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3.3 ハッチカバーに作用する甲板荷重についての検討
3.3.1 はじめに
 満載喫水線を決定するための規則の第16規則においてハッチカバーの強度等が規定されている。現在、これらについて海水打ち込みの観点から見なおしが行われている。日本でもRR45において、海水打ち込みについての模型実験を行い、甲板荷重や甲板上水位分布の計測を行うと共に、これらの推定手法の開発を行ってきた。さらに、現在RR71LLWGにおいても詳細な検討が開始されたところである。
 ここでは予備的検討として、Cape Sizeのバルクキャリア(Lpp=280m,B=47.0m)を対象に、船首相対水位変動の長期予測計算を行い、海水打ち込みの発生頻度について調べた。この結果から、海水打ち込みが激しく発生すると考えられる海象を想定し、これまでに船舶技術研究所(以下船研)で開発を行った打ち込み荷重の推定手法を用いて甲板荷重の推定を行った。さらに推定結果とIACS-UR-S21との比較、検討を行い今後詳細な検討を行う上での問題点を整理したので以下に示す。
 
3.3.2 長期予測計算
 入力である応答関数については、Strip法(NSM)で行なった。計算条件について、船速はFn=0.0,0.04(3.75knot),0.08(7.5knot),0.128(13knot)の4通りについて計算を行った。
 船体応答のエネルギースペクトルの計算に必要な波のスペクトルは、ISSCスペクトル(Modified Pierson-Moskowitz型)を用いた。また、方向分布は、cos2χ分布を仮定した。また、長期予測計算に必要となる波浪頻度表は冬季北大西洋の波浪発現頻度表を用いた。
 
3.3.3 打ち込み荷重の推定法1)
 推定法は、甲板水位等を既知として甲板荷重及び甲板水圧を推定する部分と、船首相対水位等を既知として甲板水位を推定する部分に分かれるので、それぞれ別個に説明する。計算は、船速Fn=0.04(3.75knot),0.08(7.5knot),0.128(13knot)の3通りについて、波向は正面向波で行った。
 
(a)甲板荷重の推定法
 船体運動及び甲板水位を既知として甲板水圧を
 
 
と表す。ここで、ρは水の密度、hは甲板上打ち込み水位、Wは甲板の鉛直方向速度、gは重力加速度、θは縦揺れ角である。この式は甲板水のもつ運動量変化による動的な成分も含めて推定するもので、第1項は水位の変動に伴う運動量変化、第2項は慣性力を表わす。
 
(b)甲板水位の推定法
 河川工学で用いられている洪水流の理論を用いて甲板水位の推定を行う。図3.3.1に示すような船体固定座標系を考え、船首をx=0とし、船尾方向に向かってx軸を正にとると、甲板水位分布φ1(x,t)は
 
 
となる。ここで、D=ν0f'/2i00=5ν0/3である。f'はBow Top Height、ν0は船速を表す。F(t)を、F(t)=-f(t)-fとしてf(t)は船首相対水位の時系列、i0は縦揺れの最大角θmax(船首上げ)を用いてsinθmaxを表す。また、B(x)は各位置での船幅、B0は打ち込みの有効幅を表わす。有効幅B0は計測された一出会周期当たりの甲板水量をもとに船首相対水位の最大値がBow heightを超えた高さδに比例するとして、B0=αδとしている。αは比例係数を表し、実験結果からタンカーでは1.1としている。今回行った計算でもこの値を用いた。また、計算開始時間は、実験結果にもとづいて船首相対水位がピークに達した時間をt=0とした。
 推定法の妥当性を示すために、図3.3.2に前節で示した内航貨物船の波浪中実験で計測した甲板上水位分布との比較を示す。図は甲板上の各位置(S.S.10(F.P.)からS.S.9)における水位のピーク値を表わす。推定の際の入力となる船首相対水位は実験の計測波形を用いている。この結果から、甲板上の水位分布が定量的によく推定できていることがわかる。又、船尾方向に行くに従って水位がかなり小さくなっていくことがわかる。
 
図3.3.1 洪水流モデル
 
3.3.4 計算結果
(a)長期予測計算
 図3.3.3及び図3.3.4に出会い方位180°(正面向波)及び全方位の場合の長期予測結果を示す。横軸は、発現確率を対数軸で、縦軸は相対水位変動の両振幅を表わす。比較のために最小船首高さを太点線で同じく図中に示す。この結果から打込み確率は正面向波で10の-3.5乗程度となる。また、船首相対水位が船首を越える高さ(越波高さ)は10の-8乗で7m強になると考えられる。全方位の場合では打ち込み確率は10の-3程度で、越波高さは10の-8乗で10m強になると考えられる。
 
(b)甲板荷重の計算
 上記の結果から有意な海水打ち込みが発生するのは特に厳しい荒天下であると考えられる。そこで船首相対水位変動が大きくなると考えられる波高14m、波長船長比1.0の海象下での甲板荷重の推定をおこなった。この際の入力となる船首相対水位、縦揺れ、船首加速度についてはストリップ法(NSM)で計算した。図3.3.5にその結果を示す。横軸にS.S.10(F.P.)からS.S.7.5までの甲板上の位置を表わす。縦軸は甲板荷重のピーク値を点線で表わす。また、比較のためにIACS-UR-S21で想定されている甲板荷重の分布を同じく図中に実線で示す。
 この結果から、船速が小さくなるにつれて発生する荷重は小さくなること、また船尾方向に行くに従っての荷重が小さくなることがわかる。また、UR-S21の想定荷重と比較すると定量的に差があることがわかる。この理由の一つに甲板荷重の見積方法の違いが考えられる。UR-S21の想定荷重の推定式は最小の船速を13knotとして(本計算結果ではFn=0.128が13knotに相当する)、向波中での船首相対水位の計算値をもとに甲板荷重の大きさおよび船長方向の分布を推定したものである。そのため、直接甲板荷重を推定又は実験的に計測した結果に基づいているものではない。また、図3.3.6に示すように、船首相対水位の実験値岸入力として本推定法で求めた甲板上水位分布は非常に精度よく推定できている。一方、本計算法で仮定した計算モデルでは船首相対水位が船首高さを越えた高さ(越波高さ)が甲板荷重に強く影響する。そのため、船首相対水位のわずかな推定精度の誤差が甲板荷重の推定値に大きく影響を及ぼすことが考えられる。これらのことから、UR-S21での甲板荷重は過大に見積もられている可能性も考えられると同時に、船首相対水位に関するNSMの推定精度もあわせた甲板荷重推定手法の検証を行う必要があると考えられる。そのためには、現時点までに得られた結果だけでは不十分であり、実験及び理論の双方から詳細な検討を行う必要性がある。こちらについてはRR71LLWGで行われている検討結果を待つこととしたい。
 
3.3.5 まとめ
 Cape Sizeのバルクキャリア(Lpp=280m,B=47.0m)を対象に、船首相対水位変動の長期予測計算を行い、海水打ち込みの発生頻度について調べた。さらに、海水打ち込みが激しく発生すると考えられる海象を想定し、甲板荷重の推定を行ったところ以下のことが考えられる。
○正面向波で10の-3.5乗程度で、10の-8乗で7m強の波が乗り上げる事が予想される。全方位の場合では10の-3程度で、10の-8乗では10m強の波が乗り上げる事が予想される。
○甲板荷重は船速が小さくなるにつれて小さくなり、船尾方向に行くに従って小さくなる。
○今回示した手法により推定した甲板荷重の値は、IACS-UR-S21での想定荷重と定量的に差がある事がわかった。これは、甲板荷重の推定方法の違いに起因するものと考えられるが、本検討の知見だけでは不十分であるため今後更に実験データを集積し検討を進める必要性がある。
 
参考文献
(1)小川剛孝,田口晴邦,石田茂資:海水打ち込みによる甲板水量及び甲板荷重に関する実験的研究、日本造船学会論文集第182号,1997







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