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5.2 イベントツリー評価結果の検討
5.2.1 解析結果
 イベントツリー解析の定量的評価を実施した結果は、
衝突事故発生頻度・・・2.24×10-2(/時間)
座礁・乗り上げ、喫水線下衝突事故発生頻度・・・表5.2.1.1
浸水・沈没・転覆事故・・・表5.2.1.2
となった。
 
表5.2.1.1 座礁事故発生頻度(ETによる解析値)
  座礁・乗り揚げ 喫水線下衝突
(1)停泊中漂流 4.93x10-6 1.27x10-5
(2)他船・漁船との遭遇 6.83x10-4  
(3)針路保持不良 2.55x10-4  
(4)船位不確認 4.54x10-5 1.17x10-4
(5)船位誤認 2.77x10-6 7.12x10-6
(6)居眠り 3.71x10-5 4.87x10-5
(7)危険な前路水域 3.92x10-5  
合計 1.07x10-3回/航海 1.86x10-4回/航海
 
 
表5.2.1.2 浸水・転覆・沈没事故の発生頻度(ETによる解析値)
  航行中 停泊中  
静穏時 6.13×10-6 5.57×10-6  
荒天時 3.15×10-6 1.58×10-6  
9.28×10-6回/航海 7.15×10-6回/航海  
合計     1.643×10-5回/航海
 
5.2.2 不確実さ解析
 前節のイベントツリー(ET)解析による各種事故発生頻度の評価値は、事故シーケンスを構成する各事象の発生確率に一定の値(点推定値)を与えて算出したものである。しかし、これらの事象の発生確率としては必ずしもはっきりとした知見が得られない場合が多く、5.1.4で述べたように種々の推定方法を用いている。また、事象の性質から本質的に発生確率にばらつきが存在する場合もある。そこで、各事象の発生確率値に分布を仮定し、事故発生頻度として分布を持った値を求めることが実施される。これが不確実さ解析と呼ばれ、算出された事故発生頻度がどの程度の確からしさを持っているかが明確に表現される。
 事故発生頻度は多数の起こり得る事故シーケンスの和として表現されるが、この事故シーケンスは、それを構成する各事象の発生確率の積となっている。この各事象に分布に従った発生確率値を乱数を用いて与えて事故発生頻度を計算することを多数回繰り返す、いわゆるモンテカルロ法を実施すると事故発生頻度の分布が求まる。
 衝突事故についてこの方法で100万回の試行回数により不確実さ解析を実施した。アンケート結果より求めた累積確率分布関数を用いてMonte-Carlo法により衝突事故発生頻度の確率密度関数を求め、それより、衝突事故発生頻度の平均値および分散を求めた。また、その分布を対数正規分布にあてはめ、パラメータ値を計算した。得られた結果は、平均値:4.4E-2/隻・時間、中央値:2.5 E-2/隻・時間となった。また、5%値は、3.2 E-4/隻・時間、95%値は、1.4E-1/隻・時間となる。したがって、EF(Error Factor)は、EF(50%/5%)=7.8、EF(95%/50%)=5.6となった。
 一方、海上技術安全研究所で開発したET解析ソフト(MSET)には不確実さ解析機能が整備されていてETから直接上記の方法で解析を行える。本機能は、ET中の分岐において不確実さ(確率値の分布)が存在すると見られる項目について各種の分布形を選択でき、その分布に従う確率値を乱数を用いて各々1つ選定しET解析を実施、これを任意の回数(例えば3000回)繰り返すモンテカルロ法を実施するものである。分布としては、正規分布をはじめとして対数正規分布、ベータ分布そしてヒストグラム分布等を備えている。そのため、ほぼ任意の形の分布型に対応可能となっている。
 この解析では、アンケート調査結果の累積確率分布から中央値とエラーファクターを求めることにより対数正規分布を適用した。この分布を与えたヘディング、その中央値およびエラーファクターを表5.2.2.1に示す。試行回数は3,000回とした。この結果を図5.2.2.1に示す。この図より明らかなように、点推定値に対して不確実さ解析結果の分布の中央値は2倍程度の値となっている。これは各分岐確率に与えた対数正規分布に起因する現象である。また、エラーファクターは、EF(50%/5%)=EF(95%/50%)=5.9となっており、今の場合事故発生頻度の分布としては比較的不確実さ幅の小さいものが得られた。
 
表5.2.2.1 対数正規分布を適用したヘディングとその中央値およびエラーファクター
  C(F):
A(B)船観測誤り
D(G):
A(B)船認知誤り
J(M):
A(B)船避航計画
J(M):
A(B)船避航計画
(困難な場合)
K(N):
A(B)船避航実行
中央値 0.062 0.046 0.052 0.077 0.029
エラーファクター 5.02 4.23 5.59 4.75 6.78
 
図5.2.2.1 不確実さ解析による衝突事故発生頻度の分布
 
5.2.3 重要度評価
 重要度評価手法とは、機器故障や人的過誤等のどの要素が事故発生頻度にどのように影響を及ぼしているかを、機器故障や人的過誤等の基事象の生起確率を変化させ、評価する手法である。具体的には、事象の生起確率を0(すなわち、故障しないものとする)、あるいは、1(すなわち、常に故障しているとするか、あるいは、その機能を期待しないものとする)として、事故発生頻度の計算を行い、当該事象の寄与度を調べる。種々の指標のなかでもFussel-Vesely(FV)法が比較的良く用いられている。
 
 
・・・対象事象(衝突)の発生を仮定した場合に、当該事象(ヘディング)の発生が寄与している条件付確率を示す。
P: 対象事象の発生頻度
Hi: 当該事象の生起確率(ヘディングの値)
P'i: 当該事象の生起確率を0とした場合の発生頻度(ETにより得られる衝突事故の発生頻度)
 衝突事故について、重要度評価を行った結果、FV指標で検討するとH(2船間の連絡の不成立)の重要度が高く、続いてC、F(観測誤り)そしてJ、M(避航計画失敗)の重要度が高いという結果が得られた。
 
5.2.4 アンケート結果の再検討
 重要度評価の結果、重要度が高いと評価された、H(2船間の連絡の不成立)、C、F(観測誤り)そしてJ、M(避航計画失敗)についてアンケート結果を再検討した。これらの各設問に対して集計結果の見直しを行い、また、発生確率に大きな影響を及ぼす0や1もしくはそれらに近い値となる個々の回答についての検討等を行った。しかしながらこれらの点については問題もなく、アンケートの処理や分布の特異性等にも問題はないと考えられた。







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