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レポート
幼稚園の窓から(33)
公立保育園の民営化が幼稚園の経営体質に変化を
片岡進
「月刊・私立幼稚園」 編集長
根回しとクジ運で明暗分ける
 このところ幼稚園経営者との世間話では保育園に関する話題が圧倒的に多くなりました。ライバルですからボヤキもあれば強がりもありますが、これを話題に持ち出す経営者の大半は、みずから保育園界に打って出た、あるいはこれから出ようとする積極派です。
 市立保育所の民営移行が始まり、学校法人もその受け皿になることが認められた最初の頃は、市の職員がカバンに資料を詰め込んで幼稚園を回り、「この保育所はいかがですか。じゃ、こっちはどうでしょう」とセールスに努めたこともあったそうですが、今は民営移行の説明会を開くと学校法人の出席が一番多いとのことです。それだけ幼稚園経営への危機感が強いのでしょう。
 しかし、それだけ幼稚園からの保育所参入希望が増えてくると、うまく将来構想が描けるようになった人と、願いが叶わず、再び独自の道を模索する人に分かれてくるわけで、そこから新たな幼・保状況が生まれてくる気配でもあります。
 山形県の事例です。古くから無認可の乳幼児保育園を併設してきた幼稚園経営者が、自分の幼稚園の近くにある市立保育所が建て替えられて民営化するとの話を聞き、その受け皿になろうと手を上げました。複雑な思いの決断でもありました。なぜならその経営者は、自分の無認可保育園を認可園にしてほしいと市に何度も申請していたからです。市の答えはノーでした。理由は財政事情です。もしそれを認可すると、同じように設置条件をクソアしている市内十数カ所の無認可保育園も認可せざるを得なくなり、市の財政ではとても対応仕切れないというのです。
 「大事な子どもの保育環境にお金をケチってどうする」と再三詰め寄りましたが埒はあきませんでした。そこに起こった民営化の問題でしたので、誰もがこの幼稚園が受け皿になるものと思いました。ところが決まったのは、一番遠くの地域から手を上げた幼稚園経営者だったのです。園児減で苦しんでいたこの経営者は、市内中心部への進出を期して、かねてから市への働きかけをしていたとのことでした。
 そうなると地元の幼稚園は「幼稚園も満足に経営できないような人のところに、うちの地域の子ども達を通わせるわけにはいかない」と鉢巻きを締め直しました。思わぬ形で幼・保対立の図式が燃え上がったのです。
 栃木県の事例も、最終候補まで残ったのは二つの私立幼稚園でした。どちらも熱心で積極的。しかもお互い市への根回しも十分だったため、市は軍配を上げられなくなって両者のクジ引き決戦となりました。外れクジを引いた幼稚園経営者の落胆が人一倍大きかったのは言うまでもありません。
 市は「また何年か後に、建て替えて民営化する保育園が出るはずだから、そのときに再チャレンジを」と慰めましたが、またクジ引きで負けるかも知れないと、その幼稚園は同じ敷地の中に無認可の乳幼児保育園を独自で建てることにしました。山形の幼稚園と同じ形でみずからのテコ入れをすることになったのです。
 つまり保育園の民営化をめぐる明暗が、幼稚園の経営体質に大きな変化を与え、新たな状況を生む原動力になっているということです。その昔にも、住宅公団団地の中の幼稚園新設をめぐってクジ引きがありました。当たったところは意気揚々としていましたが、それが今は廃園となった例も少なくありません。同じような状況を案じているのは私だけでしょうか。
 
 
 
誌上研修「人材育成」(16)
「保育と人生」を豊かに生きるヒント集 第86回
「反省」は次のパワーを生む
人材開発コンサルタント
塩川正人
 前回までご紹介した「評価」について、満足する人は「最高」の評価を受けた人だけで、他の人は、評価に不満を感じているかもしれません。
 それでも「評価」の必要性はあります。
 なぜなら評価のない仕事は「やってもやらなくても同じ」ということになります。
 たとえ公正な評価と思えない評価であっても、評価をする必要があります。ただし、評価のあとに「反省」を行うことが前提条件です。
 反省は、個人の反省だけでなく、全員で反省会をしたいです。この際、評価内容までオープンにすることはありません。全員で反省会をすることだけで、不公正な評価は激減します。
 あらゆる場面で「反省」はパワーを生みます。反省のメリットは例えば次の如くです。
・反省は、自分を「素直な心」にする。
・反省は、相手と心を一つにする。
・反省は、次の取り組みを正しくする。
・反省は、相手の協力を得やすくする。
この逆も整理してみます。
・反省がないと、自己満足に陥る。
・反省がないと、相手の反発を受ける。
・反省がないと、自分で自分が見えなくなる。
・反省がないと、相手が次の展開に不安や不信をもつ。
「評価」という一番難しいことに直面した人は、必ず「反省」する習慣を持ちたいです。
 
 
 
 
豊かな感性は保育環境から
 立春もすぎ啓蟄が近づくと、寒さの中にも、ずいぶんと日差しは軟らかくなり、そこここに春の訪れを感じるようになる。街角からそこはかとなくただよってくるのは沈丁花、梅の香も匂ってくる。遠くの山肌を見とおすと、霞がかかったように木々は芽吹きのしたくをしている。
 私の周りにいる保育人(びと)たちは実に自然の営みに敏感である。秋は落葉する園庭のかえでを見て、「はっぱのフレディー」の朗読に涙をながし、春は門出と出会いの喜びに胸をときめかせる。
 ある園長は「自然と友だちになろう」と子どもたちを園外に連れ出す。子どもたちに「ゆっくりあるこう」「そっと近づいてみよう」「いろいろな匂いをさがそう」「耳をすましてみよう」「しゃがんでまわりをみわたそう」「そっとさわってみよう」とまさに五感で自然を感じ、発見の喜びに子どもたちと一緒に感動する。感動こそ保育の原点なのだと。子どもたちとジャングルジムに登るたびに木蓮の蕾のふくらみが大きくなってきているのが嬉しいとある中堅保育士が報告にきた。その気づきにこちらも嬉しくなった。改めて、身近な自然に目を向けてみた、近くで見ると実にいろいろなものが見えてくるものだ。早春の風を感じるのは肌や頬。ねこやなぎの芽を頬にあてて、気持ちがいいと子どもたちは楽しそうに話している。自ら豊かな感性を持ち、自然とのふれあいをとおして子どもたちの感性を育てていく保育者を保育人と呼びたい。「感性の育ちを見つめよう、情緒豊かに」といっても、それらは目に見えない。目に見えないために内面の育ち(心の育ち)は、はかりようがないが、保育人に見守られている子どもたちの心は豊かに育っていくことだろう。
 子どもの身体を健康に保つのは食事である。調理室からただよってくる湯気のにおいも保育には欠かせないにおいであると思っている。レトルト食品やスーパーの総菜売場の食品の味に慣れたのか、保育園の薄味の給食が食べられない子どもやパンしか食べない子、根菜類には一切手を付けない子など食事に関して気になる子どもが増えている。
 子どもが一生懸命掘った、芋掘りの芋を家庭に持ち帰りたくないという保護者が時々目につくこの頃、保育園での給食が子どもの食生活を守る最後の砦のように思うのは私だけでしょうか。外注にしても、他の施設で作られても給食の時間に子どもに届けられればそれでいいというものではない。
 調理室で忙しく包丁を動かす調理員の姿に、食事の大切さを教えることもできるし、感謝の気持ちを表すことも伝えていける。給食のにおいに食事の楽しさを思い、食べる意欲へとつながることは生きる力を養うことになる。
 保育園も経営、競争の時代に入り、コスト論が先行する今日、子どもの健康を守るための歯止めとして、時代錯誤といわれても、保育園の調理室だけは守りたいと願っている。子どもたちが長時間を保育園で過ごすからこそ、保育室は家庭の居間のようなくつろいだ雰囲気が感じられる空間でありたいと環境整備に心をくだいてきた。食事環境もまた安定した保育につながる環境の一つであると思う。
 自然環境と調理室、なにかアンバランスのようであるが、心と体の調和のとれた子どもたちの成長発達を思い筆をとった。
 保育所調理施設の見直しが総合規制改革会議の論議の的になったかと思えば、今は、保育所運営費等の一般財源化が打ち出され、予断を許さない状況になってきている。道路よりも空港よりも、未来をになう子どもたちの保育に安心して取り組める保育政策の確立を切に願う毎日である。
(ふれあいびと)
 
 
 
――食育リーフレットを活用して――
(社)日本栄養士会全国福祉栄養士協議会幹事 田中眞智子
 保育所の中を子どもたちが元気に走り回ったり、遊びに夢中になったりしていると、給食室からプーンと良いにおいが漂ってきます。子どもたちが保育室に戻り、少し落ち着いた頃「いただきます」と大きな声が聞こえてきます。大好きな昼食の時間です。ご飯を夢中に食べている子ども、大好きなおかずから食べている子ども、苦手な野菜に悪戦苦闘している子ども、なぜかおしゃべりしている子ども、それぞれに友だちとの食事を楽しんでいます。食べ終わり、お皿がピカピカになると、誇らしげに「ごちそうさまでした」と挨拶して片付け始めます。「おいしかった?お魚もお野菜もピカピカにしてもらって喜んでいるネ。元気になれるね」と保育士。「また、つくってね。と給食の先生に言ってくる」と子どもは給食室をのぞきに行きます。日々繰り返されている保育所での食事風景ですが、家庭での食事の様子はどうでしょうか。
 (社)日本栄養士会の“子どもの健康づくりと食育の推進・啓発事業委員会”では、平成十一年三月、全国十三都道府県保育園児(ゼロ歳〜六歳)五、三九八人に乳幼児食事基礎調査を実施しました。その結果からみると、「いただきます」「ごちそうさま」の両方の挨拶をほとんどする子どもは朝食で三五%、反対に両方とも挨拶をあまりしない子どもは朝食で二四%、夕食で一五%でした。挨拶が大切か否かについてはいろいろな意見もありましたが、子どもが挨拶する習慣は、いつも大人が挨拶をしている食卓をかこんで育つことと、挨拶の仕方と食生活や生活全体が深く関わることが明らかになりました。食事の挨拶は子ども、保護者にとって比較的達成しやすい目標ですが、食習慣、人間形成、感謝の気持ち、食文化等、幅広い意味を持つものと考えられます。
 そこで、調査結果を踏まえ、「あなたの家族はどっち?どちらを選びますか?」のリーフレットを作成し、保育所等、児童福祉施設における“食育”の実践に活用しています。リーフレットの内容は「朝食で両方の挨拶をほとんどするYさん家族は、ほとんど挨拶をしないNさん家族に比べ、食生活や生活全体が良好です」という内容です。最後に、保護者がより関心を示してくださるよう、「家族みんなで食事のあり方を考えてみよう」のセルフチェック一〇項目が用意してあります。
 当協議会では、全国研修会・新人研修会の児童部会、児童福祉施設担当栄養士研修会等において、リーフレットを活用した“食育”の実践を啓発し、リーフレットの見本を配布して使用希望者を募っています。
 そのリーフレットを活用した食育の実践報告は、現在十三市町村、三三保育所から寄せられ、(1)保護者会講演会、(2)地域向け子育てミニ講座、(3)保育参観の資料(4)地域親子料理教室で活用、(5)保育所における食事調査との併用等で活用されていました。保育所栄養士が保育所の保護者のみならず、地域の保護者むけの指導にも活用されていることは、当協議会活動が願っていた“地域への働きかけ”として、まさに“子育て支援”の実践に繋がる一助になっていることが伺えました。
 なお、実践評価の参考にするため参加者へ依頼したアンケートは二、〇一六枚配布、回収は一、五四四枚(回収率七八%)でした。アンケートの結果は、次の通りとなりました。
(1)「子どもの食事で気になることがある」の問いに、「はい」と答えた方が六三%、食事について何らかの不安を訴えている保護者が多くみられました。
(2)「食事マナーは厳しいほうだと思う」の問いに、「はい」と答えた方が四〇%、思いの他マナーを気遣う家庭が多くみられました。
(3)「子どもだけの食事が、しばしばである」の問いには、「はい」と答えた方が一四%でした。(全国調査では朝食一八・三%・夕食二・五%)
 以上のことから、保育所栄養士が相談窓口になり、各家庭のQOLをふまえて適切に助言をすること、またマナーの厳しさが食事の楽しさを失う場合もあることなど伝えていくことの大切さを痛感しました。
 「家族は健康である」の問いに、「はい」と答えた方が八九%でした。反対に一一%が家族の健康に不安があるとも考えられます。これからは、子どもの健康・食事作りに少し気遣うことで、家族の健康管理につながり良い影響ももたらすことを期待したいと思います。
 さらに、「食べることにあまり関心がない」と答えた保護者が八%あり、親の食事への関心が薄いと、子どもも関心が低く食事を楽しめないことも考えられます。保育所等で積極的な食育や調理保育により「食」への興味・関心・大切さ・楽しさを知らせていくことは、これからも重要な役割と考えます。
 食育講座終了後に行ったセルフチェック結果では、『これからまたはこれからもやろうと思う』では○の数が大きく増えており、保護者の意識が前向きに変化したことが読みとられ、食育の効果があったことが推測されました。
 食育リーフレットの内容については「初めて聞く内容であった」との答えが七〇%もあったことから、多くの情報や適切なアドバイスを、引き続き発信していく必要性を強く感じました。
 私の勤務する保育所においては、一月〜二月にかけてこのリーフレットを活用したミニ講座を実施しました。設定と対象は、各クラス懇談会では保護者向けに、地域園庭開放日には地域の保護者向けに行いました。始めにリーフレットの内容をお話しし、それをきっかけとし保育所での食事の様子を伝えたことから、家庭の食事に話が広まり、思わぬ家庭の悩みがでてきたり、家庭での子どもの姿を知ることができたり、保護者同士でアドバイスをしあったり、お互いに打ち解けた会となりました。なるべく保護者の話を引き出すように配慮し、必要に応じ助言と保育所での指導方法を伝えるようにしました。特に、家庭で子育てをしている地域の保護者にとっては、他の家庭の様子や同年齢の子どもの様子を知る機会が少ないため、関心をもって参加してくれたように思います。
 (社)日本栄養士会では、食育問題検討委員会を立ち上げ、福祉・行政・学校・地域・集団健康の各職域で連携した食育の取り組みも始まっています。これからも、保育所等の栄養士が子どもに「楽しく、いきいきとした食生活を営む力」を育む食育と、地域の中で子育て支援に取り組むことを重点に活動の幅を広げていきたいと思います。
 
 
 
――図書――
保育所保育の福祉運営
野坂勉著
 著者は昭和五〇年代から日本保育協会の国庫補助事業である保育所長研修会及び各種の調査研究事業において、研究員として二〇年以上にわたり社会福祉施設運営論の視点から業績を残されました。
 この調査研究において執筆された報告を基としてまとめられたのが本書です。
 今日、保育者において「子育て支援」、「児童福祉」等について検討する際に大切なことは、過去の福祉・保育政策等の変遷の歴史に学ぶことです。また、それぞれの時代の保育ニーズや、それに対応する保育所の運営管理の実態を分析し考察することです。そうした意味からも本書はたいへん価値あるものといえます。
内容(目次から)/序章・保育所保育の福祉運営 第1章・運営主体と運営管理 第2章・保育所運営と経営環境 第3章・特別保育と運営体制 第4章・子育て支援と保育所保育 第5章・制度改革と保育所対応
定価1500円+税 八千代出版発行
TEL03(3262)0420
FAX03(3237)0723
 
――図書――
子育て支援と保育者の役割
柏女霊峰著
 子育て支援に対する保育所・保育者の役割がこれまでになく強調されるなかで、どのような子育て支援ができるのか、あるいはすべきなのか。
 この本では、子育ての現状を踏まえ、保育所・保育者が取り組む子育て支援の意義と具体的活動のあり方について、さらに保育士資格の法定化を踏まえた「保育指導」のあり方や今後の課題について考えます。
 平成十三年の児童福祉法改正により、新たに児童福祉法第四条に、保育所保育士が保育に関する相談・助言の知識、技術について修得する努力義務を有することが規定されました。本書はこれに対応し、保育士が日頃行っている保育に関する相談・助言活動をあらためて整理するために執筆されました。また、保育行政担当者や地域において子育て支援活動を行っている機関・施設の人々やボランティアの方々などにも活用いただきたい。
定価1400円+税/フレーベル館発行/TEL03(5395)6613







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