日本財団 図書館


――子どもの健康を考える(4)――
嘱託医と保育所の連携
全国保育園保健師看護師連絡会 藤井祐子
 保育所保育指針に従い、保健活動を行っていくうえでは、嘱託医やかかりつけ医との連携が必要となってきます。指針の中に嘱託医やかかりつけ医の指示のもとに、相談しながら、指導のもとにという言葉が多く使われており、乳児保育や障害児保育、病後児保育には、その連携が子どもの健康の維持増進に大きな役割を果たしています。
 嘱託医やかかりつけ医が、どの程度保育所保健に関与しているかについては、平成十二年度〜十三年度に行われた厚生科学研究の保育所における保健・衛生面の対応に関する調査研究で次のような結果が得られています。
 定期健診を含め嘱託医が来所するのは、年二回が七九・五%と大半を占めています。来所以外でも電話などを利用して嘱託医との連携を密にする必要があります。小児科の嘱託医は他科の嘱託医に比べ来所回数が多い傾向が見られましたが、その割合は約三〇%にすぎないので、今後嘱託医の来所回数が増加することが望まれます。
 嘱託医は小児科(二〇・九%)、小児科・内科(二〇・三%)、計四一・二%と小児科医は約四割でした。
 また、小児科医が嘱託医の保育所では次のような結果が得られています。
・保護者に予防接種を勧める傾向が高い。
・急性感染症の罹患時の登園を決める場合、保育所のみで決めずに嘱託医と相談して決めることが多い。
・急性感染症の対応について、職員のみで決める方針で対応しないで嘱託医と相談した方法で対応することが多い。
 アトピー性皮膚炎の軟膏塗布は、嘱託医やかかりつけ医と相談するのは二四・九%と少ないのですが、保護者の希望のとおりにしているのは、六二・○%と保護者の申し出による実施が六割を占めています。小児科の嘱託医の保育所では嘱託医やかかりつけ医と相談、または指示で対応していることが多い傾向がありました。軟膏塗布は治療のひとつであり、嘱託医やかかりつけ医の指示を受けて実施することが望ましいといえます。
 気管支喘息への対応については、嘱託医やかかりつけ医と相談、または指示で対応しているのは二四・九%にすぎず、保護者の希望のとおりに対応しているのが六二・一%を占めています。嘱託医が小児科の保育所ではこのことについても、保護者の希望で行わず、嘱託医やかかりつけ医と相談または指示で対応していることが多い傾向がありました。保育中に喘息発作を起こすことが予測され、嘱託医やかかりつけ医の指示のもと、発作時の対応について、職員が全員周知している必要性を感じます。
 障害児保育は五四・六%と約半数の保育所で実施されていますが、嘱託医と相談しているのは八・三%と少なかったのですが、ここでも小児科医が嘱託医の保育所のほうが、嘱託医と相談している傾向がありました。
 発達や行動に問題のある子どもの保育を嘱託医に相談しているのは一六・八%にすぎませんでした。このことについても小児科医が嘱託医の保育所のほうが、保育所の判断だけで保育せず、嘱託医と相談して保育していることが多い傾向がありました。保育所にとって発達や行動に問題がある子どもについて、相談できる嘱託医との関わりを作っていくことが、保育所の課題といえます。
 この調査から、保育所にとって嘱託医は小児科医であることが望ましいと考えられます。しかし、実際には小児科医は全体の約四一・二%であり、他科医が約六割を占めている現状においては、他科医の健診(診察様式や問診表の作成)などの充実が必要なことが伺えました。また、他科医の保育所保健を充実させていくためには、子どものかかりつけの小児科医と相談できるようなシステムにしていくこともひとつの方法といわれています。
 嘱託医との連携の実際として、嘱託医は原則として毎週来所し、ゼロ歳児の健診と一歳児以上は看護師が観察し様子の気になる子どもについて診察を受けていました。診察の結果は口頭や健康連絡票・連絡帳に記入し保護者に連絡していました。
 感染症発生時や対応についても嘱託医に電話で連絡し、必要に応じて保育についての指示を受けていました。その中で、嘱託医との連携の必要性を感じた事例を挙げてみました。
1、百日咳の既往のあった子どもが心疾患の指摘を受けていたことを知り、受診時に看護師が同行し、かかりつけ医から保育についての指示を受け嘱託医に伝えるとともに、全職員に周知しました。
2、三歳児で免疫不全(二歳児にて治癒)と熱性痙攣の既往のある児が、水痘に罹患した際、発熱時に右半身の痙攣があり脳波検査中との連絡を受け、嘱託医に報告し今後の保育中の留意点について指示を得ました。
3、二歳児で喘息発作を起こしていて肩呼吸が見られたため、保護者に連絡したが、迎えまでに時間がかかるため、嘱託医に連絡し指示を受け、迎えに来るまでは医務室にてベッド上安静とし、看護師が様子を観察しながら個別保育としました。
4、二歳児が午睡明けに熱性痙攣を起こした時、保護者に連絡しかかりつけ医に看護師が同行し受診し、帰園後に嘱託医に報告しました。
5、一歳児で喘鳴が気になり、嘱託医の来所時に診察を受けた際、気管支炎で受診を勧めるように指示を受け、保護者に連絡しましたが迎えまでに時間がかかり、発熱もあり看護師が個別保育で様子を見ていました。
6、保育中に突然三九度前後に発熱し、保護者に連絡しましたが連絡がつかず、医務室で看護師が個別保育で水分補給をしながら様子を見た事例が三件でした。嘱託医に連絡し様子を見ましたが、以前では熱性痙攣の既往のある子どもや、ぐったりして受診をした方が良いと判断したときなどに、子どもをつれて嘱託医の診察を受けたこともありました。
7、家庭で熱性痙攣を起こしたゼロ歳児の子どもの母親から相談を受けた際、看護師が仲立ちとなり、小児科医である嘱託医へ連絡して相談するように勧め、受診が順調に進められました。
8、感染性胃腸炎が流行した際には嘱託医に連絡をとり、水分補給や食事療法の指示を受けながら、給食の変更をするなどで対応し、保護者への連絡を早期に行い感染予防に努めていました。
 また、ゼラチンアレルギーの子どもが、昼の給食を食べている途中で、嘔吐や傾眠傾向が見られたため、保護者と嘱託医に連絡した際、嘱託医が診察に来所して下さった事がありました。診察で適切な指示をすぐに受けることができ、嘱託医の存在をとても心強く感じました。
 看護職として、嘱託医との連携がうまく出来ていることで、保健活動の中で有意義となることが多々あります。嘱託医が保育所に来所した時にしていただいた具体的な事柄をあげてみましょう。
・健康診断の一場面でも嘱託医から、子どもの様子に合わせて一人ひとりにお話をしていただくことができました。子どもにとって嘱託医の先生からの話はいつもと違った話として子どもの中に入っていきます。
・嘱託医が一人ひとりの子どもに話をしてくださることで、子どもにとって優しい嘱託医のイメージが出来て、健診をスムーズに行うことが出来ました。
・健診時に、子どもの症状で気になることは、わかりやすく保育士に説明をしてくださいます。時には、聴診器を保育士に渡し、実際に喘鳴や心雑音を耳で聞いてわかってもらうようにしたりします。子どもの様子をよく観察しながら、保育士に留意点などをわかりやすく説明してくださいました。
・時には、お迎えにきた保護者に説明をわかりやすく、直接してくださることもありました。
・園児のかかりつけ医と連絡を取るときに、保育所からのアプローチよりも嘱託医に連絡を取っていただく方がスムーズに済むこともありました。嘱託医を介して、かかりつけ医に保育所の保育を理解していただくということも出来ます。
 嘱託医との連絡がうまく出来ていることで、日々の保育の中で嘱託医の意見を聞いてみたいときには、電話での連絡もすぐにすることが出来ます。そして、嘱託医からの適切な指示や説明を聞くことが出来ます。そうしたことが、保護者との信頼関係を築いていく上でも必要なことです。保護者から、嘱託医の先生に聞いてみてほしいといわれたこともありました。
 嘱託医にとって看護職が保育所にいることで保育所との連携がスムーズにとることができるとの意見をいただいたこともあります。この意見を大切に、看護職として保健活動を嘱託医とともによりよいものにしていきたいと日々研鑽しています。また、保育士との協力なくしては日々の保健活動は成り立っていかないということも大切な事柄と考えています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION