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基調講演
 
「子どもの豊かな育ちをいかに支えるか」
聖徳大学客員教授
ほあし子どものこころクリニック院長
帆足 英一氏
 
 
 「愛され信頼されている実感を大切に」
 子どもが安心して、健やかに育つためには、愛されている実感を充分に得られることが不可欠であると、スライドを使って子どもが産まれてきてからの愛着形成の過程をわかりやすく説明してくださいました。
 乳幼児期の母親との密接な関係、個別的な応答性が母子の愛着関係の形成には大切であり、母親は子どもの心の基地となるべき存在である。
 1才頃から自我が発達してくるが、自我発達の過程においては一貫したしつけが重要になってくる。
 やがて反抗期も迎えるが、子どもがわがままを言っても、子ども自身がその葛藤を乗り越える過程を「待つ」ことが大切である。
 
 
 また、乳幼児期に適切な養育を受けられず、虐待などをうけて育った子ども達をケアするためには、まず、傷ついた心理状況を改善していくために、共感し、心の傷を癒すこと。一貫性のある安定した対応をし、暴力がないことを繰り返し保証すること。子どもとは適切な距離を保ち、感情や攻撃性を言語化させる訓練をすること。また感情のコントロールのためにも発散させる場所をつくることなどがポイントである。そして次に、子どもの自尊心を回復、維持することで、自ら生きる力を身につけていく。基本的な対応としては、受容、共感的な態度で接し、よい言葉がけをする。時間を共有する。注意や叱責は、回数を少なく、適切な言葉で行う。具体的なそれに代わる行動を教示する。難しい課題を叱らないなどの工夫をする。このようなケアを専門性を持って行う力を身につけていくことが専門里親には特に期待されている。
 しかしながら24時間365日の関わりの中で、里親さんが一人で抱え込み悩んでしまわないよう、気軽に相談できるシステムが必要である。
 里親自身も、決して抱え込まず、自分の悩みや思いを相談できる相手や場所を常日頃から見つけておくべきである。と、結ばれました。
 
 
 
シンポジウム
「社会的養護としての里親の役割を考える」
コーディネーター
帆足英一
シンポジスト
上間啓聖 沖縄県里親会会長
坂本洋子 東京都養育家庭里親
松浦聖也 九機工業株式会社
平田ルリ子 清心乳児園園長
恒成茂行 熊本大学大学院教授(法医学)
 
 
<上間 啓聖氏>
 沖縄県里親会は、今年、社団法人となった。里親制度を世間に知ってもらい、里親の数を増やし、委託率を延ばすためには、里親会は行政におんぶにだっこではなく、自立するべきだ。里親のみで構成されていた里親会だったが、ラジオ番組に出演し、里親制度をアピールし、里親以外の方も理事に迎え入れ、賛助会員も募集し里親会を応援してもらえるよう、働きかけている。里親制度は子どものための制度であって、里親のためにあるのでない。沖縄には子どもはウマンチュの宝。みんなで子育てをするアイデンティティがある。
<坂本 洋子氏>
 現在6人の子どもを育てているが、ADHDや知的障害、被虐待の子ども達である。石原都知事の訪問を受けたとき、知事の勧めで本を書くことになり、「ぶどうの木」を出版した。子ども達のおかげで親も育ててもらっている。里親が必死で頑張っているときに、周りの目や余計な口出しに傷つくこともある。世間にはあたたかい目で見守ってもらいたい。里親が困って助けを求めたとき、すぐに対応してくれ、的確なアドバイスをしてくれる支援が必要である。自宅を週2回開放し、里親サロンを開いている。里親養育の大変さを安心して吐き出せる場所、里親同士語り合える場所でありたいと思っている。
<松浦 聖也氏>(里子経験者)
 特別養子縁組をしたが、5才の時、真実告知をされた。自分ではよく覚えていないが、そんな話し聞きたくなかったと、母を困らせたらしい。小学校ではいじめにあったが、両親が守ってくれた。高校に入ったとき、実親のことを知りたいと言ったら、探してくれ、高3の夏実母と会った。「生んでくれてありがとう」と言いたくて、実親と会いたかった。こうやっていろんな人と会えたのは、生んでくれたお陰だと思う。育てられなかったことは気にしていない。今でも実母に会うことを、両親は何も言わず協力してくれる。両親にはとても感謝している。
<平田 ルリ子氏>
 現在乳児院にも虐待が原因で入所してくる子どもが大変多い。乳児院の利用は短期と長期の両極端化してきている。家庭復帰率は66%。里親への委託も行っている。養子縁組希望が多く養育里親が少ない。施設と里親は今までお互いを知らず、委託する側される側といった立場でしかないと思っていたが、里親さんの集まりなどに参加し、家庭養育の大切さを思うにつけ、施設と里親は同じ立場で子どもを育てるパートナーとなり、良いネットワークシステムを形作るべきだと思っている。
<恒成 茂行氏>
 法医学で解剖をしていたが、被虐待児の解剖をしたことから、児重虐待について深く考えることとなった。(スライドで、虐待死の子ども達の写真を映しながら虐待の事例を説明)法医学解剖室で出会った子ども達。「死者からまなんだことは生者に還元されるべきである」との思いから、熊本で児童虐待防止協会を立ち上げ、児童相談所が活動しやすいように支援している。今までは児童虐待の早期発見に心を砕いてきたが、これからは、被害児への適切な対応を模索していく時代だと思う。児童福祉政策の充実・児童相談所職員の増員・各機関の高度専門化・市民団体の育成と公的機関の連携が必要。児童福祉施設、里親制度の充実を進めたい。子どもは国の宝。飽食の日本で何故子どもがこのような形で亡くならなければならないのか。子ども達をしっかり守っていきたい。
 
 **どの方の発言も深く考えさせられるものがありました。とりわけ里子経験者の松浦さんの発表の後には大きな拍手が巻き起こりました。松浦さんには財団法人資生堂社会福祉事業財団より感謝品が贈呈されました。会場からは、大阪の専門里親の方から、専門里親研修を受け、専門里親として被虐待児の受け入れをしていくことについて、報告や心境が語られました**







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