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2.2 国際会議の概要
 
2.2.1 会議の全体概要
 
 「放射性物質の輸送安全に関する国際会議」は、2003年7月7日から11日までオーストリアのウィーンで開催された。主催はIAEAで、協賛機関としてIMO、ICAO、万国郵便連合(UPU)が名を連ね、国際航空運送協会(IATA)、国際標準化機構(ISO)が協力機関として会議を後援した。IAEA加盟国82カ国、14機関から543名の参加登録があった。日本からは関係省庁(外務省、経済産業省、国土交通省)、専門家(日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構、海上技術安全研究所、電力中央研究所等)、事業者(電気事業連合会、東京電力、原燃輸送)から26名、その他に在ウィーン国際機関日本政府代表部より数名が参加した。
 会議プログラムは技術セッション(TS)、パネルセッション、背景・説明セッションに分類されていた。技術セッションでは、放射線防護、品質保証・放射性物質輸送容器と輸送、規制の有効性、安全要件の妥当性、緊急時対応について、また、パネルセッションでは安全基準の評価や規制体制の改善について議論された。背景・説明セッションでは輸送規則の概説や損害賠償及びコミュニケーション(事前通報など)について、輸送実施国と沿岸国との間で議論が交わされた。特に、損害賠償とコミュニケーションについて、関係者のみが参加する非公式協議の場が設けられた。
 
2.2.2 各セッションにおける議論の概要
 
(1)トピカルセッション:損害賠償
 輸送実施国からは改定パリ条約、ウィーン条約、それらを補完するCSC(Convention on Supplemental Compensation)についての発表があった。輸送反対国からは、輸送反対の立場から現状の損害賠償制度の問題点などについての指摘があった。
 
(2)ラウンドテーブル:コミュニケーション
 輸送実施国からは、カナダと米国より中央政府と地方の安全・保安当局とのコミュニケーションは、情報交換によって効果的になされることが示された。コミュニケーションはどのような緊急時においても形成されるものであり、公衆との信頼を構築している。国際的な範囲においてはより複雑となるが、INESはコミュニケーションのツールとして有効である。一方、輸送反対国は、国際法を引用し、放射性物質の海上輸送時においては船舶の通過の事前通報の必要性や独立した環境影響評価による安全性の検証を行う権利を主張した。
 
(3)TS-1: 輸送時の放射線防護の有効性
 放射線防護に関する現状報告が数ヶ国より発表された。特に、イタリアにおける放射性物質の道路輸送統計について着実に実施されていることが強調され、その中では輸送のモード、数量、要領、輸送指数等の過去10年間の変化が発表されており、これらはデータベース化されているとの説明があった。また、我が国からも日本における放射線防護について報告し、規制の現状について具体的な説明がなされるとともに、着実な実施をアピールした。
 
(4)TS-2: 適合保証と品質保証
 1998年のIAEA総会で各国の輸送規則の履行状況を評価する輸送安全評価サービス(TranSAS)の導入が採択され、2000年以降にブラジル、スロベニア、英国、パナマ、トルコが評価を受けた。フランスは2004年3月に受ける予定である。結果は、Recommendation(規則に関係して改善すべきもの)、Suggestion(解説文書に関係して改善すべきもの)、Good Practice(良い実践)の3段階で評価される。注目すべき点として、ベルギーの発表の中では、TS-R-1の2年改定サイクルと輸送物設計承認の有効期限の見直しをIAEAで今後検討してほしいとの要望が含まれていた。
 
(5)TS-3: 輸送容器と放射性物質の輸送
 発表を通じて、原子力は環境に優しいエネルギー源として重要であり安全輸送はそれを支えていることから、今後、公衆に対して燃料サイクル、輸送船、再処理、高レベル放射性廃棄物輸送、輸送規則の試験条件の技術的安全性や輸送規則の妥当性について説明を適切に行うことが必要であると示された。また、ガンマ線の利用は我々の生活、特に医療にとって重要であるが、ガンマ線源を利用する施設は世界中に約200箇所あるのに対し、線源供給者は2箇所しかなく、5〜10回/月程度の多くの輸送が必要である。これらは現在、海上輸送が行われているが、各国の規制が異なること、利用できる港が限られていること、さらにはセキュリティーへの対応など課題が多い。これらの課題に対しては適切な医療環境を維持するためにも柔軟に対応する必要があるとの説明があった。
 
(6)TS-4: 非標準系放射性物質の輸送容器と輸送
 全体的に本テーマに対する現状説明が淡々となされた。
・使用済Ra-226の輸送及び中間貯蔵に関する報告;線源の量を特定し最終処分場ができるまでは中間貯蔵している。
・原子力施設内の輸送は欧州共同体(EU)の協定であるADR(道路による危険物の国際輸送に関するヨーロッパ協定)の対象とならず別途対応が必要である。IAEAの輸送安全委員会(TRANSSC)がその指針を作成し運用されている。
・リトアニアでは身元不明線源が多くあり、国境で発見されることが多い。このため行方不明線源に対応する対策を行っている。
・ニジェールではイエローケーキの輸送を国内危険物輸送規則及びTS-R-1に準じて行っている。
・タンザニアでは放射性物質の輸出入が増加しつつあり国民の関心が高まっている。一方、放射性物質の輸送を規制する規則がないことから規則制定を急いでいるところである。南アフリカで産出される“Zircon”(天然放射能を有する鉱石)はTS-R-1では規則適用除外物質として扱われているが、計算ではなく実測によってZirconが適用除外物質とすることが適切であることを確認したとの説明があった。
・グルジアでは200以上の身元不明線源が発見されている。これを輸送して適切に対応するための規則の制定を行っている。
 
(7)Panel 1: 規則の基準に関する評価
 日本からは、高レベル放射性廃棄物(HLW)輸送船の機関室火災時の輸送物の健全性を検証した研究及び9m落下試験と現実的な事故条件における試験による輸送物の健全性を検証した研究について発表した。英国は放射性物質輸送船の対衝突構造と衝突時の損傷評価に関する論文を、米国は他船との衝突による損傷の解析・船上火災に関する研究及び放射性物質の海上輸送時のリスク評価法と評価結果に関する研究を紹介した。パナマは、パナマ運河における放射性物質を含む危険輸送に関する実績、規則等について説明し、安全な運航がなされていることを報告した。
 
(8)TS-5: 規制プロセスの有効性
 各国の論文には、安全輸送は輸送容器によっても保証されているが、規則に関する国際間及び国内間における解釈を同じにすることが重要であるとの記載が多く含まれていた。ICAOからは、基準と勧告の改訂手順が説明された。軽微な修正は事務局にある程度の権限を与え、議論は全体会合で行う傾向にあるとのこと、また、TS-R-1の改訂サイクルが2年になったことで、新規則の取り入れが容易になったとの説明があった。なお、ICAOにはTranSASと同様のボランタリーの監査サービスがあり、現在85ヶ国が監査要請し、67ヶ国が監査を終了したとのことである。
 
(9)TS-6: 安全要件の妥当性
 各国から提出された論文の要約が発表されるとともに、米国が実施した自動車輸送と鉄道輸送における事故評価、使用済燃料の過酷事故試験について発表された。
・輸送物の安全性を確保する手続きを開発するには、リスク解析が有用である。
・過酷事故の試験はTS-R-1の妥当性を示すために行われる。
・輸送安全に関する教育訓練は重要であり、その効果、信頼性の向上を得るには時間がかかる。航空輸送に際しては、輸送方法に対しての教育訓練も乗務員に行うべきである。
 
(10)Panel. 2: 規制体制の潜在的な改良範囲の認識
・本セッションの課題として、規制の複雑さ、各国及び輸送モード間での矛盾、TS-R-1の改定間隔、セキュリティー、小体積のA型輸送物や短半減期核種についての過剰規制などがあげられた。
・医学利用の放射性物質のうち特に半減期が短い放射性物質については、急送を要するので、規則を改定するなどの対応が必要であるとの意見が出された。
・半減期の短い放射性物質の輸送は航空機によらなければならない。その際、輸送物の再承認の問題、小規模輸送業者にとってRPPの準備は荷が重い、米国でのテロ事件(9.11)以降のテロ対策の影響による配達の遅れなどの問題があることが指摘された。
・IATAの放射性物質輸送の規制に関する取り組みについて報告があり、規制の簡略化などの提案があった。
 
(11)TS-7: 緊急時の準備と対応
 輸送実施国から、緊急時対応に関しては、IAEA輸送規則ガイド文書TS-G-1.2において、放射性物質輸送時の事故事象発生時に取るべき行動(通報連絡等)、各当事者(政府、地方当局、荷主、荷送人等)の役割、教育訓練に関するガイドラインが示されている、との説明がなされた。いくつかの国では、事故事象発生後30分間における通報連絡や対応を示した「事故緊急時対応介入プログラム(Emergency Response Intervention Card)」を採用している。一方、ノルウェーの参加者から、現行の事前通報システムが適切でないこと、また損害賠償の体系が不十分なことを指摘しながら、放射性物質の海上輸送時の事前通報のメカニズムの確立と国際的な緊急時対応体制の構築の提言がなされた。
 その他では、英国の放射性物質輸送船における緊急時対応プログラムが紹介され、あわせてこれまでの安全航海の記録(4,000基のキャスク輸送、160回の国際航海)が強調された。最後に英国放射線防護委員会から、英国におけるこれまでの事故事象の報告及び記録(データベース)システムが紹介された。ここでは、運転手、荷主、荷送人が事故発生直後に警察及び規制当局に通報を行うシステムになっている。
 これまでの事故事象をINES評価に当てはめた場合、レベル0(50%)、レベル1(45%)、レベル2(2%)、レベル3(1%)、レベル4(1件)に分類される(レベル4は、放射性同位元素の輸送で50Svの被ばくがあった事例)。データベースは、輸送物の型式、輸送モード、収納物、事故事象のINESレベル等にカテゴリー分けをして管理しているとのことであった。
 
(12)会議の概要報告及び結論
 最終日に、各セッションの議長の概要報告に引き続き、全体議長のHughes氏より概要と結果について講演があり、また、その詳細な内容については、”Summary and Findings of the Conference President”として印刷物で配布された。







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