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――子ども家庭支授(2)――
造形活動の原点は私たちの「生活」
〜まず「想像(する)力」を身に付けること〜
こどもの城
保育研究開発部
深谷ベルタ
仲間と自由に遊ぶだけ?
 
 子どもたちが集団保育に参加するきっかけや道筋はどうであれ、保育現場である以上、子どもたちの生活の中心はやはり「遊び」です。この点において幼稚園も保育所も一緒です。子どもたちの自然な関心や自発的な動きとして起きる「遊び」も大切ですが、だからといって、ここで過ごす時間のすべてを子ども主導=子ども任せで終わらせるという保育スタイルをとるわけにはいきません。
 大勢の子どもが共に育っていく場であるからこそ、人として成長する上で欠かせない体験や、人と一緒に活動できるための基礎を育てることも大切に考えてすすめています。そのために集団で行う活動はどうしても必要になります。
 たとえば、〔こどもの城〕では、「テーマ活動」と呼んでいますが、音や音楽やリズムを楽しむ遊び、縄跳びやドッジボールやプール等の運動遊び、造形や制作に取り組む造形遊びなども集団で行っています。この他にも砂場に行くことや遠足、避難訓練なども集団活動の一貫として行っています。
 このような活動は幼稚園にしろ保育所にしろ、そして私たち〔こどもの城〕の保育にしろ、時間と場の設定、または進め方の違いはあっても、集団で生活するという意味で共通して見られる活動だと思います。
 
人は物を、物は人を形作ってきた
 
 保育の世界では造形活動や制作活動は「表現」をねらう領域であることは「常識」です。しかし、保育や教育のねらいに関係なく、子どもたちは古今東西、自由に描いたり作ったりするものです。一方で領域など関係なく豊かな造形活動を保育の中心に据えて、園生活の主要な舞台をアトリエにおいている外国の取り組みが日本でもよく知られています。
 造形活動をとおして育てられるのは「豊かな感性」や「表現力」や「創造性」だけではありません。子どもは丸ごと、知性も理性も感性も言葉も含めて育てられるようです。このように考えると、子どもの造形活動にとって重要なポイントが浮かび上がってきます。造形する人と物との関係です。
 人と物との関係は実に深いものがあります。人ははるか昔から、いろいろな物を作ってきました。「ものづくり」を通して世界と付き合い、他の人々と付き合い、人間らしい生活を築き上げました。人にとって「ものづくり」は生活そのものであったはずです。ものを作らずには人の「衣食住」すらなりたちません。
 
ライト粘土に透明なスライムを混ぜた
特製の粘土を使って、造形遊び。
 
 私たちが考えている「造形活動」の原点は「生活」です。ここで指摘するまでもなく、私たちの周りに物があふれていますが、自分の手で作っている物はほとんどありません。極端な言い方をすれば、作っているのは「子ども」と「お金」と「友だち」だけです。
 家が物でいっぱいなのに、子どもは「ものを作る」経験がとても少ないのが現状です。今は物は「買ってくる」ものであり、「自分で作る」ものではなくなりました。「作る」行為は家の外で行われ、完全に仕事か趣味の世界になりつつあります。私たちの社会や家庭は、何も作らなくても生きていけるほど豊かになりましたが、それに反比例するように子どもたちの学習能力が低下し、それを心配する人も多くなったような気がします。
 造形は「物の仕組み」を自分の手で、頭で、目で試行錯誤しながら確かめる過程です。作ったものは美しいかどうかは別問題ですし、造形は個性を磨くための「砥石」でもないと考えています。
 造形活動で用いられる技法――「結ぶ」「塗る」「色をつける」「切る」「繋ぐ」「破る」「貼る」「折る」「巻く」「並べる」等々、どれも生活の基本的な技です。造形に使われる素材の多くも(全部ではありませんが)生活空間の中で見つけることができます。布、毛糸、空き箱、公園で拾った枝、石、木の実、葉っぱ、針金、カタログ・雑誌など切り抜いてもよい「本」、新聞紙等です。
 「造形活動」の原点を「生活」におくことによって、造形活動で取り上げるテーマは大きく広がっていきます。
 
「想像力」と「創造力」
 
 「想像」は目の前にないものを心のなかで思い描くこと、イメージすることで、「創造」は新しいものを創り出すことであるとすれば、幼児期の子どもたちのこれらの力はまだまだ未熟といえます。
 日ごろ子どもたちの遊びに付き合っていると、彼らの想像の世界はテレビなどから取り入れたメディア・キャラクターの像で充満していて、そのキャラクターが動き回る空想でいっぱいであるように見えます。これらのキャラクターや空想は極めて「感染力」が高く、テレビを見ていない子どもも、遊びをとおしてうつされます。子どもたちの自発性に任せると、描くものや造る物のすべてが、キャラクターの延長線上にある「おばけ」や「怪獣」のレベルで止まってしまいます。
 
特製粘土で作った、子どもの作品
 
 子どもたちが自分自身の空想の世界に入り込み、新しい方向に目を向けてくれるまで、時間がかかります。
 造形は表現力や創造力を育てるための活動だとよく言われますが、それはひょっとすると字の間違いではないかと思うことがあります。優先順位から言えば、今私たちが造形活動を通して育てたいのは「創造力」ではなく「想像力」ではないでしょうか。
 目の前(今・ここ)に見える物から離れて、自分の行為の結果としてその物がどう変わるだろうかを思い描けること(推しはかること、見通すこと、読むこと)、物の形からその物がどのようになっているかを推測できること、そして自分には物を楽しくおもしろく変化させる力があることに気づくこと、そしてそれは他の子どもたちにも備わっていることを認めること――などを身に付けることが大切なのではないでしょうか。
 短い幼児期において、造形活動をとおして子どもたちをそこまで導くことができれば、充分ではないでしょうか。「創造力」というねらいから見れば小さなねらいに思われるかも知れませんが、幼児期を急いで駆け抜ける必要もありません。
 
粘土の力
 
 造形遊びに粘土が優れた素材であることは誰しも認めるところです。泥粘土を初め、油粘土、紙粘土、小麦粉粘土、プラスティック粘土など種類も多く、子どもの年齢に応じていずれかの粘土を造形遊びに取り入れ、使っていると思います。私たちも何種類かの粘土を子どもの年齢、活動の時期や目的によって使い分けていますが、最近子どもたちに人気のある粘土を自分たちで「工夫」したので、参考までに紹介します。
 ライト粘土という、色のきれいな粘土です。乾燥が早くて、少し乾けばゴムに似たような弾力性が出るので、混ぜる分にはいいのですが、子どもたちにとって形にするのは少し難しかった粘土です。そこで、この粘土に試しに透明なスライムを少し混ぜてみたら、子どもの手によくなじむ、おもしろい素材ができあがりました。
 急速に乾燥したりせず、そしてよく伸びるきれいな粘土です。芯を入れておけば、大きな物も作れます。手の平でパシパシたたいたり押したりすると、薄くのばすことも楽で、しかもスライムは元はと言えば科学糊ですから、紙にもくっつくので、粘土で絵を描くのも可能です。
 最近この粘土でお面を作ったり、絵を描いたり、器を作ったり、自分の足を型代わりに靴を作ったり、あるいは針金につけてパッチワークでできたような立体を作ったりして、新しい素材として楽しんでいます。
 年齢にかかわらず子どもたちは色と色を混ぜ合わせるのが好きで、さまざまな色を工夫しています。絵の具でよくする色遊びと違い、一瞬のうちに色が変わることがないので、変化は目の前でゆっくり進むところが魅力なのかも知れません。
 粘土を棒状に伸ばして、枝に巻いたり、針金に巻いたり、腕に巻いたりもします。ハサミで紙のように切ることもできます。他にもいろいろと思いつく子どもたちの二つの「そうぞう力」を、この粘土はほどよく刺激してくれているようです。







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