ベトナムにおける国内航行船舶の安全・環境基準
1. 序章
1-1 ベトナムの位置と地勢
ベトナムは東南アジアの中心に位置し、国土面積は33万1,688平方キロメートル、人口は7,860万人を超える。北は中国、西はラオスとカンボジアと国境を接し、南東は東シナ海と太平洋に囲まれている。
ベトナムには合計約4万1,900kmにわたる大規模な内陸水路網があり、その内の1万1,400kmは水上輸送に適している。この水路網はほとんどすべての居住地区や工業地帯を網羅しており、特に北部の紅河デルタと南部のクーロン川デルタに密集している。
ベトナムの海岸線は3,260kmあり、その領海は100万平方キロメートルもある。また、ハイフォンやダナン及びサイゴン等は、大きな港湾設備もそろっている。ベトナム本土から沖合には、北から南まで何千もの島や小島が点在している。
このような地理的な条件のため、ベトナムでは内陸水運や船舶輸送が発達した。また、長い海岸線をもつこと、沖合や大陸棚に天然資源が存在すると思われる広範な海域が存在することで、海運の様々な分野で開発が進められた。
さらに、環太平洋に立地するベトナムは域内の船舶輸送のみならず、海上での捜索、救出関連活動や、海洋環境の保護、及び公海における不法行為の取締りに重要な立地となっている。
1-2 港湾システム
ベトナムには、北から南まで、河川や海岸に沿って様々なタイプの港が108以上存在する。これらの港は、国内輸送に重要な役割を占めている。ベトナムの港の多くは、最大3万DWTの外航船を取り扱うことができる。中でも最大規模の港はサイゴン港とハイフォン港であり、それぞれ通常年間1,000万トン以上の貨物を取り扱っている。また、両港とも、北から南まで国内全域へと送られる貨物積み替えの要所となっている。現在ではその他、ダナン港や、クアンニン港、ブンタウ港、及びカントー港等が主要な港となっている。
ベトナム全体では、数百ヶ所のバースがあり、バースの全長は23キロメートル以上に上る。また、総面積100万平方キロメートル以上ある倉庫、総面積200万平方キロメートル以上の貨物上屋等が整っている。
近年、ベトナムの港が取り扱う総貨物量は毎年増加しており、2001年と2002年の取扱量はそれぞれ、9,140万トンと1億230万トンであった。
1-3 ベトナムの商船隊
3,260キロメートルの海岸線と1万1,400キロメートルの内陸水路を有するベトナムは、水路輸送の開発に有利な環境に恵まれている。しかし現在、ベトナムの商船隊の開発はあまり進んでいない。
2003年8月末現在、ベトナムの商船隊は合計255万1,760DWTまたは172万4,467GTの外航船から成り、その内訳は、19隻のコンテナ船、564隻のバラ積貨物船、117隻のタンカー及び定期船、その他108隻の船となっている。
2001年と2002年に商船隊によって運ばれた総貨物量は、それぞれ1,940万トン及び2,370万トンであった。
2. 海上安全、環境保全に関する組織
海の安全及び環境保護の任務を担う国家機関は、以下のとおり。
2-1 海事局
ベトナム海事局(VINAMRINE: Vietnam National Maritime Bureau)は1992年に設立された組織で、ベトナムの海事を司る国家機関である。海運局会長は、運輸大臣を代表して首相に対して責任を負い、すべての国営の海運組織(中央当局及び地方当局の両方に属す)や、非国営の開示関連企業、組織及び個人(ベトナムの領土で活動する外国組織や個人も含まれる)を含め、全国の海運部門を管轄する。
図7 VINAMARINEの組織図
ベトナム海事局の役割は下記のとおり。
・外国籍船及びボートのベトナム領海許可の発行
・航行用に開放された港の発表
・海事サービスの管理
・探索救難活動の実施
・港湾状況管理手続きの実行
・海事安全問題への対応
・海運活動における違法行為の調査、解決
ベトナムにおける海の安全管理システムに関する理解を深めるために、海事局の管轄下にある主要な政府機関について以下に概略する。
(1)港湾局
国内24箇所に港湾局があり、各地域の海域での海事管理を行っている。港湾局はベトナムの海事規約第58条に「港湾水域と地域の航海可能な海域において海事管理業務を行う専門の政府機関を港湾局と呼ぶ」と明記されている通り、国家の海事管理機関の一部である。
海の安全管理のための点検や海運に派生する死傷者及び事故を調査する際には、港湾局は海事局から援助やアドバイスを求めることになっている。これは、港湾局が特に船を拘留する場合等に慎重な行動を取るためである。
(2)ベトナム海上保安庁(VMS)
ベトナム海上保安庁(VMS: Vietnam Maritime Safety Agency)は、1975年に設立され、ベトナムにおける海上保安を司る。1995年の機構改革により、従来からのナビゲーションサービスのみならず、捜索や救出、船の安全、海事環境と水路の保護等の新たなサービスに関しても責任を有することとなった。また同庁は、国内の灯台及び灯標システムの整備点検を行う。現在のところ、海の安全管理はベトナムの北部及び南部で、VMSの管轄下にある海上保安局(OMS)と海上保安サービス(SMS)が行っている。VMSのスタッフの総数は約2,000人である。しかし、スタッフの人数も施設も、こうした新たな職務を遂行するためには不十分である。
(3)ベトナム海上保安検査官(VMSI)
ベトナム海上保安検察官(VMSI: Vietnam Maritime Safety Inspectorate)は1992年12月28日付の首相決定書(Decision No.204/TTg)に基づき設立された。この決定書によりVMSIには以下の権限が付与される。
●ベトナムで活動するベトナム籍船及び外国籍船に効力のある全ての海事規約と国際協定の遵守を監視する。
●外航船、その積荷及び機器、港湾設備、海上航海やその他の関連の装置を点検する。
●港湾当局に事故の原因を調査するよう命令する。
●海の安全と環境保護のために海事局に施策を提案する。
●港湾局の活動、水先案内、及び捜索救難における安全基準の遵守を監視する。
●海の安全と環境保護に関する知識の普及を促進する。
本決定書は検査官の権限の領域を定義するものであり、これには船の物理的な状態のみならず、乗組員の資格と安全知識、船の書類、及び安全確認手順行程も含まれる。海の安全が危険にさらされている場合には、検査官は海事局に対し、外航船の活動を一時停止するよう勧告する。罰金額は規則に対する違反の重大さに従って定められる。本決定書は海上保安検察官の資格を一般的な言葉で定義し、ある特定の分野においてのみ専門的知識を有する下士官が業務の遂行にあたることを許可している。
(4)ベトナム海上捜索及び救難コーディネーションセンター(VMRCC)
海事局の管轄下にある(VMRCC: Vietnam Maritime Search and Rescue Co-ordination Center)は、1996年に設立された組織で、ベトナム海事産業に属する部隊や部署に対し、海における捜索及び救援活動を直接命令したり、調整を行う。VMRCCはまた、海で遭難した船を捜索し救難活動を行うために、国内外の関連部署と調整を行う責務を担っている。
(5)ベトナム船舶通信及び電子会社(VISHIPPEL)
海事局の管轄下にあるベトナム船舶通信電子会社(VISHIPPEL: Vietnam Ship Communication and Electronic Company)は、国際登録された5つの沿岸の放送局と2つの国営の放送局を含む通信システムの運用、維持を担っている。これら7つの放送局は1日24時間、捜索や救出、医療扶助、海の天気予報、商用サービスに備えて待機している。
(6)ベトナム内陸水路管理局(VIWA)
ベトナム内陸水路管理局(VIWA: Vietnam Inland Waterways Administration)は河川や湖、運河、湾に沿った湾岸線、海岸から島まで及び島と島を結ぶ水路(以降、まとめて内陸水路という)等の、全国的な内陸水路の通信及び輸送管理を司っている。
このほかに、ベトナム海上保安隊(Vietnam Coast Guard)が4年前に設立されているが、これは防衛庁の管轄で、人材、設備も限られたものとなっている。
3. 海難事故と海洋汚染の現状
(1)海難事故
最近ベトナムの領海で発生した、あるいはベトナム国籍船が関与した海難事故の統計は、表4のとおり。
表4 ベトナム領海・ベトナム国籍船が関与した海難事故統計
年 |
海難件数 |
死者数 |
負傷者数 |
重大 |
重度 |
軽度 |
合計 |
1996 |
30 |
41 |
44 |
115 |
21 |
11 |
1997 |
16 |
36 |
35 |
87 |
26 |
11 |
1998 |
20 |
17 |
31 |
68 |
18 |
14 |
1999 |
22 |
37 |
58 |
117 |
11 |
8 |
2000 |
23 |
36 |
61 |
120 |
12 |
13 |
2001 |
37 |
32 |
29 |
98 |
30 |
15 |
2002 |
15 |
23 |
54 |
92 |
18 |
2 |
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「出典:東南アジア海事専門家会議資料」
海難事故の原因の多くは、船員の不注意によるものである。
(2)海洋汚染
最近ベトナムの領海で発生した、あるいはベトナム国籍船が関与した海洋汚染は次表のとおり。
表5 ベトナム領海・ベトナム国籍船が関与した海洋汚染
日付 |
位置 |
流出油 |
石油の量(トン) |
1989年8月10日 |
クイニョン |
FO |
200 |
1992年11月26日 |
バクホー |
原油 |
700 |
1993年9月20日 |
ブンタウ |
燃料及びディーゼル油 |
200 |
1994年5月8日 |
サイゴン |
燃料油 |
130 |
1994年10月3日 |
カットライ |
ディーゼル油 |
1,850 |
1996年1月27日 |
カットライ |
ディーゼル油 |
72 |
1998年8月16日 |
ニャーベ |
ディーゼル油 |
180 |
2001年 |
ガンライ |
燃料油 |
900 |
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「出典:東南アジア海事専門家会議資料」
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