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(3)観測原理
 一般に土地被覆物に限らず、物体はいろいろな光の波長域に対して、それぞれ特有の分光特性(または周波数特性)を有している。図53は可視光/近赤外近傍の地表面の分光反射特性の典型的な例を示したものである。水の反射率は全体に小さく、近赤外域ではほとんど0に等しい。一方、乾燥土壌は広い波長域にわたって大きな反射を示す。植生は、緑色域(0.5μm)にピークがあり、青色域、赤色域の反射は低くなっている。また、近赤外域では大きな反射を示すが、短波長赤外域の1.4μmと1.9μm付近では水の吸収による大きな谷をもっている。
 
図53. 代表的な地表被覆の分光反射特性
資料:「合成開口レーダ画像ハンドブック」
 
 リモートセンシングでは、主としてこうした対象物の分光反射特性(または周波数特性)を利用し、さまざまな波長域(または周波数特性)に分けて観測を行い、対象物に関する多くの情報を得ている。このように多波長域で観測するセンサーは、マルチスペクトルセンサーと呼ばれている。例えばLANDSAT衛星のMSS、TMやMOS-1衛星MESSRなどは可視光〜近赤外域のマルチスペクトルセンサーの代表である。
 
(4)センサーの分類
(a)センサーの種類
 リモートセンシングに用いられるセンサーは、観測に用いる電磁波の発生源(光の場合は光源)をセンサー自体が備えているか、またはセンサー外に求めるかによって、能動型センサーと受動型センサーに分けられる。
 映像レーダシステムは、他の多くのリモートセンシングシステムと異なっている。他の多くのシステムは、地表からの放射、反射、散乱される自然の電磁波を受動的に検出(パッシブ型)している。これに対して映像レーダシステムは、能動的にアンテナから位相のそろった電磁波を発射して地表面を照射し、そのマイクロ波の地表面からの後方散乱を検出する(アクティブ型)。レーダ装置は、マイクロ波のパルスを送信し、対象物体からの後方散乱波(反射波)を受信する。後方散乱により対象物体を検出(detection)し、送信から受信までの時間測定により、その対象物体の方向と距離を知ること(ranging)ができる。映像レーダは、面的に広がる地球表面の後方散乱を映像として計測するようにしたものである。
 
(b)航空機用/衛星用
 リモートセンシングでは、センサーを搭載する衛星や航空機などの移動体をプラットフォーム(platform)と呼ぶ。センサーは搭載するプラットフォームによっても区別され、主に人工衛星用のセンサーと航空機用のセンサーに分けられる。航空機用は電源容量が大きいので、いろいろな機能を付加したセンサーを搭載できるが、人工衛星用は重量や電力などいろいろな制約がある。現在運用されている人工衛星用のSAR(JERS-1やERS-1)の場合、使用しているマイクロ波の波長域は単一波長域であり、偏波の種類も限定されている。これに対し、航空機用のSARは多周波、多偏波、入射角の選択などいろいろな機能を有しているものが実用化されている。
 
(2)SAR
 プラットフォームの移動に伴って生じる架空の長いアンテナから、地表で反射、散乱した電磁波の振幅と位相を記録し、合成することによって方位分解能を向上させたものが合成開口レーダである。この手法では、方位分解能が探知距離に関係なく送受波器の長さの1/2となる。
 近年のSAR技術として、ポラリメトリックSARとインターフェロメトリックSARを紹介する。ポラリメトリックSARでは、垂直偏波と水平偏波の2つの直交したアンテナから、送信信号を交互に発信し、送受信の偏波の組み合わせを換え、HH、HV、VH、VVの4種類の振幅と位相データを得る。これらのデータより地表の偏波特性を計算することができる。その結果、ターゲットの物質特性を従来のSARデータよりもはるかに多くの情報を得ることができる。
 一方、従来のSARは、地表面の物体で反射された信号の強度を、画像の輝度として表示しているが、インターフェロメトリックSARは、2組のSARデータから、信号の位相情報を抽出し、SARアンテナからターゲットまでの距離差を画像化できる。この技術は、ハワイ大学が所有していたSeaMARCIIIZANAGIANKOU等に利用されているものである。マイクロ波を観測手段として用いるSARには、可視/近赤外領域のセンサーとは異なったいろいろな特徴がある。以下にその特徴をまとめた。
 
(1)全天候型
 SARは能動的なセンサーなので、太陽光を必要としない。このため季節、昼夜、時間を問わず安定した観測が可能である。またSARで用いているマイクロ波は大気の透過率が高く、雲の影響もほとんどないので、全天候型のセンサーとして用いることができる。
 
(2)高分解能
 可視光/近赤外領域のセンサーは、航空写真の例からも分かるように、観測高度が高くなると、一般に地表の空間分解能(解像度)は低下する。同じ光学系を用いた場合、高度が2倍になると地表上の画素の大きさも2倍、面積で4倍になる。SARの空間分解能は、観測に用いている電磁波パルスの長さやパルスの帯域幅、またアンテナの大きさから決まり、センサーの高度や用いている電磁波の波長に無関係である。したがって、人工衛星の高さからでも、高い空間分解能のデータを得ることができる。
 
(3)物質と電磁波の相互作用
 SARの観測データには可視光/赤外域の観測データとは質的に異なった情報が含まれている。マイクロ波は、微視的には地表にある物質中の原子と相互作用を行うが、巨視的には誘電体や金属と考えることができる地表物体と相互作用する。この相互作用は、物体を構成する媒体の誘電体や導電率のほか、物体の形状や表面の状態などによって変わる。物体の大きさが、電磁波の波長に比べて非常に小さい場合には電磁波は透過し、相互作用しない。
 電磁波を散乱する物体を総称して散乱体という。地表はいろいろな種類と大きさの散乱体で構成されている。SARが観測するのは、地球表面の散乱成分であるが、散乱の大きさは表面の粗さに比例する。また、その粗さの程度は波長との相対比で決まる。大まかには、表面の凹凸の大きさが波長以上では粗く、波長以下では滑らかと考えてよい。
 
(4)位相差/偏波情報
 SARが用いる電磁波は、位相のそろったコヒーレントな電磁波であり、また電磁波の特性の一つである偏波を制御できるので、散乱波の位相差や偏波の変化を測定することによって、地形の標高や地表の表層構造、森林植生の構造など、従来のリモートセンシングのデータからは得られなかった情報も得ることができる。図54に偏波によるSAR画像の差異を示す。
 
図54. 偏波によるSAR画像の差異(Xバンド航空機SARの画像)
 
(a)HH偏波(Xバンド)
 
(b)VH偏波(Xバンド)
資料:「合成開口レーダ画像ハンドブック」
 
 図51はXバンドのSAR画像である。HH偏波の方がVH偏波より後方散乱の絶対値は大きいが、画像化して適切な画像強調をすると、HH偏波よりVH偏波の画像の方が全体的に明るくなっている。これは植生からの体積散乱の影響によるものと考えられる。
 
(3)SARの地質学への応用
 SARは地表の凹凸、傾斜、水の有無で散乱が変化するので、地質学への応用は歴史が長く、応用分野として成熟している。とくに、地形・地質構造の特徴を容易に判読でき、またステレオのSARデータを用いて、地形学的な応用も行われている。長い波長のマイクロ波を用いると、乾いた砂漠地帯では数メートルの深さまでマイクロ波が届くことがあり、表層下の古い河川床が検出されたこともある。また、火山のように地殻変動が激しく、高頻度の観測が必要な場合は、雲や噴煙にじゃまされずに観測ができるSARの意義は大きい。
 地質分野はリモートセンシング技術の利用に、最も積極的に取り組んできた分野の1つであり、とくに鉱物資源・石油天然ガスの資源探査の分野では技術開発に対する強い要求がある。レーダ地質学は、レーダが地質ツールとして導入して以来、広範な研究が行われており、SARの技術は、地質分野で20年以上使われている。いつも雲のかかっている熱帯雨林地域の東南アジア、中央アメリカ、南アメリカなどの地域のSAR画像は、非再生天然資源や地形の判読の最も信頼できる情報源となっている。とくに衛星からのレーダリモートセンシングは、比較的低コストで1度に広い地域をカバーでき、地下資源の探査場所が次第に遠隔の地に及びつつある今日、資源探査の中で重要な位置を占めつつある。
 SARを用いて陸域の地質分野における観測を考えた場合、さまざまな利用が考えられる。先に述べた非再生天然資源の地下資源探査は最たるものであるが、これ以外の地質学への利用、例えば環境、防災(火山など)、土木地質などにもSARは利用されている。地質分野でのSARの応用は、要約すれば地形・地質構造と、岩石、岩相分類に大別される。
(1)SARがとらえる地質の特性
 地質判読はSAR画像上に表現された地質特徴をもとになされる。この場合、空中写真の判読で確立された写真地質学的手法が準用できる。例えば視野をもつペアの画像を用いて立体視ができる場合、判読効果は非常に大きい。地質判読では鍵層の追跡による褶曲構造の把握、断裂などの表層の破壊変形の把握による構造要素の抽出とともに地表面の粗さに基づく地質区分、偏波成分の組み合わせによる地質区分などが試みられている。
(a)波長
 映像レーダによく使われる波長には、Kバンド、Xバンド、Cバンド、Lバンド、Pバンドがある。波長が異なると地表物との相互作用が異なるので画像が変化する。したがって、いくつかの波長で同じ領域を同時に測定すると、地表についてさらに詳しい情報が得られる。すなわちマイクロ波レーダの波長が異なると、感応する地表面の粗さの基準や透過する深度をはじめ、マイクロ波と地表面との間の相互作用が変化し、SAR画像上の差異となって表現されるため、岩石の識別、マッピングに利用できる。海洋観測などでは、XバンドやCバンドの波長が多く使用されるが、より長い波長のLバンドは植生の透過性という点に優れており、植生下の地質情報の抽出に適している。
 また植生といっても、芝生、草木、樹木などの大きさによってマイクロ波の後方散乱が異なるため、画像判読においても注意が必要である。XバンドやCバンドでは、樹木の場合、主に樹冠でレーダの散乱が起こるため、密集した森林においては、地表からの後方散乱の寄与はないので、直接的な地質判読は不可能である。地表岩石・土壌と育成した樹木との間にある関連性が見いだせる場合は、間接的に利用可能であるが、現実的には少ない。Lバンドの場合、樹木の葉や小枝はかなり透過性があるが、Lバンドでも樹木の幹や太い枝は、片道5〜10dBの減衰を生じ、透過性を著しく弱めることがわかってきている。Lバンドのマイクロ波より長い波長75cmのような長波長のPバンドは、乾燥地域においては植生だけでなく土壌をも透過するため地質判読に有益である。しかし衛星にアンテナを搭載する場合、Pバンドのアンテナは大きくなるため、現在は航空機レベルでしか考えられていない。
(b)偏波
 地質分野で多く用いられているのはHH偏波であり、植生構造を透過し、強い後方散乱が期待できる。しかし多重偏波を用いると偏波に関する情報が利用でき、岩石の識別に関してより情報が得られることが予想される。
 砂漠地域の地質マッピングには、HH偏波が未固結の砂に対して有効であることが報告されている。2つの偏波が使えるならば、HH偏波とHV偏波がよく、3つの偏波の場合はVV偏波が追加される。表面散乱では偏波が保存されるが、体積散乱の場合には偏波が解消する割合が大きいので、浅い地中からの体積散乱、大気と地表の界面からの拡散散乱、地中の基盤岩層からの拡散散乱を調査するには、HV偏波が有効である。
(c)表面の粗さ
 レーダ画像でいうところの地表面の粗さとは、地形起伏とは異なり、レーダ波長と俯角によって決定づけられる。表7は、俯角45°一定としたときのKaバンド(0.86cm)、Xバンド(3cm)、Lバンド(25cm)のおのおのにおける表面の粗さの境界を示したものである。また表8は、同様であるが、少し違った表現でこの表面の粗さを鉛直方向の起伏で表したものである。
 
表7. 表面の粗さ
粗さのカテゴリー Kaバンド
(λ=0.86cm)
Xバンド
(λ=3cm)
Lバンド
(λ=25cm)
滑らか
中間
粗い
h<0.05
0.05<h<0.28
h>0.28
h<0.17
0.17<h<0.96
h>0.96
h<1.41
1.41<h<8.04
h>8.04
俯角45°における垂直起伏量h(cm)の粗さのカテゴリー別の基準値。
資料:「合成開口レーダ画像ハンドブック」
 
表8. 表面の粗さ
h
(cm)
Kaバンド
(λ=0.86cm)
Xバンド
(λ=3cm)
Lバンド
(λ=25cm)
0.05
0.10
0.5
1.5
10.0
滑らか
中間
粗い
粗い
粗い
滑らか
滑らか
中間
粗い
粗い
滑らか
滑らか
滑らか
中間
粗い
種々の垂直起伏量h(cm)が属する粗さのカテゴリー(俯角45°)。
資料:「合成開口レーダ画像ハンドブック」
 
 図55(a)は、Xバンド(波長3cm)で撮影されたカリフォルニア・デスバレーのCottonball Basinのレーダ画像である。空間分解能は、15m、HH偏波で伏角は23°である。図55(b)は、グランドトルスデータをもとに、このレーダ画像を地質判読した例である。
 ここでは、鉛直起伏をcmで記したレーダ岩石ユニットとして表現している。図55(c)は、現地におけるおのおののレーダ岩石ユニットが実際に何に対応しているかを調査するために行われたグランドトルースの写真であり、地表面の粗さが岩相区分と密接に関連づけられていることがわかる。
 
図55. Xバンド航空機SAR画像 資料:「合成開口レーダ画像ハンドブック」
 
(a)Xバンド(λ=3cm)航空機SAR画像10)
 
(b)地質判読図







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