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III 地理情報システム(GIS)の海上保安業務への活用に関する研究
第4学年第I群 中瀬峰明
第4学年第I群 松田智紘
 
指導教官 水路学講座 菊池眞一 教授
 
 本研究において、研究テーマであるGISの海上保安業務への研究を、すでに導入し、また最先端の研究を行っているアメリカコーストガード(以下USCGと記す)及びカナダコーストガード(以下CCGと記す)において、実地にてその状況の調査を行った。
 アメリカ、カナダの両コーストガード及び海上保安庁の業務は航行安全、航路標識等に関する業務において共通している。海難救助、氷海航路モニター等に地理情報システム(GIS)技術を導入する研究に早くから取り組んでいる両国の海上保安機関におけるGIS利用状況について調査することによって、当庁の業務に導入できるかどうかの検討を行うことを目的に実施した。
 調査期間はアメリカで平成15年8月13日〜17日、カナダで18日〜22日に実施した。対象機関はアメリカではUSCG Research & Development Center及びUSCGA(共にニューロンドン)、カナダではCCG Pacific Region GIS Service Groupe(バンクーバー)で実施した。
 主にアメリカにおいては、研究をメインに調査し、カナダにおいては現段階で作成、利用しているソフトウェアを調査した。
 また、アメリカ、カナダにおける、GISの研究・利用状況の紹介を受けて、当庁においてもGISが導入可能であるか検討を行った。
 
 アメリカでは次のような紹介を受けた。「海上保安業務とリスク評価」、「リスク評価の考え方」、「USCGAにおけるGISの授業」、及び「海事関係者のGISによる情報共有についての構想と課題」で詳細は以下に記す。
 
(1)海上保安業務とリスク評価(GIS in USCG Risk)
 USCG R&Dセンターにおいて、米国コーストガードの勢力及び予算を適正に配分するために、コーストガードが対応する多様なリスクをGISを使用して評価する研究を行っている。
 これによれば、表計算ソフトで行うよりも的確な解析が可能となり、事案発生位置とリスク評価結果との関係も把握しやすくなる。
 本研究では、リスク調査を全米17管区の本部に依頼して実施した。リスク評価は日本の海上保安部署に相当する機関ごとの担任海域を細分した海域ごとに行っている。評価項目は21種類の事案に関する発生頻度と深刻度である(一部海域においては海氷を含む22項目)。評価はさらに事案種類により視程等の条件を細分して回答を求めたとのことである。
RIN Risk Index Number(リスク指標)
Risk(RIN)= Frequency × Consequence
 発生頻度と深刻度は事実に基づくものであるが、回答者の主観が入ったものと推定される。自然条件(気象、水温、海流等)、社会的背景等のデータがGISに入力されているので、GISの上では様々な情報を組み合わせた分析が可能である。また、回答された評価が適正なものかについても隣接/類似の部署間の評価回答を比較して分析できる。以下に参考資料としてリスク評価の要点を紹介する。
 
<参考資料>
 
リスク評価の要点 RINはどのように計算されるか
 
(1)リスク評価対象事案
 リスク評価の対象となる事案は、表1に示す事案21種類が掲載されている。
(2)事案による影響のタイプ
 各事案について、表2に示す影響タイプ7項目が設定されている。
 また、深刻度はMinorからCatastrophicまで階級があり、巡視船出動規模と対応している。影響のタイプによって6階級なものがあり、4〜6階級に区分される。
*例えば、国防は最下級のMinorはなく5階級であり、麻薬は最大の2階級がない。
 
(3)RINの計算
 RINは各段階の深刻度階級ごとの発生頻度から計算される。発生頻度は表3のとおり10段階に分かれているが、年換算にすれば互いの大きさを比較できる(例 Monthlyは年12回、Weeklyは年52回)。また、発生頻度は各影響タイプの深刻度ごとに与えるので、事案によっては該当しない深刻度評価項目も存在するが、事案によっては最大36のRINが計算される*
 事案が21あるので、最大21種類×36カラム=756のRINを算出。
 
(4)リスクの精査
 RINの総計が一定数以下はそれ以上の調査を行わないが、RINが大きいものについてはリスクを精査することとなる。RINの計算は海域ごとに実施し、スライドをみるとひとつの画面にフロリダ州の海域が5海域あり、保安部の数よりかなり多い。全米では仮に17管区×5保安部×5海域とすると425海域となり、これに21事案×36カラムをかけると30万〜40万カラムのRINを計算することとなる。
 GISが効力を発揮するのは、精査の段階と思われる。社会条件、自然条件等とRINとの相関の分析や地域ごとの特性の把握はGIS無しでは分析でないと考える。
 このリスクについての評価とあわせて行う意思決定については特にDeep Water Program等の本土安全(homeland security)の課題が2001年9月11日以降に重視されるようになったということで、GIS解析もそのような分野に適用されることが多くなったとのことであった。
 我が国においても、米国と同様、海上保安業務が多種多様な業務課題を持つようになっている。予算、勢力の適正な配分が適切なリスク対応を可能とするので、手法については違ってくると思われるが、日本でも類似するリスク評価とGIS活用が必要になると考える。
 
表1 事案(21事案)Incidents
1. 座礁 Grounding
2. 衝突 Collision/Allision
3. 浸水・沈没 Flooding/Sinking
4. 火災/爆発 Fire/Explosion
5. 傷害/病気 Personal Injury/Illness
6. 自然災害 Periodic/Expected Natural Disaster
7. 海事イベント Marine Event
8. 麻薬 Drug Smuggling
9. 密入国 Illegal Migrant Entry
10. 密漁 Domestic Illegal Fishing
11. EEZ侵入 U.S. EEZ Encroachment
12. 油流出 Oil Spill
13. 廃棄物投 Discharge of Debris
14. 汚染物質/汚泥排出 Discharge of Pollutants/Sewage
15. 生物種の侵入 Invasive Species
16. 生物種の被害 Species Damaged by Operations
17. 交通障害 ATON Failure Affecting Traffic Flow
18. 季節条件 Seasonal Conditions
19. 港湾安全事案 Port Security Incident
20. 軍事的違反 Interruption of Military
21. 水路に影響する非海事事案 Non-maritime incident effecting the Waterway
 
表2 事案による影響のタイプと深刻度階級
深刻度階級 タイプの数 影響タイプ
6段階 3 住民に対するインパクト・経済的インパクト・環境に対するインパクト
5段階 2 国防・社会生活に対するインパクト
4段階 2 麻薬・密入国
 
表3 頻度階級(10段階)Frequency Score Descriptions
  発生頻度 発生頻度
チームは同事案に別の評価を与えることができる。 Continuous 年に730回
Daily 年に365回
Weekly 年に52回
Monthly 年に12回
Quarterly 年に4回
Annually 年に1回
Decade 10年に1回
Half-century 50年に1回
Century 100年に1回
Millennium 1000年に1回
 
表4 リスクの深刻度階級(Severity Category)
 
(2)海事関係者のGISによる情報共有についての構想と課題 WIN (Waterway Information Network)
 コーストガードはインテリジェント水路システムと呼ばれる研究取り組みを開始した。この取り組みの目的は、情報技術の応用を通じて海事関連の機能を効率的かつ効果的なものに改良することである。政府機関間の取り組みだけでなく、自動的識別システムと増加された航海のリアリティ(augmented reality for navigation)を含む複数のプロジェクトの取り組みを通じて行われている。
 WINの基本コンセプトは、海上運輸システム情報の配布を容易にするためのネットワークを作り出すことである。WINは既存のワークグループとXMLインターネット技術をベースとしている。同ネットワークは海運システムを構成する政府機関、港湾管理者等その他民間会社といった情報の提供者に利用者が直接的に接続することを可能にする。ネットワークは情報の提供者と利用者である政府機関と民間企業から構成される。WINにとって、我々がMIML(Maritime Information Markup Language)と呼ぶ特殊化したXML語彙言語を作るときにおいて、多様な海事情報提供者を含むことが重要である。MIMLは海事情報基盤の自動化に向けて鍵となる開発であり、海事情報の提供者と利用者との継ぎ目のないネットワークを容易にすると考えられる。
 情報の効果的基盤は、主にコーストガードと海運企業間の実行上の隙間として特定されてきた。IWS/WINはこうした隙間を埋め、その上に他の解決策を可能とするであろうと考えられる。
 
<WINで取り扱う情報>
 WINで取り扱う情報項目は表5に示したとおりである。情報発生源はコーストガード内部(海上保安部、海上交通センター等)、航行船舶(AIS等)、海事関係者(パイロット、タグボート会社、海運会社、埠頭管理者、倉庫会社、代理店)がある。
 
表5 海事情報システムの必要情報項目、入手可能性、運用管理及びアクセス・モード
 
(3)GIS教育
 コーストガードアカデミーでは、2003年春にGISコースが設された。ここでは希望する学生に対し、週に3回の50分授業と150分の実習を18週間行っている。教科書は一般大学で使用されているGIS入門書(An Introduction of Geographical Information)を使用している。USCGにおいてもまだ教育自体は始まったばかりではあるが、これからのGIS研究及び利用に更なる発展が期待できるものであると感じた。
 当庁においては、特にGISの研究に関しての教育機関は設けていないが、今後、GISを利用した業務形態の構想を達成するためには、教育に関する施設も考える必要も出てくることが予想される。
 

*(タイプ×深刻度)のカラムの合計36(6×3+5×2+4×2=36)となる。







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