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3. カナダ
 カナダでのGISの研究、利用状況
 CCGにおいてはCCGで開発し、利用している以下のソフトウェアの紹介を受けた。
 GeoMapper、Chart Viewer、ATS、およびMAPRATの4つであるが、それらの構成としては、下の図1のような構成となっている。
 
図1 GISソフトウェアのカスタマイジング
 
 図1に示されるように、CCGにおいては、GeoMapperというソフトウェアがある。これは、ESRI社のArcViewをカスタマイズしたGISソフトウェアで、本ソフトウェア単体でも海図データの表示のほかに任意のテーマをポイント情報として海図画面上に表示し、その内容をテーマ・テーブルとして表示して確認することができるというCCGの最も基本となるGISソフトウェアである。これに各業務の必要性に応じた応用的機能を付加することによって特定業務で使用するGISソフトウェアを開発している。各応用的ソフトウェアについては以下で述べる。
 
(1)Chart Viewer
 このソフトウェアは、海上交通センターの職員が海図情報を迅速に参照し、チャートワークを効率的に行うために使用している。これは、現在も開発が進行しているソフトウェアということで現段階では次のような機能を利用できる。
(1)アラスカを含む太平洋岸の全ての海図を表示できる
(2)地名集がChart Viewerに組み込まれているため、地名から検索できる
(3)経緯度を知ることができる
(4)特定した航路標識の位置を知ることができる
 
(2)ATS(Application Tracking System)
 Navigable Waters Protection Division(NWPD)職員が各種申請書の内容を海図に記載して使用するGISソフトウェアとして使用されている。
 海上における作業・工事情報に関するデータベースを管理するGISソフトウェアとして開発されたもので、主な機能は以下のようなものがある。
(1)NWDSデータベースに保管されている申請書記載の位置を表示
(2)簡易な地理的解析の提供(例 新規申請に近傍する既存申請は何か)
(3)申請書の正確な位置情報の入力・更新維持に関する支援
 また、参考として、カナダでは「可航水域の保全に関する法律“Navigable Waters Protection Act”」に基づき、海域の変更、海洋構築物建造及びそのための作業・工事等について事業者が申請することが義務化されている。その際に申請内容の情報管理を補助するため使用されるのが本ソフトウェアである。図2はその表示例である。
 
図2 ATSの表示例
 
(3)MAPRAT(Marine Aides Program Review Analytical Tool)
 航路標識の周期的な評価をより効果的に行うためのGISソフトウェアでMAPRATによる分析項目を次の表6に示す。このソフトウェアは、CCGで最も勢力を注いで開発したものである。図3はその表示例である。
 
表6 MAPRATの分析項目
分析項目 分析内容
背景光分析
Background Lighting
地域の一般的光レベルを分析する。一般的に暗い背景の方が市街の強い光に対するより灯を認識しやすい
需要分析
Need Analysis
ある場所における海難救助のための、航路標識に対するユーザーの要求を分析する
作用分析
Operational Analysis
ユーザーの要求に合致する、可能な手段の特定のために、提供可能な短レンジの航路標識を組合せて分析する
海域分析
Site Analysis
当該海域におけるユーザーの航行パターン、気象条件、現行航路標識及び関連する脅威の分析
コスト分析
Cost Analysis
可能性がある航路標識の組合せと関連してコストを比較分析する。この分析は最もコスト的に効果のある選択肢を示す
 
 
図3 MAPRATの表示例
 
 今回は、USCG R&Dセンターにおける最先端のGISに関する研究、CCGでは太平洋管区GISサービスグループによる実用化が進んだGISを調査することができた。USCGでは『海難、難民、麻薬等のUSCGの各種リスクを影響の大きさと発生頻度から指標化して、コーストガードの勢力・予算の適正配分を検討するためのGIS』や『海事関係者間のリアルタイム情報共有のためのGISネットワーク(WIN)』の研究、CCGにおいては、海上交通センター業務での『海図情報参照とチャートワークのためのGIS』、航路保全業務での『工事・作業等の申請内容の情報を管理するためのGIS』及び航路標識業務での『航路標識に関する周期的評価のためのGIS』GISを調査した。USCGにおける研究は、現行の海上保安業務についてではなく、これからの海上保安業務に必要となってくるであろうというものであると感じる。特に各種リスク評価についてのGIS等は、これからの海上保安業務には切り離せないものになるであろう。CCGにおけるソフトウェアについては当庁業務にすぐに参考になるようなものであった。特に、航路標識等の評価に関するGISソフトウェアや、工事・作業等の申請内容の情報を管理するためのGISソフトウェアは海上保安業務の効率化を図るに当たり有用なものであった。また、現段階では未だ、開発途中であるというChart Viewerも今後さらに研究が進めば、業務がより効率的に運用できるようになるであろうという期待が持てる。
 最後に、近年の当庁の業務は、今までよりさらに広く、多様なものになってきているのが現状である。そういった意味でも、業務の効率化を進めていくためには、このGISというシステムをいかに導入していくかということも重要な事項であると考える。そのためには、必要となる情報の収集の方法、また、それを取りまとめる機関、職員への教育の方法といったような基本的な事項からまず考えなければならない。それらを確立し、その上で、当研究で調査したようなソフトウェアの開発や研究を導入していけば、海上保安業務へ活かされていくのではないだろうか。
 
 最後に、このような有意義な調査・研究に援助いただいた日本財団、海上保安協会、海上保安庁、海上保安大学校の関係者に深謝いたします。







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