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―保育所における子育て相談(6)―
集団援助技術
福井県総合福祉相談所 天谷 泰公
 
はじめに
 子育て相談においては、前回説明したように個別的対応を基本としますが、複数の相談者を対象に集団活動を通じて援助するほうが有効な場合もあります。その主な方法として集団カウンセリング(心理療法)やグループワークなどがあります。これらの技法には活動内容や問題に対する焦点のあて方等いくつかの違いはありますが、集団の持っている特性を利用して相談者(保護者等)や児童の抱えている悩みや問題の解決を図り成長を促すことを目的としているのは共通しています。今回はこのうちグループワークについて取り上げます。
 
グループワークとは
 グループワークは、相談担当者を含む集団において、レクリエーションや季節行事あるいは調理等の具体的な活動を実施する過程で働く「相互作用」を利用して前述したような目的を達成するために実施されます。ここでいう「相互作用」とは、集団活動を行なっている時に起きる参加者相互の関係に基づく様々なやり取りやエピソードなどのことをいいます。例えばケーキ作りを例に考えてみますと、他の参加者と上手く協力しながら作っていたこと、普段は人前で見せない笑顔を活動中に見せたこと、それを他の参加者からほめられうれしかったこと、他の参加者のことも素直にほめることができたこと、等々様々なことがあります。その結果、少し自分に自信が持てるようになった、他人に素直に言葉かけができるようになった、子どもに接する時に少し余裕が持てるようになった等の変化が出てきたというようなことです。
 
グループワークの効果
 グループワークにおいては、担当者と保護者等の相談者との関係のほか、相談者同士の関係が重要な役割を果たしています。主な効果としては次のものがあります。
 (1)安定感の獲得:担当者や他の保護者等との相互交流により、集団への所属感を深め、安心感や他人から自分の存在を認められるという体験をすることで精神的な安定が得られます。
 (2)社会的規範の習得:主に児童や社会性に乏しい方の場合ですが、集団の中での相互交流を通じて自分自身、他人、社会等について認識し、それに基づく行動やその反応を体験することにより社会的規範の習得がより確実にできます。
 (3)対人関係の学習、現実検討力の向上:集団内で自分を表現したり他の相談者等との様々な接触や交流等により、対人関係のあり方や現実検討力が向上します。
 (4)その他、自立心や表現力の向上および興味の拡大等が考えられます。
 
グループワークの進め方
 グループワークは以下の順序で進められます。
1 集団を構成する
 子育て相談においてグループワークを実施する場合、相談者(保護者等)だけの集団にするのか、児童も含めた集団にするのかで構成は異なります。
 相談者だけの集団の場合は、担当者一人に子どもの同じような問題で悩んでいる六人から最大一〇人位の集団で、女性だけあるいは男性だけの構成というのが適当です。この場合、年齢構成はあまり考慮する必要はありません。また、子どもの問題は異なっていても、相談者の性別、年齢がほぼ同一という集団も考えられます。
 児童も含めた集団の場合は、児童の問題が同一の集団、例えば「言葉遅れ」で悩んでいる親子六組から最大一〇組とし、担当者は二人以上参加するというような構成が考えられます。この場合、児童の年齢はほぼ同一であるほうがよいと考えられます。また、担当者が一人しか参加できない場合は、集団の規模を五組以下程度に小さくする必要があります。どちらの場合でも、参加する相談者の性別、年齢を同一にすることにそれ程こだわる必要はありません。
2 活動計画を作る
 活動計画は参加者の興味・関心を中心に作成する必要があります。内容については、最低、次の三つの条件を満たしていればどのようなものでも構いません。(1)参加者各自が自主的に判断・選択する機会が与えられること。(2)グループとして共同作業を行なう機会を作ること。(3)各参加者に対して各々がリーダーシップを取るような機会を作ること。
 これらの条件を満たすようなプログラムになっていれば、例えば、季節行事でも、親子でお好み焼きを作るということでも、「言葉遅れ」についての話し合いでもいいわけです。「話し合い」でこれらの条件を満たすようなことができるのかと疑問に思われるかもしれませんが、途中にゲームを取り入れて参加者各自が主導的な役割をとれる機会を設けるような工夫をすればよいわけです。
 次に、活動場所ですが、前回説明したような個別面接における場所設定ほどの厳密さは必要ありませんが、少なくとも参加者だけで活動できて、関係者以外は出入りしない、他からは見えにくい、聞こえにくいという条件を満たせるよう考慮すべきです。もちろん、活動ができるだけの広さがあり必要な設備も整っているということが前提となります。
 また、活動時間ですが、一時間から二時間程度が適当と考えられます。活動内容と参加者の人数や年齢構成を考慮して時間を決定する必要があります。その場合、少し余裕を持って活動時間を決定した方がよいようです。さらに、幼児が参加する場合は、年齢を考えて午前にするか午後にするかという判断も必要です。
3 担当者のかかわり方(役割)
 担当者には、活動がスムーズに進んでいくようなかかわり方が求められます。プログラムの流れを念頭に置き、参加者の言動にも注意をしながら進行していきます。そして、前述の(1)から(3)までのことに配慮しつつ介入していくことも求められます。話し合いの場を効果的に活用し、参加者間の協力関係を構築したり、活動への参加意欲を高めたり、問題解決のヒントを与え解決方法を習得してもらったり等々のかかわりを適切にしていくことが必要です。また、場合によっては、参加者に活動の場から離れてもらうという決断をする必要もあります。例えば、活動中に情緒不安定となり継続して参加することが困難となった場合や活動中に様々なトラブルを起こして集団をかき乱すため個別的対応が必要と判断される場合などです。
 さらに、グループワークの前後にも重要な役割があります。活動前には、各参加者についての相談内容と興味や関心の把握およびグループワークに参加するための動機づけを高める(意欲や興味を持ってもらう)ような働きかけが求められます。活動後には、参加者と集団活動(集団構成も含む)についての評価を行い、活動計画や援助方法の再検討を行うことも必要です。同じような内容で継続して行うのか、それとも変更するか、参加者の構成は変えないのか変えるのか、活動を継続するとしたらどれくらいの期間が適当か等々について詳細に検討するということです。
 
終わりに:担当者に必要な条件
 最後に担当者に必要な条件について説明します。これまでの説明で理解できたかとは思いますが、グループワークを実施するうえで、担当者は大事な役割を果たしています。
 グループワークは対人関係の技術の一つですから、担当者は基本的資質として、程度の差はあっても、人間が好きで「こころ」のことに関心があり、しかも、自己理解があり精神的に安定していることが求められます。
 そのうえで、ケースワークの原理、心理療法(カウンセリング)の原理等を十分理解している必要があります。もちろん実践経験に基づく理解であった方が望ましいわけで、少なくとも個人を対象としたケースワークやカウンセリングを実施した経験があることは必要と考えられます。あるいはケースワークやカウンセリングの研修を継続して受けたことがあるというのでもいいかもしれません。
 そして、このような個人を対象とした経験があって、初めて、集団を対象とした活動が出来るようになります。グループワーク中は客観的な態度を保ちながら、参加者の言動と集団の動きに配慮しつつ、一方では、参加者と一緒に悩んだり楽しんだりできる人でいるということが可能になるわけです。







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