3.4 バラスト水交換時に生じる安全上の問題点の検討
3.4.1 検討要件および検討対象
洋上でバラスト水を交換する際に発生する問題として, 以下のものが考えられる。
−縦強度基準
−復原性
−船首船底部の喫水
−プロペラ没水
−トリム
−船橋視界
ただし, コンテナ船ではバルクキャリアやタンカーと異なって, 載貨状態でバラスト水の交換を実施するので, 船首船底部の喫水, プロペラ没水およびトリムに関しては問題がない。
実際にバラスト水交換を行った場合に, 上記の要件が基準を満足しているか否かについて検討した。対象としたのは, つぎの船種/船型である。
−ケープサイズ・バルクキャリア
−パナマックスサイズ・バルクキャリア
−ハンディサイズ・バルクキャリア
−アフラマックス型油タンカー(シングルハル・タイプ)
−アフラマックス型油タンカー(ダブルハル・タイプ)
−6,100個積みコンテナ船
−6,200個積みコンテナ船
バラスト水交換は, Sequential Methodに従うものとした。ただし, バラストホールドに関しては, 交換中のスロッシング発生が懸念されるため, Flow-through Methodを適用するものとした。バルクキャリアとタンカー合計10隻に対する検討結果を纏めて, 表3.3に示す。
同表より, 復原性はすべての場合に, また, トリムは1ケースを除いて基準条件を満足しているが, 縦強度, 船橋視界, プロペラ没水および船首船底部の喫水のすべてが基準条件を満足している場合はないことが分かる。
そこで, すべての条件が満足できる方法について検討した。その結果,
(1)個々のバラストタンクの容量を小さくして, バラスト水の排水/張水時の船の状態変化を小さくする。
(2)船橋を高くする。
(3)バルクキャリアでは, 喫水の確保あるいは縦強度確保のためにはバラストホールドにSequential Methodを併用する。
などの対策で問題は解決できることを確認した。しかしながら, (1)の方法はオペレーションが複雑となり, 現実的ではない。また, バラスト水交換時の船橋視界を得るだけの目的で(2)を実施することには問題がある。さらに, (3)を実施するとスロッシング発生の恐れがある。従って, 単純にこれらの対策法を薦めることはできない。
表3.3 バルクキャリアおよびタンカーのバラスト水交換時の諸要件満足度
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LS LONGITUDINAL STRENGTH
ST STABILITY
FD FORWARD DRAFT
PI PROPELLAR IMMERSION
TR TRIM O:TRIM BY STERN
BV BRIDGE VISIBILITY |
コンテナ船では就航後の積み付け状態は多岐に渡るため, 計画時には本船の設計ベースとなるトリム計算に含まれる積み付け状態においてバラスト水交換を検討している。この場合, 常に張水するタンクや燃料消費によるトリム変化を調整するため航海中に張水するバラストタンクについては, バラスト水交換を考慮しないのが一般的である。
コンテナ船では, バラストタンクのマンホールドが暴露甲板ではなく, Upper Deck Passageなどに設けられることが多い。従って, Flow-through Methodによるバラスト水交換は不可能であり, Sequential Methodで交換を行う。
コンテナ船に関しては, 特にバラスト水の交換を考慮せずに設計された船と, 考慮して設計された船の2種類の船に対して検討した。後者では, バラスト水交換に際して縦強度, 復原性および船橋視界のいずれの条件も満足された。
一方, 前者のコンテナ船では, 問題が生じた。前者のタンク配置を図3.3に, 計算結果を表3.4に示す。表中の記号の意味は, 以下の通りである。
df(m): 船首喫水
da(m): 船尾喫水
Prop. Immersion(%): プロペラ没水率
GOM(m): メタセンター高さ
Lvis(m): 船橋視界
図3.3 コンテナ船のバラストタンク配置図
(拡大画面:89KB)
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表3.4 コンテナ船のバラスト水交換時の諸要件
Max.BM/Allow.BM: 最大曲げモーメント/許容曲げモーメント(%)
本船の場合, Step 4で船橋視界が基準値を満足していない。この状態で, 船首部のタンクにバラスト水を積み足す余裕があるので, 船橋視界改善のためにここにバラスト水を積み足すと, 縦強度の条件が満足されなくなる。
このように, バラスト水交換を特別に考慮されていなければ, Sequential Methodを適用したバラスト水交換は, コンテナ船では不可能であることを明らかにした。
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