日本財団 図書館


コラム
新任保育士は、いま・・・
 毎年、五月を過ぎると「保育園を辞めたい」という卒業生の話を耳にする。勤めてまだ一か月ほどしか経っていないにもかかわらず、こうした相談を受けることが、近年特に多くなった。
 先日、ある新聞に「辞めないで新入社員」と題する記事が掲載されていた。(「朝日新聞」二〇〇三年五月十三日付)それによると、「入社三年以内に辞める社員は高卒の半分、大卒の三割にのぼり」、各企業は危機感からこうした早期退職者を防ぐための、さまざまな取り組みを行っているといった内容である。
 もちろん、保育園は一般企業とはやや趣を異にする仕事であるため、こうしたケースがあてはまるということではないが、せっかく就職したにもかかわらず、早期に退職を選択しようとしている点では、共通する面がある。
 保育園を辞めたい代表的な理由については、次の意見が多い。
 まずよく耳にするのが、「自分が考えていた保育園のイメージと違っていた」という理由である。このケースではどう違っていたのかについて、ほとんど明確な回答が得られない場合が多い。あえて聞いてみると、「自分が考えていた保育園とどうしても合わない」ため、その温度差に戸惑っていることがその主たる原因になっていると言う。まだ仕事に慣れない状況のなかで「こんなはずではない」と自問し、「この仕事は自分に合っていないのでは?」と思い込み、結果的には「辞めたい」といった結論に達するのである。
 次に、指摘されるのが人間関係である。新任であるため、周囲のほとんどが先輩である職場で、どうかかわっていいのかわからず、「いつもストレスを感じている」と言う。また、職場にすでにできている「人間関係に解け込めない」悩みを訴えるケースも少なくない。現代の、どちらかと言うと希薄な人間関係のなかで育ってきた若い世代の新任保育士には、こうした保育の場における人間関係が、想像以上の難問として立ちはだかっているのかも知れない。
 この他、遊ぶ時間がない、仕事が思っていたよりつらい、といった「現代っ子」とも思える一面を理由にあげる者も見られる。
 先の新聞によると、早期退職を防ぐために企業のなかには、新入社員の保護者会を開いたり、仕事内容や社風を早い段階から知ってもらうため入社前に一〇〇時間の実施研修を行っている企業や「オフレコトーク会」と称して「仕事や人間関係の悩みを打ち明け」やすい雰囲気を作るなど、さまざまな取り組みが紹介されている。
 こうした各企業の取り組みに比べ、保育の場で行われている研修が新任保育士の理解と意欲がもてる内容になっているのか、また実際の仕事上生じる悩みや不安へのケアが十分であるのかどうか、などこれまでとは異なる対応が今日求められているように思える。
 保育ニーズが多様化し、その役割が期待される保育界にとって、新任保育士の早期退職は今後保育園を支える貴重な人材を失うことにもつながりかねないため、早急にその対策を講ずる必要があるのではないだろうか。
(須永)
 
 
 
――レポート――
幼稚園の窓から(36)
いろいろな人が集まる土曜日の幼稚園
片岡進
「月刊・私立幼稚園」 編集長
地域の人々のパフォーマンスの場にも
 公立学校の完全週休二日制が始まって二年目。私はたまたま公立小学校のすぐ隣に住んでいますので、その様子がよくわかります。土曜日に声が聞こえるのは運動会など年に二、三回。日曜日は、以前からあったサッカークラブや剣道教室が続いていますが、土曜日の学校は実にひっそりとしています。
 これに合わせて私立幼稚園もほとんどが完全週休二日制になりました。日々幼稚園を訪ね歩く身としては、少々寂しいとは思いながらも、資料の整理などふだんできない仕事もできるし、骨休めにもなるだろうと思っていました。ところが、一昨年より昨年、昨年より今年と、土曜日に取材に出かけることが増え、手帳を見ると、一年を通じて土曜日がほとんど埋まってしまいました。
 運動会、餅つき大会、発表会、作品展などの親子で参加する大きな行事はもちろん、父子工作教室、母子クッキングパーティなどの自由参加行事もほとんどが土曜活用です。子どもをダシに親を幼稚園に引っ張り出している格好です。学校五日制の是非をめぐる議論に、「子ども達が時間を持てあまし、人間関係や体験活動の点で無為な時間を過ごしてしまうのではないか」「親子揃って怠惰な週末を過ごしたのでは日本社会のパワーが低下する」という心配がありましたが、まさにその両方の心配事を幼稚園の土曜保育が解消している格好でもあります。
 自由登園ですから人数はそれほど多くない、と思ったら大間違い。引っ張り出されるのは親だけでなく、卒園した小学生もついつい引き寄せられています。ですからたとえ園児の登園が半分でも、親と小学生が加わって園内はいつもよりずっと大にぎわいです。
 茨城県のM園は『サタデープラン』と名づけて地域交流の場に土曜の幼稚園を提供しています。たとえば、地域に住んでいる演奏家グループのコンサート、中学校のブラスバンド、器用な卒園児保護者のマジックショー、面白い体験や研究をした人の講演会などです。何かを伝えたい、見てもらいたい、仲間をつくりたいと思っている人には絶好の場です。次々に出演申請が寄せられ、その面談と審査で園長は嬉しい悲鳴をあげていました。
 千葉県のK園は『サタデースクール』。こちらはつられてやって来た小学生に、本格的な技能を伝授しようというもので、いわば、“ジュニアカルチャースクール”のようなものです。たとえば囲碁講座、絵手紙作り、大工教室、太鼓演奏法、昆虫調査隊などで、どれもその道のプロが、プロ技を伝授するのです。同園の近くに住んでいる私も、「それは面白いですね」と相づちを打っているうちに、「小学生からの編集長養成講座」の講師を務めることになってしまいました。
 講座は一回二時間。三〜四回で完結するシリーズ制で、それが年間に二〜三回繰り返され、状況に応じてグレードアップコースが生まれていきます。年会費五千円を払った小学生は、自由に好きな講座を選んで参加することができます。この幼稚園からたくさんのプロが誕生する予感がしています。
 鹿児島県のY園は素朴でした。「そんな、いろいろ考えなくてもいいんですよ。子どもはとにかく幼稚園に来れば嬉しいのだから、土曜日もいつもと同じ幼稚園でいればいい」と園長はぶっきらぼうでした。でもその言葉どおり、自由登園でやってきた子どもは、いつもと同じように園庭に穴を掘り、虫を探して輝いていました。どうやら形はさまざまでも“土曜日の幼稚園”が子ども文化の新しいキーワードになりそうです。
 
職員の育成より施設長の育成
 教育の目的は人格の形成にある。人格性の核心が道徳性にあるのなら、道徳性を身につけることは、人格を形成することにつながる。
 道徳性にもいろいろあるが、どんな道徳性が大切かというと、言ったことは実行するという「有言実行」の気概を持つことであろう。
 人格にもいろいろある。自分の主張することが自分でも実行出来るという人は、一番素晴らしい。言っている内容が困難であればあるほど、実行力が問われることになる。
 口に出してはあまり言わないが、やることをきっちり出来る人はその次だ。実際に実行出来るのであれば自信をもって主張することも、立場によっては必要なこともある。大切な内容なら大いに主張してもらいたい。
 知識だけが先行し言うことは言うくせになかなか実行出来ない人は、当然のことながら次第に信用を失う。が、何も主張せず、また何もしようとしない人よりは、まだましである。
 どの社会でも、言うべきことを言いするべきことをしている人は、他者から尊敬され敬意をはらわれる。最近の政治の世界で顕著なのだが、言行不一致がいかに多く発生し、その結果いかに多くの信頼を裏切って来たか。
 さて、養護と教育が一体となった保育にたずさわる人達は、「先生」と呼ばれる立場にあることをもっと自覚すべきだと、最近特に思われてならない。
 保育関係者の中には、「先生」と呼ばれると親しみがもてないなどという訳の分からぬ理由から、「さん」付けにしようとか「ちゃん」付けで呼ぼうなどとやっている。自分自身を低次元に押しやって対等となることで親しみがわくといった考えは、実に姑息で短絡的だ。
 そもそも「教える」には、教える側と教えられる側という二者の関係が必ずある。教えてもらう側からすると、教える側に対する敬意があればこそ、その教えが聞き入れられるのだ。この関係は敬意に支えられているのだから、決して対立する関係ではない。「先生」と呼んでもらうことに誇りが持てるよう、またそのような存在になれるよう自律し正常な関係を保つようにしなければならないのに、それらを否定し、馴れ合いになることをさも良しとしているからこそ、教えられなければならないことが先送りにされるのだ。
 私の知っている園長の中には、これでも園長なのかと疑いたくなるくらい、行動力の乏しい園長が見られる。
 話し合ったことが守れない・敬語の使い方がおかしい・横柄・うまく連絡がとれず約束したはずの返事がもらえない・忙しいと言いながら時間にルーズ・研修会では知ったかぶりをする・研修に身が入らない・感性の大切さを口にしながら淡々としている人・・・など、「先生」と呼ばれるにはあまりにも粗末な人々が、この世界に紛れ込んでしまっている。
 それでも園に帰れば園長なのだろう。口を開けば職員を悪く言い、やたらと評価しなければならないと説くが、まずは自分の言行を的確に評価し改善出来るようでないと、これはもう噴飯ものだ。
 尊敬の対象として存在する園長でなければ、職員から真に信頼される園長とはなり得ない。逆に信頼される園長からの指導助言であればこそ、その内容は素直に聞き入れられるはずである。どんな内容でも聞き入れられるよう職員の資質を向上することも大切ではあるが、同時にと言うよりもそれ以前に、園長自身が我が身を客観的に評価し改善していくのだという資質を、何としても上げねばならない。
(夢井仁・フリーライター)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION