(4)今後の展望
長引く不況がようやく回復の兆しを見せ始めているとはいえ、大規模な資本投下によるハードの拡充が望みにくい現状においては、今後もソフト施策の展開によって、いかに他との差別化を図っていくかが、本市観光の生命線となってくる。
こうした中、現在、本市の観光を取り巻く環境には二つの大きな追い風が吹いている。
一つは「武蔵」から「新選組!」、「義経」へと続く下関にゆかりの深い時代を題材にしたNHK大河ドラマの放映である。昨年は「武蔵」放映によって巌流島が一躍脚光を浴び、一年間で23万人を越える観光客が島へと渡った。一昨年の年間上陸者が、わずかな釣り客のみだったことを考えると、実に前年比23万人増という大幅増である。
今年、下関では新選組が生きた時代と同時代の『維新』にスポットを当て、観光振興事業を展開していく。長州藩士高杉晋作が結成した「奇兵隊」をテーマにしたミュージカル仕立ての寸劇を、巌流島の決闘寸劇と同じく市民ボランティアの手によって実施するほか、市内にある高杉晋作の像と一緒に撮った写真を送ると景品が当たる「晋作を探せ!」というイベントなどを、しものせき観光キャンペーン事業として行う。
一連の大河ドラマ放映を契機に「巌流島」「維新」「義経」を下関の歴史三部作と位置付け、現況を大河ドラマ放映期間中の一過性のものだけで終わらせず、定着化するよう取り組んでいる。
もう一つの追い風は、JR西日本とJR九州による「関門・海峡物語」キャンペーンの実施である。これは、平成13年のJR西日本によるプレキャンペーンを経て、翌14年から本キャンペーンがスタートしたもので、下関と対岸の門司港を併せた「関門地区」を送客重点地域に選定し、大型キャンペーンを展開している。
JRのキャンペーンによって送客された観光客に対して、いかにソフト面で充実したおもてなしができるかが目下の最重要課題であると言える。この地元での受け入れ態勢の整備は、前述した「しものせき観光キャンペーン実行委員会」が中心となって行っている。
したがって、キャンペーンの事業内容においては、その多くがJRとタイアップしている。昨年を例に取ると、夜景観光バス、手ぶら観光、城下町長府クイズラリー&ジャンケン大会、無料観光ボランティアガイド、マル得パスポートによる割引サービスなどがこれに該当する。お越しいただくための仕掛けは主にJRが行い、来ていただいた後のおもてなしは地元の官民が一体となって行うといった構図である。
関門広域観光マップ
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夜の関門海峡
これら二つの追い風の中で、下関は従来の水産業、造船業を中心とした水産都市に加え、観光都市としての一面を強くしている。また、観光においても、単なる名所旧跡見学を中心とした観光振興から、賑わいと、おもてなしのソフト施策を付加した観光振興へと移りゆく過渡期を迎えている。この機会を本市観光振興におけるターニングポイントと捉え、好機を逃さない、観光客のニーズを捉えた施策の展開が求められている。
しものせき観光キャンペーン、JRキャンペーン以外にも、現在、新たな観光振興への取組みが大きく分けて三つ行われている。
一つ目は下関フィルム・コミッション(SFC)である。フィルム・コミッション(FC)とは映像制作を支援する非営利機関で、多くの場合公共機関や民間企業との協力で運営されている。その機能を一言で言えば、映画やTV番組などの映像制作やロケーションを誘致して、幅広く支援するというものである。下関市が映像の舞台になることによって、観光客の誘致を促進し、街の賑わいを創出することができる。また、ロケ隊が滞在することによる消費需要の経済波及効果も期待できる。
下関市では、平成14年6月、官民の組織が一体となって下関フィルム・コミッション(SFC)を設立し、第一回支援作品である映画「チルソクの夏」を皮切りに、映画「偶然にも最悪な少年」や、数々のテレビ番組の制作に携わってきた。「チルソクの夏」は既に西日本・九州での公開を大盛況の内に終えたが、今年のゴールデンウィークには東京での上映開始を控えており、今後も作品への支援は続くこととなる。こうして下関フィルム・コミッションは映像という新たな手段を通じて国内外に下関の魅力の発信をしていく。
二つ目は広域観光の推進である。下関市は関門海峡を挟んで隣接する北九州市と「関門海峡観光推進協議会、山口県西部地区の2市5町と「長州路観光連絡会」という広域の観光推進に取り組む組織を作り活動している。広域観光を推進する理由は、下関市が回遊性のある滞在型観光都市を目指すためである。単独では滞在時間を思うように取っていただけない場合でも、周辺地区も合わせて観光してもらえれば、必然宿泊へと結びつく可能性が高くなる。こうした観点から、今後の観光振興は周辺都市の持つ観光資源や周辺都市が展開している観光振興施策を踏まえた上で、いかに大きな相乗効果を生みだすかといった視点が今以上に必要となってくる。本市と周辺都市でお互いに無い物を補い合っていくというスタンスは、しものせき観光キャンペーンの展開における官民の連携にも共通している。
最後は、国際観光の振興である。日本政府の団体観光ビザの発給が、近い将来中国山東省まで拡大することが予想されることから、今年は中国での観光セールス活動や中国の旅行エージェントを招いてのセールス活動を展開するほか、景気回復の著しい韓国からの観光客誘致をターゲットとした国際観光展へ参加するなど、国際観光振興にも積極的に取り組んでいくこととなる。
下関は歴史上、東アジアに縁が深く地理上も非常に近い存在と言える。事実、韓国釜山と中国青島への国際航路が就航しており、今後も外国人観光客への対応強化と外国人観光客誘致は欠かせないものである。
菅家長屋門と古江小路
(5)終わりに
下関市の観光が目指すのは、海峡の歴史と自然の景観を活かし、市民一人一人がおもてなしの心を持って訪れた観光客に接することの出来る、回遊性滞在型観光都市である。それへ向けた取り組みは、ここ数年でようやく歯車が噛み合い、実際に動き始めたところである。そうした中、これ以上はないというタイミングで現在下関市の観光に吹いている追い風を逃すことなく、全市をあげて取り組んでいかなければならないという共通認識のもと、下関市の観光振興は推し進められている。
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