2.2.3 IAEA総会への輸送安全国際会議関係報告
2003年度のIAEA総会は、2003年9月15日から19日まで、ウィーンのオーストリアセンターで開催された。その「議題14: 原子力、放射線及び輸送の安全、並びに廃棄物管理に関する国際協力強化措置」の中で放射性物質輸送に関連する事項が取り扱われた。放射性物質輸送安全国際会議については、附属書1「放射性物質の輸送安全」において、以下のように記述されている。
1)「放射性物質の輸送安全に関する国際会議」は、2003年7月7日から11日までウィーンのオーストリアセンターで開催された。会議は、IMO、ICAO及びUPUの共催、並びにIATA及びISOの後援を得て、IAEAにより開催された。
2)82加盟国及び14機関から534人が、会議に参加登録した。
3)「会議全体議長の要約及び結果」は、関係文書及び刊行物とともに、次のIAEAウェブサイトに掲載されている
2.2.4 輸送安全行動計画
2003年7月の「放射性物質の輸送安全に関する国際会議」の結果及びこれを受けた2003年9月のIAEA総会決議に従ってIAEAの行動計画を検討し、理事会へ提出するための行動計画(Action Plan)草案を作成する会議が、2004年1月12日から16日にウィーンIAEA本部で開催された。行動計画作成に対してのガイドラインとして、
・行動計画は、IAEAの管理と権限の下でIAEAが実施するものであり、加盟国及び他の国際機関又は産業界が実施すべき行動ではない。計画は、すべてのIAEA輸送活動を記述するものでなければならない。
・行動計画は、実行可能な限り、IAEAの既存プログラムと両立でき、首尾一貫し、かつ、整合するものでなければならない。
などの項目が示された。行動計画は以下の15の分野について検討され、31項目の行動計画(1)〜31)の通し番号で示す)が策定された。なお、以下でGC(47)/RESと記載したのは、2003年9月のIAEA総会での決議番号である。
2.2.4.1 放射性物質の輸送安全に対する技術的問題に関連する行動
この行動計画へのIAEAの関与は、IAEAの権限範囲内のものとする。
(1)放射性物質の安全輸送のための規則並びに国連及び他の国際機関との調整
1)事務局は、直ちにTS-R-1の2003年英語版を、その後、必要な場合は2年ごとに、改定又は修正版を発行するとともに、それらの国連公用語への翻訳を促進すること。
2)事務局は、規則を見直し、必要があれば改定するとの現行プロセスを継続すること。
3)事務局は、TS-R-1を使用する他の国際機関との調和の必要性を考慮し、どのようにすれば効率的にできるか決定するためにプロセスそのものの見直しを実施すること。
4)事務局は、規則が適用される物質の広範さに照らして、追加的柔軟さの必要性を検討すること。
(2)適合保証及び品質保証
5)事務局は、適合性保証に関する安全シリーズNo.112及び品質保証に関する安全シリーズNo.113の見直しのための現行のIAEA改定プロセスを継続し、必要に応じて案文を修正するとともに、輸送ガイド文書TS-Gシリーズの中で新しい指針を発行すること。
6)手引き文書の発行後、事務局は、TS-R-1の要求事項に合致する適合性保証プログラムを進めるにあたり、各国規制当局を支援できる訓練課程教材を作成すること。
(3)回収された身元不明線源の輸送安全のための手引き
7)事務局は、適切な保管場所又は処分地への回収線源の安全輸送のための手引きに入れるべき情報を用意すること。これらの手引きは、GC(47)/RES/7Aに基づき作成されている緊急時の準備及び対応に関する行動計画の一部に含めるものとする。
(4)輸送安全評価
8)事務局は、資源の許す範囲で、要請に基づき加盟国にTranSASミッションの派遣を継続すること。
9)事務局は、加盟国との協議のもと、評価を支える評価方法や文書類を、適切に、見直し・改正するとともに、当該見直し・改訂の結果を報告すること。
10)事務局は、タイムリーな方法で評価報告書を発行するとともに、評価を受けた国に対して報告書を広範囲に配布することを認めるよう奨励すること。
(5)輸送拒否問題
11)事務局は、放射性物質輸送(特に医療用のもの)の遅延及び拒否をどう軽減するかについて、関連組織(これには、IMO、ICAO、IATA、国際航空操縦士協会連合会(IFALPA)、世界税関機関(WCO)、輸送関係会社(航空及び海上の輸送会社、港及び取扱施設に特別に焦点を当てて)を含む。)及び各国規制当局の関心事項を取り扱う事実関係解明討論フォーラムを設立すること。
12)事務局は、輸送拒否に関するワーキング・グループが確認した手法(教育/情報伝達・訓練、標準化/規則/統一化、促進及び紛争解決)を考慮に入れて、事実関係を分析しそれらの取扱いにどのような行動をとるかを決定するため、2004年8月までに専門家会合(CSM)を開催すること。
13)事務局は、2004年年次総会に結果概要を報告すること。
(6)天然に存在する放射性物質の輸送
14)事務局は、加盟国の提案に対応して、天然に存在する放射性物質(例えば鉱石その他の物質)の安全輸送のための適切な規制管理レベルについて、共同研究プロジェグト(CRP)を開始すること。
(7)放射線防護プログラム(RPP)
15)事務局は、RPPの確立に関する現行草案資料を完成の上発行するとともに、加盟国に対してさらにどのような支援が可能かについて調査すること。特に、事務局は、放射性物質輸送の間に受ける職業被ばくデータベース(EXTRAM)の収集及び解析のためのシステムが、有効なRPPの確立に関して、加盟国の必要性に合致して改善されているかどうかについて検討すること。
(8)過酷事故研究
16)事務局は、加盟国の提案に対応して、過酷輸送事故に関するCRPを開始すること。
(9)訓練プログラム
17)事務局は、国連公用語でTS-R-1にある最新の要求事項を反映した更新された訓練教材を発行すること。
18)事務局は、資源が利用可能であれば、放射性物質の安全輸送に関する年次地域訓練コースを開催すること。
(10)緊急時対応
GC(47)RES/7Aに基づく緊急時準備に関する行動計画の作成と矛盾しないこと。
19)事務局は、放射性物質輸送に関係する事象に対する緊急時準備調査サービスを見直し、要請に基づきサービスを提供するとともに、すべての加盟国にこのサービスの周知を図ること。
20)事務局で作業中の緊急時対応の仕組み見直しに、IMO及び他の関連国際機関と共同して更なる行動が必要か否かを決定するため、国際水路を輸送される放射性物質に関係する海上事象又は事故への対応を含めること。
21)事務局は、特に潜在的海上事象に関して、とりわけ全般的な緊急時対応能力を改善する対話を促進するため、加盟国、IMO及び他の国際機関、並びに海運業界及び港湾当局との会議を開催すること。
(11)放射性物質の輸送安全に関する加盟国規則
22)事務局は、TS-R-1の各国の実施状況に関する更新情報を加盟国に提供するよう要請すること。
(12)規則の国際的最適化
23)加盟国及び関係グループとともに事務局は、放射性物質の国際輸送に関連する処置及び国際規則を最適化するために、IMO、ICAO、UPU及び国連欧州経済委員会(UNECE)との作業を継続すること。
24)加盟国及び関係グループとともに事務局は、多重承認手続きを簡易化する観点から、TS-R-1の国際間及び輸送モードへの適用を一層調和させる可能性を探求すること。
(13)輸送事象データベース
25)事務局は、輸送事故及び事象並びに輸送資料に関する適切な情報を報告することにより、EVTRAM及びSHIPTRAMデータベースに参加するよう加盟国に招請すること。
26)事務局は、資料提出を促進するため、参加加盟国に電子データ入力プログラムを利用可能にすること。
27)事務局は、加盟国に分析資料を提供すること。
2.2.4.2 放射性物質の輸送安全に関連する行動:損害賠償及び意志疎通
この行動計画へのIAEAの関与は、IAEAの権限範囲内のものとする。
28)事務局は、放射性物質の輸送に関する損害賠償問題に関する「国際原子力損害賠償専門家グループ(INLEX)」の作業について、加盟国に通知すること。
(1)意志疎通
29)事務局は、輸送に関する安全分野に関連した複雑な技術問題についての最新情報を討議するため、2005年初めにセミナーを開催すること。
30)事務局は、輸送事象のINESへの組み入れに関する現況を調査し、利用可能になった段階で加盟国に改定INESガイダンスを提供すること。
31)事務局は、放射性物質の安全な海上輸送に関する相互理解、信頼醸成及び意志疎通強化を改善する目的での対話及び協議を維持することを加盟国が確認した重要性、並びに意志疎通に関する輸送国と関連沿岸国の間の非公式議論が、IAEAも関与して継続されるべきとした全体会議議長勧告への支持に留意すること。
2.2.5 まとめ
2003年7月に開催された「放射性物質の輸送安全に関する国際会議」の結果について取りまとめ、検討課題等の検討を行った。会議の結果を以下に簡単にまとめる。
1)当初、9m落下試験や800℃、30分の火災試験などの輸送物の試験条件が不十分ではないかという質問が懸念されたが、ポスターセッションを含め、そのような質問はなかった。
2)TranSASミッションについては、これまで評価サービスを受けた各国が、輸送安全の透明性、実証の観点からその有効性を指摘していた。今後、日本に対しても、実施を望む声が大きくなってくるものと思われる。
3)損害賠償については、国際的な損害賠償協定、原子力損害時の包括的な損害賠償制度の必要性、現行損害賠償制度の欠陥等について、輸送実施国と反対各国との間で活発な議論があった。
4)コミュニケーションについては、事前通報の問題や輸送物の通過国も含めた緊急時対応の問題について活発な議論がなされた。
技術的な課題については、広範な議論がなされたものの、特に問題点を指摘されることはなく、放射性物質の輸送安全が十分確保されていることを実証する場となった。この会議の議長報告は、会議の公式な結果として、その後のIAEA総会や行動計画策定会議などで、重要な文書として取り上げられている。
この会議の結果を受けた2004年1月の輸送安全行動計画策定会議においても、技術的事項については建設的な議論がなされ妥当な結論を得ているが、損害賠償やコミュニケーションについては、輸送実施国と沿岸国の間で同様の議論が続いた。
「放射性物質の輸送安全に関する国際会議」の目的は、IAEA加盟国と国際機関の代表者がすべての輸送モードによる放射性物質の輸送安全に関する重要な課題を議論する機会を提供し、寄与論文となされる議論に基づき結論を適切、かつ、明確に述べることにより、放射性物質輸送安全に関する情報交換を促進することであった。この目的は十分に達成できたと考えられる。一方で、非技術的な事項においては、依然、輸送実施国と沿岸国の間に意見の相違があり、我が国にとっても今後対応が必要な分野である。
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