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―― 子ども家庭支援(1)――
生活を豊かにデザインする
〜〔こどもの城〕の子ども家庭支援プログラム〜
こどもの城 保育研究開発部
山田道子
はじめに
 保育の多様化がはじまっています。それとともに児童福祉施設等では第三者評価、保育士の国家資格化などにともない、保育の質が問われるようになりました。通常の保育内容はもちろんですが、保育園などで行っている子育て支援のプログラムも、質を問われることになってくると思います。
 ついこの間までは日本中どこの保育園でも「子育て支援」のプログラム開発に一生懸命でした。新しいプログラムを開発するにあたり、〔こどもの城〕にもたくさんの保育関係者が訪ねてきました。
 児童福祉施設等で行う「子育て支援」の必要性・重要性は今後もさらに高まっていくと思います。そうなると、そのプログラムが子どもや親に本当にふさわしいものなのか、指導にあたる保育者に親子を援助する確かな力量が備わっているのかなど、プログラムの質が求められることになります。
 広い意味での保育の専門性を高める意味からも、今、保育者をはじめ子育て支援に関わる多くの人たちが、改めて子育て支援のプログラムを見つめ直すことが大切になっているのではないでしょうか。
 
〔こどもの城〕の場合
 〔こどもの城〕の「子ども家庭支援プログラム」は、開館当初(昭和六十年)から、少子化傾向をはじめ、核家族化の進行、男女共同参画社会などにより子どもを産み育てることが次第に困難になりつつあることをキャッチしてはじめられたものです。その内容も、子どもや親(家庭)の生活を豊かに援助することをめざして今日に至っています。「親」と「子ども」をキーワードにこれまでさまざまな子育て支援のプログラムを実践してきました。
 保育事業(保育クラブ、幼児グループ、親子教室)を中心に、大型児童館である〔こどもの城〕に来館する一般の親や子どもたちのためのプログラム(親子工房、よちよちクラブ、保育室開放)、そして指導者向けの研修会(保育セミナー、子育て相談研修会)などを行ってきました。
 このシリーズでは、これらのプログラムを具体的な事例をあげながら紹介し、「子ども」と「親」への関わり方を考えていきたいと思います。保育にとどまらず広く子どもや親子に関わる方たちの参考にしていただければ幸いです。
 
子どもの遊びと人間関係
 近年の子どもが少なくなったことや子どもの生活環境の変化は、子どもたちの遊びにもいろいろな形で表われています。
 
ままごと遊びの場面も、社会の変化にあわせて変わって「ファミレスごっこ」に。
 
 例えば、四歳児の女の子が「レストランごっこするものこの指とまれー」といい出すと、「入れて」とたちまち数人の女の子が集まって来ました。「ボク、コックさんになるから入れてよ」と男の子も仲間入り。
 「いらっしゃいませー」「ご注文はなににしましょうか」「今日のお勧めはお肉です」「飲み物もありますよ」「すみません、お味噌汁ください」などと慣れたようすで遊びだしていました。
 子どもたちはこのファミレスごっこが大好きです。まるで家庭の食事の場面がファミレス店内へとって変わったかのように自然なかたちで流れていくのです。
 たまたまその場に居あわせた保育者が「赤ちゃんはいないんですか」と尋ねると「赤ちゃん? いらない」と手を振り「子どもはひとりでいいんです」という答えが返ってきました。そういえば、ファミレスごっこしていた子どもたちはほとんどが一人っ子でした。
 赤ちゃんを肌で感じることが少なくなったためなのか、ままごと遊びにも登場することが少なくなりました。隣りのおばさんとか、親戚の子どもというのも会話のなかにでてこなくなりました。変わって登場してきたのが、宅急便の配達のお兄さんや、ガスの点検に来る人たちです。「ハンコ、ハンコ」といったり、「ちょっと待ってください」などといって遊んでいます。
 こうした遊びの姿から、家庭における子どもたちは限られた人間関係の中で生活しているのではないかと思わされました。
 
「保育クラブ」と子ども集団
 〔こどもの城〕の「保育クラブ」は登録をしてから利用する会員制の保育です。二歳から就学前までの子どもたちを対象にしています。十七年前に「保育クラブ」をスタートさせたころの親のニーズは、大きく分けると次のようなものでした。
 子どもを集団の中に入れて遊ばせたい/親の用事(通院、介護、保護者会、買い物他)の時に利用したい/不定期の仕事のために利用したい――などです。
 今日でも親のニーズは多岐に渡っていますが、最近の傾向として、子どもを集団の中で遊ばせたいという要望の高さはとくに目立っています。中でもこの二、三年の傾向は、幼稚園に既に在籍しているのに「保育クラブ」の会員を希望する家庭が増えているという現象です。主に三歳以上の子どもがいる家庭なのですが、その理由を聞いてみるといろいろな子ども集団の中で遊びを経験させたいというのが大部分の親の気持ちであることがわかります。
 地域に偏りもあるでしょうが、子どもは幼稚園や保育園のほかに家庭の周辺で気軽に子ども同士で遊ぶことがめっきり少なくなったと親たちはいいます。親自身も近隣に親戚や知り合いが少なく、人との付き合いが狭くなっていることから、社会性を育てる上からも子どもには機会を見つけては子ども同士が触れ合える場に連れていきたいと話します。
 
子どもの事情とフリー会員
 子どもたちは、夏休みや冬休み、あるいは園の行事のお疲れ休みなどを利用して、事前に親が予約をしておいた「保育クラブ」に遊びにきます。
 いろいろな保育施設から子どもたちはやってきます。一口に幼稚園、保育園といっても手遊びの歌は同じでも手の使い方・動かし方が違っていたりします。食事の挨拶なども単純に「いただきます」「ごちそうさま」だけではありません。食前の祈りをするなど宗教上の違いもあり、まさに一通りではないのです。
 当然子どもたちは「そのやり方は違うよ」「ボクの幼稚園はこうするんだよ」などと言い出します。保育者は「みんなの行ってる幼稚園や保育園はそうだけれど、今日は保育クラブに来ているからここのやり方でしてみましょう」といいます。おもしろいことに保育者のこの一言で子どもたちは静かになり次の行動に移ることができます。
 「保育クラブ」のねらいの一つにしていますが、子どもたちにはさまざまな子どもと触れ合うだけではなく、人が生活するには遊び方をはじめ、国や人によっても習慣の違いなどがあることに気づいてほしいということをあげています。
 こうした形で「保育クラブ」を利用する子どもたちのことをフリー会員(不定期利用)と呼んでいます。
 もちろんふだんの保育には、定期的に曜日を決めて遊びに来る子どもたちがいるのですが、この中にも曜日を決めないでフリー(不定期)で保育に参加する子どもたちがいます。海外や地方からの転勤で引っ越して来て次の幼稚園が見つかるまで「保育クラブ」に遊びに来る子どももいます。また、母親が急に入院することになりその間、子どもは実家の祖父母宅で預かり、昼間は「保育クラブ」で楽しく過ごさせてやりたいからとフリー会員になった家庭もあります。
 さらに、幼稚園や保育園で不適応だった子どももフリー会員として遊びに来ることがあります。年長児になってからどうしても保育園に行くことができなくなった子どもが、週に一回ずつ遊びに来るようになり友だちも増えて明るくなったケースもありました。
 
子どもと親(家庭)のパートナーとして
 このように「保育クラブ」は子どもや親の背景はそれぞれにあるものの、保育の場を通して、心に響くたくさんの本物に出会ってほしいと願っています。
 今や、保育の世界のみならず社会全体が変革に向かって走りだしているかのようですが、多様な保育の出現や親が保育を選択する幅が広がったことはうれしいことです。〔こどもの城〕で行ってきた「子ども家庭支援プログラム」が少しずつ広がりを見せていることも担当してきた者にとっては励みになっています。保育を通して行う子育て支援の担当者には子どもと親(家庭)のよきパートナーとしての存在が求められているのではないでしょうか。
 
 
 
予防接種と感染症
全国保育園保健師看護師連絡会 高岡久美子
 保育園児の感染症は、保育園や保護者にとっても、もちろん園児にとっても重大な問題です。
 保育園にとっては、罹患した園児の隔離、未罹患児への配慮、保護者への対応などの配慮が求められます。
 また保護者は、いつまで休まなくてはならないのか、やむを得ず仕事に出る場合の子どもの保育の手配など、予定外の出来事に別のエネルギーが必要です。
 罹った園児は、痛みや痒み、皮ふの発疹、高熱など、身体的につらい思いをしなければなりません。また、合併症などを併発し、治るのに予想以上の期間がかかったりすることもあります。
 集団生活を送る保育園は、低年齢の集団のため、子どもの罹りやすい病気が発生すると、あっと言う間に広がってしまいます。
 症状が軽い病気は、上手に乗り越えて免疫を獲得して行くことも可能ですが、重い合併症をおこす病気は予防接種で免疫を獲得することで、個人としても、集団としても予防することが可能となります。
 ゼロ歳児から保育する保育園では、百日咳や麻疹が発生して、大急ぎで嘱託医と相談し、感染予防の対策を取ることがあります。保育園時代に罹らなくても、小学生や中学生になってから発病したり、また成人になってからの発病も見られ、子どものときに罹っていれば軽症で経過したものも、年齢が高くなってから罹患した場合は、想像以上に症状が重くなるものもあります。
 一九九七年に、当会で「保育園児の予防接種状況と罹患状況の関連」を調査した感染症の罹患では、保育園に入園してからの一年以内が最も感染症に罹り易いという結果が得られました。
 同調査で「水痘」の罹患状況をみますと次のような結果でした。
 ゼロ歳児では一三・八%、一歳児三二・六%、二歳児二六・〇%、三歳児一七・九%、四歳児七・八%、五歳児一・八%で一歳児が最も高い罹患率でした。
 集団の中では、ゼロ歳児も水痘に感染することがわかります。水痘は感染力も強く、一度発生すると、クラスのほとんどが感染するまで終息しないという報告もありました。また、同調査では保育時間の長い子どものほうが、短い子どもより感染する頻度が高いこともわかりました。
 現在、保育園は様々な保健的配慮の必要な子どもを預かっています。そこで感染症対策はどのようにしているのでしょうか。
 
感染症が発生した場合
 隔離が可能な場合は隔離します。年齢が小さく発熱や不安などがみられる場合は、保育室でなるべく他の園児から離れた場所で静かに保育します。このとき園児が安心出来る保育者がそばについてあげます。
 同じクラスの園児の罹患状況を把握し、罹っていない園児はできるだけ接触をさけます。保護者への連絡は、感染症の疑いがあることを伝え、出来るだけ早くお迎えにきていただきます。そして受診するよう伝え、受診の際には他の園児が同じ病気に罹っているか、同じクラスの園児か、また近隣の状況なども伝えておくと、受診の際の情報の提供となります。結果を保育園に連絡するようにお願いします。
 間違いなく感染症だった場合は、嘱託医に連絡をし、場合によっては指示を受けます。また、掲示をして、全保護者に感染症が発生したことを伝えます。
 予防接種が未接種の園児の保護者には、嘱託医と相談し、接種を勧めます。潜伏期間と思われる間は、受け入れ時や保育中の観察を十分に行い、二次予防に努めます。
 休みの連絡と同時に園児が感染症だったことが判明することがありますが、この場合保育園での感染症の取り扱い、登園の際の証明書の提出などを確認します。
 
治癒して登園する場合
 治癒したときの登園の手続きについては、それぞれの保育園で決まりがあると思いますが、学校伝染病の分類を参考に、登園停止期間が決められています。
 ほとんどの感染症は、発病前に感染力が強く、症状が出たときには感染力は衰えています。しかし、百日咳などのように長期にわたって感染力が強いものもあります。このような場合は、医師の治癒証明を提出していただくようにしています。
 また、たとえ登園停止期間を休んでも、明らかに治っていないと判断できるケースについては嘱託医に相談します。
 
入園前に
 入園が決まって健康診断が実施されます。その際これまでに罹った病気、実施済みの予防接種および、未接種の予防接種を確認します。把握の方法は様々ですが、入園の際の調査票を用いたり、聞き取りによって把握します。
 入園の頃の春はポリオの接種の時期です。ゼロ歳児や一歳児ではまだ接種していない子どももいます。また二〜三歳児でも接種していない子どもがたまにいます。ポリオと麻疹の予防接種がまだの場合は、ポリオを先に受けるように勧めます。
 四週間の間をあければ麻疹が受けられることも伝えておくようにします。保護者が、よく忘れる予防接種に三種混合の追加接種があります。
 この機会をとらえて、入園前に済ませるように声を掛けます。産休明けで入園する園児は、全く予防接種を受けていない状態で入園してきます。
 最初にBCG接種があることを伝えます。入園時の健康診断は、嘱託医から予防接種を受けるよう指導してもらう良い機会です。
 
予防接種について
 予防接種は、感染症を予防するうえで最も有効な手段です。個別、保護者会、定期健康診断の結果をお知らせするときなど、あらゆる機会をとらえて予防接種を勧めています。
 低年齢の子どもの集団生活であること、何よりも、罹った子ども自身がつらいこと、感染源になること、合併症の危険もあることなどを伝えています。
 それでも独自の考え方や、宗教上の理由で予防接種を一切受けない家庭があります。
 このような保護者に対しては、最初は無理に勧めずに、保育園生活が進んでいくうちに、感染症がでた折を利用するなどの工夫が必要です。
 当園での予防接種状況は、ゼロ歳児から五歳児までBCG、ポリオ一回までは一〇〇%でした。ポリオの二回目はゼロ歳児の二五%が未接種でした。
 麻疹の接種率はゼロ歳児六六・六%、一歳児九四・七%、二歳児八〇・九%、三歳児一〇〇%、四歳児八五・一%、五歳児八〇・七%でした。四歳児四名一四・八%は入園前に罹患していました。
 一歳の誕生日に誕生カードを渡すときに、身長体重を書き入れますが、そのとき必ず「はしかの予防接種をしましょうね」と言葉を添えるようにしています。お母さんたちの中にも麻疹のこわさは浸透しているので、接種が無事に終わると必ず報告してくれます。
 三種混合の追加接種や風疹などは、毎月の身体計測の結果をお知らせするカードに、「○○の予防接種を受ける時期です」とか、「○○の予防接種は受けましたか?」と言葉を添えて促したり、保護者に直接言葉をかけています。すると「〜日に予約しました」とか「すっかり忘れていました。受けます」などと返事が返ってきます。
 
副作用に注意する
 接種適齢期になったら、体調の良いときを選んで、保護者の判断で受けていただきます。保育園での体調をたずねられることもあります。機嫌、食欲、活動性、鼻水、咳、体温、など具体的に伝えます。少しでも気になることがある場合は、その点についても説明します。
 アレルギー体質の子どもや、虚弱児、熱性けいれんの既往がある子どもは、掛かりつけの医師と十分相談するように伝えます。
 予防接種後は静かに過ごせるよう配慮し、二四時間〜一〇日後の健康観察を、園でも注意します。
 子どもによって発熱や接種部位の発赤、腫脹などを見ることがあります。全身状態の観察も含めて配慮が必要です。
 
健康管理
 園児一人ひとりの予防接種および感染症の罹患状況を把握しておくことは、健康の増進を図り、感染症罹患時に適切に対応するためにも大切なことです。
 園児一人ひとりの記録ももちろんですが、クラス毎に一覧表を作成し、全ての保育者がわかるようにしておくことが、健康管理上重要です。
 
健康状況一覧表
☆感染症が発生した時、各クラスの予防接種状況、罹患状況が、集団として把握できます。
☆集団健診時に既往症及び状況の把握ができます。
☆緊急及び災害時は、すぐに持ち出せ個々の状況も把握できます。
☆看護婦だけでなく、担当保育者と共有して活用できます。
〔入園時、疾病罹患時に記入確認して活用できます。〕
〔入園時から退園時まで継続して利用できます。〕
〔感染症に罹った場合は( 印)色分けをしておくと見やすくなります。〕
 
健康状況一覧表(予防接種状況)
(拡大画面:52KB)







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