日本財団 図書館


―子ども家庭支援(3)―
母と子、父と子、家族で楽しむプログラム
〜一、二歳児親子のための「よちよちクラブ」(1)〜
こどもの城 保育研究開発部 橋本 聡子
 
同年齢の子を持つ家族が集う場
 [こどもの城]に遊びに来る一、二歳児向けのプログラム「よちよちクラブ」があります。母親と子ども、父親と子ども、さらに家族が一緒に子育てを楽しめる「遊びの場」を提供しようと考えたプログラムです。
 少子化対策の一環として、安心して子育てができる環境作りが求められています。価値観が多様化しているなかで、地縁、血縁を離れて、同じ年齢を持つ家族が共通のプログラムに集う場が「よちよちクラブ」です。多様な価値観を持った家族同士が触れ合うなかで、子育ての喜びを見いだし、自信をもって子育でに取り組もうという意欲が芽生えてくれればと考えて始めたプログラムです。
 
親子でいろいろな遊びを体験
 「よちよちクラブ」は、くつろいだ雰囲気のなかで親子遊びを楽しめるようにしています。親は「遊び」のなかから、子どもが育っていくさまざまな段階を見て取ることができます。どんなものに興味を持っているのか、ものを運んだり積み上げたりする動作の発達のようす、遊び方も子どもなりの工夫が加わり変わっていきます。子どもの育ち、親も育ち―それを実感することが、子育ての喜びにつながっていくのではないでしょうか。
 「よちよちクラブ」では、一つだけでなく、いくつかの親子遊びを取り上げています。そのなかから、それぞれに合った遊びを見つけてほしいと考えるからです。
 
広い保育室は、4つのコーナーに分けられています。
 
 子どもが好きな遊びってどんな遊び? どんな遊びに興味を持つの?―を親に知ってもらい、親子で一緒に遊んでみます。親子での遊びを通して、子どもの気持ちの理解、かかわりのヒントを見つけてもらうよう、それとなく親に働きかけていきます。
 「よちよちクラブ」は、親も子どもも飽きずに過ごせるように、約一時間のプログラムで構成しています。
 入室(受付であいさつ)後、最初にスタッフ紹介。打ち解けた雰囲気を作るために、手遊びなどの遊びを紹介します。いくつかの遊びを楽しんだあと、お茶の時間で一休み。スタッフと参加者、あるいは参加者同士がくつろいで話ができる時間です。その後、自由遊び、親子遊びの紹介をして終わります。
 用意したプログラムに加わりたくない子どもがいても、無理に参加させることはしません。遊具が置いてあるスペースもあるので、そこで遊んでいてもらい、気が向いたら参加するように声かけしています。
 
温かな雰囲気の空間を作る
 子どもの遊びを知るための環境として「家庭的な雰囲気の空間」を用意しようと考えました。「よちよちクラブ」が特別な場ではなく、日常の延長線上にある場で、気軽に参加し、気楽に親子遊びを楽しんで、子育ての楽しさはこんな身近なところにもあるんだと感じて欲しいことから考えたものです。
 会場は長方形のフローリング仕上げの保育室。それを四分割して使っています。一つ目は受付コーナー、二つ目はプレイコーナー(親子遊びなどのプログラムを行う場所)、三つ目はお茶のコーナー、四つ目は自由に遊べるままごとコーナーです。
 家に置き換えると、受付コーナーは玄関、プレイコーナーは子ども部屋、お茶のコーナーは家族が集うリビングルーム、ままごとコーナーはキッチンということでしょうか。
 一つの空間を四分割して使うことで、動きのあるプログラムから動きの少ない静のプログラムへの切り替えも無理なくできます。また、親子遊びに参加したくなければ、自由遊びのコーナーで遊んでいることもできます。四分割されているとはいえ、一つの空間なので、それぞれの動きを見ることができます。他の親子の遊ぶ姿を身近に感じて、自分の子育てのヒントを見つけることもできます。
 受付コーナー以外にはマットを敷いています。マットの色でどのコーナーかが分かりやすく、参加した親が座り心地・居心地の良い場所にしてあります。マットの色は、グレーやベージュ色で、上に置くおもちゃや家具の色を引き立たせます。赤、青などのきれいな色や白木のおもちゃが子どもの目に入りやすい配色です。
 
スキンシップ遊び
 
 各コーナーにおもちゃやテーブル、家具を配置します。おもちゃは、いずれも子どもが触って安全なおもちゃ、触って温かみのある天然素材のおもちゃ、海外の民族玩具、手作りおもちゃなどを用意してあります。
 テーブルやままごとコーナーのキッチン家具は一、二歳児でも使える低い家具です。子どもたちは、キッチンは興味があり、扉を開けたり閉めたり、道具をひっくり返したりして興味津々に遊び込んでいます。
 家具やおもちゃの他に、季節の花や生き物も常設しています。水槽で飼っている金魚やいもり、おたまじゃくし、どじょう、ざりがに、かめなど、たくさんの自然に触れることができるようにしてあります。都心にある施設なので、できるだけ自然を身近に感じられるように、プレイコーナーには生き物、お茶のコーナーには植物を飾っています。
 
自由に自分の遊びが選べる環境
 遊びは、自由遊びを中心に、スタッフがさまざまな親子遊びを紹介しています。自由遊びのコーナーのおもちゃは出したままで、自由に遊べるようになっています。その理由は、発達や個人差も大きいこの年齢の子どもは、遊びも興味もばらばらです。スタッフが紹介する遊びのプログラムに興味を示すとはかぎりません。おもしろそうだと思えば、子どもたちのほうから寄ってきます。自分からしてみようと思う意欲が出てくるように働きかけをしますが、決して無理強いはしません。そのために、お互いが見える環境設定のなかで、自由に自分の遊びを選ぶことができるようにしています。
 
大切なスキンシップ遊び
 スタッフが紹介する遊びのプログラムは「手遊び」「パネルシアター」「スキンシップ」「親子でお茶タイム」「自由あそび」「人形劇」「歌」などです。
 季節や参加した年齢、継続参加者の数、要望を考慮し、日常の一、二歳児の保育活動で行う遊びを親も楽しめるようにアレンジして行っています。
 「スキンシップ」遊びはとても大切な遊びになります。親子で一緒に過ごしながら、遊びとして、だっこしたり、足に乗せたり、おんぶしたりすることは、以外に少ないようです。
 また、「歩きはじめたのだから、もうだっこは必要ないでしょう」と何の疑問もなく話す親もいます。だっこもおんぶもスキンシップ遊びの一つで、一番簡単に親子で遊べる遊びだと知ってもらいたいと思い、さまざまなスキンシップ遊びを毎回必ず紹介しています。スキンシップ遊びをすると、自然と親子の顔がほころびます。親子の顔がほころべば、参加家族同士もうちとけてきます。おんぶやだっこもこの年齢の子どもにとっては遊びの一つであることを知ってもらえればいいかなと思っています。
 
あえて多めのプログラム組む
 一時間という時間の割には、たくさんのプログラムを行っています。子どものことだけを考えると、探索活動の盛んなこの年齢なので、多すぎると感じることもありますが、限られた場と時間内に一つでも多くのおもちゃや遊びと出会い、親子で遊びを知ってもらいたいと思い、あえて多めのプログラムにしています。
 一時間という限られた時間内で、子育てを楽しむ何かをつかんでいって欲しい、きっかけを見つけてくれれば、という気持ちから、ちょっと欲張りな内容になっています。
 
 
 
食べる意欲に欠ける子
渋谷 一美
 
 食育について考える時、子どもの健康な心とからだを作るには、遊びと食事と睡眠は、基本であり不可欠なものです。フルタイムで働く母親の増加により、子どもたちの生活リズムにも変化が表れ、生活時間帯の夜型化の進行、朝食の欠食の増加、孤食に代表される家族揃っての食事の減少等、子どもたちにとって食べる楽しみ、食べる意欲に欠ける子が増えてきています。
 このような中で保育所の給食の果たす役割には、大きなものがあるのではないでしょうか。確かに外部委託でも栄養面やメニューの豊富さ、アレルギーのある子への配慮、あたたかい食事等十分な対応が可能な所もあるかとも思いますが、保育所の食事は、衛生面においての安心はもとより、食べたいと言う気持ちを大切にし、調理室からただよってくる香りは、子どもたちの食欲をそそり、食べる楽しみにもつながっています。また、自分のために心をこめて、作ってくれたひとへの感謝の気持ち等、心の育ちにもつながってきます。
 発達過程に伴い変化していく離乳食やその日の体調により、米飯をおかゆに変えたり等体調不良の子どもにもすぐに対応でき、インスタント食品や出来合いの総菜等に頼らざるを得ないような食生活をしている家庭の保護者に対しても食事指導や簡単に出来て栄養的にもすぐれ、おいしいレシピの提供等を通して、共に子育てをしているという共通意識から食事に対する意識を考え直す場を提供したり等、保護者と共に子どもたちの育ちを考え、支えていくことにより子育て家庭の育児不安の軽減等をはかることができるのではないかと思います。
 
保育園で大切にしていること/取り組んでいること
・食べたいという思いを大切にし、おいしく食べる
・苦手な物に対しても、保育士等の語りかけひとつで食べてみようかなと言う気持ちになれるよう配慮する
・作ってくれた人への感謝の気持ちが持てるように配慮する
・発達過程に伴い変化していく離乳食はその日の体調により、個別に調理方法等対応していく
・体調不良児については、主食はおかゆに、副食は消化の良い物へ等配慮していく
・個人差や食欲に応じて量を加減するよう工夫する
・日々の献立を保護者に示すと共にサンプルやレシピを掲示し、保護者の食への興味や関心を高めていく。また、喫食状況等必要に応じて連絡ノートやお迎え時等口頭で保護者に知らせる
・行事食や郷土食等、日本古来から受け継がれている味や調理方法等を献立に取り入れ、家庭では薄れゆく味を守り伝えていく
・旬の物や季節感のある物を多く取り入れ、季節の移り変わり等味覚や視覚で知らせたりしていく
・喫食状況や嗜好調査に基づいて、食事内容を改善している
・食器等子どもにとって使いやすさ等考慮しながら材質や形など選んでいる
・なるべく薄味で調理し、野菜等素材本来の味のおいしさも知らせていく
・給食担当者が子どもたちの食べている様子を見たり、子どもの声を聞き、次への課題としている
・子どもたちが育てた野菜等を料理して食べることもあり、食べる楽しみや意欲を育てている
・子どもたちのリクエストに応じたメニューを献立に加えるお楽しみ給食の日を実施している
・時には戸外で食べたり、お弁当箱に入れたり、バイキング形式をとりいれたりして変化を付け、気分を変えて楽しく食べる工夫をしている
 おもゆひとさじから始まる離乳食は、常に子どもと向き合い子どもの様子や体調を伺いながら行きつ戻りつしながら進み、それは生命の基となると同時にひとさじひとさじが保護者の喜びにもつながっているのです。子どもたちには、十分な愛情をそそぎ一人ひとりの子どもがこんなにたくさんの人に愛されて育ってきたんだということを知らせてあげたい。今の子どもを救うことは、未来の子どもを救うことにつながります。人からたくさん愛情を注がれ、慈しみ育てられてきた子どもは、人の心の痛みのわかる子、命の尊さを知り人を愛することのできる子に成長してくれると信じています。そのためにも、私達保育園の職員は、日々努力と研鑽を重ねています。
(狭山台みつばさ保育園保育士)
 
 
 
明治の信念と自主自立
 先日、東京のある駅前に所在する認可保育園の新分園園舎が完成し、盛大に開園披露を行った。区行政の長を始めとして、保育関係者・団体、卒園児、在園児、その父母や地域の人々、その他保育園に縁ある方々が、参集し門出を祝ってくれた。この地域は待機児が多くその解消の為に今回この園舎が建築されることになった。この保育園を創設した理事長は明治の生まれで昭和六三年に没するまで、その生涯を保育事業の発展に捧げた。戦後の焼け野原から復興し地域の人達から協力を得て、また、私立保育園の創設者の多くがそうであったように、私財を投入し保育事業の充実を図ってきた。故理事長は何処からも補助金を受けずに自己の力で保育園を建設するのが信念だった。
 しかし、事業の後継者には「自分の時代はこのやり方が通用した。今後の時代はこのやり方が通るとは思わない。君らは必要があれば補助金を申請して事業を進めるほうが良い」と言い残していた。今回は国・都の施設整備補助金を受けるための条件整備を整えることすらできなかった。何故ならば財務局の国有地を法人が買収して施設を建築したのだが、理由は財務局の付けた売買条件の園舎建築完了迄の期限が余りにも短期間すぎたからである。
 今回のような国有地買収も、法人が他施設の修繕を先送りして、この事業を優先的に進めたおかげで、前理事長の時代に手に入れた法人の運用財産を売却して、その費用に当てることができた。明治の人間の自主自立で築き上げてきたものの偉大さと凄さを感じる。
 さて、この分園の話は二年前に始まる。国が待機児解消と盛んに様々な政策や予算を講じていたところで、地方自治体等もその対策に頭を痛めていた。その頃保育園隣地の国有地が売りに出て、財務局に問い合せ、待機児の解消や地域の子育て支援事業を進めようと考え、新園舎を建てる為に土地の売却願い申請書を提出した。しかし、残念ながら財務局は法人が社会福祉法人で買収資金を用意してあっても、公の補助金を受けることが決まっていない法人事業に売却することはできないという見解をもっていた。
 しばらくの間、鶏が先か卵が先か(土地の取得が先か公の補助が先か)という交渉になって、結論がでないまま挙げ句に申請書を返却された。困り果て区の子育て支援課に相談に行ったところ区は理解を示してくれて、区が本事業に対して将来土地の買収が成った時に補助金が受けられるということまで財務局に説明し、直接談判をして支援をしてくれた。そこで改めて、国有財産特別措置法第三条第一項の規定に基づき売却に応じてくれるように申請書を再提出した。こうした動きの中で財務局より国有財産の売却決定が出た時はすでに財務局の工事完了条件期日の半年前であった。
 以上のことから、今後望みたいことは、もっと民間法人が限られた財源で工夫して、効率よくゆとりを持って計画を進めることができる方策や省庁間の政策に対する共通認識の高揚、国が地方分権改革を進めるならば地方自治体、市区町村が連携して協力できる改革の進め方をそしてシステムを構築して欲しいものである。
 それと同じに経済財政諮問会議、地方分権改革推進会議などが進める国庫補助負担金、交付税制度、税財源配分に関する改革は、断固として、保育を受ける子どもの処遇の低下を招くような事態になることだけは避けて欲しいと願うものである。
(らっこ)
 
 
 
レポート
幼稚園の窓から(35)
幼稚園のホームページは歴史と心を伝えるものに
片岡 進
「月刊・私立幼稚園」 編集長
 
富山から転園してきた親の第一印象
 四月の末、富山県の幼稚園から「うちの園の園児が千葉市に引っ越すことになった。あなたが住んでいる同じ町です。転園児を受け入れてくれる幼稚園を教えてほしい。できればうちの園の教育方針と似ているところがいいのだが」という依頼がありました。仕事柄そういう依頼は多いのですが、今回は私と同じ町内に引っ越してくるというので、かなり真剣に対処しました。
 数日かけて調べ、年中児からの転入受け入れが可能で、なおかつ園バス路線が近くを走っている五園を報告し、「後は自分の目で見て決めてください」と伝えました。するとその子の母親は、そのうちの二園を良く知っていると嬉しそうに言ったのです。周辺の幼稚園をインターネットで片っ端から調べたところ、その二園のホームページが詳しく丁寧に出来ていて、「教育姿勢や環境、園の雰囲気がよくわかった」ということでした。あとの三園はホームページがなかったか、ごぐ簡単なものしか載っていなかったそうです。
 結果は、その「良く知っている」園のひとつに決まりました。ホームページでの第一印象が母親の気持ちに大きな影響を及ぼしたのではないかと察せられます。
 私立幼稚園では今、猫も杓子も「ほらIT時代だ。さあホームページを作らなくては」と騒いだ嵐が一段落して、「本当にホームページは意味があるのか。マイナス面も多いのではないか」という見直しの時期にあります。しかし今回の富山県からの転園事例を見ると、やはり今の時代、私立幼稚園の経営にとってホームページがあるかどうかと出来栄えの良し悪しは大きな意味があると改めて思ったものでした。
 どうしてホームページのあり方が見直されているのかといいますと、ひとつは、会社まかせで作ったホームページの中身があまりに宣伝くさくて、世間でよく聞かれる「私立幼稚園は経営意識が強い」という印象を定着させる結果になっていることです。大半の経営者は、決して経営意識が優先するようなことはないのですが、良かれと思って始めたことが次々に誤解を生んでいく。ホームページもそのひとつになっているということです。
 もうひとつは、子どもたちの姿や親の活動の様子を写真で掲載していることが、思わぬ反発や危機感を生んでいるということです。ホームページ自体が宣伝くさいのですから、そういうところにわが子の写真が載っていると宣伝に利用されていると思うのかも知れません。あるいは不特定多数の見知らぬ人にのぞき見されているという不気味な感覚なのか、園だよりや記念誌への写真掲載は歓迎しても、ホームページへの写真掲載は嫌がるという親が増えているのです。
 ほかにもホームページやメール交換をめぐるトラブルは頻発しています。しかし、だからといって否定的になってはいけません。ホームページこそ、不特定多数の見知らぬ人々に幼稚園の心と願いを伝える絶好のツールだからです。
 神奈川県のある幼稚園のホームページを見ていると、現園長の母親で創設者である前任園長が、この時期この季節に、園だよりにどんなことを書いていたかを何十年も前にさかのぼって再掲していました。東京の幼稚園では、園長が何年にもわたって園だよりに連載している「わが園の生い立ちドラマ」を最初から全部載せてあるので、新しい親も第一話から読めるようになっていました。こうした形で幼稚園の心を伝えることこそ「幼稚園のホームページのあり方」だと思います。
 
 
 
都道府県版 幼児教育振興プログラム
 文部科学省が平成一三年三月に幼児教育振興プログラムを策定したことを受けて、都道府県・市町村でも自治体版のプログラムを作るところが徐々に増えつつある。幼児教育振興プログラムでは、幼稚園教育の一層の振興を謳うとともに、子育て支援の充実、幼稚園と小学校の連携、幼稚園と保育所の連携といった目標を掲げている。そこから、各自治体がプログラムを策定する際にも、教育委員会が福祉部局と連携したり、策定メンバーに保育所関係を含めるなど、幅広い視点で取り組む例も出ている。いくつかの自治体版プログラムを紹介したい。
 広島県教育委員会は三月一四日、「広島県幼児教育ビジョン〜今後の幼児教育の充実に向けた振興計画」を策定した。この計画は、昨年三月に同県幼児教育ビジョン検討会議がまとめた提言「幼児教育の充実に向けて」を踏まえたもの。幼児教育ビジョン検討会議には、公私立幼稚園関係者とともに保育関係者も参画した。さらに、振興計画の協議の場となった「幼児教育連絡協議会」は、私立幼稚園を所管する環境生活部と保育所を所管する福祉保健部、教委委員会とで組織した。
 振興計画は、「つながる幼児教育の推進」を基本理念に据えて、その実現に向けて五つの基本方針と、それぞれの重点目標を設定している。この中で特に注目されるのは、具体的な取り組みを進めるにあたって、教育委員会だけではなく、環境生活部(私立幼稚園所管)や福祉保健部(保育所所管)との連携・協力を打ち出していること。それによって、幼・保・小の連携や子育て支援の充実を目指そうとしている。
 振興計画では、(1)教育内容の充実(2)子育て支援の充実(3)教員・保育士の資質の向上(4)幼保小の連携教育の充実(5)地域ぐるみの教育の推進―の五つを基本方針に設定。それぞれの基本方針を具体化するために、重点目標を定め、計画的な取り組みを推進することとしている。実施期間は平成一五年度から二二年度までの八年間だが、平成一七年度までの三年間のより具体的な実施計画も盛り込んでいる。
 このうち、「教育内容の充実」については、(1)教育課程・保育計画の充実(2)しなやかな心とからだ育ての充実(3)ことば育ての充実(4)きめ細かな保育の充実―を重点目標に掲げている。具体的な施策をみると、教育課程・保育計画の充実では、幼稚園・保育所における保育の状況や年長児の育ちの状況、保護者の意識などを把握する幼児教育実態調査の実施や、教育課程を編成する際の指針となる参考資料を挙げている。
 「子育て支援の充実」については、(1)保護者の交流の場の設置と父親の保育参加の促進(2)地域ボランティアの育成と活用の推進(3)子育て支援ネットワークの整備(4)園・所運営の多機能化の推進―の五つを重点目標に設定。具体的な施策としては、子育てサロンの設置促進やボランティア人材の活用、子育て支援センター等の設置促進、多様な保育の促進などを盛り込んでいる。
 「教員・保育士の資質の向上」については、(1)研修機会の充実(2)自主研修の推進(3)研究公開の充実(4)市町村間連携の推進―の四つを重点目標に設定。具体的な施策としては、充実した研修となるための「指導者派遣の充実」策として、県指導主事や大学関係者、幼稚園・保育所退職者、各種専門家からなる指導者バンクを組織し、市町村や幼稚園・保育所からの要請に対応する事業を挙げている。
 「幼保小の連携教育の推進」については、(1)幼保小の連携カリキュラムの研究推進(2)幼保小の相互理解の推進(3)幼保小連携機関の設置促進(4)教員・保育士合同研修の推進―の四つを重点目標としている。この中で、幼保小連携機関の設置促進に関しては、「幼児教育連絡協議会」といった、市町村で幼児教育についての連携協議する場の設置を促進する予定にしている。
 「地域ぐるみの教育の推進」については、(1)地域ぐるみの活動の推進(2)異年齢・異世代の交流促進(3)開かれた園・所づくりの推進(4)幼児教育振興計策定の推進―の四つを重点目標に設定。このうち、開かれた園・所づくりの推進に関しては、幼稚園や保育所における自己点検・評価や情報公開の取り組みを支援するほか、第三者評価の導入を促進することにしている。さらに、保育所に比べて評価の取り組みが遅れている幼稚園については、自己点検・評価や第三者評価の実施に向けた参考資料を作成するという施策を挙げている。
 熊本県は二月二六日、教育委員会との連盟で「肥後っ子かがやきプラン」(素案)をとりまとめ、パブリックコメントとして広く県民からの意見を募った。三月まで県民の意見を受けつけ、それらを踏まえて正式なプランを策定しようとしている。幼稚園所管部局と保育所所管部局が合同で作成している点が特徴。ゼロ歳児から小学校就学前までの乳幼児全体を対象にしており、平成十五年度から二二年度までの八年間を計画期間としている。
 同プランでは、「就学前教育関係機関である幼稚園や保育所等、家庭、地域社会」を子どもの生活ステージと捉えた上で、(1)子どものたくましく心豊かな育ちを促す幼稚園・保育所等の教育・保育環境の創造(2)子どもの育ちの原点となる心安らぐ楽しい家庭環境の醸成(3)子どものいのち・未来を支える地域杜会環境づくりの推進―という三つの基本方向を提示。その上で、県、市町村、幼稚園・保育所等、家庭、地域社会、県民等それぞれが果たすべき役割を示している。
 これらの三つの基本方向に基づく具体的な施策としては、(1)幼稚園教育要領・保育所保育指針を踏まえた幼稚園・保育所の教育・保育環境及び教育・保育活動の充実(2)公立・私立幼稚園間及び幼稚園と保育所との連携の推進(3)移行や接続を円滑にするための幼稚園・保育所と小学校との連携の推進(4)開かれた幼稚園・保育所づくり(5)行政による家庭の教育力向上支援・子育て支援の充実(6)幼稚園・保育所間における子育て支援活動の充実―などを挙げている。
 このうち、「開かれた幼稚園・保育所づくり」については、(1)家庭・地域社会への説明責任(2)幼稚園・保育所評議員制の導入(3)評価制度の導入―などの施策を提言している。特に、評価制度の導入では、「幼稚園や保育所においては、本来の教育・保育目標に沿って幼稚園や保育所の機能がどの程度まで果たされているかを総合的・客観的に評価し、環境構成や活動全般について改善し、次の教育・保育活動を実践していくことが大切」と主張。「教育・保育活動は日常的に計画(Plan)―実践(Do)―評価(Check)―行動(Action)のサイクルで進められる」とした上で、幼稚園においても主体的に第三者評価制度を導入するよう求めている。
 このほか、同プランは、県内の関係各課が連携しながら就学前教育を推進するため、「プランの実行推進会議を設置するとともに、基本方向ごとにプロジェクトチームを設置し、具体的に推進を図っていく」ことを明記。さらにプランのフォローアップを行うため、外部組織として「熊本県就学前教育振興協力者会議」(仮称)を設置して、プランの積極的な推進を図っていく。
 群馬県教育委員会は二月、「ぐんま幼児教育プラン」をとりまとめた。私立幼稚園を所管する総務部、保育所を所管する保健福祉部との連携により作成している。育てたい幼児の姿を「豊かな時間の中で豊かに遊び、ともに生きていることに喜びを感じる子」と描いた上で、幼稚園や保育所、家庭、地域社会、小学校など幼児に関わるすべての機関が、連携・協力して取り組むよう要請。そのための具体的な方策を提示している。
 具体的方策は、A「幼児にとって望ましい教育内容・方法や環境の充実を図る」、B「幼児期の家庭教育を充実させ、豊かな親子関係を育てる」、C「地域社会や小学校等、他の幼稚園や保育所など、関係機関との連携を生かした幼児教育を推進する」といった三つの柱で構成している。このうち、Aについては、(1)小学校就学までの三年間の指導の推進(2)幼稚園・保育所内外の環境の見直し(3)一人一人に寄り添う指導の推進(4)心の教育の充実(5)幼児教育にかかわる教員・保育士等の資質の向上―などを挙げている。
 この中で、小学校就学までの三年間の指導の推進では、幼稚園や保育所の教育内容・方法や教育環境について自己点検・評価を行うとともに、その結果を積極的に情報提供するよう提言。教員保育士等の資質向上では、そのための研修や相談事業を行う「幼児教育センターの設置を検討することとしている。センターでは、研修や相談事業のほか、ボランティアの育成・派遣や教材開発研究、情報発信・提供などを行う予定にしている。
 Bについては、(1)親子関係を大切にした家庭での生活の充実(2)親子体験の推進(3)地域とのふれあいの充実(4)子育て支援の推進―の四つを提示。子育て支援活動の推進としては、地域の保護者や育児経験者などが集まって「子育て協力隊」(仮称)を組織し、子育てや家庭教育について相談援助をしたり、情報交換する活動を推進するよう求めている。
 Cについては、(1)幼児を育てる地域活動の推進(2)子育てボランティアによる幼児教育の推進(3)幼稚園と保育所の連携の推進(4)地域の幼・保・小の連携の推進―の四つを提言。幼保については、「地域や幼稚園と保育所の実態に応じ、幼稚園と保育所の運用を一体化するなど、就学前の幼児がより望ましい教育を受けられるような体制づくりを推進する」よう求めている。
(山田)







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