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3.4.5 結論
 以上の調査及び議論から、以下の結論が導かれた。
 
 (1)自由降下型救命艇自身のバルクキャリア(特に比較的大型の)への搭載に関しては、降下高さ及び進水角度に関し十分配慮して設計する必要がある。
 (2)自由降下型救命艇へのアクセス通路の設置及び負傷者等の搬送に関しては、解決すべき問題がある。特に大型船の場合にアクセス距離が長くなり、それだけ乗り込み時間が長くなることが予想される。
 (3)自由降下型救命艇はコスト高となる。一方、リスクの低減効果はわずかである。その利点がコストに見合うかどうかは、乗り込み時間及び降下時間、を含めた総合的な安全性向上に対する評価が必要である。
 (4)自由降下型救命艇の船上での訓練については、実行可能な頻度とすること及び不可能な場合には実行を強制しないことを配慮する必要がある。そのような場合であっても離脱装置の作動確認のための模擬的なテストは定期的に行う必要がある。
 (5)自由降下型救命艇のリリースが容易なため、ダビッド降下型に比べ、降下に技量を必要としない。一方、船員が自由降下に慣れている必要があるため、陸上の訓練場の整備等、船員教育に自由降下型救命艇の取り扱いを含める必要がある。
 (6)自由降下型救命艇の搭載の議論はバルクキャリアに限定したものではない。さらに、荒天時・緊急時の脱出と退船後の安全性は、バルクキャリアに限った事柄ではない。従って、自由降下型救命艇の適用については、バルクキャリアに限定して検討されるべきではない。
 (7)自由降下型では、救命艇への乗り込みが終了すれば艇をリリースするだけで本船から脱出でき、荒天時には困難な作業のあるダビッド型に比べて、荒天時の降下が安全かつ容易である。
 (8)SOLAS III章においても、自由降下型救命艇はダビッド降下型救命艇と併記されており、選択の自由度が与えられており、バルクキャリアの救命艇を自由降下型のみに限定する必要はなく、バルクキャリアの救命艇への自由降下型救命艇の搭載を強制化すべきではない。
 (9)船種、海象、事故状況及び人的要因を考慮した救命艇の選択についての総合的解析がさらに必要である。
 (10)自由降下型救命艇に自動離脱機構を要求するにあたっては未解決の問題が多く、さらに詳細な検討が必要である。
 
 以上の観点から、自動離脱機能を有する自由降下型救命艇のばら積貨物船への適用は、現状のSOLAS III章31規則にあるように、救命艇の選択肢のひとつであることを保持すべきであり、自由降下型救命艇をばら積貨物船に強制的に搭載を義務付けるべきではないと考えられる。
 
3.4.6 今後の検討
 自由降下型救命艇にFloat-free機能を持たせることについて、その問題点を明確にするため、平成16年度に模型実験を実施する計画である。
 
3.5.1 目的
 現行SOLAS条約第XII章第5規則では、一つの貨物倉が浸水した場合に対し、貨物倉内に浸入した海水による動的な荷重(効果)を考慮した上で、十分な強度を有することが規定されており、具体的な基準は、1997年のSOLAS条約締約国会議が採択した決議3において参照されるIACS統一規則によることとなっている。この後、第76回海上安全委員会(MSC76)において、同規則を改正して二重船側構造ばら積貨物船に本要件を適用することが合意されたが、上記統一規則においては単船側構造の腐食衰耗・崩壊を想定しているため、二重船側構造ばら積貨物船に対して適切な設計条件を与えているとは言い難い。このため、二重船側構造ばら積貨物船について、適切な設計条件を与えることを目的とし、考慮すべき貨物倉浸水のシナリオ及びこのシナリオに基づく荷重条件に関する検討を行う。
 
3.5.2 貨物倉浸水に関するシナリオの策定
 二重船側構造ばら積貨物船における貨物倉浸水の確率は、単船側構造ばら積貨物船の浸水確率に比べて非常に小さいと考えられ、日本としては、二重船側構造ばら積貨物船に現行SOLAS条約第XII章第5規則のような貨物倉浸水時の要件を適用すべき必然性がない考えている。一方で、英国は二重船側構造にしただけでは、衝突による浸水を適切に防ぐことは出来ないことを述べている。このため、貨物倉浸水時に関する適切な強度要件を設定するためには、事故シナリオと随伴する構造要件を検討する必要があり、ここでは以下の問題設定を行って検討することとした。
 
a. 浸水後に要求される縦曲げモーメントを議論する。対象はばら積貨物船である。単船側ばら積貨物船についてはIACS UR S17で規定(カバー)されている。従って、二重船側ばら積貨物船の貨物倉浸水が我々の関心事である。
b. 二重船側ばら積貨物船の貨物倉浸水シナリオと随伴する強度基準について議論する。
 
 浸水シナリオとしては、貨物倉浸水に繋がるものとして表3.5.1のように分類した3つの事故シナリオを検討した。また、それぞれの事故シナリオに該当する事故の発生確率を表3.5.2に示す。単船側ばら積貨物船に関しては、腐食などによる船側構造破壊による浸水(SS)とハッチカバー損傷や緊締ミスによる浸水(HC)が最も重要な事故シナリオである。
 
表3.5.2 Categorization of Hold Flooding Accident Scenarios
Symbol Explanations of Flooding Scenarios 
SS Flooding Scenarios initiated by side shell structural failures caused by structural deterioration due to corrosion.
HC Flooding Scenarios initiated by hatch cover failures and /or securing system failures
COLLISION Flooding Scenarios initiated by collision
 
表3.5.2
Frequencies of Hold Flooding Scenarios, SS, HC and COLLISION from LMIS Casualty Database(August 2000 Version)
  SS HC COLLISION
Number of Casualty 152 About30 26
Frequency
(cases / ship year)
1.7×10-3 3.3×10-4 2.9×10-4
 
 国際満載喫水線条約の改正によりハッチカバーの損傷の多くが防止されることや、二重船側構造の強制化により船側構造破壊による浸水事故の多くが未然に防止されることを考慮すれば、大雑把に言って、SSとHCの事故シナリオの初期事象の発生確率は2桁は下がると考えられるため、相対的に高くなるリスクを考えると、衝突事故により貨物倉が浸水するというシナリオ(以下、衝突シナリオという。)が最も優先度の高い事故シナリオであると考えられる。
 ここで、貨物倉浸水時の船体強度要件を考えるにあたり、船殻設計に対する影響が大きいと考えられる船体縦曲げ強度を例にとるものとする。この時、非損傷/浸水時の船体縦曲げモーメントが非損傷時の静水中縦曲げモーメントMsと波浪縦曲げモーメントMwの和として与えられる場合、浸水時の縦曲げモーメントは次式で与えることが出来る。
 
Msf+a・Mw
 
 問題は、衝突シナリオに対する適切な調整係数の値を如何にして決定するかにある。3.5.3で述べる検討結果によれば、衝突事故に対する調整係数の値は0.64になる。
 
a=0.64
 
 衝突損傷による構造強度低下をある程度考慮しなければいけない場合には、調整係数として0.70が示唆される。
 
a=0.7
 
 衝突シナリオが採用される場合、貨物倉だけでなく同時に隣接する二重船側部やバラストタンクも浸水することになる。その結果、浸水時の二重船側ばら積貨物船の静水中縦曲げモーメントは単船側ばら積貨物船に比べてMwの約10%程度増加する。
 これに対して、衝突シナリオを適用する場合、考慮すべき波浪縦曲げモーメントは、現行規則により単船側ばら積貨物船に適用してきた波浪縦曲げモーメントに対して小さいものとして問題ないと考えられる。これは、3.5.3で説明するように、二重船側構造のばら積貨物船の衝突事故を起こす際の海象は、単船側ばら積貨物船が荒れた海象で船側構造に損傷を受けるのに比べて、緩やかであると考えられるためで、単船側ばら積貨物船に適用してきた波浪縦曲げモーメントに対して小さい値を使用しても、二重船側ばら積貨物船に要求される縦強度に関する安全レベルは単船側ばら積貨物船と同等であると考えられる。
 結果として、上記調整係数(a=0.7)を使う場合、二重船側ばら積貨物船に要求される縦強度は単船側ばら積貨物船の縦強度の2%〜3%大きくなる。(3.5.4参照
 以上より、DE47/16/1において提案している新たなSOLAS XII/5規則案では、この調整係数(a=0.7)採用している。
 結論としては、二重船側ばら積貨物船に対しては、衝突による貨物倉浸水がリスクの大きさという点から最も重要な事故シナリオとなる。現在のSOLAS chapter XIIによる単船側ばら積貨物船の貨物倉浸水に対する要求は、腐食などの船側外板強度の低下による浸水シナリオに基づいたものであることを考慮する必要がある。また、SOLAS XIIの事故シナリオの変更は、静水中縦曲げモーメントと関連する仮定浸水区画の変更だけでなく、実際に作用する波浪縦曲げモーメントの設定値の両方の変更が必要となる。もし新しいSOLAS chapter XIIが適切に変更されれば、二重船側ばら積貨物船の縦強度は単船側ばら積貨物船の縦強度と同等かそれ以上となる。
 
3.5.3 衝突シナリオと海象条件に関する一考察
 3.5.2で述べたように、二重船側構造のばら積貨物船のリスクの重大さに関して、衝突による浸水が最も重要になるであろうことが示されている。この貨物倉浸水シナリオの変化は、浸水区画の静水圧の仮定だけではなく、起こり得る波の曲げモーメントの仮定という形でも新しいSOLAS XII章へ反映されるべきである。新たなSOLAS XII章が適切に改正されるなら、二重船側構造のばら積貨物船の船体縦強度は単船側ばら積貨物船のそれと少なくとも同等以上ということになる。
 ここでは、LMISのデータベース(2000年8月版)を用いてばら積貨物船の衝突事故の調査を行った。1978年から2000年7月までの衝突事故件数が1536件、ばら積貨物船の母集団は89900ship yearであるので、事故発生の頻度は以下のように計算される。
 
Frequency of Collision: 1.7 × 10-2 cases / ship year
 
 衝突事故の海象状況は表3.5.3のように分類される。海象情報が不明の事故記録を除くと、荒天時の衝突事故発生率は全体の約40%になる。しかし実際はこの数値より小さくおそらく8%程度だと考えられる。一般的に衝突事故においては少なくとも2隻以上の船が関わっているため、その詳細情報は得られやすい。そのため、海象情報が記録されていない場合には霧や、荒天といった特筆すべき海象では無かったという可能性が高い。言い換えると海象情報が記録されていないということは暗に良い若しくは中庸な海象であったことを示していると考えられる。
 
表3.5.3 ばら積貨物船の衝突事故時の海象情報
Weather Information N.A. Not bad Fog/Mist Heavy Total
Number of Collision Cases 790 17 83 75 965
 
 上述の仮定を確かめるため、日本気象協会によって開発された波浪推算プログラムを用いて、衝突事故時の海象状態の推算を行った。海岸線から大きく離れた場所や外洋であるという点を考慮して、荒天が予想される21の衝突事故例を選んだ。事故の発生場所については、表3.5.4の一番左の欄の事故IDと図3.5.1上のプロット点が対応している。このような控えめな(安全側の)選択にも関わらず、全ての海象状況はそれほど厳しいわけではない。このことから前記仮定は妥当であると言える。







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