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水科学総合知見情報プラットフォーム 研究開発報告書

 事業名 水科学総合知見情報プラットフォームの研究開発
 団体名 創業支援推進機構 注目度注目度2


4-3 水分子の吸収スペクトル
 最近のインターネットの発達に加えて、様々な情報を簡単に入手できる環境がそろったことで、水のように一般的であるがゆえに非常に多岐にわたる情報などは洪水のように提供される。水に関して科学的な解析を行うためには、研究の目的に添った情報を得るために目的の研究領域の専門家による選択が必須となる。今回、水科学に関する情報へのアクセスポイントとして水科学プラットフォームを利用することとし、これを使うことにより、このプラットフォームの情報の有効性を試験することとした。もちろん、この実証試験を担当した我々は、数値計算手法として、日々の仕事等で利用している化学プログラムを持っているが、水の吸収スペクトルに関しては殆ど一般的な知識しかない。
 
図4-8 プラットフォームの検索により得られた水の吸収スペクトル
 
 この実証試験をはじめるに際し、まず、水分子の吸収スペクトル解祈を行うための情報を収集することとした。検索系を用い、幾つかのサイトをあたることにより、吸収スペクトルとして、次のような測定結果があることがわかった。
 2000nm〜数十μmにわたりよく知られた分子のストレッチやベンディング運動に関連した吸収がある。またそれより長波長になると分子間の相互作用に関連した吸収となる。図4-8では400mm-700mmの可視光領域に対応する波長に関して対応する色が付与されている。この領域では、吸収は少ない。水が透明である所以である。また、特に青色領域から紫外領域にかけて吸収が少ないことも良く知られている。さらに短波長になると水分子に存在する孤立電子対に関する吸収のピークが存在することも水の吸収スペクトルの特徴である。もちろんここに示した波長領域よりさらに長波長側では電子レンジなどで用いられる2.5GHzの吸収があり、さらに短波長側では内殻励起に伴うX線の吸収に関するピークがある。このスペクトルのうち、水分子内部運動に関する赤外領域でのスペクトルと紫外領域の水分子の電子励起に基づくスペクトルについて、計算を行い比較を行ってみた。
 一般にスペクトルを求める場合、分子構造の最適化が必要である。また複数分子(1-5分子)での最適化構造を、汎用的な第一原理量子化学計算プログラム(Dmol3)により求めた。いずれの構造も経験的な手法による計算では得られないものである。これは水分子での水素結合に起因すると思われる。
 赤外領域の吸収スペクトルは、分子内部運動と開連するが、symmetric stretch(ν1)、bend(ν2)、asymmetric stretch(ν3)それぞれに対応して、3725、3848、1551cm-1(2600-3400nm)に固有振動を持つことがわかる(図4-9)。これは図4-8のピークと対応していることが分かる。
 
図4-9 水分子の振動計算
 
 紫外領域の吸収スペクトルは、電子運動に起因するものであるので、時間依存密度汎関数法(TDDFT)にて求めた。本プログラムは筑波大学矢花研究室で開発されたものを基礎に、企業における研究者が独自の改良を加えて開発したものである。このような大学発のソフトウエアを水科学プラットフォーム上に搭載することは比較的容易であった。このDFT計算での電荷密度は、メッシュサイズ0.25Åで求め、これを時間発展の計算に用いた。時間発展の計算は、ステップ0.001で10000ステップ行い、30eVのエネルギー範囲でスペクトルを求めた。クラスターを構成する分子数nの増加につれて、長波長側(160-200nm付近)での吸収が増していることが分かる(図4-10)。だたしn=2の場合はこの領域での吸収は強くない。これはHOMO-LUMOレベルを比べた場合、2分子の場合を除き、ほぼ同じ分子内で分布しているのに対して、2分子の場合、LUMOは、HOMOが分布している分子と対となっている分子の方へ分布しているため、分極が大きくなっていることによるものであることが分かった。2分子クラスターの場合に限り、特異な波動関数の分布が起きていることに対応している。
 
図4-10
 
時間依存密度汎関数法による水分子のスペクトル。図中のnは水分子の数を表している。
 
 水分子がクラスターを構成すると紫外の吸収領域の低エネルギー側での吸収が起きることが分かったが、溶媒和が構成されるとき吸収スペクトルの変化が大きくなることが、溶媒和アニオン[I-・(H2O)5]に関するTDDFT計算から分かる。図4-11は5分子の水クラスターのみと溶媒和アニオンの場合の吸収スペクトルを比較したものである。またHOMO-LUMOの分布から、ヨウ素から水(溶媒)への電荷移動にともなう吸収であることが分かる。これは、吸収ピークが、260nm付近にあるという文献[Science 284、635(1999)]での報告結果ともよい一致を示している。
 
図4-11
 
水溶媒和アニオンでの電荷移動吸収スペクトルおよびそのHOMO-LUMO分布
 
 以上、水科学プラットフォームを利用して、水クラスターに関する情報を収集し、赤外領域、紫外領域での水クラスターおよび水溶媒和アニオンの吸収スペクトルを効率よく求めることができた。これはこのプラットフォームが水に特化した情報が収録されていることを示しているものと思われる。このため検索に関して、低ノイズであるため容易にデータを検索できる点が優れている。ある程度の経験があれば短期間でスペクトルの計算が可能であることが判明した。
 この実証実験では、水クラスターを中心に吸収スペクトルの解析を行った。特に水分子間の水素結合に伴う構造解析が重要である。算出するスペクトルへの影響が大きいことが挙げられる。また今後更に改良を進め、例えば解析結果やその計算法などを盛り込むことにより、多様な分野での利用が図られるものと思われる。プラットフォームとしては試作段階であることを考慮しても、解祈を行うための水に関する基礎情報として十分な情報量を持っていることが分かった。今後データの蓄積が進むことにより、更に利用効率が向上するものと思われる。







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