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九州地方整備局 港湾空港部 海と空のコーナー
地域と一体となった“みなとまち”づくり
 
国土交通省九州地方整備局下関港湾事務所
 
 下関港は、関門海峡を挟んで九州に近接し、大陸へも近く、海陸交通の要衝として早くから開け、日本の歴史とともに発展してきました。下関が商業・港湾都市として著しい発展を遂げたのは、中世、特に江戸時代に入ってからで、毛利氏の統治下で培われた海運による諸国物産の集散地としての性格は、今日の下関港を形成する基礎ともなりました。太平洋戦争後は、大陸貿易の途絶、関門トンネルの開通などから連絡港としての性格は薄くなりましたが、我が国経済の回復・発展に伴って、今日では東アジアとの物流・人流の窓口として港勢は着実に進展しており、国際交流拠点都市を目指した街づくりの柱として今後もさらなる発展が期待されています。
 九州地方整備局下関港湾事務所は、この歴史ある下関港を中心とした新たな「みなとまちづくり」の推進を目指して、新港地区及び本港地区の整備を実施しています。
 
□アジアに向けた物流の新たな拠点「ひびっくらんど」:新港地区
 
 関門海峡に面した現在の下関港は、関門航路の利用上、埋立などに制約があり、また、背後に市街地が近接していることからこれ以上の開発が不可能となっています。こうした理由から、関門航路の制約を受けない下関市西北部の北浦海域の新港地区において、新しい物流拠点となるみなとの整備を進めています。整備にあたっては、北浦海岸のすばらしい自然環境に配慮し、海岸線を保存することで、陸域との間に創出される静穏な海域を有効に活用するために人工島形式を採用しました。それが下関沖合人工島「ひびっくらんど」です。
 
ひびっくらんどイメージパース
 
 「ひびっくらんど」の建設は、全体計画147haのうち第1期整備計画61・6haの国際的な運輸・物流基地として、-12m岸壁2バースをもつ多目的国際ターミナルや港湾関連施設、そして人々が憩える親水緑地などを整備するため、平成7年11月に事業着手しました。当事務所においては、国直轄事業で岸壁(-12m)、橋梁、道路、防波堤、護岸(防波)の建設、また、受託事業で外周護岸の建設を担当しており、早期供用開始を目指して整備を進めています。
 
〜様々な技術を集めた新しい港〜
 
 「ひびっくらんど」を建設する海域は、響灘の厳しい気象条件により冬期は波浪が高く海上工事が出来ないことから、1年のうち限定された期間の中で施工しなければなりません。こうした問題に対応するため、道路・橋梁・護岸などの築造にあたっては、あらかじめ陸上作業ヤードでケーソン、橋脚、PC桁などをつくり現地に設置するプレキャスト工法を取り入れ、工期の短縮と施工の効率化を図っています。
 また、外周護岸に使用するケーソンには、遊水室の空間を設けた越波対策の消波機能と、航行船舶の安全を守るための反射波防止機能を持った直立消波構造の特殊なスリットケーソンを採用しています。また、堤体が滑動しないようにケーソン重量を増やす中詰材は、単位体積重量が重く、かつ安価な銅水砕スラグを使用することにより、従来の砂に比べケーソンのスリム化とコスト縮減、さらにスラグのリサイクルを図っています。
 
スリットケーソン
 
 「ひびっくらんど」の工事では、こうした様々な技術的工夫をしながら、新しい港の建設を進めています。
 
〜効率的な貨物輪送体制の確立を目指して〜
 
 「ひびっくらんど」の整備にあたっては、高速道路や鉄道など貨物輸送のための交通網へのアクセス強化を図るために、マルチモーダル交通体系連携事業に取り組んでいます。
 
 
 人工島と市内を円滑に結ぶ連絡橋の整備に合わせて、道路事業との連携により鉄道貨物ターミナルや高速道路のインターチェンジにアクセスする道路との一体的な整備を図るとともに、CO2の削減や貨物輸送の効率化対策として、鉄道を利用したモーダルシフトの推進を図るなど、スピーディーな物流システムの確立と環境に配慮した新たな「みなとづくり」に取り組んでいます。
 
〜環境と共生し、人々から親しまれるみなとへ〜
 
 「ひびっくらんど」の整備においては、可能な限り自然環境への負荷を軽減し、海域環境の向上と安らぎのある港湾空間を創造することを目指して、新たな試みに取り組んでいます。そのひとつが「水生生物協調ブロック」です。
 海藻類の着生しやすいブロックの構造を目指して道路の護岸に試験的に設置して、海藻類の種苗採取・育成および母藻移植など海藻類を増やす実証実験と、ブロックに着生した藻場の育成状況などのモニタリング調査を継続的に実施しています。
 
本港地区
 
□人と物の交流を支える下関港の中心地区:本港地区
 
 下関の都心部に最も近い本港地区は、下関港の中で最も中心的な役割を担う地区です。第1突堤では食糧庁の配船による大麦、小麦などの輸入や中国・韓国の鮮魚運搬船による水産品など、第2突堤では、主として原糖、繊維原料などが取り扱われています。また、細江埠頭にある下関港国際ターミナルからは韓国の釜山とを結ぶ日韓フェリーが毎日、中国の青島とを結ぶ日中フェリーが週2便運航しており、年中無休の通関体制によるコンテナ貨物の即日通関というメリットを備えた人流・物流の国際フェリー基地です。
 
〜より機能性を持った施設へ―岸壁改良事業―〜
 
 日韓フェリーと日中フェリーが接岸する本港地区の細江埠頭は、築造から約30年を経て桟橋構造の岸壁の老朽化が著しいことや、荷役機械の大型化に対応するために、抜本的な改良工事が必要となったことから、平成8年度から国直轄事業により岸壁-7・5m2バース及び岸壁-10m2バースの改良事業を実施し、平成15年度末に完成しました。これにより細江埠頭は、さらに機能性を高めた港湾施設へと生まれ変わりました。
 
〜老朽化した岸壁の床板を魚礁としてリサイクル〜
 
 本港地区の岸壁改良事業においては、工事により撤去したコンクリート材を魚礁材としてリサイクルする取り組みを行っています。
 これは、撤去した桟橋床板コンクリートを魚礁材として、下関沖の蓋井島(ふたおいしま)周辺の水深約40mの海底に設置したもので、通常は廃棄物として処理する建設廃材を再利用することにより、廃棄物の削減と建設コストの縮減を実現するとともに、海洋生物の成育場所を創造するという3つの大きな効果をもたらしています。
 こうした港湾構造物をリサイクル材として再利用する試みは全国でもほとんど例がなく、建設廃材のリサイクルについてひとつの方向性を示したもので、全国的に波及することが期待されます。
 
□未来の下関を担うこども達へ:学習支援活動
 
 当事務所では、長期的視点に立った「みなとまちづくり」を推進していくために、地域社会の将来を担うこども達を対象とした学習支援活動に取り組んでいます。
 平成15年度においては、「ひびっくらんど」を教材に、みなとの役割や地域社会との繋がりなどについて学習を深めることを目的として、小学生を対象とした出前講座や現場体験学習会、高等学校土木科生徒を対象とした現場作業実習などを実施しました。
 こうした取り組みは先生方からも好評を得ており、平成16年度からはさらに内容を強化し、より多くのこども達が地元のみなとに対する理解を深め、みなとを身近に感じることが出来るように活動を展開していきたいと考えています。
 
魚礁設置作業状況
 
現場体験学習会
 
現場作業実習
 
〜地域との更なる連携を目指して〜
 当事務所は、昭和12年に前身の「下関港修築事務所」として開所され、以来、歴史ある“みなとまち”下関の港湾整備に携わる事務所として、地域の要請に応えるべく事業を進めてきました。
 下関沖合人工島「ひびっくらんど」をはじめとする新しい「みなとづくり」にあたっては、広報誌やホームページ、現場見学等様々な機会を活用して地域の方々に積極的な情報発信を行い、事業に対する理解と港の必要性などの啓蒙活動に取り組んでいます。
 今後もこうした活動を通じて地域の方々とのコミュニケーションを図りながら、地域と一体となった「みなとまちづくり」を推進していきます。







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