オープニング
Opening
・基調報告
・吾妻中学校 谷口佳之先生コメント
・筑波大学教育学系 田中統治教授コメント
基調報告
スクールボランティアフォーラム2003 実行委員長 杉浦由美子
1. はじめに
“次世代の教育を担う学生の成長”と、“学校教育の活性化”を願い、スクールボランティアを推進します。そのために、
(1)学校教育にふさわしい「態度と技術」を身につけた学生の育成
(2)学校と学生の適切なコーディネート
を行っていきます。
茨城学生活動支援組織ぐっぴぃスクールボランティア(スクボラ)支援委員会は、上のミッションを掲げ、2002年11月より活動してまいりました。具体的には、さまざまなフォーラムに足を運び、全国での先進的な事例を学習してきました。また2003年7月には、茨城県内のスクボラ実践を行なう学生団体の交流会を開催することができました。しかし、県内で学生の枠をこえた交流の機会をもつのは、これが初めてです。
本フォーラムでは、2002年度から導入された「総合的な学習の時間」をきっかけとしています。学校の先生方、地域の大人の方(保護者の方も中心に含め)、学生、この三者で意見を交流することが目的です。学生の提案をもとに、どのように学校と学校外のパワーが、協力・共同していくことができるかを話し合いたいと思います。今回「総合学習」をきっかけとしたのは、特に「完全週休五日制」と「総合的な学習の時間」導入によって、学校において学校外のパワーが必要とされるようになったのではないかと考えたからです。学校の外で、子ども達を支える環境づくり。学校の中で、教科の枠を越えた幅広いテーマを、生徒の問題意識の発達を大切にしながら行なうこと。どちらにも、地域の力が必要不可欠になりました。
2. 「すくーるぼらんてぃあ」とは
(1)スクボラとは?
「すくーるぼらんてぃあ(略してスクボラ)」とは、子どもたちの健やかな成長を願う地域のさまざまな人たちが、学校の教育活動をより多彩で活発なものにするために技能や時間などを提供することです。例えばそれは、保護者、地域の大人たち、中学生・高校生・大学生、学校のOB・OG、NPO(民間非営利団体)などです。スクボラの最大の目的は、子どもたちの豊かな学びを支えることです。「開かれた学校づくり」や「将来の教育を担う学生の育成」など、スクボラ活動の発展は様々な可能性をもっています。しかし、スクボラの関係をつくっていくとき、最大の目的を忘れてはなりません。個別の利益が先行してしまえば、学校教育の目的である生徒の学びをかえって阻害することにもなりかねません。大きな目的のもとで、一致できる点を大切にしながら、学校とボランティアの双方向の協力関係を築いていくことが重要です。
(2)全国でのスクボラの広まり・茨城県でのスクボラのはじまり
現在、スクールボランティアは、全国各地でさまざまな形で進められようとしています。地方自治体や教育委員会が主導となって、あるいは学校単位で、ボランティア登録制度はいたるところ導入されています。おとなり千葉県の木更津市でも、非常に積極的にスクールボランティアを制度化しており、多くの地域の人びとが学校で活躍しています。大学生についても、行政主導で、あるいは企業や大学の主導で、学校教育に関わらせていく動きがあります。東京都杉並区などでは、行政が積極的に大学と学校の連携を図ろうとしています。
茨城県内でも、文部科学省から委託された二つのスクールボランティア事業が動き始めています。
●『いばらきマナビィ・ネット』(全国・茨城県)
文部科学省委託事業「NPO等と学校教育との連携の在り方についての実践研究」として、準備がはじめられている学習支援サイトづくり。主な活動は、(1)「学びのQ&A掲示板」(2)ゲストティーチャーの訪問のコーディネート。総合学習などでの生徒の質問に、web上で応える回答ボランティアや、ゲストティーチャーの登録と派遣、授業プログラムの蓄積などを行ないます。今年度は水戸市、取手市などのいくつかの学校で試験的に活用されはじめています。
●『放課後学習チューター制度』(全国・茨城県)
こちらも、文部科学省の「学力向上アクションプラン」のひとつ「放課後学習チューターの配置等に係る調査研究事業」で教育委員会が行っています。全国で285の小中学校が指定され、学習支援者として放課後に大学生が派遣されています。チューターの主な役割は生徒の自習指導で、受験を控えた三年生や、勉強につまずきがちな生徒たちにニーズがあります。茨城県では、つくば市立高崎中学校(筑波大学)、那珂町立木崎小学校(茨城大学)、日立市立大みか小学校(茨城キリスト教大学)が指定されています。
(3)学生によるスクボラの意義と課題
学生には、良くも悪くも保護者や地域の人とはことなり、学生ならではの部分があります。全国からの寄せ集めである私達は、一見、地域や学校に関わることに必然性がないように見えるかもしれません。しかし、もっとも大切なのは、学生は「若者」であるということでしょう。近い将来、親や教師になっていき、地域社会の一員として教育をつくっていく側になる存在なのです。これが学生によるスクボラの意義であると思います。そこで、私たちは地域のみなさまと共にスクボラ活動を推進しながら、学生として何ができるか、またその中でどう成長できるかを考えたいと思い活動している次第です。
学生がスクボラをすることには、以下に示したような長所と短所があるでしょう。学生ならではの良さもある反面、地域において社会人として生活し様々な専門性を持つ大人の方と同じようにはいかない部分はたくさんあります。
そのような問題を克服するためには、1. 相互理解に基づく協働関係の構築、2. 社会的・教育的責任体制の構築、3. 学生の自己研修機会の充実、の3点が課題です。
●学校にとっての長所
子どもたちと年齢が近い/生徒からいろんな話がしやすい/生徒とおなじ目線で関わることができる/時間と人数を確保できる/子どもたち一人一人の居場所が確保できる/体力がある/学校教育の内容の記憶が比較的新しい/未熟ながら多様な専門がある/情熱、アイディア、パワーがある
●学生にとっての長所
何をやっても、将来の糧となる経験・学びになる/現場で先生方や子どもに接しながら接し方を学び子どもの学びについて、学校教育について、理解を深めることができる
●スクボラをする上での学生の短所
社会に出て働いていないため、社会を知らない/経験・知識・技術の不足。学校教育現場について、そこでの子どもとの接し方について知らない/社会的に、教育的に、責任を取れる立場にいない
(4)学校と、学生、地域の相互理解に基づく関係づくり
3者の関係を通じて、どのように生徒の豊かな学びをサポートするかをともに考え、支えあい、学びあう関係づくりが必要です。
<学校―学生>
学校には生徒の日常があります。学校教育に関して、子どもの発達に関して、学生は素人。ましてや、その学校、一人一人の生徒に関しては、学校の先生にしかわかりません。学生は、学校や先生の教育方針やニーズを十分に理解した上で、臨む必要があります。その範囲において、子どもや先生方、また教育活動にかかわることができます。ただし、先生方と十分対話する中で、気付いたことを交流し、互いに提案・協力できる関係を目指しましょう。つねに、自己研修が必要になります。生徒の学習をより豊かなものにするために、学校側は教育方針やニーズを明確に伝え、必要に応じて学生に助言やサポートを与えることが必要不可欠です。そして、教育活動を豊かにするために、積極的に学生のアイディアやパワー(人手も含む)を取り入れていってほしいと思います。
<地域―学生>
学校において、学生が学べる部分と貢献できる部分があるように、地域社会の中にもそのような部分がたくさんあります。地域のさまざまな場所で、地域の方々とともに活動することで学び、各自の得意分野をつくっていけるでしょう。そうして、それはまた学校で活かされていくのです。地域の方々と協力して、学校教育をサポートすることを目指していきたいです。そして、それが可能になってきたとき、積極的に地域社会にかかわり活動する学生の姿が、生徒の地域参加のきっかけとなればと願っています。
3. 茨城県の大学生によるスクボラ活動の展開
以下は、実際に茨城県内の大学生が行っているスクボラの団体の一例です。ここにあげたのは、スクボラ支援委員会から分離独立した「ぴあにか」と、7月の交流会で出会い活動を交流した団体です。スクボラ団体ではなく個別のものも加えれば、まだまだ無数にあるでしょう。例えば、運動部による部活指導や、英語や国際理解の学習へ留学生センターから留学生を派遣するといったスクボラの事例もあります。
茨城大学教育実践研究会
1997年より活動しています。現在はいくつかの小学校において「ADHDやLDの子ども達へのサポート」「学級へ入れない子どもたちとの交流」「総合的な学習・校外学習・習熟度別学習へのサポート」などの活動を行っています。また、事前準備、反省会、討論会などの自己研修もしています。
総合的学習支援ネットワークフラスコ
茨城大学付属中学校のスクールボランティア制度を、他の小中学校へ広げるための活動をしています。水戸芸術館ギャラリート―カーと水戸市立飯富小学校のコーディネートを進めていました。またwebを使ったスクールボランティア活用システムPIPETを開発、試験中。(茨城大学・筑波大学・常磐大学など)
ボランティアサークルParty
「ボランティアを通し、人と人の心を結び付ける」をミッションに、海外支援や清掃活動を行っています。また下妻市立上妻小学校でサタデースクールといって、月一回、学生が学校の図書館を訪れ、子どもたちと遊ぶというスクボラ企画を行っています。(筑波大学)
環境サークルエコレンジャー
1997年から、リサイクル市プロジェクト、牛乳パックプロジェクトなどさまざまな環境・開発問題に関する活動を行っています。その中のひとつ手中プロジェクトで、手代木中学校の総合学習の「環境」分野で、アドバイザーとして活躍しています。(筑波大学)
学校仕事人ぴあにか
スクボラ支援委員会から、2003年6月に分離独立した団体です。現在は、土浦第六中学校二年生の総合学習をお手伝いしています。また、放課後・昼休みを利用した「遊ぼうプロジェクト」を構想しています。「みんな楽しく!子どもの視点で!」を「ぴあにか魂」としています。(筑波大学)
4. おわりに
今回のフォーラムは、スクボラへの理解を広め、三者が交流し、どのように協力しながら「総合学習」をつくっていけるかを語り合う機会として開催したものです。当日、私は次のように基調報告を閉じさせていただきました。「今日ひとつの種をまきました。この日の議論が、今後の具体的なスクボラ活動につながるような実りあるものとなることを願って。」そして、その後わずか一ヶ月の間に、いくつかのスクボラ活動が、実際にスタートできました。本誌の終わりで報告させていただきますが、このフォーラムでの出会いがこうした成果を生むことができたことを大変嬉しく思っています。
このフォーラムの準備の中で、私たちが現場で働く先生方や、保護者の方、地域の方々とじっくり対話できる機会はごくわずかでした。学生の視点のみでできた企画であったため、分野別の分科会や学生の提案などの企画そのものが、学校の現実からかけ離れていると感じた方もいらしたようです。こうした点も含め、今回のフォーラムは、互いの現実やニーズを交流し認識する初めての機会でした。共に歩める部分、意識の違う部分、どちらも感じられたかと思います。
学生が学生のみで行なう活動には限界があります。様々な視点を寄せ合い、相互に対話を重ね、理解を深め、協力することではじめてスクボラは意義あるものとして広まっていくでしょう。ご参加いただいたみなさま、また報告書を手にされたみなさまには、今後さまざまな場面でスクボラという活動とかかわる学生の成長を支え、ともに歩んでくださいますようお願い申し上げます。思いもかけず多くの方にご参加いただき、驚きと緊張のあまり十分な報告ができなかったことをお詫びしなければなりません。しかし、これほど多くの方がこの取り組みに関心を持っていてくださる。これは大変大きな励みになりました。ご参加いただいたみなさまには、心より御礼申し上げたいと思います。
最後に、このフォーラムを開催することができましたのは、吾妻中学校の校長先生のご理解と、ご講演いただいた谷口先生、田中教授をはじめとする多くの方のご協力があったからこそです。本当にありがとうございました。
ひとつの種を蒔くために、
今わたしたちは、
畑を耕しています。
種の名は、
「すくーるぼらんてぃあ」といいます。
目指すのは、
ひろいひろい花畑です。
だれもその花の名を知らなくても、
みんなで水をやり、
種がこぼれる。
そうして、
毎年、色とりどりの花を咲かせる。
身近で当たり前な、
けれど大切な、
そんな花畑が、
野原のように
ひろがることを夢見て、
新たな大地を、
耕しはじめました。
そして今日、
ひとつぶの種を
蒔きました。
学校には、
先生と生徒しかいない。
地域には、
いろんな人がいる。
学校では出会えない
いろんな人に出会える。
そして、
いろんなことに出会える。
子どもについて、
子どもの学びについて、
それは、
先生たちがよく知っている。
教科を飛び越えた
たくさんのテーマ、
はじめから教科の枠にはまらない
40人の生徒たちの、40とおりの関心。学び方。
地域には、
たくさんの「達人」がいる。
先生だけよりも、
地域の人だけよりも、
力を合わせたら、もっといい。
学校教育にかかわりのない人はいない。
皆それを受けてきた。
いつか教員になりたいと願う若者がいる。
いつか生徒の保護者となる若者がいる。
現在の保護者や、
かつて保護者であった
地域の大人たちがいる。
誰もが、
学校教育への眼差しを持っている。
その眼差しを集めて、
学校と生徒を支えていく力にしよう。
そして、
いつか教育の創り手となる若者たちを、
育ててほしい。
気の長い話と、
気の早い話。
今まさに行われている学校教育を、
よりよくする最大限の努力を。
そして、
私たちが親や教師になったとき・・・
学校教育を支える地域の底力が、
今よりずっと強くなっているように。
2003.11.29
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