総合的な学習の時間における支援者の役割
吾妻中学校 谷口佳之先生
発表要旨
今回のフォーラムのお話をうかがった時、「新しい学びの場を作り上げる事ができる」という事でとても心が躍りました。ここに集ったこの私達の小さな出会いが、子どもたちの学びに大きく生かされていく事を、その有意義なきっかけ作りとなる事を、期待してやみません。私がこのフォーラムに期待するものが大きいのは、本校の総合学習が、ボランティアの力を生かす事で大変活性化していけるようなカリキュラムをとっているからです。ここでは、本校が総合学習の時間において目指す「学力」についてお話させていただきます。
「共存的自立」を助ける力として、次の3つの力を育む事を大きな目的としております。それは(1)交流Exchangeの力、(2)表現Expressの力、(3)探究Exploreの力です。たとえば河川の汚染の問題を扱う場合、その原因や対策を追求していく過程において、上流や下流の様子はどうなっているか他地域の学校と情報交換をする、市役所の環境課の方からご意見をうかがう、またご家庭からの聞き取り調査やアンケート収集、その収集したデータについての検討を行なうなど、様々な交流の場面・表現の場面が必然的に成立してくる事になります。1つのトピックを追求していく事で、そういった交流・表現の力を育んでいくのです。そして、1つの問題の解決が次の課題を生み出し、さらに新しい追求活動へと生徒を導いていきます。
このような学習スタイルで、一つのテーマで、第1・第2学年の2年間をかけて追求していきます。このテーマは、自分が興味のある事柄について、1年の夏休みまでじっくりと時間をかけて担当職員と話し合いながら設定します。
各個人が興味のあるテーマですから、同じテーマの生徒同士でグループをつくってもざっと50、それを6、7名の職員で分担していく事になります。
テーマ一覧をご覧下さい。(資料)たった一人の職員が、どれだけのテーマを扱い、どれだけの生徒の学びの場に寄り添っていかねばならないか、お分かりいただけると思います。生徒がそれぞれに自分のテーマを追及していく総合学習の場において、教師の支援は大変重要です。生徒にとって、自分たちの課題追求がどのような流れでまとまっていくか、2年先までの見通しを立てるのはきわめて難しく、思いつきのその場限りの活動に陥りがちだからです。
教師は、生徒が提示した課題から大まかな学習の流れを把握し、よりよい学習活動を想定し、支援していかなければなりません。ここでの教師の役割は、知識を与える教授者としての役割ではなく、学習の場を調える調整者としての役割が重要になります。
生徒の疑問に対して安易に解答や解決方法を示すのではなく、生徒の学習によりそい、共に疑問点について考え、解決方法を見出させていく事が、生徒の交流・表現・探求の力を育む上で大切です。専門知識をもった者が専門的な助言を与えるのではなく、生徒と共に考え、新たな追究課題を共に見出し、それを追究する意欲を喚起し、その成果に対して賞賛を与え、さらに次の学習課題へ取り組む意欲を喚起していく事こそが大切なのです。
このように、生徒の課題が多岐に渡り、その学び方・追究の方法も多岐に渡る本校の総合学習のあり方においては、専門的な知識を持つゲストティーチャーを2、3度招聘し話を聞く事は、生徒の学び方と馴染みにくいものがあります。より多くの時間と、より継続した関わりの中で生徒の学びの場を作っていく、そういった総合学習では、むしろ本フォーラムのようなスクールボランティアの関わり方こそが大きな力となるのではないかと期待しているのです。
決して、イニシアチブをとっていただく必要はありません。生徒に寄り添って、一緒に考え、一緒に実験をし、一緒にフィールドワークに出かけていき、そして一緒に失敗をする。生徒は学びの場の傍らに皆さんが寄り添ってくれているだけでも、十分意欲的に活動に取り組む事ができるのです。
探求・交流・表現の力を育む事が大切なのですから、たとえ非効率的に見えたり時間の無駄に見えたりしても、本来の育てるべき「力」を常に念頭において関わっていただけたら嬉しいです。そうすれば、生徒の学びに寄り添ったサポートが可能になると思います。
私たちは1人で20人以上の生徒と関わる訳ですから、物理的に1人の生徒と関われる時間は制約されています。そんな中、生徒の学びにじっくりと寄り添ってくれるスクールボランティアの方々は、生徒にとってどんなに素晴らしいパートナーとなってくれる事でしょうか。期待に胸がふくらむばかりです。生徒の学びを大切にするとはどういう事か、このフォーラムを契機に十分に話し合いを重ね、そして実際に生徒と関わっていく中で理解していただけると思います。
本フォーラムでは、総合学習をきっかけとして、さまざまな関わり方の可能性が生まれてくると思います。このきっかけを、お互い大切に育んでいきましょう。
フォーラムのご感想
フォーラムが盛況のうちに閉会を迎えたこと、何よりもうれしく思います。ごくろうさまでした。すべての部会を回ることはできませんでしたが、訪れたどの部会でも活発に意見交換がなされていたこと、すばらしかったです。
私たちは、日々、学校という枠組みの中で子供たちの学習の場をよりよく構成することに努めておりますが、学校の外側の方々がこんなにも生徒一人一人の学びに積極的に関わろうとしていることは、私たちにとっても大きな励みです。
挨拶の中でも述べましたが、このフォーラムはあくまでもきっかけ作りの場です。このフォーラムで出会った人々のネットワークが、生徒の学びにおける心強い支援となってくれることでしょう。
本校においては、このフォーラム以降、ボランティアの学生が総合的な学習の時間に授業参観に訪れています。さっそく具体的な取り組みがスタートしたわけです。次回のフォーラムにおいて、どのような実践報告がなされるかが楽しみです。そして、この関わりが本校に限らず、様々な学びの場で実践され、豊かな学びの場が創造されていくことを願ってやみません。
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