になっていたというのが理想だと思います。
(助教授、臨床心理士)
 
 
 
平成14年版働く女性の実情〈ポイント〉
(厚生労働省発表 平成15年3月)
I 働く女性の状況
 
(1)平成十四年の女性の労働力率(十五歳以上人口に占める労働力人口の割合)は、前年に比べ○・七%ポイント低下の四八・五%と、平成九年以降引き続きの低下となった。
 また、未既婚別には、未婚者の労働力率が昭和六二年以来の低下となった。
(2)M字型カーブの底である三〇〜三四歳層の労働力率は六〇・三%と、初めて六〇%を超えた。二〇〜二四歳層の労働力率が一・九%ポイントと大幅に低下したことから、M字型カーブの左山は、初めて二〇〜二四歳層から二五〜二九歳層にシフトした。
(3)女性の就業者数は二五九四万人で、前年に比べ三五万人減少(一・三%減)した。就業者のうち雇用者数は二一六一万人で前年に比べ七万人減少したものの、男性の雇用者数の減少が大きかったため、雇用者総数に占める女性の割合は前年からさらに上昇し、四〇・五%になった。
(4)女性の完全失業率は、五・一%(男性五・五%)となり、男女とも過去最高となった。
(5)一般労働者の所定内給与額の男女間賃金格差は六六・五となり、長期的には緩やかな縮小傾向が続いている。
(6)女性の非農林業雇用者に占める短時間雇用者の割合がさらに上昇し、三九・七%となった。
 
II 多様な就業形態で働く労働者の意識と今後の課題
 
1 女性の働き方の変化
(1)M字型カーブの形状・構成は大きく変化
 女性の年齢階級別労働力率について未既婚別構成の変化をみると、未婚者では二〇〜三九歳層での増加が大きく、既婚者では四五歳以上層の増加が著しい。
 年齢階級別有業率を学歴別にみると、短大卒、大学・大学院卒の女性の有業率は三四歳までは他の学歴よりも高いもののM字型カーブの底となる三五〜三九歳層以降はより低くなっているが、これは有配偶者の有業率の影響を受けている。また、国際的には女性の学歴別労働力率は学歴とともに高くなるが、日本の場合高卒以上の労働力率は各国より低水準にあり、特に大学・大学院卒では格差が大きい。
 女性の年齢階級別就業者の割合の変化を従業上の地位別にみると、年代を追うにつれほとんどの年齢層で雇用者割合が上昇し、雇用者割合がM字型カーブを形成するようになり、かつ、M字の底が上昇している。雇用者でみたM字型カーブの内容を雇用形態の内訳別にみると、M字型の右山部分は主にパート・アルバイトにより支えられている。
(2)進展する就業形態、雇用形態の多様化
 就業形態・雇用形態の多様化の進展の状況を平成六年と平成十一年とで比較すると女性の方が男性よりも正社員割合の低下の度合いが大きく、その分パートタイム労働者等非正規社員の占める割合が上昇している。女性労働者の全体の就業構造を推計してみると、就業形態の多様化は主に女性を中心に進展している。
 
2 働く女性の意識と就業形態の多様化
(1)女性の職業に対する意識
 女性の職業に対する意識は積極化しており、大学への進学や学部選択においても職業を意識する姿勢が男性以上にみられる。
(2)就業形態の多様化と女性労働者
(1)正社員で働く女性の実情と意識
 正社員に占める女性割合は約三割であるが、管理職に占める女性の割合は最も多い係長相当職で七・七%とその登用は遅れている。業務内容をみても習熟度が高い仕事ほど男性のみに与えられる傾向があるが、外資系企業等においては女性の登用は進んでいる。女性正社員の意識をみると、配置・昇進や評価・処遇について不満を持つ者の割合が男性と比べて高い。女性の意欲を高め、就業継続につながるのは男女均等な職場であり、そのような職場の実現に努力する企業ほど経営業績が良いという関係がみられる。
(2)正社員以外の就業形態で働く女性の実情と意識
 正社員以外の就業形態のうちパートタイム労働者、派遣労働者、在宅就業者についてみると、それぞれの形態の女性割合はいずれも七割以上であり、またパートタイム労働者、在宅就業者では有配偶者の割合がともに七割以上と正社員や派遣労働者(ともに四割台)と比べて高い。就業分野をみると、いずれの就業形態でも相対的に高度な専門性を要する分野に就く者の割合が男性に比べて低くなっている。
 それぞれの就業形態の選択理由をみると、女性のパートタイム労働者では時間の融通性が重視されている一方、正社員として働けない等消極的理由も一定割合でみられる。こうした傾向は派遣労働者についても同様にみられるが、在宅就業者では消極的な選択理由は少なく、家庭と仕事を両立できる等の積極的理由から選択する者が多い。
 いずれの就業形態の女性労働者も全体的には職業生活全体に対する満足感は高いが、正社員も含め「教育訓練・能力開発のあり方」「評価・処遇のあり方」「賃金」等では共通して低い満足度となっている。パートタイム労働者の不満は賃金面が最も多く、仕事を任されている者により高い不満がみられるが、約七割がパートタイム労働での就業継続を希望している。また、約二割は「技術・技能・資格を活かした仕事」等、仕事のレベルアップを望んでおり、若年層ほど、また高学歴者ほどよりレベルの高い仕事を望む者の割合が高い。
 女性の派遣労働者では「身分・収入が不安定」で不満が最も多いが、職業能力を高めたいと思っている者の割合が男性に比べて高い。また、今後の就業希望としては約三割が派遣労働の継続を希望しているが、男性に比べ正社員希望者の割合が高くなっている。
 女性の在宅就業者が困っていることとして最も多くあげているのは「仕事の確保」(四九・四%)で、「能力・知識の不足」をあげる者が男性に比べて多い。今後の就業希望としては在宅就業の継続を希望する者が約九割に上るが、未婚女性では継続を迷っている者も約二割となっている。
 
3 女性の起業の動向
 
 女性の働き方の選択肢の一つとして、起業への関心が高まっているが、起業したい理由としては、「年齢に関係なく働きたい」、「好きな分野・興味のある分野で仕事をしたい」「自分の裁量で仕事をしたい」などが多く、このほか「女性の昇進・昇格に限界がある」や「女性に任される仕事の範囲に限界がある」などもみられる。
 起業に当たり、必要とされている支援は「起業準備、事業計画、資金調達等のノウハウを修得するためのセミナー」、次いで「起業準備、事業計画、資金調達に関する相談窓口」、「人材市場、技術等に関する情報提供」となっており、起業に必要な知識やノウハウの不足を補う機会が求められている。事業の発展段階に応じた専門家によるコンサルティングについては、既起業者、起業希望者ともニーズが高くなっており、起業に至った後も継続的な支援が必要とされている。
 
4 まとめ
 
 女性は男性と比べ多様な就業形態で働いているが、就業意識は積極的になっている。しかし、いずれの就業形態で働く女性も、より高度な業務に就くことや能力向上を希望する者が少なくないにもかかわらず、そうした希望が満たされていない点が問題である。
 少子高齢化の進展の中、従来にも増して女性も含め意欲と能力のある者がその持てる力を存分に発揮できるようにしていく必要があるが、このためには、企業には(1)ポジティブ・アクションを推進する等男女が均等に働ける職場づくりに向けた努力を行うこと(2)職業生活と家庭生活の両立支援策を充実すること、及び(3)労働者の職業能力向上への要望を把握し、その実現に協力することが求められ、行政には(1)企業に対してポジティブ・アクションを円滑に推進することができるような施策の展開(2)女性労働者に対してはどのようにすれば職業能力を高められるかについての情報やキャリアプランの策定に役立つような情報を提供すること、が期待されている。
 自ら起業をしようとする女性に対しては、起業時に必要な知識やノウハウの不足を補う機会の提供、人的ネットワークの不足を補うサービス等の支援の強化や、サービス、支援メニューについての情報の集約と提供体制も重要である。(図・表略)
 







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