日本財団 図書館


2.3 船舶運用
2.3.1 新しい海運のための新しい船
 輸送を道路から内陸水路および沿岸海運に移行すべきという緊急の必要性がある。これを達成するため、道路からより多くの貨物を引き付ける新しいタイプの船舶を開発するためのさらなるR&Dが必要とされる。
 沿岸海運と内陸水運の両者に対して適しており、あるいはかなりの高速度で走ることの出来る船舶は確かに意図したモーダルシフトに貢献するであろう。
 それ故、開放水面で耐航性のある浅喫水の船舶、および貨物の運搬に対し高速で経済的な船舶が要求される。これは次の要素を考慮しつつ、これらの新しいタイプの船舶のための基本設計について再考することを要求する:
●適度の推進パワーで高速を出す高効率な船型
●荒海における耐航性の向上および乗り心地(船体運動、騒音と振動)
●沿岸海域および内陸水路の両者における運航に対して最適化された船型
 
 更に、これらの船舶に対しては、浅喫水にかかわらず高収納容量を十分に確保するために軽荷重量を減少することが必須であろう。この理由で、R&Dは次の事項を扱わなければならない:
●新材料の使用
●軽量装置の開発
 
 しかしながら、港における貨物の積み下ろしにかかる過剰な時間により代表される隘路がある。この課題を適切に処理するために、懸案事項に利害ある関係者間の緊密な協働が実現されるべきである。関係者として船主、港湾管理者および港湾労働者の組織が含まれる。
 これらの分野においては、新船舶の概念および/また革新的貨物取り扱い装置と工程を扱う実証プロジェクトが、“道路から海路”へ構想されるモーダルシフトに関する実際のブレークスルーのために必須である。
 
2.3.2 新航路
 北方ロシアにおける莫大かつ価値ある資源は、北方欧州における氷に覆われた水域での海事輸送システムの開発にとり駆動力である。これは次の分野におけるR&Dを要求する:
●砕氷技術
●氷密集水域における運航経路のためのIT
●特別な環境保護の気使い、港湾技術および氷中操船
 
 この課題に対する研究は北方ロシア航路に限られるべきではない。さらに、フィンランドとスウェーデンにおける海−河川運輸もまた研究されるべきである。
 国際北方海域航路プロジェクト(International Northern Sea Route Project(INSROP))について言及しておくことは重要である。このプロジェクトはノルウェー、日本、ロシアおよびカナダによる共同研究開発であり、なかんずく、環境的、経済的、地理的および技術的な課題が考慮されている。INSROPプロジェクトの結果および勧告を背景として考慮して、この情報はこの分野における将来R&Dにとり無くてはならないものである。
 
2.3.3 安全性
 規範的安全基準から実性能安全基準に移ると言う傾向は、船舶設計(Area1参照)だけでなく、船舶運航にも同等に当てはまる。ここに、基本的に事故発生の可能性を減少することを目指している安全性手段の間に違いをはっきりさせておく価値がある。また、危機を管理することおよび事故がおきた時その結果として生じる事態を減少する、ことを目的とする。生存性手段の違いについてもはっきりさせておく価値がある。
 この点において、船舶の運航における全てのステップをカバーし、そして、異なる運航手順および危機管理解決法を、現実ベースで比較することを許容する危機評価工程を開発し、かつ適用することが重要である。そして安全および環境に脅威を与えることなく、費用の観点から最善のものを導入することが必須である。人的要素の影響は船舶運航の組織と同様に、絶大なる重要性を持ちかつ安全性を向上するため、あらゆる戦略の一部としなければならない。
 さらに、海上安全の増大する認識は、船体、船上機器および材料に対する検査と試験方法を再定義し強化するという幾つかの動きを推進した。この線に沿って、そして効果的な規制の枠組みを進展するため、航海中の船舶を検査する新しいツールを開発する必要がある。これは検査標準の定義およびデータ処理と解析の効果的手法を含むものである。
 一般的に旅客フェリー、Ro-Ro船および特に高速船は短期的に特別な注意を受けるということを考慮しつつ、R&Dは次の側面に焦点を当て続けるべきである:
●正規安全評価
●沿岸海域における海運の安全
 
運航のための正規安全評価(FSA
 危険を基礎とする取り扱いの主な長所は、設計と運航の問題の両者が取り扱われ得ることである。いわゆるISMコードの導入は、運航安全性管理の必要性に従うものである。しかしながら、運航安全性問題に含まれる異なるパラメータがいかに効果的に影響され得るかは完全には明らかではない。技術的システムとの相互作用に関連する組織および人的要素を伴い関連する管理の問題が存在する。特に、海事運行における人的エラーをいかに評価するかについての研究が緊急に必要である。
 目的はFSAに基づく船舶に対する規則と運航手順を開発することである。狙いは事故の影響と同様に事故の可能性を減少すること、および生存性を増大することである。
 先に述べる戦略的な目的を満足するため、研究と開発の作業は次のように中期的な活動として勧告される。
 
方法の開発
 この分野における幾つかのプロジェクトが既に行なわれており、それらの結果は更なるR&Dの作業を定義するために考慮されなければならない。
 FSA手法を開発するに、この件に関しさらに進んでいる他の産業分野(たとえば、原子力産業)からの知識および経験の移転により、かなりの恩恵が得られる。したがって、R&Dは次の項目に焦点を当てなければならない:
●他の産業分野において開発された手法の分析および船舶の産業に対する要求を満たすために必要な修正/改善の内容を明らかにすること。
●RAM(Reliability, Availability and Maintenability)方法と運航側面を扱うのに適切なツールの開発。
●運航の側面のためのRAM方法と設計の側面に関連されている方法との間のインターフェイスの開発(Area1も参照)
 
人的組織的要素
 この分野で若干のプロジェクトが実施されているが、掘り下げた知識を得るためにかなりの努力が未だに要求されている。目的は、組織的、手順的および人的信頼性側面を記述することのできるモデルとツールを開発するため、FSA手法を採用することである。そして人的エラーとその影響の生起を減少するために導入されるべき手段を作り出すことである。これらの手段は、特定の緊急手続き、危機管理方法およびツール、訓練と設計要件(すなわち、記号の標準化、警報、制御およびマン−マシンインターフェイス)を含んでいる。R&D努力は、それゆえ、次のことを必要とする:
●船舶安全についての乗員の能力の影響の評価と分析および人的エラー分類法の開発
●乗組員の挙動に及ぼす疲労とストレスの影響を減少する手段を明らかにする。
●人的エラーを減少する手段(たとえば、配置最適化、人間工学、マン−マシンインターフェイスの標準化、その他による)を明確にする。
●緊急事態における乗客の避難を扱うため、FSAを基礎とする安全管理システムの開発(陸あるいは海どちらかを基地にした)
●緊急事態における乗員−乗客相互関連のための標準の開発
●EU共通のIMOのSTCW条約の導入の手続きの開発[最適な導入へのフォローアップ]
●具体的高速船用判断支援ツールDAT(Decision Associated Tool)
●特に航法に関連した、人的操作および組織信頼性のための危険分析手法およびツール
 
沿岸海域における船舶輸送の安全
 この分野における総合的なR&Dが進行中である。(参照SAFECOプロジェクト、1998年終了)更なるR&Dは現在のR&Dが結論されたら開始されるべきである。
 
公海における船舶輸送の安全
 荒れた海域における船舶輸送は、主な波向きが船とほぼ同じ方向であり、また船速が高波あるいは群波の速度と近似的に一致し、そして船長が波長と同調するとき、特に危機的である。この状況において、船の横揺れ運動は小さくなり、運航は明らかに快適になる傾向を示す。即ち船の小さい横揺れ運動は、安全に関して間違った感覚を与えるかもしれないのである。海象を直接に見ることは出来ない夜間に、ある種の波浪監視あるいは船体運動監視装置が利用されれば、そのような状況に陥る危険性を減少することが出来る。
 現在、先進的船体運動解析ソフトウェアーが、船の横揺れに対するそのような非線形な波影響への解決に向け、開発され始めている。ソフトは、全ての個々の船舶に定期的に適用されるには、まだ程遠いものである。ソフトは、しかしながら、船上モニタリング装置をプログラムするために必要とされるであろう。それゆえ、基礎的研究の範囲は、海上での荷物、船体および人員の損失の危険を避けるため、突然の大横揺れに導く波の影響を船長に警告するような船体運動モニタリングプログラムを支援する戦略と手順を開発することである。
 これは、先進的耐航性解析手法および実験手法をあきらかにすることを意味する。(この事項についてはArea1, Theme1.1.1を参照
 
検査と試験手続きの調和
 目的は、船舶安全および規則自身の進化に直接に影響する船舶運航および保守戦略を補助する運行中データを収集し、処理し、解析するための新しいシステムを打ち立てることである。この側面は、Port State Controlの枠組みの下、特別な重点が置かれねばならない。また検査員/検査官の資格と熟練を強化するためのプログラムと歩調を合わせなければならない。
R&Dのために特定された主題
●船舶運航に関連するすべての関係者の間で情報を共有することを許容する船舶データベースための標準様式の開発
●船体構造および機関の検査のための新しい探知および(対象、再生可能)評価手法の開発。この手法は、船舶データが標準データベースのなかに保存されている様式と互換性を有するものとする。
●大型バルク貨物船、タンカーその他の検査のための効果的なツールの開発。これらは、意図されたチェックに対し、遠隔操作されるセンサーセットにより危険かつ狭小な空間の検査を安全な場所から行なうことが出来るものとする。
●データ取得努力を最小とすることを可能とする検査手順を明らかにする。
●船舶の状態を判断しかつ関係する者に情報を提供することに使用される3D可視化技術の研究。
 
2.3.4 環境保全性
船舶運航
 環境にやさしい船舶運航(1.3.3を参照)は当局から増大しつつある関心を引いている。これは事故による汚染と通常運航による汚染の両者に関連している。
 この分野における将来のR&Dの目標は、現在存在している開発に墓づいて構築されるべきであり、さらに次のような主な主題を追及すべきである:
●競争力の優位性として、環境にやさしい船舶の運航
●船主に有益となる船舶と装置に対する環境に優しい投資
 
 この目的に対して、海上輸送および関係する分野における全ての関係者を結合する情報のネットワークが開発されなければならない。
●船舶による環境影響についての更なる知識
●ISM-コードを含む、環境管理システム(EMS)とツール
●環境教育と訓練
●環境規制と投資の経済的分析
●船舶からの環境影響の減少のための技術。
●エネルギー保存による環境保全
●バラス水の処理(汚染水、有機/生物的汚染水)
 
浚渫作業
 この章は港湾および主な水路における汚染された水底の環境管理を扱う。保守作業が頻繁でない港湾において、重度に汚染された沈泥が発見されるのは稀でない。除去処理が実施されるとき、幾つかの懸念と/あるいは混乱が引き起こされざるを得ない。
 港湾における汚染された物質の有害性の環境に及ぼす影響への懸念は、増大し続けるであろう。なぜならば、浚渫により汚染物に関する多くのことが知られるようになるからである。
浚渫工程
●現場および除去中における汚染物の拡散移動機構についての十分な理解。
●濁度により引き起こされる可能な有害影響の十分な理解
 
廃棄処理
●汚染浚渫物質に対する有意な分類分けシステムの基本を開発すること。
●汚染浚渫物の費用効果がある廃棄処理法の更なる研究
●汚染浚渫物質の廃棄処理選択肢についての合理的判断決定のための基礎としての危険−評価方法論の開発。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION