保育を巡る議論の流れ
平成15年2月28日 |
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社会福祉法人 日本保育協会 |
☆四月は入学や進学の季節。保育園にも新しい子供たちの顔が加わる月でしょう。私のところも、こないだ生まれた赤ん坊が新たに近くの保育園のお世話になることになっています。親も、子も、不安と期待と緊張の多い月。しかし不安や緊張があるからこそ、四月はまたいちばん思い出の多い月になるようにも思います。
私どもの仕事場でも、四月は人事異動の月です。厚生省と労働省が一緒になって二年三か月が経ち、その時新たに発足した新省広報室の、言わば創業メンバーの多くが交代します。この間にできたこと、できなかったことのいろいろ、変わったこと、変わらなかったことのいろいろを、改めて広報室として振り返ってみる良い機会だと思っています。そして良い意味での緊張感を維持しつづけるための機会にしたいと思っています。
☆四月は新たな年度の始まりの月ですので、月刊「厚生」では恒例にしたがって平成十五年度厚生労働省予算の概要についての特集を組みました。大臣官房から社会保険庁に至るまで、旧労働省部局を含め、省全体の予算、及び各部局それぞれの予算の、新規事項や重点事項についての紹介、解説を行っています。改めて我が厚生労働省のカバーする範囲の広さを思い知らされる感じもいたします。広くご参考にしていただければと思います。
また本号では小特集として、五月初めの児童福祉週間に関する記事をまとめてみました。児童福祉週間の歴史や平成十五年度の同週間の行事、関係施策についての紹介などのほか、私ども厚生労働省の雇用均等・児童家庭局長と中学生お二人、それに児童館活動に関わっておられる大学生や団体の方などに加わっていただいての座談会も収録しています。こうしたものを通じて、子供の自立と参加、大人や行政の支援というもののあり方について、読者の皆さんの考えを深めていただくよすがを提供することができればという企画です。楽しい紙面になっていることと思います。ご期待下さい。
☆インタヴューは、これも子育て支援関係となりますが、岩手県立大学助教授の鈴木真理子さんです。ご自身の子育て体験やボランティア経験を生かしながら地域の子育て支援活動に積極的に関わり、また研究者として、「育児保険構想」など新たな社会的仕組みについての理論的な提言を世に問うておられる方です。こうした理論と実践を共に手がけている研究者の方が、最近は増えてきているのではないかと思います。われわれ行政官も頑張らなくっちゃ、と思わずにはいられません。
☆このほか、四月号からの短期連載読物として、「交通事故に遭ったなら」というのが始まります。筆者は菊池京子さん。菊池さんは社会保障関係を得意分野として活動してこられたライターですが、昨年交通事故で文字通り九死に一生を得る体験に遭いました。その直後からの治療やリハビリの日々を綴った「交通事故日記」です。これまた文字通り目からウロコの思いがします。交通事故が決して珍しくない現代、このウロコは多くの人が、また社会保障に関わる者は特に、落としておくべきであろうと思う次第です。
最後にこっそり付け加えますが、この四月号の料理のページ(今までふれて来ませんでしたが、月刊「厚生」には料理のページもあるんです)には、私が登場しています。どんな料理を作ったかはここではヒミツとさせていただきますが、歴代広報室長が一度は登場させられるこのページ、これで四月号は売り上げが落ちたということにならないように、是非皆さん買って下さい。
(厚生労働省 大臣官房広報室長 樽見英樹)
雑誌「厚生」年間購読料・八、二〇八円 (送料込)お申し込みは、中央法規出版(株)、電話〇三−三三七九−三八六一
――地方版エンゼルプラン――
岡山市保健福祉局 子育て勤労部保育課長
田淵薫
1 岡山市の概況
岡山市は面積五一三・二九平方キロメートル、南に瀬戸内海、北に吉備高原があり、岡山平野を中心とした中四国の交通結節点にあたる中核市です。
人口は約六三万人、人口は増加傾向にありますが、就学前の児童数は微増あるいは横這い傾向となっています。就学前の児童数についてはもう二〜三年は増加するとの予測ですが、その後は全国的な流れのように、よほどの社会増がない限り減少していくと予想されています。これに対し、高齢者率は平成十四年度当初では一七・二九%となっており、毎年○・四〜○・五%増えている状況です。
また、岡山市の特徴として、幼稚園、保育所ともに公立が多いということがあります。幼稚園では八三園中、六八園、保育所では九七園中、四三園が公立です。
2 子育て支援のための組織改正
岡山市では平成十四年四月から「子育て勤労部」を設けました。
これは、子育ての問題について教育委員会でやるもの、福祉部門でやるものなど、市民にとってわかりにくいこと、保育所で行う地域子育て支援センター、幼稚園の子育て広場、さらには児童館、公民館の事業など、目的は同じ子育てであるのに、これらを総合的に調整するところがないことから、新たにこの部を設け、従来教育委員会で所管していたものも含め、担当することにしました。ただし、幼稚園の所管については、さすがに法律上の制約もあり、教育委員会のままとなっております。
3 子育てアクションプラン
平成八年に国のエンゼルプランを受けて、「おかやま子ども未来プラン」を策定していましたが、その後の状況の変化等に対応するため、子育て勤労部を中心に「子育てアクションプラン(仮称)」を平成十五年度中に策定しようと昨年十二月に庁内策定会議を設置しました。
案としては、「子どもの笑顔があふれるまちおかやま」を計画の理念に、「子どもを安心して生み育てることができるまち」、「子どもが地域の中でいきいきと育つまち」、「仕事と家庭が両立できるまち」の三つの基本目標を設定し、市民・家庭・地域・事業者・行政等が協力しながら取り組もうというものです。
4 待機児童解消
岡山市では平成八年度から保育所への入所申し込みが、定員を上回るようになり、その後平成十一年度までは毎年待機児童が増えてきていました。
この原因としては、全国共通だと思いますが、核家族化、女性の社会進出、都市化の進展による地域での子育て機能の低下などが挙げられると思います。
また、岡山市では就学前の子どもの数が現在のところ微増、あるいは少なくとも横這いの状況で、平成十一年以降は三万九千人台で推移しており、その内、保育所へ入所を希望する割合は平成九年四月の二三・六%から十四年四月は二七・○%にまで上昇しています。年度末では三〇%を超えている状況です。
子どもの数も、もう二〜三年は減る見込みはなく、保育所へ入りたい人の割合は増えているのですから、計画的な施策展開を行わないと待機児童の解消はできないということです。
この取組みとして、金額的には平成十二年度以降はそれまでの倍以上となる年約十二億円の事業規模で施設整備を、さらには幼稚園施設を活用した保育所整備も行っており、平成十三年度では六九五人の定員増を行いました。この結果、昨年九月以降、現在まで、待機児童はゼロとなっています。
この待機児童解消を子育て支援の一番に上げているのは、待機児童の問題が、親の就業保障という面だけでなく、子どもの発達のためにも、保育が必要な子どもは全て保育所に入れるようにするべきであり、保育所が子育てに対して大きな役割を持っているとの想いからです。
岡山市における就学前児童数・保育所入所児童数等の推移
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9年度 |
10年度 |
11年度 |
12年度 |
13年度 |
14年度 |
就学前児童数(A) |
38,306 |
38,648 |
39,352 |
39,325 |
39,578 |
39,616 |
保育所 |
入所希望者(B) |
9,038 |
9,381 |
9,810 |
9,955 |
10,136 |
10,682 |
入所児童数(C) |
8,431 |
8,768 |
9,194 |
9,552 |
9,893 |
10,614 |
待機児童数(D) |
607 |
613 |
616 |
403 |
243 |
68 |
定員(E) |
8,839 |
8,819 |
9,062 |
9,307 |
9,547 |
10,242 |
入所希望率(B/A) |
23.6% |
24.3% |
24.9% |
25.3% |
25.6% |
27.0% |
定員率(E/A) |
23.1% |
22.8% |
23.0% |
23.7% |
24.1% |
25.9% |
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※就学前児童数は、各年3月31日現在の数値によるもの
※保育園に関する数値は、各年度の4月1日現在の数値によるもの
5 御南幼児教育センター
近年、区画整理事業等により、人口が増加している岡山市の西部地域に、元々は幼稚園用地として確保していた土地があり、また、その地域は保育所の待機児童も多く、幼稚園と保育所の弾力的な運用の可能性、幼稚園と保育所の連携を図る必要もあって、少子化対策臨時特例交付金を使い、岡山市で初めて幼保一体型施設の御南幼児教育センターを創設しました。
平成十四年度からの開園ですので、まだまだ手探りの状況ですが、スタート行事として昨年五月に行った「ふれあい運動会」は、幼稚園、保育所の子ども達とともに、地域の未就園児、さらには小学生も一緒になった地域の子ども全てが参加できる運動会となり、大変喜ばれました。
その後も小学校、地域の人達との合同行事等も行っていますが、ここでの大きな特徴として、地域の就学前の子ども達の拠点となっていることです。幼稚園、保育所共に一〇〇人を超える園児がいますが、これと地域子育て支援センターに登録している一七五人の未就園児が一緒となり、子育て拠点として地域に根付こうとしています。
子育て関連の施設が分散していると、それぞれの子育て施策が重複したり、地域との連携も希薄になる可能性がありますが、ここでは小学校と同じように地域の子育て拠点として、保護者からも信頼される施設に育っていると思います。
6 四月二日生まれの子どもの取扱い
最後に岡山市が独自に行っている施策として、四月二日生まれの年齢計算があります。
ご存じのように文部科学省所管の幼稚園、小学校では四月二日生まれの子どもは四月三日以降に生まれた子どもと同じ学年となりますが、保育所では四月一日以前に生まれた子どもと同じ年齢として扱います。これは運営費の支弁の関係での扱いですが、子育ての問題を考える際に、年齢の扱いを同じにすることは基本であり、幼稚園と保育所の連携を進める上でもおかしな扱いではないか。さらに小学校への就学を考えたときにも問題があると考え、岡山市では平成十四年度から、四月二日生まれの子どもの年齢計算を幼稚園、小学校と同じにしました。
いずれにいたしましても、幼稚園へ行こうと、保育所へ行こうと、家庭で育てようと、次代を担っていく大事な子ども達であることに代わりはないわけで、それぞれの家庭環境の違いにより、小学校に入学する前にたまたま生活する場が異なるだけであり、同じ子どもとして、たくましく、健やかに成長してくれることを望んでいます。
トピックス
「育児保険構想」が報告される
「少子化を巡る諸問題について」と題し、平成十四年度厚生労働科学研究政策科学推進事業発表会が二月二七日に開催された。
基調講演で山崎泰彦上智大学教授は、二十一世紀の社会保障の最重要課題として育児の社会化を挙げ、「育児保険」として、サービス中心の地域保険(介護保険)モデル、現金給付中心の国民保険(年金保険)モデル、総合保険モデルの三つを提唱した。
鈴木真理子岩手県立大学助教授からは「社会保障制度の枠内での少子化対策に」効果的育児支援「育児保険構想と社会保障」と題した研究報告があり、認可外保育の現場のヒアリングの結果等から、認可保育所利用者と家庭育児の不公平、育児中の女性の再就労の準備等のための一時保育の重要性、社会保障の世代間相互扶助の考えから、社会保険での育児支援の正当性や意義などの報告がされた。
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